1問1答 論文 保存修復

形成したその日に象牙質を封じる——IDSは仮封12週でも接着強さを落とさなかった

1問1答 論文 保存修復

保存修復|間接修復・IDS・仮封期間と接着

インレーやオンレーの形成をした日、露出した象牙質をどうしているでしょうか。印象を採り、仮封して、次回セット時にボンディング——これが長く当たり前でした。ところが形成直後に象牙質をボンディングで封じて、その場で光重合してしまうIDS(Immediate Dentin Sealing)という考え方があります。心配は「仮歯を2〜3か月入れたら、その封鎖層はもう接着しないのでは」という点。ヒト大臼歯50本で2週・7週・12週を比べたところ、12週あけても接着強さは落ちませんでした。落ちたのは、むしろ従来法のほうです。

論文
Immediate dentin sealing supports delayed restoration placement
著者
Magne P, So WS, Cascione D
掲載
The Journal of Prosthetic Dentistry 2007;98(3):166–174(南カリフォルニア大学歯学部)
種類
実験室研究(in vitro・新鮮抜去ヒト大臼歯50本・10群・微小引張接着試験)
PMID
17854617

形成した日の象牙質を、次回まで裸で置いておく

間接修復の手順は、長いあいだこうでした。支台歯を形成し、印象を採り、仮封して患者さんを帰す。2週間後、仮封を外して、そこではじめてボンディングを塗り、修復物を接着する。

けれど考えてみると、いちばん接着に有利な象牙質面は、形成した直後にしか存在しません。原著の言い方は簡潔で、切削したての象牙質は清潔で、仮封セメントによる汚染がないから接着に理想的だ、というものです。従来法(DDS=Delayed Dentin Sealing)は、いわばその最良の瞬間を意図的に見送っている手順になります。

そこで出てきた考え方がIDS(Immediate Dentin Sealing)。形成が終わったその場で、印象を採る前に象牙質をボンディングで封じ、しかもその場で光重合してしまうというものです。理屈は分かる。しかし現場の疑問はひとつに絞られます——その封鎖層を2か月も3か月も仮歯の下に置いて、セットの日にまだ接着してくれるのか。

2週・7週・12週で、待たせてみた

新鮮抜去のヒト大臼歯50本を10群に分けています。使った接着システムは2つ——オプティボンドFL(3ステップ・エッチ&リンス)クリアフィル SEボンド(2ステップ・セルフエッチ)。それぞれについて次の5条件を作りました。

5条件(違いは「いつ接着材を固めるか」):C(対照)=形成直後に接着して直接修復 ②DDS=形成後2週間仮封し、外してから接着材を塗るが、重合させないまま修復物を置く ③IDS-2WIDS-7WIDS-12W=形成直後に象牙質を封鎖してその場で光重合し、それぞれ2週・7週・12週の仮封を経てから修復。

この「DDS群では接着レジンを未重合のまま修復物を置く」という点が、この研究のいちばん重要な設計です。原著はこれを「実際に推奨されている手技をそのまま再現した」と説明しています——修復物が完全に着座するまで接着レジンは未重合にしておくべき、という従来の推奨です。

IDS群では、接着材を重合したあとにグリセリンのジェルを置いて追加照射し、酸素阻害層をなくしています。そのうえで表面をワセリンで隔離し、テンプフィルインレーで仮封して生理食塩水に浸漬。指定の期間が過ぎたら仮封を外し、封鎖された象牙質をサンドブラスト(RondoflexとCojet)で清掃してから、接着レジンを1層塗って修復を行いました。

ひとつ、外挿の範囲に関わる条件を明示しておきます。被験面はインレー窩洞ではなく、歯冠の咬合側半分を落として作った平坦な中間層象牙質(600番SiC仕上げ)であり、修復物もセラミックではなくコンポジット(Z100)のオーバーレイです。レジンセメントも介在していません。測っているのは「封鎖層とその上のコンポジットの接着」ということになります。

