1問1答 論文 保存修復

バルクフィルは「一気に詰める」が正解か——いちばん縮まなかったのは、ライナーを敷いて積層した群だった

1問1答 論文 保存修復

臼歯の円柱状Ⅰ級窩洞にバルクフィルコンポジット(Tetric EvoCeram Bulk Fill)を詰め、フロアブルライナーの有無・厚み・積層の有無で「収縮ベクトル」がどう変わるかを、マイクロCTで重合前後を撮って比べたin vitro研究(Kaisarly 2021・Clin Oral Investig)

バルクフィルの売りは「4mmを一気に、1回の照射で」。時短のためにその型を選んだのに、下にフロアブルを敷いたり、上を2回に分けたりしたら、意味がないのではないか——そう思ったことはありませんか。ミュンヘン大学のグループが、詰めた材料が重合中にどこへどれだけ動いたかを、マイクロCTで実際に追いかけました。

論文
Effects of flowable liners on the shrinkage vectors of bulk-fill composites
著者
Kaisarly D, Meierhofer D, El Gezawi M, Rösch P, Kunzelmann KH
掲載
Clinical Oral Investigations 2021;25(8):4927-4940(doi:10.1007/s00784-021-03801-2)
種類
in vitro 実験研究(ヒト抜去第三大臼歯40本・5群 各n=8・直径6mm × 深さ4mmの円柱状Ⅰ級窩洞・マイクロCT〔ボクセル16µm〕で重合前後をスキャンし収縮ベクトルを算出・一元配置分散分析+Tamhane T2)
PMID
33506426

「せっかくのバルクフィルなのに」という迷い

バルクフィルコンポジットの売りは、はっきりしています。4mmを一気に、1回の照射で。2mmずつ積んでいた頃と比べれば、臼歯の1級窩洞にかかる時間はまるで違います。

ところが実際に使い始めると、手が止まる場面が出てきます。窩底にフロアブルを一層敷こうか。あるいは、深い窩洞だから上を2回に分けようか。そう思った瞬間に、頭の隅で声がします——「それをやったら、バルクフィルにした意味がないのでは」。

この迷いは、感覚の問題として片づけられがちです。ミュンヘン大学のグループは、これを「詰めた材料が重合中にどこへ、どれだけ動いたか」という物理量に置き換えて測りました。

マイクロCTで「縮んだ方向と距離」を追いかける

研究の骨格: ヒトの抜去第三大臼歯40本に、直径6.0mm × 深さ4.0mm の円柱状Ⅰ級窩洞を形成し、セルフエッチ接着材(AdheSe)で接着。填塞材はすべてTetric EvoCeram Bulk Fill(TBF)で統一し、5群(各n=8)に分けた。①ライナー無し・TBF一括(対照)②薄いライナー0.5mm(Tetric EvoFlow Bulk Fill=TEF)+TBF一括 ③薄いライナー0.5mm+TBFを2回に分けて積層厚いライナー2mm(TEF)+TBF ⑤厚いライナー2mm(SDR flow+)+TBF。フロアブルには直径40〜70µmのラジオルーセントなガラスビーズを2wt%混ぜて目印にし(TBFは元から含まれる気泡を目印にした)、各層を光照射40秒重合前と重合後の2回、マイクロCT(ボクセル16µm)でスキャンし、目印の粒がどこへ動いたかを三次元で追って「収縮ベクトル」として算出した。統計は一元配置分散分析+Tamhane T2。

ポイントは、辺縁の隙間を後から観察するのではなく、重合しているその最中に、材料の内部で起きている動きそのものを測っているところです。マイクロCTを重合前後で撮り、目印の粒の座標を突き合わせる。だから「どちらへ、何µm動いたか」が出ます。

結果——最大は「ライナー無しの一括」だった

0 14 28 42 修復物全体の収縮ベクトル(µm) 37.1 24.0 20.6 18.1 13.4 ライナー無し一括 薄いライナー0.5mm+一括 厚いライナー2mm+一括 SDR 2mm+一括 薄いライナー+積層 修復物全体の収縮ベクトルの平均(µm)。標準偏差は順に ±31.0/±18.8/±33.6/±26.7/±6.0 と大きく、群間の一部にのみ有意差がある(一元配置分散分析 p<0.001・Tamhane T2)。積層群は2層目まで置いた時点の値
修復物全体の収縮ベクトル。ライナー無しの一括填塞が最大で、薄いライナー+積層が最小

