1問1答 論文 保存修復

セメントの厚み、100μmと300μmで割れにくさはどれだけ違うか

1問1答 論文 保存修復

e.maxプレスの破折荷重は、エナメル質+エッチアンドリンス型で1592N→1176Nまで落ちた(Rojpaibool 2017・Journal of Prosthodontics)

セラミックは歯に接着することで割れにくくなります。ではその接着層が厚くなると、どれだけ損をするのでしょうか。厚みとセメントの種類と被着面(エナメル質か象牙質か)——3つの条件を同時に振った実験があります。

論文
Fracture Resistance of Lithium Disilicate Ceramics Bonded to Enamel or Dentin Using Different Resin Cement Types and Film Thicknesses
著者
Rojpaibool T, Leevailoj C(チュラロンコン大学・タイ)
掲載
Journal of Prosthodontics 2017;26(2):141–149
種類
in vitro(ヒト抜去第三大臼歯100本・1mm厚のe.maxプレス板・各群n=10・静的圧縮破折試験)
PMID
26505488

セメント層の厚みは、どこで決まっているか

ISO規格が定めるレジン系セメントのフィルム厚は50μm以下です。ところが実際の修復物では、そう薄くなっていないことが知られています。原著が引く報告では、プレス法で平均106.74μm、CAD/CAM法で平均340.35μm。さらにダイスペーサーの塗り方や、圧接するときの指の力の違いでも100μmを超える層ができます。

つまり「厚みは技工と装着の現場で決まっていて、術者が意識しないうちに数百μmになっていることがある」。ではその厚みは、セラミックの割れにくさをどれだけ左右するのでしょうか。

ここには対立する報告がありました。厚いほうが割れにくかったとするもの(Prakki 2007・長石系ポーセレン)と、厚いほど割れやすかったとするもの(Scherrer 1994・マシナブルグラスセラミック)。材料が違うので、そのままe.maxに当てはめることはできません。

厚み・セメント・被着面を、同時に振る

タイのグループが、ヒトの抜去第三大臼歯100本を研磨して、エナメル質の平面50個と象牙質の平面50個を作りました。そこへ1mm厚のe.maxプレスの板(3×6mm)を接着し、静的な圧縮荷重で割っています。

振った3条件:セメントの厚み=100μm/300μm(金属ストリップをスペーサーにして作る) ②セメントの種類=エッチアンドリンス型(RelyX Ultimate)/自己接着型(RelyX U200) ③被着面=エナメル質/象牙質。加えてリン酸亜鉛セメントを対照群に置いた(実測の厚みは41.6〜43.9μm)。各群n=10。セラミック側は5%フッ酸20秒+シランプライマーで前処理。レジンセメント群は24時間37℃の脱イオン水に保管したのち、直径2mmの球状インデンターで0.5mm/分の圧縮荷重をかけ、破折荷重(N)を記録した(リン酸亜鉛の対照群は、練和直後に試験されている)。

SEMで断面を実測したところ、狙った厚みはよく再現されていました(100μm群で97.6〜105.2μm、300μm群で306.5〜311μm)。

厚みを200μm減らすと、エナメル質+Ultimateで416Nの差がついた

0 600 1200 1800 平均破折荷重(N) 1592 1176 1414 1155 1262 875 842 618 Ultimateエナメル質 Ultimate象牙質 U200エナメル質 U200象牙質 セメント厚 100μm セメント厚 300μm 単位はN。各群n=10。Ultimate=RelyX Ultimate(エッチアンドリンス型)、U200=RelyX U200(自己接着型)。濃い棒=100μm、淡い棒=300μm。SDは順に 172.59/159.81、157.21/110.92、158.97/83.83、92.16/70.23
平均破折荷重(N)。同じセメント・同じ被着面でも、厚み100μmと300μmで大きな差が出た

最も高かったのはエナメル質+RelyX Ultimate+100μm=1591.98±172.59N。同じ条件で厚みだけ300μmにすると1176.02±159.81Nまで落ちます(差は415.96N)。厚みによる差は組み合わせによって大きさが違い、エナメル質+U200で387.83N、象牙質+Ultimateで258.66N、象牙質+U200で223.99Nでした。

平均破折荷重(平均±SD、N): エナメル質/Ultimate 100μm 1591.98±172.59・300μm 1176.02±159.81、U200 100μm 1262.48±158.97・300μm 874.65±83.83、リン酸亜鉛 879.45±84.72。象牙質/Ultimate 100μm 1414.13±157.21・300μm 1155.47±110.92、U200 100μm 842.13±92.16・300μm 618.14±70.23、リン酸亜鉛 565.19±54.50。

重回帰分析(対照=リン酸亜鉛セメント、被着面の基準=エナメル質)でも、3条件すべてが破折荷重と関係していました。

重回帰の結果(調整済みR²=0.837): 厚み100μm β=349.80(95%CI 60.94–638.66、P=.018)/厚み300μm β=27.89(−254.25–310.02、P=.845)/RelyX Ultimate β=423.24(142.71–703.76、P=.004)/RelyX U200 β=−12.11(−292.88–268.66、P=.932)/象牙質 β=−238.15(−293.24〜−183.06、P<.001)。

