e.maxプレスの破折荷重は、エナメル質+エッチアンドリンス型で1592N→1176Nまで落ちた(Rojpaibool 2017・Journal of Prosthodontics)
セラミックは歯に接着することで割れにくくなります。ではその接着層が厚くなると、どれだけ損をするのでしょうか。厚みとセメントの種類と被着面(エナメル質か象牙質か)——3つの条件を同時に振った実験があります。
①セメント層の厚みは、どこで決まっているか
ISO規格が定めるレジン系セメントのフィルム厚は50μm以下です。ところが実際の修復物では、そう薄くなっていないことが知られています。原著が引く報告では、プレス法で平均106.74μm、CAD/CAM法で平均340.35μm。さらにダイスペーサーの塗り方や、圧接するときの指の力の違いでも100μmを超える層ができます。
つまり「厚みは技工と装着の現場で決まっていて、術者が意識しないうちに数百μmになっていることがある」。ではその厚みは、セラミックの割れにくさをどれだけ左右するのでしょうか。
ここには対立する報告がありました。厚いほうが割れにくかったとするもの(Prakki 2007・長石系ポーセレン)と、厚いほど割れやすかったとするもの(Scherrer 1994・マシナブルグラスセラミック)。材料が違うので、そのままe.maxに当てはめることはできません。
②厚み・セメント・被着面を、同時に振る
タイのグループが、ヒトの抜去第三大臼歯100本を研磨して、エナメル質の平面50個と象牙質の平面50個を作りました。そこへ1mm厚のe.maxプレスの板(3×6mm)を接着し、静的な圧縮荷重で割っています。
SEMで断面を実測したところ、狙った厚みはよく再現されていました(100μm群で97.6〜105.2μm、300μm群で306.5〜311μm)。
③厚みを200μm減らすと、エナメル質+Ultimateで416Nの差がついた
最も高かったのはエナメル質+RelyX Ultimate+100μm=1591.98±172.59N。同じ条件で厚みだけ300μmにすると1176.02±159.81Nまで落ちます(差は415.96N)。厚みによる差は組み合わせによって大きさが違い、エナメル質+U200で387.83N、象牙質+Ultimateで258.66N、象牙質+U200で223.99Nでした。
重回帰分析(対照=リン酸亜鉛セメント、被着面の基準=エナメル質)でも、3条件すべてが破折荷重と関係していました。
④自己接着型を厚く使うと、リン酸亜鉛と並んだ
この研究でいちばん考えさせられるのは、ここだと思います。
回帰分析で、RelyX U200の係数は −12.11(P=.932)——つまりリン酸亜鉛セメントと統計的に区別がつきませんでした。実測値を並べても、エナメル質ではU200の300μm群 874.65N に対しリン酸亜鉛対照 879.45N。原著の考察も「同じ被着面で、自己接着型の300μm群と対照群の差は10%未満だった」と書いています。
破断面の様相も対照的でした。U200は接着界面での破壊(type I)が50〜70%を占め、SEMではスメア層のプラグで塞がったままの象牙細管が観察されています。一方RelyX Ultimateは全群で100%がtype IV(セラミックの一部が歯面に残る破壊)。リン酸亜鉛は全群100%が接着破壊(type I)で、原著の考察は「リン酸亜鉛セメントはセラミック板を合着していなかった。セメント層/セラミック界面で100%の接着破壊を示したからである」と述べています。
⑤なぜ、薄いほうが割れにくいのか
1mm程度まで薄くなったセラミックの破折は、支持している構造の弾性率に強く左右されます。下が硬いほど、たわみが小さくなり、引張応力が集中しにくい。原著が挙げる数字では、エナメル質70〜80GPa、象牙質16GPa、レジンセメント6〜8GPa。
この並びを見ると、話は素直です。セメントは支持構造のなかで最も軟らかい層なので、その層が厚くなるほど「軟らかい下地」の影響が大きくなる。だから薄いほうが割れにくい。象牙質がエナメル質に劣るのも、同じ理屈で説明できます。
加えて、厚い層ほど練和時に巻き込んだ気泡が問題になります。SEMでは300μm群のセメント層に気泡が確認されています。
⑥明日の臨床へ
第一に、セメント層を薄くする工程に手を抜かない。ダイスペーサーの厚み設定、試適での適合確認、圧接時の加圧——どれもセメント厚を決める操作です。この実験では、厚みの200μmの差が、エナメル質+Ultimateで400N以上の差になりました。
第二に、e.maxの装着に自己接着型を選ぶかどうかは、簡便さと引き換えに何を失うかで考える。手順が減るのは確かな利点ですが、この実験ではエッチアンドリンス型のほうが一貫して高い破折荷重を示し、自己接着型は厚く使うとリン酸亜鉛と区別がつきませんでした。原著の臨床的意義も「破折抵抗の観点では、エナメル質・象牙質のいずれに対してもエッチアンドリンス型のレジンセメントが推奨される」と明記しています。
第三に、支台にエナメル質を残す設計は、接着だけでなく破折抵抗の面でも効いている。象牙質の係数は−238.15N。これは形成量を考えるときの、もうひとつの根拠になります。
これは平らな板を平らな歯面に貼った、静的な圧縮試験です。実際のインレーやクラウンの形態でも、繰り返し荷重でも、湿潤下の疲労でもありません。原著自身が「多くの因子が生理的環境下での失敗に関与する」「低荷重の繰り返しと湿潤条件はセラミックの強度劣化に影響しうる」と限界を挙げ、さらに抜去歯の弾性率(6GPa)は生活歯(15GPa)と異なることにも触れています。24時間保管のみでサーモサイクルもかけていません。また比べている厚みが100μmと300μmで、ISOが求める50μm以下の領域は検証されていない点も押さえておきたいところです(厚みを極端に薄くすると別の不利が出るという報告も引用されています)。また、リン酸亜鉛の対照群だけは練和直後に試験されており、24時間保管したレジンセメント群と条件が揃っていません——④で述べた「自己接着型の300μm群がリン酸亜鉛と並んだ」という比較は、この点を踏まえて読む必要があります。それでも、「軟らかい層が厚いほど、上のセラミックはたわんで割れる」という力学の筋道は明快で、日々の装着でコントロールできる変数を1つ指し示してくれます。
今日のひとこと
セラミックの割れにくさは、材料の強度だけでなく「下に何が、どれだけの厚みで入っているか」で決まる。この実験では、厚みを300μmから100μmに減らすだけで破折荷重が上がり、エッチアンドリンスのレジンセメントは自己接着型より高い荷重を示した。逆に自己接着型を300μmで使った群は、リン酸亜鉛セメントとほぼ同じ値だった。


