ジルコニアクラウンを3種のセメントで装着し、6か月・計30,000回の熱サイクルで老化させたあとに引き抜いて維持力を比べたin vitro研究(Lepe 2021・J Prosthet Dent)
オートミックスのシリンジは、練和という神経を使う工程を丸ごと引き受けてくれます。チップを付けて押し出すだけ、分量は毎回同じ。便利さに疑問の余地はありません。ただし粉液型とペースト型は、同じ製品名でも中身が違う——2つのペーストとして成り立たせるために、組成を変える必要があるからです。ワシントン大学のグループが、ジルコニアクラウンに6か月・計30,000回の熱サイクルをかけたうえで確かめました。
①混ぜる手間が消えたぶん、何かが変わっていないか
セメントの練和は、地味に神経を使う工程です。粉と液の比、練る時間、気温と湿度。オートミックスのシリンジは、そこを丸ごと引き受けてくれます。チップを付けて押し出すだけ。分量は毎回同じ。
便利さに疑問の余地はありません。ただし——粉液型とペースト型は、同じ製品名でも中身が違う。2つのペーストとして成り立たせるために、組成を変える必要があるからです。
ワシントン大学のグループが、ジルコニアクラウンで6か月・計30,000回の熱サイクルという長い負荷をかけたうえで、3つのセメントの維持力を比べました。結果には、はっきりした外れ値がありました。
②6か月かけて老化させてから、引き抜く
この研究の設計でうまいのは、収束角を20度にしたところです。テーパーが小さい(=維持形態が理想的な)支台歯だと、形態だけでクラウンが保持されてしまい、セメントの貢献が見えなくなる。あえて臨床の実情に近い20度にすることで、セメントの力を測れるようにしています。
③結果——落ちたのは、3つのうち1つだけだった
リライエックス ルーティング(粉液型)3.14 MPa。リライエックス ユニセム2 オートミックス 3.09 MPa。この2つの間に差は認められませんでした。
そしてリライエックス ルーティング プラス オートミックス(ペースト型RMGI)は 1.32 MPa。他の2つの半分以下で、有意に低い値でした(P<.001)。
同じ「リライエックス ルーティング」の名を持ち、同じRMGIでありながら、粉液型とオートミックス型で維持力が2倍以上違う——これがこの研究の骨です。著者らは先行研究でも、同じセメントの手練和ペースト型で似た低下(メタルセラミックで 8.1 → 2.9 MPa)を確認しており、今回はその再現でもあります。
どこで負けたのかは、破断の様子がそのまま教えてくれます。
ルーティング プラス オートミックスは、12本すべて(100%)でセメントがクラウン内面に残り、象牙質側にはほとんど付いていませんでした。著者らの読みは明快です——ブラストしたジルコニア内面にはよく食いついているが、象牙質への接着が弱い。
対照的に、粉液型とユニセム2では、半数の試料でセメントが両側に残っていました。これはどちらの面にもよく接着していて、セメント自身が中で割れた(凝集破壊)ということ。残り半数は、粉液型では主に象牙質側に、ユニセム2では主にクラウン内面に残りました。
④この数字は、臨床でどのくらいの重さか
1.32 MPa という値は、絶対的に「駄目」なのでしょうか。ここは丁寧に読む必要があります。
著者らは比較の目安を挙げています。従来型グラスアイオノマー(カプセル型)で 2.2 MPa、リン酸亜鉛セメント(メタルセラミック)で 2.3 MPaという報告がある、と(いずれも別々の先行研究の値で、支台歯の形態も修復物の種類もこの研究とは違います)。これらは何十年も臨床でクラウンを保持してきたセメントです。
つまり1.32 MPa は、その参照値をも下回っています。それでも著者らが「理想的な形態なら3つとも足りる」と読んでいるのは、次の条件付きの結論です。
そのうえで、著者らの結論はこうです。「支台歯のテーパーと軸面長さが理想的であれば、3つのセメントはいずれも臨床的にジルコニアクラウンを十分保持するだろう」——原著の表現は「するだろう(will likely retain)」です。
問題は、理想的でないときです。「テーパーが理想より大きい、あるいは臨床的歯冠長が短い症例では、リライエックス ルーティングとユニセム2 オートミックスが、試験した中では選択のセメントである」。
形態で稼げる維持が足りないほど、セメントの差がそのまま脱離の差になる——だから条件の悪い症例ほど、セメント選択が効いてきます。
⑤明日の臨床へ
①「同じ商品名だから同じ性能」と考えない。粉液型とオートミックス型は、名前が近くても中身が違います。院内でオートミックスに切り替えたとき、性能まで引き継がれているとは限らない——この論文がいちばん強く言っているのはここです。
②条件の悪い支台歯では、セメントで補う。短い臨床的歯冠、テーパーの大きい形成。そういう場面では自己接着性レジン(ユニセム2)か、粉液型のRMGIを選ぶ。逆に維持形態が十分なら、扱いやすさで選んでよい、というのが著者らの立場です。
③ブラスト面は確かに粗くなるが、必須かどうかは未決着。この研究は36本すべてをブラストしており、未処理群はありません——維持力への寄与そのものは測られていない、ということです。SEMで観察されたのも装着していないクラウン2個の表面性状で、50µmアルミナのブラストによって内面が明らかに粗く不規則になっていました(未処理面は焼結時に融合した粒子の規則的な模様)。そのうえで著者らは「未処理面でも十分な維持が得られる可能性があり、観察されたマイクロクラックを避けられるかもしれない。確かめるには追加の研究が要る」と書いています。ブラストは製造元の推奨でもあり、この研究の全例で行われた前提条件——それ以上のことは言えません。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
ジルコニアクラウンの維持力は、6か月・30,000回の熱サイクル後で、リライエックス ルーティング(粉液型RMGI)3.14 MPa、リライエックス ユニセム2 オートミックス(自己接着性レジン)3.09 MPa、リライエックス ルーティング プラス オートミックス(ペースト型RMGI)1.32 MPa。つまり「オートミックスが劣る」のではない——同じオートミックスでもユニセム2は粉液型と差が認められず、落ちたのは同一銘柄の粉液型をペースト型に作り替えた1製品だけだった。脱離後の観察がその理由を示している——ルーティング プラス オートミックスは12本すべてでセメントがクラウン内面に残り、象牙質側にはほとんど付いていなかった=象牙質への接着が弱い。著者らの結論は「テーパーと軸面長さが理想的なら3つとも臨床的に十分保持するだろう。ただしテーパーが大きい、あるいは臨床的歯冠長が短い症例では、試験した中ではルーティングとユニセム2が選択のセメントである」。同じ商品名でも、形態が変われば性能まで引き継がれるとは限らない。


