1問1答 論文 保存修復

同じ「リライエックス ルーティング」でも、オートミックス版は維持力が半分以下だった

1問1答 論文 保存修復

ジルコニアクラウンを3種のセメントで装着し、6か月・計30,000回の熱サイクルで老化させたあとに引き抜いて維持力を比べたin vitro研究(Lepe 2021・J Prosthet Dent)

オートミックスのシリンジは、練和という神経を使う工程を丸ごと引き受けてくれます。チップを付けて押し出すだけ、分量は毎回同じ。便利さに疑問の余地はありません。ただし粉液型とペースト型は、同じ製品名でも中身が違う——2つのペーストとして成り立たせるために、組成を変える必要があるからです。ワシントン大学のグループが、ジルコニアクラウンに6か月・計30,000回の熱サイクルをかけたうえで確かめました。

論文
Long-term retention of zirconia crowns cemented with current automixed cements
著者
Lepe X, Streiff KR, Johnson GH
掲載
The Journal of Prosthetic Dentistry 2021;125(5):788-794(doi:10.1016/j.prosdent.2020.04.014)
種類
in vitro 実験研究(ヒト抜去大臼歯36本・収束角20度・各群12本・6か月間で計30,000回の熱サイクル後にクラウンを引き抜いて脱離応力を測定)
PMID
32669207

混ぜる手間が消えたぶん、何かが変わっていないか

セメントの練和は、地味に神経を使う工程です。粉と液の比、練る時間、気温と湿度。オートミックスのシリンジは、そこを丸ごと引き受けてくれます。チップを付けて押し出すだけ。分量は毎回同じ。

便利さに疑問の余地はありません。ただし——粉液型とペースト型は、同じ製品名でも中身が違う。2つのペーストとして成り立たせるために、組成を変える必要があるからです。

ワシントン大学のグループが、ジルコニアクラウンで6か月・計30,000回の熱サイクルという長い負荷をかけたうえで、3つのセメントの維持力を比べました。結果には、はっきりした外れ値がありました。

6か月かけて老化させてから、引き抜く

研究の骨格: ヒト抜去大臼歯36本を樹脂に包埋し、サベイヤーに固定した高速ハンドピースで収束角20度・軸面長さ約4mmに形成した(20度は、技工士が観察したワーキングダイの平均値であり、かつ補綴専門医が形成した支台歯の値でもある=臨床の実情に近い)。3D計測で各支台歯の表面積を求め、3群の平均表面積がほぼ等しくなるように12本ずつ割り付けた(RXL 132.7・RXLA 132.5・RXUA 132.3 mm²)。クラウンはIPS e.max ZirCAD LTから削り出し(セメントスペース:軸面45µm・咬合面55µm)、内面は50µmアルミナ・275 kPa・3秒でブラストしてスチーム洗浄。セメントは①リライエックス ルーティング(粉液型RMGI・対照)②リライエックス ルーティング プラス オートミックス(ペースト型RMGI)③リライエックス ユニセム2 オートミックス(自己接着性レジン)。196 Nで圧接し、37℃・湿度100%で硬化させ、毎月5,000回の熱サイクル(5℃⇔55℃)を6か月=合計30,000回。その後、万能試験機で軸方向に0.5 mm/分で引き抜き、脱離時の力を表面積で割って応力(MPa)を算出した。

この研究の設計でうまいのは、収束角を20度にしたところです。テーパーが小さい(=維持形態が理想的な)支台歯だと、形態だけでクラウンが保持されてしまい、セメントの貢献が見えなくなる。あえて臨床の実情に近い20度にすることで、セメントの力を測れるようにしています。

結果——落ちたのは、3つのうち1つだけだった

0 1.2 2.4 3.6 クラウン脱離時の応力(MPa) 3.14 1.32 3.09 リライエックスルーティング(粉液・手練和) リライエックスルーティング プラスオートミックス リライエックスユニセム2オートミックス 6か月間、毎月5,000回の熱サイクル(合計30,000回)を加えたあとの値。リライエックスルーティングとユニセム2の間に差は認められず、両者ともルーティング プラスオートミックスより有意に高い(P<.001)。オートミックスであること自体が問題なのではなく、落ちたのは同一銘柄を粉液型からペースト型に作り替えた1製品だけである
6か月・30,000回の熱サイクル後の、クラウン脱離時の応力

リライエックス ルーティング(粉液型)3.14 MPa。リライエックス ユニセム2 オートミックス 3.09 MPa。この2つの間に差は認められませんでした。

そしてリライエックス ルーティング プラス オートミックス(ペースト型RMGI)は 1.32 MPa他の2つの半分以下で、有意に低い値でした(P<.001)。

同じ「リライエックス ルーティング」の名を持ち、同じRMGIでありながら、粉液型とオートミックス型で維持力が2倍以上違う——これがこの研究の骨です。著者らは先行研究でも、同じセメントの手練和ペースト型で似た低下(メタルセラミックで 8.1 → 2.9 MPa)を確認しており、今回はその再現でもあります。

どこで負けたのかは、破断の様子がそのまま教えてくれます。

0 40% 80% 120% 脱離後にセメントが残っていた場所(%) 41.7% 50.0% 8.3% 0% 0% 100.0% 0% 50.0% 50.0% リライエックスルーティング ルーティング プラスオートミックス ユニセム2オートミックス 主に象牙質側 両方(セメントの凝集破壊) 主にクラウン内面 カイ二乗検定で3製品の分布に有意差あり(P<.001)。ルーティング プラスオートミックスは12本すべて(オレンジ100%)でセメントがクラウン内面に残り、象牙質側にはほとんど付いていなかった=象牙質への接着が弱い。他の2つは半数でセメントが両側に残っており、これはどちらの面にも接着していてセメント自身が中で割れたことを意味する
クラウンを外したあと、セメントがどちら側に残っていたか