数字を並べます。ライナーを敷かずTBFを一括で詰めた対照群が 37.1 µm で最大。ここに0.5mmの薄いフロアブルライナーを敷くだけで 24.0 µm2mmの厚いライナーなら 20.6 µm(SDRを使った群は 18.1 µm)まで下がりました。

そして最も小さかったのは、薄いライナーの上をTBFで2回に分けて積層した群です。1層目を置いた時点で 12.5 µm、2層目まで置いて 13.4 µm。対照群の約36%です。

群間には一元配置分散分析で有意差があり(F=33.772・p<0.001)、多重比較でも群の間に差が認められています。ただし、すべての組み合わせに差がついているわけではありません——原著の表では、有意差のない群同士に同じ記号が振られています。なお標準偏差が大きい(対照群は ±31.0、厚いライナー群は ±33.6)のは症例数の少なさではなく、1つの修復物の中で、追跡した粒ごとに動く量が大きくばらついていることを表しています(自由度が94,454と報告されていることから、平均±標準偏差は歯単位ではなくベクトル単位で計算されていると読めます)。この点は⑥で触れます。

厚いライナーは「自分がよく縮む」ことで働いている

0 10 20 30 フロアブルライナー層自身の収縮ベクトル(µm) 15.1 16.4 21.5 24.2 TEF 0.5mm(薄・一括群) TEF 0.5mm(薄・積層群) TEF 2mm(厚) SDR 2mm(厚) ライナーを置いて光照射した直後の、ライナー層そのものの収縮ベクトル(µm)。標準偏差は順に ±7.2/±6.3/±21.6/±23.1。有意差があるのは 15.1 と 24.2 の組み合わせだけで、他の組み合わせに有意差はない。右の2群はどちらも2mmで、厚みではなく材料(TEF と SDR)の違い
ライナー層そのものの収縮ベクトル。厚い2mm層のほうが、自分自身は大きく縮んでいる

面白いのは、ライナー層そのものを見たときです。薄い0.5mmのTEF層は 15.1〜16.4 µm なのに対し、2mmの厚いTEF層は 21.5 µm、2mmのSDRは 24.2 µm。厚い層のほうが、自分自身は大きく動いています。ただし、この4つのうち有意差がついているのは「薄いTEF 15.1」と「厚いSDR 24.2」の組み合わせだけで、残りの組み合わせに有意差はありません。傾向として読むにとどめるのが妥当です(右の2つはどちらも2mmで、違うのは厚みではなく材料です)。

それでいて修復物全体では、厚いライナー群のほうが小さい(20.6・18.1 µm 対 24.0 µm)。矛盾しているようですが、著者らの読み方はこうです。フロアブルは弾性率が低く、伸び縮みする余地がある。その層が身代わりに変形してくれるぶん、上に乗る硬いバルクフィルの収縮応力が、接着界面に届く前に吸収される——いわゆるストレスブレーカーとしての働きです。

厚い層がよく縮むことについて、著者らはもうひとつ「厚い増分のほうが体積が大きいことに関係しうる」という、より単純な説明も併記しています。

そしてもうひとつ。著者らは「後から置いた層の収縮は、先に硬化した層の収縮に引っぱられる」とも書いています。積層した群でベクトルが小さかったのは、1層目が先に固まって土台になり、2層目の動きを抑えたためだと解釈されています。積層が効くのはC-factorの話だけではない、ということです。

方向についても測っています。負の値が「光源のほう(上向き)」、正の値が「窩底のほう(下向き)」。薄いライナー+一括の群がいちばん下向きに動き(+8.8 µm)、薄いライナー+積層の群は上向き(−1.6 µm)でした。ただしこの軸方向の値は標準偏差がきわめて大きく(±22.1、±7.7)、方向の話は全体の大きさほど明確ではありません。

明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、3つです。

①「バルクフィルだから一層で終わらせなければ」という縛りは、外していい。ライナーを敷いて積層した群が最も縮まなかった、というのがこの研究の主結果です。著者らの推奨も明快で、「バルクフィルコンポジットの下にはフロアブルライナーを敷くことを推奨する。薄くても厚くてもよいが、できれば積層で」

