エンド|根管治療歯の修復について、当時の文献を修復側と歯内側の両方の視点から整理し、治療計画・材料・臨床手技の推奨をまとめたナラティブ・レビュー(Schwartz と Robbins 2004・J Endod)
根管治療を終えた歯を前に、「ポストは要るのか」「どのポストを選ぶか」で迷うことがあります。テキサス大学サンアントニオ校の2人は、根管治療歯の修復に関する当時の文献を、修復側と歯内側の両方の立場から整理しました。結論として挙げられたのは7つの原則で、その並びが示唆的です。ポストの材料選びより前に、①根管系に細菌を入れないこと、②臼歯には咬頭被覆を与えること、③根管内と歯冠側の歯質を温存すること、が置かれています。ポストについては「歯冠側の歯質が大きく失われた歯でコアを保持するため」に限り、細い径でも十分な強度があり、保持に足る長さがあり、フェルールを含む抵抗形態を最大化でき、あとから撤去できるものを選ぶ、という順で書かれています。これは一次研究ではなく、文献を選んで解釈したナラティブ・レビューです。
①「ポスト、入れますか」の前に決まっていること
根管充填を終えた歯を前に、まず浮かぶのは「ポストを入れるか」「どのポストにするか」でしょう。材料の選択肢は増え、メーカーの主張も分かれています。
このレビューの結論を先に言うと、成否を分ける要素の並びは、ポストの種類より前にあるというものです。著者らが最後に挙げた7つの原則は、①細菌を入れない ②臼歯は咬頭を覆う ③歯質を残す、から始まります。ポストの話はその後です。
②根管治療した歯は、本当に「もろい」のか
古典的な研究は、根管治療した歯の象牙質は生活歯と実質的に違う——水分が失われ、コラーゲンの架橋が減るためもろくなる、と考えてきました。ところが、より新しい研究はこれに異を唱えている、と著者らは書いています。
SedgleyとMesserの研究:平均10年経過した根管治療歯23本の象牙質を、同じ口の反対側の生活歯と比べた。硬さにわずかな差があった以外は、性質は同等。根管治療歯がもろいという結論を支持しなかった。
では、なぜ根管治療歯は折れるのか。著者らの解釈は「象牙質の変化ではなく、窩洞形成による構造的な一体性の喪失」です。実験室研究では、根管へのアクセス窩洞が機能時の咬頭のたわみを増やすことが示されています(Panitvisaiら)。著者らは複数の文献を合わせて、こうした窩洞形成が咬頭破折と修復物辺縁からの漏洩の可能性を高めると述べています。多くの場合、う蝕や既存修復物によってすでに歯質が失われている。RandowとGlantzは、歯髄を取ると失われる保護的なフィードバック機構も破折に関わりうると報告しています。
数のうえでも、Fennisらは保険請求データで46,000人を超える患者を調べ、歯内療法をした歯では破折が有意に多かったと報告しています。ここから著者らは、「構造的な一体性を高める修復は、強い咬合力にさらされる根管治療歯の予後を良くすると期待される」と結んでいます。
③原則1:細菌を入れない(歯冠側漏洩)
唾液による根管系の汚染——いわゆる歯冠側漏洩(コロナルリーケージ)は、歯内療法の失敗を招きうる要因のひとつだと著者らは書きます。二次う蝕や修復物の破折も再汚染につながります。
引用されている実験室研究では、ガッタパーチャの歯冠側を細菌に曝すと、数日のうちに細菌が根尖へ移動したとされ、細菌の産物やエンドトキシンはさらに速く根尖へ達しうる、と述べられています。そのうえで、根管が著しく汚染された場合には再治療を考えるべき、とくに細菌汚染が持続している場合はそうだ、としています。
・根管治療が終わったらできるだけ早く歯を修復する。すぐにできないときは、根管口と髄床底を歯冠内バリアで封鎖する(根管口を丸いバーでカウンターシンクし、髄床底を酸処理・プライミングして透明なレジンで封鎖する方法が図で示されています)。バリア材にはグラスアイオノマーやコンポジットレジンなど接着性の材料が好ましい。