なおIDS群でも、最終装着時に塗る接着レジンは未重合のまま修復物を置いています(既に封鎖層が固まっているのが、DDS群との違いです)。すべての試験片は24時間後に0.9×0.9mmのビームに切り出し、微小引張接着試験(ノントリミング法)にかけています。1歯あたり10〜11本のビームを測り、その平均を「その歯の値」として1測定値に扱う——ビームを独立標本として水増ししない、まっとうな設計です(1群5本)。

結果:12週待っても落ちない。落ちたのは従来法

0 26.7 53.3 80 象牙質への微小引張接着強さ μTBS (MPa) 55.06 54.75 11.58 1.81 58.25 55.14 66.59 51.96 59.11 45.76 直接(対照) DDSセット時に接着 IDS 2週後 IDS 7週後 IDS 12週後 オプティボンドFL(3ステップ) クリアフィル SEボンド(2ステップ) ヒト大臼歯・1群5本(歯ごとに10〜11本のビームを測定し1歯を1測定値として扱う)。SDは1.81群で±2.22、11.58群で±11.19と大きい。オプティボンドFLの対照・DDS・IDS-2Wは先行研究からの引用データ
接着システム別・条件別の微小引張接着強さ。オレンジがDDS(従来法=未重合のまま圧接)。IDS群はどの待機期間でも対照と差がない

まず両接着材とも、対照群とすべてのIDS群のあいだに有意差はなく、いずれも45MPaを超えました。2週でも、7週でも、12週でも、形成直後に直接接着したのと変わらない——これが主結果です(P>.07)。

対照的に崩れたのがDDS群です。オプティボンドFLで11.58MPa、クリアフィル SEボンドに至っては1.81MPa。どちらも他のすべての条件より有意に低く(P<.001)、SEボンドはオプティボンドFLよりさらに有意に低い値でした(P=.026)。原著はこれを「最大接着強さのわずか17%(オプティボンドFL)と3%(SEボンド)しか得られなかった」と表現しています。

破断面がその意味を裏づけます。DDS群の破断はほぼすべてが界面破断でした(オプティボンドFLで98%、SEボンドで100%)。一方、対照群とIDS-2W群では界面破断でも象牙質の凝集破壊が混ざる混合型が典型。そしてIDS-7W・12W群では破断が「封鎖に使った既存のレジン層」と「上に載せたコンポジット」のあいだで一貫して起きていました。実体顕微鏡で見ると、象牙質側には封鎖層がそのまま残っています。封鎖層は生きていて、弱点はその上の界面に移っていたということです。

なお、最も高い値はオプティボンドFLの7週(66.59MPa)と12週(59.11MPa)で、同条件のSEボンド(51.96・45.76MPa)より有意に高い結果でした(P=.001, P=.003)。2元配置分散分析でも、接着システム(P<.001)と適用順序(P<.001)の両方が有意で、交互作用は有意ではありません(P=.085)。

なぜ、待っても平気なのか——鍵は「先に固めてあるか」

原著が名指ししている機序は、はっきりしています。

接着レジンを未重合のまま修復物を圧接すると、合着用レジンの圧でハイブリッド層が押し潰される——原著の言葉で “a collapse of the hybrid layer” です。そして接着界面の凝集性が損なわれる。これが「両製品で確認された」と述べられています。なお原著は、形成直後の象牙質が「新鮮に切削されていて清潔=仮封セメントによる汚染がない」ことをIDSの利点として挙げてもいます。DDS群では「2週間仮封下に置かれたこと」と「接着材が未重合であること」が同時に起きているので、どちらがどれだけ効いたかを分ける比較はこの研究にありません。原著が機序として名指ししたのがハイブリッド層の圧潰である、というところまでが読み取れる線です。IDSがこれを避けられるのは、修復物が乗る前に接着材を固めてしまうから。原著は逆側からも書いていて、IDSを省いて修復物装着の直前にDBAを塗って重合させると、今度は修復物の完全な着座を妨げうるとも指摘しています。だから従来は未重合にしておく手技が推奨されてきた——その推奨のほうに落とし穴があった、という構図です。