自己接着型を厚く使うと、リン酸亜鉛と並んだ

0 366.7 733.3 1100 平均破折荷重(N) 879 875 565 618 エナメル質 象牙質 リン酸亜鉛セメント(対照) 自己接着型 U200・300μm 単位はN。重回帰でも RelyX U200 の係数は −12.11(95%CI −292.88〜268.66、P=.932)で、リン酸亜鉛セメントと統計的に区別がつかなかった。リン酸亜鉛の実測フィルム厚は41.6〜43.9μm
自己接着型セメント(RelyX U200)を300μmで使った群と、リン酸亜鉛セメント対照群の比較。エナメル質ではほぼ同値だった

この研究でいちばん考えさせられるのは、ここだと思います。

回帰分析で、RelyX U200の係数は −12.11(P=.932)——つまりリン酸亜鉛セメントと統計的に区別がつきませんでした。実測値を並べても、エナメル質ではU200の300μm群 874.65N に対しリン酸亜鉛対照 879.45N。原著の考察も「同じ被着面で、自己接着型の300μm群と対照群の差は10%未満だった」と書いています。

破断面の様相も対照的でした。U200は接着界面での破壊(type I)が50〜70%を占め、SEMではスメア層のプラグで塞がったままの象牙細管が観察されています。一方RelyX Ultimateは全群で100%がtype IV(セラミックの一部が歯面に残る破壊)。リン酸亜鉛は全群100%が接着破壊(type I)で、原著の考察は「リン酸亜鉛セメントはセラミック板を合着していなかった。セメント層/セラミック界面で100%の接着破壊を示したからである」と述べています。

なぜ、薄いほうが割れにくいのか

1mm程度まで薄くなったセラミックの破折は、支持している構造の弾性率に強く左右されます。下が硬いほど、たわみが小さくなり、引張応力が集中しにくい。原著が挙げる数字では、エナメル質70〜80GPa、象牙質16GPa、レジンセメント6〜8GPa

この並びを見ると、話は素直です。セメントは支持構造のなかで最も軟らかい層なので、その層が厚くなるほど「軟らかい下地」の影響が大きくなる。だから薄いほうが割れにくい。象牙質がエナメル質に劣るのも、同じ理屈で説明できます。

加えて、厚い層ほど練和時に巻き込んだ気泡が問題になります。SEMでは300μm群のセメント層に気泡が確認されています。

明日の臨床へ

第一に、セメント層を薄くする工程に手を抜かない。ダイスペーサーの厚み設定、試適での適合確認、圧接時の加圧——どれもセメント厚を決める操作です。この実験では、厚みの200μmの差が、エナメル質+Ultimateで400N以上の差になりました。

第二に、e.maxの装着に自己接着型を選ぶかどうかは、簡便さと引き換えに何を失うかで考える。手順が減るのは確かな利点ですが、この実験ではエッチアンドリンス型のほうが一貫して高い破折荷重を示し、自己接着型は厚く使うとリン酸亜鉛と区別がつきませんでした。原著の臨床的意義も「破折抵抗の観点では、エナメル質・象牙質のいずれに対してもエッチアンドリンス型のレジンセメントが推奨される」と明記しています。

第三に、支台にエナメル質を残す設計は、接着だけでなく破折抵抗の面でも効いている。象牙質の係数は−238.15N。これは形成量を考えるときの、もうひとつの根拠になります。

つまり: セメント厚・セメントの種類・被着面の3つが、いずれもe.maxの破折荷重と有意に関係した(調整済みR²=0.837)。薄い100μm・エッチアンドリンス型・エナメル質の組み合わせが最も高く(1591.98N)、自己接着型を300μmで使った群はリン酸亜鉛セメントと差がつかなかった
ここだけ、冷静に補助線
これは平らな板を平らな歯面に貼った、静的な圧縮試験です。実際のインレーやクラウンの形態でも、繰り返し荷重でも、湿潤下の疲労でもありません。原著自身が「多くの因子が生理的環境下での失敗に関与する」「低荷重の繰り返しと湿潤条件はセラミックの強度劣化に影響しうる」と限界を挙げ、さらに抜去歯の弾性率(6GPa)は生活歯(15GPa)と異なることにも触れています。24時間保管のみでサーモサイクルもかけていません。また比べている厚みが100μmと300μmで、ISOが求める50μm以下の領域は検証されていない点も押さえておきたいところです(厚みを極端に薄くすると別の不利が出るという報告も引用されています)。また、リン酸亜鉛の対照群だけは練和直後に試験されており、24時間保管したレジンセメント群と条件が揃っていません——④で述べた「自己接着型の300μm群がリン酸亜鉛と並んだ」という比較は、この点を踏まえて読む必要があります。それでも、「軟らかい層が厚いほど、上のセラミックはたわんで割れる」という力学の筋道は明快で、日々の装着でコントロールできる変数を1つ指し示してくれます。

今日のひとこと

セラミックの割れにくさは、材料の強度だけでなく「下に何が、どれだけの厚みで入っているか」で決まる。この実験では、厚みを300μmから100μmに減らすだけで破折荷重が上がり、エッチアンドリンスのレジンセメントは自己接着型より高い荷重を示した。逆に自己接着型を300μmで使った群は、リン酸亜鉛セメントとほぼ同じ値だった。

Rojpaibool T, Leevailoj C. Fracture Resistance of Lithium Disilicate Ceramics Bonded to Enamel or Dentin Using Different Resin Cement Types and Film Thicknesses. J Prosthodont. 2017;26(2):141–149. doi:10.1111/jopr.12372 PMID: 26505488
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。