CAD/CAMインレーで、レジンコーティング3条件×デュアルキュア型レジンセメント3製品の9通りを、熱サイクル後の微小引張接着強さと内部適合で比べたin vitro研究(Rozan 2020・Dent Mater J)
形成した直後に象牙質を封鎖しておくレジンコーティング(=即時象牙質シーリング)。CAD/CAMのワンビジットでは仮封が要らないのに、それでもコーティングする意味はあるのか。あるとして、どのセメントを使っていても同じだけ得をするのか。東京医科歯科大学のグループが、9通りの組み合わせで測りました。
①「レジンコーティングは、やったほうがいい」で止まっていないか
形成した直後に、象牙質をボンディング材(+フロアブル)で封鎖しておく。レジンコーティング、あるいは即時象牙質シーリング(IDS)と呼ばれる一手です。仮封の漏れによる術後痛を防ぎ、接着も上がる——そう習います。
ではCAD/CAMのワンビジットではどうか。その日のうちに装着するなら仮封は要りません。それでもコーティングする意味はあるのか。あるとして、どのセメントを使っていても同じだけ得をするのか。
東京医科歯科大学のグループが、コーティング3条件 × レジンセメント3製品=9通りで測りました。結果は「全部が底上げされた」ではありませんでした。
②コーティング3条件 × セメント3製品
目のつけどころは、「コーティングの有無」と「セメントの種類」を交差させているところです。片方だけを変える研究では、この後に出てくる交互作用が見えません。
③結果——上がったのは、素で弱かったセメントだけ
まずコーティングなしの列を見てください。リライエックス 37.1 MPa に対し、リンクフォース 25.2、パナビアV5 21.5。リライエックスが他の2つより有意に高い(p<0.05)。素の状態では、はっきり差がありました。
そこにコーティングを足すと、どうなったか。
リライエックス:37.1 → 35.7 → 34.3。3条件の間に有意差なし。上がらないどころか、数字はわずかに下がっています(差は有意ではありません)。
リンクフォース:25.2 → 37.3 → 38.2。コーティングなしと他の2条件の間に有意差あり。1ステップと2ステップ+フロアブルの間には差がつきませんでした。
パナビアV5:21.5 → 32.4 → 40.9。3条件すべての間に有意差あり。素で最も低かった製品が、フルのコーティングでは9つの値のうち最も高い値まで来ています(ただしリンクフォースの38.2との差は有意ではありません)。
統計解析でも、「コーティング」と「セメント」の両因子が有意(p<0.001)で、両者の交互作用も有意(p<0.05)でした。つまりコーティングの効き方は、どのセメントを使うかで変わる。
そして結果を一言でまとめるなら、著者らが抄録に書いたこの一文です。「1ステップ群と2ステップ+フロアブル群は、すべて30 MPaを超えた」。素の状態では21.5〜37.1とばらついていたものが、コーティングを挟むと32.4〜40.9の帯に収まりました。
ただし「差が消えた」わけではありません。コーティングを挟んだあとも製品間の有意差は残っています——1ステップ群ではリンクフォース(37.3)がパナビアV5(32.4)より有意に高く、2ステップ+フロアブル群ではパナビアV5(40.9)がリライエックス(34.3)より有意に高い。順位が入れ替わっているのが面白いところで、どのコーティングを挟むかで、どの製品が上に来るかが変わります。著者らの結語も「レジンコーティングの影響は、レジンセメントに依存した」です。
④なぜリライエックスだけ上乗せが無かったのか
著者らが挙げる説明のひとつは、拍子抜けするほど具体的です。リライエックスは、3製品のうち唯一、象牙質に塗ったボンディング材を「装着の前に単独で光照射する」使用説明書になっている——つまり手順の中に、すでにレジンコーティングと同じ工程が組み込まれている。
単独で光照射すれば、その層は架橋が進んで重合度が上がります。だから外からコーティングを足しても、上乗せが出ない。素の状態で高かった理由も、同じところにありました。
著者らはもうひとつ、別の現象についての説明も挙げています——リライエックスとリンクフォースで1ステップと2ステップ+フロアブルが同程度になった理由として、「1ステップ群では酸素による重合阻害層を除去しなかったため、実質的に接着材を2回塗ったのと同じ状況になった」と。
