1問1答 論文 エンド

根が完成した歯の移植、どれくらいもつ?——105歯を最長12年追った後ろ向き研究。累積生存率は3年88.1%・12年68.2%、年齢・ドナー歯の位置・口腔外時間が生存と関連(2016年)

1問1答 論文 エンド

エンド|根が完成した歯の自家歯牙移植105歯(96人)を最長12年追い、歯の生存・炎症性歯根吸収・アンキローシスと15の臨床因子との関連を生存分析で調べた、1施設・1人の術者による後ろ向き研究(Jangら 2016・Journal of Endodontics)

成人の自家歯牙移植で使うのは、たいてい根が完成した歯です。延世大学のJangらは、根が完成した歯の移植105歯(96人)を最長12年追いました。累積生存率は3年で88.1%、12年で68.2%。歯の生存と有意に関連したのは、年齢(45歳以下が有利)・ドナー歯の位置(上顎が有利)・口腔外時間(15分以内が有利)の3つでした。炎症性歯根吸収はドナー歯を外科的に抜歯した場合に多く、アンキローシスは受容側の抜歯と同じ日に移植した場合と、初期安定性が低い場合に少ない、という結果です。1施設・1人の術者による後ろ向き研究で、不利な側の群は小さく、信頼区間は広めです。著者ら自身、12年で68.2%は単独インプラントを完全に置き換えるにはまだ十分でない、と書いています。

論文
Prognostic Factors for Clinical Outcomes in Autotransplantation of Teeth with Complete Root Formation: Survival Analysis for up to 12 Years
著者
Youngjune Jang, Yoon Jeong Choi, Seung-Jong Lee, Byoung-Duck Roh, Sang Hyuk Park, Euiseong Kim(延世大学歯学部・慶熙大学江東歯科病院、韓国・ソウル)
掲載
Journal of Endodontics 2016;42(2):198-205. doi:10.1016/j.joen.2015.10.021
種類
後ろ向き研究(1施設・術者1人)。2001年7月〜2010年8月に根が完成した歯の自家歯牙移植を受けた105歯(96人)を最長12年追跡。歯の生存・炎症性歯根吸収・アンキローシスをカプラン・マイヤー法、ログランク検定、Cox比例ハザード回帰で分析。条件をそろえて比べた試験ではない
資金・利益相反
韓国保健福祉部の研究助成(Korean Health Technology R&D Project、grant no. HI14C1817)。著者らは利益相反はないと申告
PMID
26686824

①根が完成した歯の移植、どれくらいもつ?

抜歯になる大臼歯の場所へ、使っていない智歯を移す。自家歯牙移植は、インプラントやブリッジとは別の選択肢です。ただ、これまでの研究の多くは、根がまだ完成していない若い歯を対象にしていました。成人で使えるのは、たいてい根が完成した歯です。その場合どれくらいもつのか、何が成績を分けるのか。患者さんに説明するとき、数字に困る場面です。

延世大学(韓国・ソウル)のJangらは、根が完成した歯の移植105歯(96人)を最長12年追い、3つの結果(歯の生存・炎症性歯根吸収・アンキローシス)と15の臨床因子との関連を調べました。

先に断っておきます。これは1施設・1人の術者による後ろ向き研究です。カルテと手術記録を振り返ったもので、条件をそろえて比べた試験ではありません。

結論を先に書きます。
・累積生存率は3年で88.1%、12年で68.2%(カプラン・マイヤー法)
・歯の生存と有意に関連したのは3つ。年齢(45歳以下が有利)・ドナー歯の位置(上顎が有利)・口腔外時間(15分以内が有利)
・炎症性歯根吸収は、ドナー歯を外科的に抜歯した場合に有意に多かった
・アンキローシスは、受容側の抜歯と同じ日に移植した場合と、初期安定性が低い場合に有意に少なかった
・著者らは、12年で68.2%という値を「単独インプラントを完全に置き換えるには、まだ十分でない」と書いている

②この研究がしたこと

根が完成した歯の移植は、追跡期間の短い研究が多く(著者らが挙げる3つの研究では平均16.4〜35.6か月)、長期の成績がはっきりしていませんでした。また、予後因子の分析は「歯が残ったかどうか」に偏り、移植の大きな合併症である炎症性歯根吸収とアンキローシスは十分に調べられていなかった、と著者らは書いています。