・ポストスペースは、作ったらすぐに修復する。引用された実験室研究では、仮のポスト(テンポラリーポスト)で修復した歯の汚染は、何も入れていない対照とほぼ同程度だったと報告されています(同じ文献は後段でも「仮のポスト/クラウンは根管系の汚染防止に有効ではない」として引かれています)。
・無菌的な手技(ラバーダムを含む)を、治療中も治療後も守る。
④原則2:臼歯には咬頭被覆を
ここは、このレビューの中でもっとも記述が強い部分です。
・根管治療歯1,273本の後ろ向き研究:長期の成功を予測する唯一の有意な修復側の変数が「咬頭被覆の有無」だった
・独立した後ろ向き研究(608本・10年間)でも、長期の成功を予測する有意な因子のひとつとして咬頭被覆が再び挙がった
・最近の後ろ向き研究(400本・9年間):咬頭被覆をした根管治療歯は、歯冠内修復の歯より6倍生存しやすかった(原著の表現。どの指標での6倍かは書かれていません)
・同じFennisらの調査:「好ましくない」歯肉縁下の破折は根管治療歯で多かった(原著はこの語を定義していません)
反対の所見:Mannocciらは、ファイバーポストとコンポジットで修復した根管治療歯で、咬頭被覆の有無による失敗の差はなかったと報告。ただし観察期間は3年と短く、差を検出するには十分でないかもしれない、と著者ら自身が注記しています。
そして現実は追いついていません。保険請求の研究では、咬頭被覆で修復されている根管治療臼歯は約50%にとどまると報告されています。
⑤原則3:歯質を残す——ポストは「補強」のためではない
原則3は「根管内と歯冠側の歯質を温存する」です。その理由は、ポストの位置づけにあります。著者らは繰り返し書いています。ポストの第一の目的は、歯冠側の歯質が大きく失われた歯でコアを保持することであり、歯を補強することではない。ポストスペースの形成にはリスクが伴い、まれではあるものの、根尖側の穿孔や根中央部の「ストリップパーフォレーション」が起こりうる。ポストは根の破折と治療の失敗の可能性を高めうる、とくにポスト窩洞が大きすぎる場合はそうだ、と。
だから「コアを保持する他の手段がないときにだけ使う」という位置づけになります。
歯質の温存も同じ考え方から来ています。ポストスペースの形成は、根管治療で必要だった以上に根管象牙質を削らないのが原則。セメント合着した金属ポストは根を強くしないとされ、接着性のポストは初期には強くするが、その効果は時間とともに失われるだろう、と書かれています。
⑥ポストを使うなら:長さ・フェルール・撤去できること
保持(リテンション)は、ポストの長さ・直径・テーパー、合着材、能動的か受動的かで決まります。パラレルはテーパーより、能動的(ねじ込み式)は受動的より保持が高い。ただし能動的なポストは根にストレスを与え撤去も難しいため、最大の保持が要る短い根に限るべきだと著者らは書いています。ただし直径は他の要素ほど重要ではなく、ポスト径を太くすれば保持はわずかに増えるが歯を弱くするので、保持を増やす方法としては勧められないとされています。
抵抗(レジスタンス)は、残存歯質、ポストの長さと剛性、回転防止の形態、そしてフェルールで決まります。著者らは「抵抗形態を欠く修復は、ポストがどれだけよく保持されていても長期的に成功しにくい」と書いています。
・垂直的な高さ1 mmのフェルールで、フェルールのない歯に比べ破折抵抗が2倍になったとする研究がある
・別の研究群では、垂直的な歯質1.5〜2 mmで効果が最大になるとされる
・一方で、2 mmのフェルールの有無で破折抵抗に差がなかったとする研究もある(ただし破折の様相はフェルールがあるほうが好ましかった)。接着性のポストではフェルールの有無で差がなかったという報告もある
・フェルールを確保するために、歯冠長延長術や矯正的挺出が必要になることもある
ポストの長さ:根管長の3/4、あるいは少なくともクラウンの高さと同じ長さを勧める総説がある。ポスト長がクラウンの高さ以上なら97%が成功したという後ろ向き研究、最低8 mmが必要という報告、骨頂より根尖側まで延ばすべきという指摘も引かれています。