では、なぜ12週も待って平気なのか。原著の説明はフリーラジカルです——樹脂の中のフリーラジカルはゆっくりとしか減衰せず、12週後でもなお接着に利用できる状態で残っているらしい。加えて、サンドブラストと新鮮な接着レジンの塗布が既存のコンポジットへの確実な接着を与えることも、先行データが示しています。

もうひとつ、原著は間接法では修復物の装着が遅れ、咬合負荷がかかるのも後になるため、象牙質接着が時間をかけて発達し残留応力が散逸しうるという利点も挙げています。封鎖層が象牙細管を塞ぐことで、仮封期間中の術後知覚過敏や細菌侵入を抑えられる点も、IDSの値打ちとしてよく挙げられます。

明日の臨床へ——固めるところまでを、形成した日に

第一に、形成が終わったら、印象の前に象牙質を封じて光重合まで済ませる。原著のClinical Implicationsも、新鮮切削面(インレー・オンレー・ベニア・クラウンの形成面)は形成直後にボンディングで封鎖してよい、と述べています。

第二に、仮封期間を怖がらなくてよい。2か月でも3か月でも、接着強さは落ちませんでした。ラボの都合や患者さんの都合で間隔が空く症例ほど、IDSの値打ちが出ます。

第三に、仮封の作り方に注意が要る。ここは原著が唯一「caution must be applied」と名指しした実務です——レジンで封鎖した象牙質面は、レジン系の仮封材や仮着セメントと接着してしまう可能性があり、仮封の撤去が困難になりうる。だからワセリンなどの分離材を厚く塗って隔離し、レジン系の仮着セメントは避ける。IDSを今日から始める人が最初に踏む地雷です。

第四に、接着材の選び方。原著は、サンドブラスト処理をしたフィラー入りの接着システム(オプティボンドFL)は、フィラーの入っていない接着材よりIDSに適しているようだ——より均一なレジンコーティングを作れるから——と述べています(根拠として引かれているのは別の文献で、本研究のFL対SEの差そのものではありません)。数字のうえでも7週・12週でオプティボンドFLはSEボンドより有意に高く、2元配置分散分析では接着システムの主効果も有意(P<.001)でした。

つまり: IDSは「早く接着する」技術ではなく、修復物が乗る前に固めておく技術。仮封が12週でも接着強さは落ちず、落ちるのは未重合のまま圧接した側だった。
ここだけ、冷静に補助線
ヒトの新鮮抜去大臼歯を使った実験室研究で、1群5本・24時間後の測定です。臨床の予後(脱離率・術後知覚過敏・辺縁の変色)そのものを見た研究ではありません。被験面は平坦な中間層象牙質で、窩洞形態のC-factorもエナメル辺縁もなく、修復物もコンポジットのオーバーレイ=セラミックもレジンセメントも介在していません。仮封期間は生理食塩水浸漬で、口腔内の咬合力・温度変化・細菌叢は入っていません。Table IIIの注記では、オプティボンドFLの対照・DDS・IDS-2Wの3群が著者らの先行研究からの引用データと記されています(一方でMethodsは50本を10群に分けたと書いており、原著の中で記述に食い違いがあります)。標準偏差も、DDS群は11.58±11.19・1.81±2.22と平均に対して非常に大きい。それでも「形成直後に封じて固めるか、未重合のまま待つか」という骨格は明確で、しかも今日から手順に足せるという意味で、実装のハードルがとても低い知見です。

今日のひとこと

分かれ目は「早いか遅いか」ではなく、接着材をあらかじめ光重合しておくかどうかだった。従来法は未重合のまま修復物を圧接するため、ハイブリッド層が押し潰される——だからSEボンドで1.81MPa、最大接着強さのわずか3%にとどまる。IDSで先に固めておけば、樹脂の中のフリーラジカルはゆっくりしか減衰せず、12週後でも接着に使える。IDSは「早く接着する」技術ではなく、「先に固めておく」技術である。

出典:Magne P, So WS, Cascione D. Immediate dentin sealing supports delayed restoration placement. J Prosthet Dent. 2007;98(3):166-174. PMID: 17854617
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。