1問1答 論文 エンド

根管治療した歯の36%に根の先の影——ただし、それは失敗率ではない

デンタルX線フィルムの写真と「根管治療した歯の36%に根の先の影」の見出し
1問1答 論文 エンド

33研究・300,861歯を集めた横断研究のメタ解析(Pak 2012)

根管治療した歯の36%に根の先の影——ただし、それは失敗率ではない

追跡調査は「根管治療した歯はよく残る」と言い、ある時点の集団を撮った調査は「3割超に根の先の影がある」と言う。同じ治療を見ているのに噛み合いません。30万歯を数え直したこの研究がいちばん大切に置いたのは、数字ではなく「その数字が何を測っているか」という但し書きのほうでした。

論文
Prevalence of Periapical Radiolucency and Root Canal Treatment: A Systematic Review of Cross-sectional Studies
著者
Pak JG, Fayazi S, White SN(UCLA歯学部)
掲載
J Endod 2012;38(9):1170-1176
種類
横断研究のシステマティックレビュー&メタ解析(33研究・300,861歯)
PMID
22892730

根管治療した歯の36%に、根の先の影がある

そう言われたら、どう受け止めるだろうか。自分の治療を思い返して、少し身構える数字かもしれない。

けれどこの数字には、読み方の作法がある。そこを外すと、必要のない再治療へ手が伸びる。30万歯を数えたこの研究は、数字そのものより「その数字が何を測っているか」を教えてくれる。

ふたつの研究が、正反対のことを言っていた

根管治療の成績については、追跡調査(縦断研究)のシステマティックレビューが何本もあって、歯の生存率はきわめて高いと報告してきた。ただし同じ一文には続きがあって、成功率のほうは生存率より低く、ばらつきも大きいとも書かれている。私たちが研修で聞いてきたのは、たいてい前半の数字だ。

ところが、ある時点の集団をまとめて撮る調査(横断研究)では、根管治療歯の根尖透過像が33%を超えるという報告が繰り返し出ていた(これはこの論文が引いている先行研究で、このレビュー自身が出した統合値は後で見るとおり35.9%)。同じ治療を見ているのに、話が噛み合わない。

つまり: 「うまくいっている」と「影がある」が両立していた。どちらかが嘘なのではなく、測っているものが違うのではないか——それを確かめるために、横断研究だけを集めて数え直したのがこの論文である。

11,491件から33研究を選び、30万歯を数えた

UCLAのグループが、MEDLINEとEMBASEで11,491件の表題を洗い、最終的に33研究(38データセット)を採用した。合計300,861歯。研究の質はWong Scale-Revised(27点満点)で平均23点、すべて19点以上で、質を理由に除外した研究はない。

採用された研究の33本中30本は「人間開発指数が非常に高い国」のもので、平均出版年は2000年(範囲1987〜2011年)。原著は開発指数の高い国の現代的な集団に広く一般化できるとしている。ただし歯科大学の患者・救急の患者・高齢者といった、一般の住民を代表しない標本も混じっている。

全体では、20本に1本に影がある

根尖透過像
根管治療

0 4% 8% 12% 全 300,861 歯に占める割合 (%) 5.4% 9.6% 根尖透過像がある歯 根管治療がされた歯 33研究・300,861歯の加重平均(標準偏差はどちらも6.4)。1人あたりの歯を21本とすると患者1人に透過像1つ・根管治療2本の勘定になるが、著者はこの換算を「精度は低い」と断っている

全300,861歯における割合。根尖透過像 5.4%、根管治療 9.6%(いずれも加重平均・標準偏差6.4)。

成人1人の残存歯を21本とすると、透過像は患者1人につきおよそ1つ、根管治療歯は1人につきおよそ2本という勘定になる。ただし著者自身、無歯顎の人や来院しない人の扱いが研究ごとに違うため、この1人あたりの換算は精度が低いと断っている。そのうえで、透過像の有病率は、別の調査にある未処置う蝕の有病率の数倍にあたると書いている(比較相手はこのメタ解析の測定値ではなく外部データ)。

根管治療した歯で36%、していない歯で2%——ただし、ここが読みどころ

根管治療がされた歯
根管治療を受けていない歯

0 13.3% 26.7% 40% 根尖透過像がある歯の割合 (%) 35.9% 2.1% 根管治療ずみ 根管治療を受けていない 治療ずみ 28,881歯のうち 35.9%(SD 10.1)、根管治療を受けていない 271,980歯のうち 2.1%(SD 3.8)。※後者は健全歯も含む全体。両群は治療前の状態が違うので、この2つから根管治療の効果や害は比べられない。横断研究は治りかけと治らないも区別できない

根管治療された28,881歯のうち35.9%(SD 10.1)に、根管治療を受けていない271,980歯のうち2.1%(SD 3.8)に根尖透過像があった(後者は健全歯や生活歯も含む「根管治療がされていないすべての歯」で、放置された病気の歯という意味ではない)。※もともと治療が要る状態だった歯と、そうでない歯を並べているので、どちらが良いという読み方はできない(原著もこの2つを比較していない)。