根尖側に残すガッタパーチャ:従来は3〜5 mm。ただし3 mmでは根尖の封鎖が信頼できないとする研究があり、4〜5 mmが勧められています。
撤去できること:非外科的な再治療が必要になったときのため。金属ポストは概ね安全に撤去でき、1,600本のポスト撤去で根破折は1本だけという症例集積があります。ほとんどのファイバーポストも撤去しやすいと報告されている。一方、セラミックとジルコニアのポストは撤去が非常に難しく、不可能なこともあるため避けるべきとされています。同様にチタン合金と真鍮のポストも避けるべき(レントゲンでガッタパーチャやシーラーと見分けにくく、破折強度が低く、撤去も難しい)。
⑦ファイバーポストは金属より良いのか
著者らの答えは慎重です。「接着性の非金属ポストは有望に見えるが、研究は全面的に支持しているとはいえず、答えの出ていない問いが残っている」。
実際、in vitro のポスト比較研究(原著の表3)は結果がまちまちで、連続荷重の試験ではわずかに金属ポスト寄りだった、と本文にあります。破折の様相を評価した研究では、ファイバーポストのほうが好ましい(=修復できる)破折だったという報告が並びます。
・金属ポスト:歯学生が装着した鋳造ポストコア516本で、前歯部の10年以上の成功率82%/788本で5年間の年あたり失敗率2.1%/金属ポストの歯の生存期間の中央値17.4年/138本の鋳造ポストコアで失敗9本(最短10年)/25年の追跡では、鋳造ポストコアとクラウンで修復した歯の寿命は生活歯にクラウンをした歯と同等
・ファイバーポスト:1,306本で失敗3.2%(1〜6年)/炭素繊維52本で7.7%(平均28か月)/石英繊維180本で1.6%(平均30か月)
→ 著者らは、ファイバーポストの結果は観察期間が比較的短い点を明記し、今後の長期研究の監視が必要だとしています。そのうえで結論では、「臨床の趨勢はファイバーポストに向かっており、文献は圧倒的ではないものの概ね好意的。臨床研究はこれまで良好」とも書いています。
⑧明日の臨床へ:7つの原則
1. 根管系への細菌汚染を避ける
2. 臼歯には咬頭被覆を与える
3. 根管内と歯冠側の歯質を温存する
4. 細い径でも十分な強度をもつポストを使う
5. 保持に足るポストの長さを確保する
6. 適切なフェルールを含め、抵抗形態を最大化する
7. 撤去できるポストを使う
補足(筆者の読み):
・並び順そのものがメッセージです。ポストの材料選びは7つのうち後半で、前半3つは材料と関係なく毎回できることです。
・前歯で歯質がよく残っているなら、アクセス窩洞を接着修復で閉じるだけという選択肢が最初に来ます。ポストは構造的に健全な前歯では利益がほとんどなく、修復不能な失敗の可能性を上げる、と書かれています。
・大臼歯は咬頭被覆はほぼ必須、ポストはほとんど不要。必要なときは最も太く直線的な根管(上顎は口蓋根管、下顎は遠心根管)に1本だけ。
・小臼歯は大臼歯より側方力を受けやすく、ポストが必要になる頻度は高い。ただし細い根形態への配慮が要ります。
・避けるべきものがはっきり書かれているのも、この総説の使いどころです(セラミック・ジルコニア・チタン合金・真鍮のポスト)。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:いくつかの基本原則を守れば、現在のほとんどの修復システムで高い成功率を達成できる。その7原則は、①根管系への細菌汚染を避ける ②臼歯には咬頭被覆を与える ③根管内と歯冠側の歯質を温存する ④細い径でも十分な強度をもつポストを使う ⑤保持に足るポスト長を確保する ⑥適切なフェルールを含め抵抗形態を最大化する ⑦撤去できるポストを使う。ポストの目的は「歯を補強すること」ではなく「コアを保持すること」だと繰り返し書かれており、他に手段がないときにだけ使うべきだとしています。これはナラティブ・レビューであり、個々の推奨の根拠の強さは一様ではありません。


