1問1答 論文 保存修復

材料を選んだだけでは、まだ決まっていなかった——CAD/CAM臼歯部冠の疲労と漏れ

1問1答 論文 保存修復

CAD/CAM|モノリシック臼歯部冠・疲労試験・マイクロリーケージ

臼歯部のCAD/CAM冠。「セラミックか、コンポジットか」で悩みますよね。32本の抜去大臼歯にモノリシック冠を装着し、60〜600Nで100万回噛ませたこの研究の答えは、材料とセメントの両方でした。コンポジット冠は16本すべて無傷。セラミック冠でクラックが入った3本はすべて自己接着セメント群で、パナビアで着けた8本は生き延びています。そして色素の漏れを止めたのは、4つの組み合わせのうちセラミック+パナビアの1組だけ(0.5対3.4〜3.5)でした。

論文
Fatigue Resistance and Microleakage of CAD/CAM Ceramic and Composite Molar Crowns
著者
Kassem AS, Atta O, El-Mowafy O
掲載
Journal of Prosthodontics 2012;21(1):28–32(スエズ運河大学 歯学部/トロント大学 歯学部)
種類
実験室研究(in vitro・抜去大臼歯32本・2×2デザイン各群8個・100万回の圧縮繰り返し荷重+色素浸透によるマイクロリーケージ試験)
PMID
22008462

「セラミックか、コンポジットか」で悩んでいませんか

臼歯部のCAD/CAM冠を設計するとき、最初に迷うのはブロックの種類でしょう。長石系セラミックか、レジンコンポジットか。硬いほうが摩耗しにくいが割れやすい、樹脂は割れにくいが摩耗する——だいたいこの対立で議論が進みます。

実際、原著もその文脈から書き起こしています。臼歯部の審美要求と金属回避の流れがCAD/CAMを押し上げた一方、ガラス系・長石系セラミックには脆さ・破折感受性・対合歯の摩耗・削除量の多さ・テクニックセンシティブという弱点がある。非金属の冠が壊れるとき、破折は内面(intaglio surface)の欠陥や傷から始まり、そこから亜臨界的にクラックが伸びていく。しかもその成長は水中で加速する——これが従来からの理解です。

では、その「壊れやすさ」はブロックの種類だけで決まるのか。この研究は、材料と接着に使うセメントを同時に振って、100万回噛ませています。

32本の大臼歯に、2種類のブロック×2種類のセメント

う蝕のない抜去大臼歯32本をガンマ線滅菌し、上下顎・サイズで揃えて4群(各8本)に振り分けました。形成はCEREC-3Dの推奨どおり——軸面1.2mm、機能咬頭2mm・非機能咬頭1.5mmの削除、中心溝部1.5mm、辺縁はCEJのすぐ咬合側に全周ショルダー。テーパーがばらつかないようパラレロメーターでハンドピースの向きを固定しています。

2×2のデザイン: ブロックは①長石系セラミック(VITABLOCS Mark II)②レジンコンポジット(Paradigm MZ100)。セメントは①パナビアF2.0(セルフエッチング型)②RelyX ユニセム(セルフアドヒーシブ型)。各組み合わせ8個ずつ

内面処理も材料ごとに変えています。セラミックは9.6%フッ化水素酸でエッチング、コンポジットは50μmアルミナを5秒サンドブラスト。その後、セメントごとに指定のセラミックプライマー(パナビア群はクリアフィル セラミックプライマー、ユニセム群はリライエックス セラミックプライマー)を冠内面に塗布しています。

合着後1週間37℃の水中に保管し、中心窩に直径3.0mmの鋼球を当てて、60〜600Nの荷重を12Hzで100万回——荷重中も蒸留水に浸したままです。著者らはこの回数を正常機能の5〜10年に相当すると見積もっています(ヒトは年に約25万回咀嚼する、という前提)。通常の咀嚼力は50〜250N、クレンチングやブラキシズムでは500〜800Nに達しうるので、60〜600Nはその範囲に収まる設定です。

加圧後、10倍の拡大鏡でクラックの有無を確認し、そのまま色素浸透によるマイクロリーケージ試験(0.5%塩基性フクシン24時間、近遠心断面を0〜4でスコア化)に進みました。

結果①:割れたのはセラミック、しかも片方のセメントだけ

0 2.7本 5.3本 8本 100万回加圧後にクラックが生じた冠の数(各群8個) 0本 3本 0本 0本 セラミック+パナビア セラミック+ユニセム コンポジット+パナビア コンポジット+ユニセム 60〜600N・12Hz・水中で100万回。クラックは中心窩から軸面へ伸びた。破折した冠は1本もない
100万回加圧後にクラックが生じた冠の数。破折した冠は1本もなく、クラックはセラミック+ユニセム群の8本中3本だけに出た

コンポジット冠は16本すべてが無傷でした。セメントの種類にかかわらず、破折もクラックもありません。

一方セラミック冠は16本中3本にクラックが入りました。中心窩——つまり荷重点——から始まり、軸面へ向かって伸びた線です。そして原著が強調するのはここです。その3本はすべてユニセム群でした。パナビアで合着したセラミック冠は8本すべてが100万回を生き延びています

著者らはこれを「セメントの種類がセラミック冠の疲労抵抗性に有意な影響を与えることを示唆する」と書いています。コンポジット冠では、そもそもクラックが出ないのでセメント差が現れませんでした。