ここで著者が置いた但し書きが、この論文でいちばん大切な一文だと思う。

原著の但し書き
横断研究は、治癒に向かっている症例と、治らない症例を区別できない(cross-sectional studies cannot distinguish between healing and failing cases)。一枚のX線は「その日の状態」しか写さないので、縮んでいる途中の透過像も、動かない透過像も、同じ「影」として数えられる。

だから36%を、そのまま失敗率として読むことはできない。著者自身も「それでもX線で見る限り、根管治療歯の大多数は根尖が健康だった」と書き添えている。

なぜ縦断研究と食い違うのか

原著の記述から読み取れる要因を、噛み砕くとこうなる。

  • 測っている対象が違う。横断研究は集団に積み上がった状態を測る。透過像が残る歯は、抜かれない限り集団のなかに積み上がっていく(その影が治りかけなのか治らないのかは、やはり区別できない)。
  • 診てもらっている人が違う。縦断研究は大学や教育病院で継続的に診てもらう患者に偏りやすく、横断研究は急なときだけ受診する人が中心になりやすい——原著はそう推し量っている。
  • 診療の場が違う。地域や一般開業の場で調べた研究では成功率がより低く、被せ物までの一連が鍵だという報告がある。縦断研究の多くは大学や教育病院で行われている。

逆向きの限界もある。原著はこの5%を「歯髄由来の病変の下限」と考えるべきだと書く。すべての病変がX線に写るわけではないこと、採用研究にはパノラマ主体の調査も含まれ、根尖の診断で標準とされるデンタルより写りにくいこと、根尖以外の側枝に出る病変もあること、歯根膜腔のわずかな拡大は見落とされやすいこと——この4つが理由として挙げられている。ただしこれは著者の解釈で、透過像のごく一部は歯髄由来でない可能性(根尖性セメント質異形成症など)も原著は認めている。

もうひとつ、著者が嘆いていること

33研究のうち24研究が根管治療の技術的な質を数値で報告していて、X線所見だけに基づく評価ではあるが、その多くが「不十分」と評していた。器具やラバーダム、洗浄が実際どうだったかは、後から撮った一枚からは分からない。報告によっては最大78%が不適切とされ、受容できるとされた割合は最も高い研究でも56%だった。ただし基準がばらばらで、質についてはメタ解析ができなかったとも書かれている。

明日の臨床へ

  • 「36%」を失敗率として使わない。治りかけの歯も同じ影として数えられている。数字を引用するときは但し書きごと引く。
  • 一枚のX線で終診を決めない(ここからは僕の解釈)。原著が示したのは研究方法の限界であって、終診の基準を検証した研究ではない。ただ「単一時点の画像では変化の向きが分からない」という構図は診療室でも同じなので、過去の画像と並べて時間軸を足すことに意味があると思う。
  • 根管治療を受けていない歯の2%を軽く見ない。原著は「2〜3人に1人が、治療されていない根尖透過像を持っていた可能性が高い」と書く。その理由として挙げているのは、無症状で気づかれていない・診査と読影が十分でない・必要な治療が届いていない、の3つ。気づかれていない影がある前提で読影したい。
  • 透過像が写らない病変もある。5.4%は下限と考えられている。X線に影が見えないことだけで、歯髄由来の病変が無いと言い切れるわけではない。
ここだけ、冷静に補助線
これは横断研究を集めたメタ解析で、因果も予後も測っていない。根管治療ずみの歯と、根管治療を受けていない歯を並べた図も、もともと治療が要る状態だった歯と、健全歯を含むそれ以外の歯を比べているので、どちらが良いという読み方はできない(原著もその比較はしていない)。採用研究の平均出版年は2000年だが、原著は「後から撮ったX線では、その治療が当時の最善で行われたのかどうかは分からない」と断っている(古かったとは書いていない)。むしろ同じ集団を20〜30年追った複数の調査では、これらの割合に実質的な変化はなかったとも書かれている。方法上の弱点も自己申告されていて、定義した検索の的中率は0.3%と極端に低く、33研究のうち4本は手作業と引用をたどって見つけている。それでも、30万歯という規模で「集団に何が積み上がっているか」を示した意義は大きく、一枚のX線に時間軸が写らないという事実は、今日の診療室でもそのまま生きている。

今日のひとこと

「根管治療した歯の36%に影がある」は、失敗率ではない。横断研究は治りかけの歯と治らない歯を区別できないからだ。一枚のX線に写らないのは病変だけではなく、時間軸そのものである。数字を引くときは、著者が添えた但し書きごと引きたい。

Pak JG, Fayazi S, White SN. Prevalence of Periapical Radiolucency and Root Canal Treatment: A Systematic Review of Cross-sectional Studies. J Endod. 2012;38(9):1170-1176. PMID: 22892730
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。