対象と方法
・2001年7月〜2010年8月に、延世大学歯科病院の保存科で自家歯牙移植を受けた患者を電子的に検索。条件を満たした105歯(96人)を対象にした後ろ向き研究
・手術は全て1人の術者。ドナー歯(移植する歯)は根が完成した永久歯。重い全身疾患のある患者と、記録が不完全な例は除外
・術前にCTを撮り、ドナー歯と移植先の実寸の模型(CARP模型:コンピュータ支援ラピッドプロトタイピング)を作って、模型上で手術を確認した
・ドナー歯の根管治療は、ほとんどの例で術前に済ませた。埋伏していて外科的に抜歯した数例は、手術中に口腔外で行うか、術後2週間以内に行った
・抜いたドナー歯は、口腔外で顕微鏡下に歯根端切除・超音波による逆根管形成・逆根管充填(MTA、Super EBA、IRMのいずれか)をしてから移植先へ移した
・ほとんどの例は歯周パックだけで安定した(1週で除去)。安定の低い数例にレジンとワイヤーの固定を行った(2週間)
・術後1・3・6か月、その後は6か月ごとに診査。デンタルX線は、情報を伏せた2人の評価者が別々に判定した
3つの結果の定義(3つは別々に数える)
・歯の生存:咀嚼機能を大きく妨げる徴候や症状(水平2mmを超える動揺、垂直方向の動揺、咀嚼時の持続する痛みなど)があり、抜歯を予定した時点を「失敗」とした。軽度〜中等度の骨吸収、限局した歯根吸収、アンキローシスは、機能を妨げなければ失敗に数えない
・炎症性歯根吸収:デンタルX線で、隣接する骨の透過像を伴う進行性の歯根吸収
・アンキローシス(骨性癒着):打診で金属音があり、X線で歯根膜腔と歯槽硬線が消え、歯根象牙質が骨に置き換わっている。隣接する透過像はない

③結果:3年で88.1%、12年で68.2%

0 25% 50% 75% 100% 累積の割合(%) 88.1% 68.2% 12.1% 17.1% 27.8% 歯の生存3年 歯の生存12年 炎症性歯根吸収3年 炎症性歯根吸収12年 アンキローシス2年〜12年 カプラン・マイヤー法による累積の値(原著の本文とFig.2)。105歯・最長12年。歯の生存は「咀嚼機能を保っている」ことで判定し、アンキローシスや限局した歯根吸収があっても生存に数える。アンキローシスは2年で27.8%、その後12年まで変わらなかった
歯の生存・炎症性歯根吸収・アンキローシスの累積の割合(原著の本文とFig.2。カプラン・マイヤー法、105歯)

累積生存率は3年で88.1%、12年で68.2%でした。炎症性歯根吸収の累積発生率は3年で12.1%、12年で17.1%。アンキローシスは2年で27.8%に達し、その後12年まで変わりませんでした。

失敗と判定された歯は、表1の件数では105歯中20歯です。炎症性歯根吸収があった12歯のうち7歯が失敗と判定され、吸収がなかった93歯では13歯でした(ログランク検定 P=.001)。一方、アンキローシスの有無は、歯の生存と有意な関連がありませんでした(P=.315)。

0 10% 20% 30% 40% 50% 失敗と判定された歯の割合(%) 13.4% 39.1% 11.5% 26.4% 14.6% 38.9% 45歳以下11/82歯 45歳超9/23歯 上顎ドナー6/52歯 下顎ドナー14/53歯 15分以内12/82歯 15分超7/18歯 原著の表1の件数(失敗した歯数/その群の歯数)から筆者が計算した単純な割合。追跡期間の違いは考慮していない。「15分」は口腔外時間(記録は100歯分)。原著の検定はログランク検定(年齢P=.012、ドナー歯の位置P=.023、口腔外時間P=.044)
歯の生存と有意に関連した3つの因子と、失敗と判定された歯の割合(原著の表1の件数から筆者が計算した単純な割合)

15の術前・術中の因子のうち、歯の生存と有意に関連したのは、年齢・ドナー歯の位置・口腔外時間の3つでした。次の表2の値は、単変量で有意だった因子を入れた多変量解析の結果です。炎症性歯根吸収とアンキローシスのモデルには、歯の生存と関連した年齢と口腔外時間も加えられています。