結果②:漏れなかったのは4群のうち1群だけ

0 1.3 2.7 4 マイクロリーケージスコア(0〜4) 0.5 3.4 3.5 3.4 セラミック+パナビア セラミック+ユニセム コンポジット+パナビア コンポジット+ユニセム 各群8個。SDは±0.5/±1.1/±0.9/±0.9。低いほど漏れが少ない。Tukey検定で他の3群すべてより有意に低かったのは、セラミック+パナビア群だけだった
マイクロリーケージスコア(0=漏れなし〜4=咬合面まで)。セラミック+パナビア群だけが他の3群より有意に低かった

色素浸透の結果は、もっとはっきりしていました。セラミック+パナビアが0.5±0.5。残りの3群はセラミック+ユニセム3.4±1.1、コンポジット+パナビア3.5±0.9、コンポジット+ユニセム3.4±0.9——ほぼ最大値の付近に並んでいます。

Tukey検定では、セラミック+パナビア群だけが他の3群すべてより有意に低いという結果でした。つまり「材料で決まる」でも「セメントで決まる」でもなく、この2つが噛み合った1つの組み合わせだけが漏れを止めていたことになります。なお疲労のほうは、原著の第一の結論が「コンポジット冠はセラミック冠より疲労抵抗性が高かった」——こちらは材料の差です。

原著の結論欄には「セラミック冠のほうがコンポジット冠より有意にリーケージが少ない」「パナビアのほうがユニセムより有意に少ない」という主効果も併記されています。ただし表1の内訳を見ると、セラミックをユニセムで着けた群の値(3.4)は、コンポジットの2群(3.5/3.4)とほとんど変わりません。主効果として現れた差を、この1群が押し下げていると読めます——ここは原著が明示していない、筆者の読みです。

なぜセメントで差が出たのか

原著の説明は接着機序の違いに帰しています。パナビアのエッチプライマーはpH2.4で、低分子量のモノマーが象牙質へ選択的に拡散し、ハイブリッド層(樹脂含浸層)をつくる。わずかな脱灰と樹脂の入り込みが、セメントと象牙質を噛み合わせます。

対してユニセムは多官能ホスホン酸メタクリレートが象牙質のハイドロキシアパタイトと反応する設計です。ところが原著が引く先行研究では、初期のpHが酸性であるにもかかわらず象牙質への脱灰・浸透の所見が認められなかったと報告されており、界面の性状は従来型セメントに似ているとも記されています。ここが、リーケージの差として現れたのだろう——というのが著者らの読みです。

疲労のほうも、水中での亜臨界クラック成長という枠組みで説明されています。冠表面のポロシティから小さなクラックが発生し、水と表面欠陥のあいだで応力依存性の化学反応が起きてクラックが臨界サイズまで育つ。辺縁からの漏れが大きい群ほど、この過程は進みやすいことになります。

そしてコンポジット冠が割れなかった理由。原著はこう書いています——直接充填のコンポジットと違い、CEREC用のコンポジットブロックは最適な条件下で工場生産されているため、重合度が高く気泡の混入がない。だから機械的性質が最適化されている、と。

明日の臨床へ——ブロックを選んだ時点では、まだ半分

第一に、セラミックのモノリシック冠に限れば、セメント選択は辺縁封鎖だけでなく疲労抵抗にも効いていた。手早さでセルフアドヒーシブを選ぶ場面はありますが、少なくともこの試験系では、100万回を越えられるかどうかがそこで分かれています。

第二に、コンポジットブロックは「割れにくいが漏れやすい」という別の顔を見せた。クラックはゼロでしたが、リーケージはセメントによらず3.4〜3.5です。破折で悩まされる部位に選ぶという発想は成り立つとしても、辺縁の管理はセラミック+パナビアの組み合わせとは別に考える必要があります。

第三に、クラックは全例、荷重点である中心窩から始まっていた。咬合調整で早期接触を中心窩に残さないという当たり前の作法が、この観察と方向を同じくします(ただし咬合設計そのものはこの研究が検討したことではありません)。

つまり: 100万回で割れたのはセラミック+自己接着セメントの8本中3本だけ。漏れを止めたのはセラミック+パナビアの1群だけ(0.5対3.4〜3.5)。材料とセメントは別々の選択ではなく、組み合わせで結果が決まっていた
ここだけ、冷静に補助線
抜去歯を使ったin vitro試験で、各群わずか8個です。荷重は長軸方向の一方向のみで、原著自身が「口腔内では飲食物による温度変化、pHの変動、酵素による攻撃、そして垂直だけでない多方向の荷重が長期にわたって重なる。本研究はそれらをすべて再現していないので、結果の解釈には注意が必要」と明記しています。マイクロリーケージも色素浸透という間接的な指標で、臨床の二次う蝕や脱離を直接測ったものではありません(原著は「in vitroでリーケージによく耐える修復物は、臨床ではさらに良い挙動を示すと期待される」という先行研究を引いていますが、これは期待であって実証ではない、と読むのが正確でしょう)。材料も2011年当時のもので、その後セルフアドヒーシブセメントもCAD/CAM用ブロックも世代が進みました。それでも「ブロックの選択とセメントの選択は、独立ではなく掛け算で効く」という視点は、いま目の前の症例でもそのまま使えます。

今日のひとこと

ブロックを選んだ時点では、まだ半分しか決まっていない。コンポジット冠は100万回を16本すべて無傷で越え、セラミック冠でクラックが入った3本はすべて自己接着セメント群だった——パナビアで着けたセラミック冠は8本すべて生き延びている。そして漏れを止めたのは4群のうちその1組だけ、0.5対3.4〜3.5。材料とセメントは独立した2つの選択ではなく、掛け算で効いていた。

出典:Kassem AS, Atta O, El-Mowafy O. Fatigue resistance and microleakage of CAD/CAM ceramic and composite molar crowns. J Prosthodont. 2012;21(1):28-32. PMID: 22008462
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。