破断面の観察も見ておきましょう。コーティングなしの群では、どのセメントでも「象牙質界面での剥離」が最も多かった。それがコーティング群では減り、代わりに「セメントの凝集破壊」が増えました。いちばん弱い場所が、象牙質との界面からセメントそのものへ移った——界面が強くなった証拠です。
もうひとつ、著者らはボンディングレジンの層が「応力の緩衝材(ストレスブレーカー)」として働いた可能性にも触れています。リライエックスとリンクフォースは象牙質にもブロックにもアドヒーシブレジンを使いますが、パナビアV5はプライマー系です。弾性率の低い層があることが、コーティングなしの群で見られた差を生んだのではないか、と(熱サイクルやC-factorの影響は、著者らが別の可能性として並べています)。
⑤明日の臨床へ
①「コーティングすれば上がる」ではなく「使っているセメント次第」。ボンディング材を別に光照射する手順を含むセメントを使っているなら、上乗せは期待しにくい。逆に、プライマーを塗ってエアで乾かすだけの手順のセメントなら、コーティングの一手は数字に出ます。自分の使用説明書を、この目で見直す価値があります。
②2ステップ+フロアブルは、パナビアV5でだけ1ステップを上回った。リンクフォースでは1ステップと差がつきませんでした。手間を1段増やすかどうかは、セメントによって答えが変わります。
③内部適合は、コーティングを挟んでも悪化しなかった。「連続した辺縁」の割合はすべての群で95%以上、群間に有意差なし。コーティング層の厚みはボンディング材のみで約10µm、フロアブルの層だけで41.8〜88.6µm(2ステップ+フロアブル群はこの合計)でしたが、その厚みでインレーが浮くことはありませんでした。
ただし著者らは、別のところを心配しています。この研究のセメント層は168.7〜308.7µmあり、推奨されるセメント厚(約50〜100µm)よりかなり厚い。セメント層が厚いほどC-factorによる重合収縮応力が大きくなり、接着強さと内部適合に影響しうるため、著者らは「レジンセメントの量は少ないほうが望ましい」と書いています。また「連続した辺縁」の判定は1µm未満のギャップを検出できず、材料が吸水して膨張したためにギャップが検出されなかった可能性も、著者ら自身が但し書きしています。95%以上という数字は、そこまで込みで読むものです。
④「揃う」のではなく「底が上がる」。コーティング群はすべて30 MPa超に収まりましたが、製品間の有意差はコーティング後も残っています(順位が入れ替わるだけです)。実際に起きたのは、素で低かったリンクフォース(25.2→38.2)とパナビアV5(21.5→40.9)が引き上げられたこと——底の上昇であって、天井での横並びではありません。ワンビジットでコーティングを挟む価値は「どれを使っても同じにする」ことではなく、素の状態で不利な組み合わせを、不利でなくするところにあります。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
レジンコーティングは、どのセメントでも一律に接着を底上げする一手ではなかった。コーティングなしの接着強さはリライエックス アルティメット 37.1・リンクフォース 25.2・パナビアV5 21.5 MPaで、リライエックスが他の2つより有意に高い。リライエックスは3条件の間に有意差がなく(37.1→35.7→34.3)、リンクフォースはコーティングで有意に上がり(25.2→37.3/38.2、1ステップと2ステップ+フロアブルの間に差なし)、パナビアV5は3条件すべての間に有意差がついた(21.5→32.4→40.9)。著者らの結語は「レジンコーティングの影響は、レジンセメントに依存した」。理由は使用説明書の中にある——リライエックスだけが、象牙質のボンディング材を装着前に単独で光照射する手順を持ち、すでにコーティングと同じことをしている。ただし製品間の差が消えたわけではなく、コーティング後も1ステップではリンクフォース>パナビアV5、2ステップ+フロアブルではパナビアV5>リライエックスと有意差が残り、順位も入れ替わる。破断面も、象牙質界面での剥離からセメントの凝集破壊へ移っていた。内部適合はどの群も「連続した辺縁」95%以上で群間に差はなかった(ただし1µm未満のギャップは検出できず、材料の吸水膨張でギャップが検出されなかった可能性も著者らは断っている)。またこの研究のセメント層は168.7〜308.7µmと推奨(約50〜100µm)より厚く、著者らは収縮応力の観点から「セメントの量は少ないほうが望ましい」と書いている。


