不可逆性歯髄炎の下顎歯で、同じ麻酔薬の1.8 mLと3.6 mLを比べた無作為化試験4本をメタ解析し、うち痛みの尺度を揃えた3試験について感度解析・試験逐次解析・GRADEで検証した系統的レビュー(Nagendrababu 2021・Int Endod J)
ズキズキしている下顎大臼歯。伝達麻酔を打って下唇は痺れた。それでも窩洞を開けた瞬間、患者さんが動く——不可逆性歯髄炎での伝達麻酔の失敗率は43〜83%と報告されています。対策のうち最も単純なのが「単に量を増やす」ですが、この策の評価は割れたままでした。増やせば上がるとした試験が2本、変わらないとした研究が2本。系統的レビューも2対1。その決着をつけにいった論文です。
①効いていない。もう1本、足すべきか
ズキズキしている下顎大臼歯。伝達麻酔を打って、下唇は痺れた。それでも窩洞を開けた瞬間、患者さんが動く。
不可逆性歯髄炎での伝達麻酔の失敗率は、報告によって43〜83%。半分近く、あるいはそれ以上が効かない。歯髄内の炎症がその主因とされています。
対策はいくつも試されてきました。麻酔薬を変える。NSAIDsやステロイドを前投与する。浸潤麻酔や骨内麻酔を追加する。そして最も単純な一手——単に量を増やす。
ところが、この単純な策の評価が定まっていませんでした。「増やせば上がる」とした無作為化試験が2本、「変わらない」とした試験と後ろ向き研究がそれぞれ1本。系統的レビューも2対1で割れていた。その決着をつけにいったのが、この論文です。
②4本の無作為化試験を集め、うち3本を3段構えで検証する
3段構えにした理由がはっきり書かれています。試験の数が少ないメタ解析は、偶然による誤差で「偽の陽性」を出しうる。試験逐次解析は、その危険を評価し、「結論を確定させるのに何例必要か」を算出する手法です。先行する系統的レビューは、この検証もGRADE評価もしていませんでした。
③結果——3.6 mLが有意に優り、結論は「確定的」
4試験すべてを合わせた主解析。3.6 mLは1.8 mLより有意に成功しやすい——リスク比 1.94(95%CI 1.07〜3.52)。ただし異質性 I²=77%と大きく、そのままでは一般化しにくい数字でした。
そこで著者らは、原因を特定しにいきます。4試験のうち3試験はHeft-Parkerの視覚的アナログ尺度、1試験は言語的アナログ尺度で痛みを評価していた。尺度が違えば結果もばらつくのではないか——。
尺度を揃えた3試験だけで再解析すると、こうなりました。リスク比 2.55(95%CI 1.72〜3.78)、異質性 I²=0%。ばらつきが完全に消えています。異質性の正体は、痛みの測り方の違いだったと確かめられたわけです。
そして試験逐次解析。ここは範囲に注意が要ります——試験逐次解析もGRADE評価も、感度解析に入れた3試験(190例)のデータで行われています(4試験すべてではありません)。結論を確定させるのに必要な症例数は59例と算出され、集まっていたのは190例。累積Z曲線はα消費境界を越え、著者らは「3試験のメタ解析から得られたエビデンスは確定的と考えてよい」と結論しました。GRADEによるエビデンスの質は「高」——これも同じ3試験についての評価です。
なお論文には「3.6 mLの局所麻酔は、1.8 mLと比べて36%高い成功率を示した」という記述もあります(この36%が相対か絶対かは本文で明示されていないので、ここでは論文の表現のまま置いておきます)。試験逐次解析で用いられた対照群のイベント割合は23.4%でした。
④それでも100%にはならない
著者らの結語は、成果を誇るところで止まっていません。
「高い質のエビデンスに基づき、より多量の局所麻酔薬は、不可逆性歯髄炎の下顎大臼歯における伝達麻酔の成功率を有意に高める。しかしながら、100%の麻酔成功は依然として達成されなかった。したがって、伝達麻酔が失敗した場合には、歯髄麻酔を得るための補助的手技が推奨される」。
この一文が、実務ではいちばん効きます。量を増やすのは成功率を上げる一手であって、切り札ではない。効かなかったときの次の手——浸潤麻酔の追加、骨内麻酔、歯髄内麻酔——を用意しておくことが、依然として前提になります。
安全性については、4試験のうち2試験が「有害事象は認められなかった」と明記しています。残り2試験は言及がありません。
⑤明日の臨床へ
①下顎大臼歯の不可逆性歯髄炎では、最初から2本を検討してよい。比べられたのは「最初から3.6 mL」と「1.8 mLのみ」で、前者に有意差がつきました(「1本打って、効かなかったら足す」という戦略と比べた試験は含まれていません)。エビデンスの質は「高」、結論は「確定的」——この分野では珍しく、強い言い方ができる結果です。
②ただし、効かない人は残る。だから次の手をあらかじめ組み立てておく。「3.6 mL打ったのに効かない」は想定内の出来事であって、術者の腕の話ではありません。
③量を倍にする以上、極量と全身状態は各症例で確認する。この研究が比べたのは同じ麻酔薬の量だけで、血管収縮薬を含む総投与量の上限や、循環器疾患のある患者での適応は扱っていません。ここは一般的な投薬の判断として別に押さえる必要があります。
④下唇の痺れで判断しない。この研究が「成功」と定義したのは、髄腔開拡と根管形成の最中に痛みが無い(か軽い)ことです。著者らはわざわざ「下唇の麻痺や電気診だけでは、この状況では信頼できる指標にならない」と書いています。痺れたから大丈夫、と進めない。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
不可逆性歯髄炎の下顎大臼歯では、伝達麻酔を3.6 mLで行うほうが1.8 mLより有意に成功しやすい——4試験280歯の主解析でリスク比 1.94(95%CI 1.07〜3.52)。異質性はI²=77%と大きかったが、その正体は痛みの評価尺度の違いで、尺度を揃えた3試験だけの感度解析ではリスク比 2.55(95%CI 1.72〜3.78)・I²=0%と、ばらつきが完全に消えた。試験逐次解析とGRADE評価は、この3試験(190例)について行われている——必要症例数59に対して190例が集まっており、結論は「確定的」、エビデンスの質は「高」。ただし著者らの結語はここで止まらない——「それでも100%の麻酔成功は達成されなかった。伝達麻酔が失敗した場合には補助的手技が推奨される」。量を増やすのは成功率を上げる一手であって、切り札ではない。なお成功の定義は下唇の痺れではなく、髄腔開拡と根管形成の最中に痛みがない(か軽い)ことである。