多変量解析(原著の表2の全10行。Cox比例ハザード回帰)
表2は値を「OR」と表記していますが、解析はCox比例ハザード回帰です。ここでは「比」と書きます。1より大きいほど、その出来事が起こりやすいことを表します。
歯の生存(失敗の起こりやすさ)
・年齢 45歳超(基準は45歳以下):比 4.05(95%信頼区間 1.58〜10.36、P=.004)
・ドナー歯が下顎(基準は上顎):比 3.52(1.25〜9.90、P=.017)
・口腔外時間 15分超(基準は15分以内):比 3.26(1.24〜8.60、P=.017)
炎症性歯根吸収
・ドナー歯の外科的抜歯(基準は普通抜歯):比 4.26(1.26〜14.42、P=.020)
・年齢 45歳超:比 1.45(0.38〜5.50、P=.584)
・口腔外時間 15分超:比 1.44(0.38〜5.38、P=.593)
アンキローシス
・受容側の抜歯と別の日に移植(基準は同じ日):比 9.07(1.20〜68.73、P=.033)
・初期安定性が低い(基準は良好):比 0.23(0.07〜0.77、P=.017)
・年齢 45歳超:比 1.04(0.40〜2.69、P=.937)
・口腔外時間 15分超:比 0.4(0.09〜1.72、P=.216)
表1の件数で見ると(筆者が計算した単純な割合。追跡期間の違いは考慮していない)
・炎症性歯根吸収:外科的抜歯 10歯中4歯(40.0%)、普通抜歯 95歯中8歯(8.4%)。割合の比は約4.8
・アンキローシス:別の日に移植 70歯中23歯(32.9%)、同じ日に移植 35歯中3歯(8.6%)。割合の比は約3.8
・アンキローシス:初期安定性が良好 52歯中19歯(36.5%)、低い 29歯中3歯(10.3%)
・歯の生存(失敗):45歳超 39.1%と45歳以下 13.4%で、割合の比は約2.9。下顎ドナー 26.4%と上顎ドナー 11.5%で約2.3。15分超 38.9%と15分以内 14.6%で約2.7
調べた15の因子と、有意でなかったもの(単変量・ログランク検定)
・調べた因子:性別、年齢、ドナー歯の位置(上顎・下顎)、ドナー歯の種類、受容側の位置、受容側の歯の種類、ドナーと受容側が同じ顎か、同じ1/4顎か、術前のドナー歯の咬合、ドナー歯の根の数、ドナー歯の抜歯の種類、移植の時期、逆根管充填材、口腔外時間、初期安定性
・歯の生存と有意な関連がなかった因子は12。P値の小さい順に3つ挙げると、ドナー歯の種類(智歯91歯中20歯が失敗、その他14歯は0歯、P=.056)、受容側の位置(上顎34歯中2歯、下顎71歯中18歯、P=.074)、逆根管充填材(MTA 20歯中6歯、その他85歯中14歯、P=.158)
・ほかの結果で有意だった3つの因子も、歯の生存とは有意な関連がなかった。ドナー歯の外科的抜歯(10歯中3歯が失敗、普通抜歯は95歯中17歯、P=.694)、移植の時期(P=.472)、初期安定性(P=.447)。関連があったのは、外科的抜歯は炎症性歯根吸収、移植の時期と初期安定性はアンキローシスに対してである

ここでいう初期安定性は、術後に追加の固定なしで水平方向の動揺が2mm未満なら「良好」、それ以外を「低い」と分類したものです。

④なぜそうなるのか(著者らの考察)

著者らの説明の軸は、歯根膜の細胞が生き残れるかどうかです。以下はいずれも著者らの考察で、この研究が直接確かめたものではありません。

歯の生存と関連した3つの因子
・年齢:歯根膜の細胞の再生する力は加齢で下がるという報告がある。下顎骨の石灰化の密度は加齢で上がるとされ、ドナー歯を抜くときの外傷が大きくなる可能性がある
・ドナー歯の位置:下顎の骨は上顎より密度が高い。下顎の歯は、抜歯のときの外傷が大きくなる可能性がある
・口腔外時間:口の外に長く置くと、歯根膜の細胞の生存に不利に働く。著者らは、実寸の模型で移植先の骨を先に形成しておき、ドナー歯を抜いてから移すまでの時間を短くすることを勧める
炎症性歯根吸収とアンキローシス
・外科的抜歯:埋伏歯は抜歯の外傷が大きくなりやすい。さらに術前の根管治療ができないため、口腔外で根管治療をすれば口腔外時間が延び、術後に行えば、それまで根管内が細菌汚染にさらされる
・同じ日の移植:新しい抜歯窩には歯根膜の細胞が残っており、ドナー歯の根面への血管の再生が早い(動物実験の引用)。骨を削って作った受容窩より条件が良い、と著者らは考える
・初期安定性:移植した歯の生理的なわずかな動きが、歯根膜の血管の再生を促すという報告がある。逆に、強く安定しているのは歯が受容窩に食い込んでいるためかもしれず、そこに力が集中して歯根膜の細胞が傷む可能性がある