②厚みは「どちらでもよい」。0.5mmでも2mmでも、ライナーを敷いた群はすべて対照より小さくなりました。著者らも結論で「薄い層でも厚い層でも、良好な収縮パターンと窩壁への適合が得られた」と書いています。ただし考察では「薄い層と2mmの厚い層のどちらも勧められるが、厚い層のほうがわずかに好ましい」と、厚いほうへの軽い選好が示されています。窩洞の深さや使うフロアブルの都合で選んでよい、そのうえで迷ったら厚いほう、というくらいの温度感です。

③差がいちばん大きかったのは、ライナーを敷くか敷かないか。37.1 µm 対 13.4 µm です。もっとも著者らの推奨は「ライナーを敷くことを勧める」であって、「一括填塞をやめよ」ではありません。しかも同じ原著の緒言には、臨床研究ではフロアブルライナーによる成績向上が検出されていないとも書かれています。それでも、時短のためにバルクフィルを選んだのなら、削るべき一手はここではないのかもしれません——フロアブルを一層流す時間は、2mmずつ4層積む時間とは比べものになりません。

なお、SEM観察(各群1試料のみ)では窩縁は良好なのに窩底には幅の異なるギャップが見られたものがあります。ただしこの研究はギャップの量を定量していません(著者ら自身が限界として挙げています)。「縮み方が小さい=隙間が少ない」と直結させないでおきたいところです。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 in vitro(実験室)研究で、抜去歯に作った円柱状の規格窩洞に詰めたものです。実際の窩洞形態でも、口腔内の温度・湿度・咬合力でもありません。各群n=8(歯8本)と小さい点に加えて、統計の組み立てにも注意が要ります。報告されている自由度(Df=94,454)から、平均±標準偏差と分散分析は歯ではなく「追跡した粒」を単位に計算されていると読めます。1本の歯から取れた多数の粒は互いに独立ではないので、この扱いは検定を有利に働かせる方向に効きます(標準偏差が平均と同じくらい大きいのも、症例数ではなく修復物内部のばらつきを映したものです)。SEM観察は各群1試料のみで、著者ら自身が限界に挙げています。測っているのは材料の動きであって、接着強さでも辺縁漏洩でも臨床成績でもありません。著者ら自身、ギャップは定量していないと明記しています。緒言では「フロアブルライナーの効果は、in vitroでは示されるが、臨床研究では修復物の成績向上が検出されていない」という先行研究にも触れられており、この結果をそのまま臨床の優劣に読み替えることはできません。加えて抄録と本文末で、結論の書き方が違います——抄録は「厚いライナー層のほうが薄い層より応力緩和効果が明瞭だった」(=修復物全体の話)、本文末は「ライナーや上に乗る層の増分は、薄いほど収縮ベクトルは小さい」(=層そのものの話)。見ている単位が違うので両立しますが、拾い読みすると逆に読めるため、この記事では数値そのものを優先しました。利益相反は「なし」と申告されていますが、資金はドイツの歯科研究団体(Forschungsgemeinschaft Dental e.V.)とミュンヘン大学の保存科から出ており、使用材料の多くは同一メーカー(Ivoclar Vivadent)の製品です。それでも——重合中の動きを三次元で可視化して、「一括か積層か」を数字にした価値は小さくありません。

今日のひとこと

バルクフィルを「一気に詰める」ことのコストは、数字で見ると小さくなかった。ライナーを敷かずTBFを一括填塞した対照群の収縮ベクトルは 37.1 µm で、全群の中で最大。ここに0.5mmの薄いフロアブルライナーを敷くだけで 24.0 µm、2mmの厚いライナーなら 20.6 µm(SDRで 18.1 µm)まで下がった。そして最も小さかったのは、薄いライナーの上を2回に分けて積層した群の 13.4 µm——対照の約36%である。ライナーは厚くても薄くても収縮の緩衝材として働き、著者らの推奨は「バルクフィルの下にはフロアブルライナーを、できれば積層で」。ただしこれはマイクロCTで材料の動きを測ったin vitro研究で、辺縁漏洩や臨床成績を測ったものではない。それでも、「バルクフィルだから一層で終わらせなければならない」という思い込みだけは、この研究の前ではいったん外していい。

Kaisarly D, Meierhofer D, El Gezawi M, Rösch P, Kunzelmann KH. Effects of flowable liners on the shrinkage vectors of bulk-fill composites. Clin Oral Investig. 2021;25(8):4927-4940. doi:10.1007/s00784-021-03801-2 PMID: 33506426
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。