1問1答 論文 エンド

痛みを取っていたのは、薬ではなかった——急性歯髄炎73歯の断髄で、6通りの処置に差はなかった。翌日には痛みを訴えた患者がいなくなった

1問1答 論文 エンド

エンド|緊急処置・断髄・貼薬

夜、自発痛で来院した急性の不可逆性歯髄炎。抜髄を完遂する時間はない——断髄で凌ぐとき、残った歯髄面に何を置きますか。カンフォレイテッドフェノール、ユージノール、クレゾチン。長く「鎮静剤」として推奨されてきた貼薬を、生理食塩水と「何も付けない乾燥綿球」まで含めた6通りの処置でランダムに比べた研究があります。答えは、差はなかった。効いていたのは、う蝕を取り、最も炎症の強い歯髄を取り、封じることでした。

論文
Emergency Pulpotomy: Pain Relieving Effect with and without the Use of Sedative Dressings
著者
Hasselgren G, Reit C
掲載
Journal of Endodontics 1989;15(6):254–256(コロンビア大学・ヨーテボリ大学)
種類
臨床研究(急性不可逆性歯髄炎73歯/貼薬6通りにランダム割付・30日追跡)
PMID
2592880

夜の急患、時間がない——どこまで取れば痛みは止まるのか

急性の不可逆性歯髄炎。自発痛があり、温かいものでも冷たいものでも、当たったあとに痛みが尾を引く。患者さんは眠れていません。しかし予約は詰まっていて、抜髄を完遂する時間はない——歯科の急患対応で、最もよく出会う場面のひとつです。

教科書的な第一選択は、歯髄の完全除去です。ただ抜髄は時間がかかる。そこで断髄(歯冠部歯髄の除去)が使われてきました。そして断髄のあと、残った歯髄面に鎮静剤を貼薬する——カンフォレイテッドフェノール、クレゾチン、ユージノール。長く推奨されてきた手順です。

原著は、こう書き出します。急患は予約外で来ることが多いため、抜髄より時間のかからない除痛法が必要になる。そのうえで著者らは、歯内療法の緊急処置は、その結果がほとんど検証されてこなかったと指摘します。そこで「断髄はどれだけ痛みを取るのか」「貼薬は本当に効いているのか」を、正面から測りました。

73歯を、6通りの貼薬にランダムに振り分けた

対象は、歯髄由来の痛みで緊急来院した73人・73歯。すべて生活歯で、自発痛または温冷刺激後に持続する痛みがありました。

手順は共通です。麻酔(エピネフリン添加リドカイン)→う蝕と漏洩した充填物をすべて除去→窩洞形成→低速ラウンドバーで歯冠部歯髄を根管口のレベルまで除去→出血が止まるのを待つ。ここまでは全例同じ。

分かれるのはその先だけです。残った歯髄面に置くものを、ランダムに6通り——①カンフォレイテッドフェノールを含ませた綿球(12歯)②ユージノール(11歯)③クレゾチン(11歯)④生理食塩水(12歯)⑤乾燥した綿球=薬なし(14歯)⑥酸化亜鉛ユージノールセメントを歯髄面に直接(13歯)。全例、最後は酸化亜鉛ユージノールセメントで封鎖しました。

症状は質問票で追跡します。麻酔が切れた時点・1日後・7日後、そして30日後の来院時。患者さん自身が「痛い/違和感がある/症状なし」を選ぶ形式です。

結果:翌日、痛みを訴えた患者はゼロだった

0 33.3% 66.7% 100% 患者の割合 21.9% 0% 0% 0% 45.2% 11.4% 7.1% 1.5% 32.9% 88.6% 92.9% 98.5% 痛みあり 違和感のみ 症状なし 濃い棒=麻酔が切れた直後。右へ薄くなるほど時間が経過(1日→7日→30日)
断髄後の症状の推移。麻酔が切れた直後に痛みが残っていた22%も、翌日にはゼロになった

73人中70人(96%)が痛みからの解放を報告しました。解放されなかった3人(4%)はその場で戻ってきて抜髄に移行し、以降の追跡から除外されています。この96%は「その日のうちに抜髄へ移行せずに済んだ割合」であって、当日から無痛だった割合ではない点に注意してください。

時間経過が印象的です。麻酔が切れた時点では、まだ16人(22%)に痛みが残り、33人(45%)が違和感を訴え、完全に無症状は24人(33%)でした。ところが1日後には、痛みを訴えた患者が1人もいません。残ったのは違和感8人(11%)だけ。7日後は違和感5人、30日後に来院した68人のうち違和感を訴えたのは、わずか1人(1%)でした。

つまり: 断髄の除痛は「その場で劇的に」ではなく「翌日までに確実に」効く。麻酔が切れた直後に痛みが残っていても、それは失敗ではない。

6種類の貼薬に、差はなかった

そして本題です。6群の症状推移を比べた結果は——群間に差はありませんでした。カンフォレイテッドフェノールも、ユージノールも、クレゾチンも、生理食塩水も、そして何も付けない乾燥綿球も、結果は変わらなかった