ルーティング プラス オートミックスは、12本すべて(100%)でセメントがクラウン内面に残り、象牙質側にはほとんど付いていませんでした。著者らの読みは明快です——ブラストしたジルコニア内面にはよく食いついているが、象牙質への接着が弱い

対照的に、粉液型とユニセム2では、半数の試料でセメントが両側に残っていました。これはどちらの面にもよく接着していて、セメント自身が中で割れた(凝集破壊)ということ。残り半数は、粉液型では主に象牙質側に、ユニセム2では主にクラウン内面に残りました。

この数字は、臨床でどのくらいの重さか

1.32 MPa という値は、絶対的に「駄目」なのでしょうか。ここは丁寧に読む必要があります。

著者らは比較の目安を挙げています。従来型グラスアイオノマー(カプセル型)で 2.2 MPa、リン酸亜鉛セメント(メタルセラミック)で 2.3 MPaという報告がある、と(いずれも別々の先行研究の値で、支台歯の形態も修復物の種類もこの研究とは違います)。これらは何十年も臨床でクラウンを保持してきたセメントです。

つまり1.32 MPa は、その参照値をも下回っています。それでも著者らが「理想的な形態なら3つとも足りる」と読んでいるのは、次の条件付きの結論です。

そのうえで、著者らの結論はこうです。「支台歯のテーパーと軸面長さが理想的であれば、3つのセメントはいずれも臨床的にジルコニアクラウンを十分保持するだろう」——原著の表現は「するだろう(will likely retain)」です。

問題は、理想的でないときです。「テーパーが理想より大きい、あるいは臨床的歯冠長が短い症例では、リライエックス ルーティングとユニセム2 オートミックスが、試験した中では選択のセメントである」。

形態で稼げる維持が足りないほど、セメントの差がそのまま脱離の差になる——だから条件の悪い症例ほど、セメント選択が効いてきます。

明日の臨床へ

①「同じ商品名だから同じ性能」と考えない。粉液型とオートミックス型は、名前が近くても中身が違います。院内でオートミックスに切り替えたとき、性能まで引き継がれているとは限らない——この論文がいちばん強く言っているのはここです。

②条件の悪い支台歯では、セメントで補う。短い臨床的歯冠、テーパーの大きい形成。そういう場面では自己接着性レジン(ユニセム2)か、粉液型のRMGIを選ぶ。逆に維持形態が十分なら、扱いやすさで選んでよい、というのが著者らの立場です。

③ブラスト面は確かに粗くなるが、必須かどうかは未決着。この研究は36本すべてをブラストしており、未処理群はありません——維持力への寄与そのものは測られていない、ということです。SEMで観察されたのも装着していないクラウン2個の表面性状で、50µmアルミナのブラストによって内面が明らかに粗く不規則になっていました(未処理面は焼結時に融合した粒子の規則的な模様)。そのうえで著者らは「未処理面でも十分な維持が得られる可能性があり、観察されたマイクロクラックを避けられるかもしれない。確かめるには追加の研究が要る」と書いています。ブラストは製造元の推奨でもあり、この研究の全例で行われた前提条件——それ以上のことは言えません。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 抜去歯を使ったin vitro研究です。著者ら自身が挙げる限界のとおり、唾液の成分も、咀嚼力の複雑さやパターンも再現していません。また装着の手技は実験室で厳密に管理されており、実際の臨床ではもっとばらつくはずです(つまり、この数字は各セメントの「良い条件での姿」です)。各群12本と規模は小さく、比較されたのは3M社の3製品のみ——他社の同種セメントがどうかは分かりません。「従来型グラスアイオノマーと同程度」という比較も、参照した研究は12度のテーパーの小臼歯を使っており、条件が違うことは著者らが明記しています。そして測っているのは軸方向に引き抜く力だけで、実際の脱離に関わる側方力・ねじれ・繰り返し荷重は加えていません。それでも——6か月・30,000回という、この種の試験としては長い老化をかけたうえで、製品形態の違いが2倍以上の差になって現れたのは重い結果です。資金はワシントン大学歯学部の学内研究基金ですが、試験に使われたセメント3種は、いずれも製造元である3M ESPEから提供されています(謝辞に明記)。1製品を名指しで「半分以下」と評価する研究なので、この点は押さえておきたいところです。

今日のひとこと

ジルコニアクラウンの維持力は、6か月・30,000回の熱サイクル後で、リライエックス ルーティング(粉液型RMGI)3.14 MPa、リライエックス ユニセム2 オートミックス(自己接着性レジン)3.09 MPa、リライエックス ルーティング プラス オートミックス(ペースト型RMGI)1.32 MPa。つまり「オートミックスが劣る」のではない——同じオートミックスでもユニセム2は粉液型と差が認められず、落ちたのは同一銘柄の粉液型をペースト型に作り替えた1製品だけだった。脱離後の観察がその理由を示している——ルーティング プラス オートミックスは12本すべてでセメントがクラウン内面に残り、象牙質側にはほとんど付いていなかった=象牙質への接着が弱い。著者らの結論は「テーパーと軸面長さが理想的なら3つとも臨床的に十分保持するだろう。ただしテーパーが大きい、あるいは臨床的歯冠長が短い症例では、試験した中ではルーティングとユニセム2が選択のセメントである」。同じ商品名でも、形態が変われば性能まで引き継がれるとは限らない。

Lepe X, Streiff KR, Johnson GH. Long-term retention of zirconia crowns cemented with current automixed cements. J Prosthet Dent. 2021;125(5):788-794. doi:10.1016/j.prosdent.2020.04.014 PMID: 32669207
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。