⑤明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・12年で68.2%という累積生存率は、単独インプラントを完全に置き換えるには、まだ十分でない
・ただし、適応を選べば移植に明らかな利益があることを示す臨床研究や症例報告もある。予後因子を知ることは、治療計画の段階での症例選択に役立つ
・口腔外時間を短くするために、実寸の模型(CARP模型)の使用を勧める
・根が完成した埋伏歯は、ドナーとして適切でないかもしれない。使うなら、抜歯の外傷を最小にし、根管治療を術後できるだけ早く始める
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・患者さんへの説明では、「3年で9割弱、12年で7割弱」が1つの目安になります。ただし、CT・実寸模型・顕微鏡下の逆根管充填を含む、この施設の術式での値です
・45歳を超えること・下顎の歯をドナーにすることは歯の生存と、埋伏歯を外科的に抜いて使うことは炎症性歯根吸収と関連していました。当てはまる症例では、その可能性を伝えたうえで選ぶことになります
・移植した歯が受容窩にきつくはまって動かないほど良い、とは言えなさそうです。ただし、この研究は固定の方法そのものを比べたものではありません
・準備にはCTと模型の製作が要ります。設備と手間のコストは小さくありません
ここだけ、冷静に補助線根が完成した歯の移植を100歯を超える規模で最長12年追い、生存だけでなく歯根吸収とアンキローシスまで分けて調べた、貴重な研究です。そのうえで、読むときの補助線を引いておきます。
研究デザインは、1施設・1人の術者による後ろ向き研究です。記録の不完全な例は除かれており、他の施設や術者に同じ数字が当てはまるとは限りません。
「最長12年」であって、全ての歯を12年追ったわけではありません。平均の追跡期間や、12年時点で追跡に残っていた歯の数は示されていません。
「生存」は、咀嚼機能を保っているという意味です。アンキローシスや限局した歯根吸収があっても生存に数えています。
不利な側の群は小さめです(45歳超は23歯、口腔外15分超は18歯、外科的抜歯は10歯)。そのため信頼区間が広く、たとえば移植の時期の比(9.07)の95%信頼区間は1.20〜68.73です。口腔外時間は100歯、初期安定性は81歯の記録で分析されています。
45歳・15分という区切りを選んだ根拠は書かれていません。年齢の表記は、表では「45歳以下/45歳超」、本文では「45歳未満」と揺れています。
多変量解析に入れたのは、単変量で有意だった因子が中心です。ドナー歯の種類や受容側の位置など、互いに関係しそうな因子の影響は分けきれていません。
資金・利益相反:韓国保健福祉部の研究助成(Korean Health Technology R&D Project)を受けています。著者らは利益相反はないと申告しています。
それでも、口腔外時間の短さやドナー歯の抜歯の種類と、成績との関連を、長期の数字で示した1本です。著者らはこれを歯根膜の保護で説明しています。移植を選択肢に入れるときの、症例選びの手がかりになります。

今日のひとこと

この研究が示したのは、根が完成した歯の移植105歯の累積生存率が、3年で88.1%、12年で68.2%だったということです。歯の生存と有意に関連したのは年齢・ドナー歯の位置・口腔外時間で、炎症性歯根吸収はドナー歯の外科的抜歯と、アンキローシスは移植の時期と初期安定性と関連しました。著者らの説明の軸は、歯根膜の細胞を生かすことです。1施設・1人の術者による後ろ向き研究で、不利な側の群は小さく、信頼区間は広いので、数字はこの施設の術式での目安として受け取るのがよさそうです(ここは筆者の読みです)。

Jang Y, Choi YJ, Lee SJ, Roh BD, Park SH, Kim E. Prognostic factors for clinical outcomes in autotransplantation of teeth with complete root formation: survival analysis for up to 12 years. J Endod. 2016;42(2):198-205. doi:10.1016/j.joen.2015.10.021. PMID: 26686824
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。