長く「鎮静剤」と呼ばれ、痛みを鎮めると信じられてきた薬たちが、痛みの経過に何も足していなかったことになります。著者らはこれを、根尖性歯周炎の急性発作を扱った先行研究——根管の清掃と仮封こそが除痛の主因で、根管内貼薬は寄与しなかったとする報告——と符合すると述べています。

では何が効いていたのか——「取ること」と「封じること」

0 33.3% 66.7% 100% 痛みから解放された患者の割合 96% 99% 93% 84% 82% 本研究の断髄 抜髄(完遂) 断髄 抜髄を開始し未完 髄室への穿通のみ 左端が本研究(73歯)。右の4つは原著の考察が引くBjerkénらの報告
処置の深さと除痛率。左端が本研究、右の4つは原著の考察が引くBjerkénらの報告(別研究のためアウトカム定義は揃っていない)

著者らが考察で引くBjerkénらの報告では、除痛率は処置の深さに沿って並びます。抜髄を完遂すれば99%、断髄で93%、髄室に穴を開けただけなら82%。Natkinの「痛みが消える確率は、取り除いた組織の量に直接関係する」という見立てを、著者らの言葉で言えば「部分的に」裏づける並びです(84%がこの並びを崩すため)。

ここに、時間のない臨床にとって重要な数字がひとつ混ざっています。抜髄を始めたが完遂できなかった場合は84%——つまり断髄(93%)を下回る。中途半端に根管に手を付けるより、歯冠部歯髄をきちんと取り切って封鎖したほうが、痛みは止まりやすいということです。

著者らの結論は3点に絞られます。①刺激源(う蝕など)を除くこと ②最も炎症の強い部分の歯髄を除くこと ③再感染を防ぐために仮封すること。鎮静剤の貼薬には、除痛効果は見られない。なお酸化亜鉛ユージノールセメントを歯髄面に直接置いて窩洞全体を満たす方法は、除痛のためではなく漏洩のリスクを下げるという文脈で触れられています。

明日の臨床へ——薬を選ぶ時間を、除去に回す

第一に、時間がないなら、中途半端な抜髄より確実な断髄。う蝕を取り切り、歯冠部歯髄を根管口まで除去し、きちんと封鎖する。この3つが揃えば、大半では翌日に痛みが引くと患者さんに伝えられます。

第二に、貼薬の種類で悩まない。どれを選んでも除痛は変わりません。悩む時間があるなら、う蝕の取り残しと封鎖の緊密さに使うほうが、患者さんの一晩に効きます。

第三に、説明の言葉が変わる。「麻酔が切れたあと少し痛むかもしれませんが、明日には引きます」——この研究は、その一言に根拠を与えてくれます。実際、麻酔が切れた直後には22%が痛みを訴え、翌日にはゼロになったのですから。

つまり: ①う蝕を取る ②炎症の強い歯冠部歯髄を取る ③封じる。効いていたのはこの3つで、貼薬ではなかった
ここだけ、冷静に補助線
1989年・73歯の研究で、サンプルは6群に分けると各11〜14歯と小さく、原著は群間の統計的な検定を行っていません。「差がなかった」は記述的な言明で、「差がないと証明された」ではなく「この規模では差を検出できなかった」と読むのが正確です。アウトカムは患者の自己申告による3段階。そして30日後のリコール時には全例で抜髄が行われています——断髄はあくまで暫間処置であり、これで完結させる治療ではありません。歯髄の生死や長期予後も評価されていません。それでも「薬ではなく、除去と封鎖が効いている」という骨格は、その後の緊急処置の考え方に受け継がれています。急患対応で何を優先すべきかを、シンプルに教えてくれる一本です。

今日のひとこと

急性不可逆性歯髄炎73歯に緊急断髄を行い、96%(70/73)が痛みから解放された。麻酔が切れた直後はまだ22%に痛みが残るが、1日後には痛みを訴えた患者がゼロになる。カンフォレイテッドフェノール・ユージノール・クレゾチン・生理食塩水・酸化亜鉛ユージノール・乾燥綿球の6群に差はなかった(原著は統計的な検定を行っていない)。効いていたのは貼薬ではなく、①刺激源(う蝕)を除く ②最も炎症の強い部分の歯髄を除く ③再感染を防ぐために封鎖する、の3つ。時間がないときは、中途半端な抜髄より確実な断髄。ただし断髄は暫間処置で、原著でも30日後に全例で抜髄が行われている。

出典:Hasselgren G, Reit C. Emergency pulpotomy: pain relieving effect with and without the use of sedative dressings. J Endod. 1989;15(6):254–256. PMID: 2592880
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。