1問1答 論文 エンド

逆根管充填の材料、アマルガムでいい?——1990年・2医院の488例を振り返ると、成功率はアマルガム75%、IRM 91%、SuperEBA 95%。割付なし・SuperEBAとIRMは別医院の後ろ向き研究

1問1答 論文 エンド

エンド|歯根端切除で使う逆根管充填材(アマルガム・SuperEBA・IRM)の成績を、エックス線写真で振り返った後ろ向き研究(Dorn・Gartner 1990・Journal of Endodontics)

歯根端切除のあと、根尖の切断面に詰める逆根管充填材。長くアマルガムが定番でしたが、1970〜80年代の研究で「すき間ができる」「漏えいしやすい」「腐食する」といった弱点が指摘されていました。米国の2つの歯内療法専門医院は、過去10年に逆根管充填をした488例を、術直後と最新のエックス線写真で比べました。成功(完全治癒+治癒傾向)の割合はアマルガム75%、IRM 91%、SuperEBA 95%。どちらのセメントもアマルガムとの差は統計的に有意で、IRMとSuperEBAの間には有意差がありませんでした。ただし、材料は割り付けておらず、SuperEBAとIRMは別々の医院で使われていました。MTAも手術用顕微鏡も比較に出てこない、1990年の研究です。

論文
Retrograde Filling Materials: A Retrospective Success-Failure Study of Amalgam, EBA, and IRM
著者
Samuel O. Dorn, Arnold H. Gartner(米国の歯内療法専門の開業医。Dornはフロリダ州、Gartnerはミシガン州で開業しデトロイト大学の臨床助教授)
掲載
Journal of Endodontics 1990;16(8):391-393. DOI: 10.1016/S0099-2399(06)81912-6
種類
後ろ向き臨床研究(2医院)。過去10年に歯根端切除と逆根管充填を受けた488例を、術直後と最新のリコール時のエックス線写真(平行法)で比較。経過は最短6か月〜最長10年。材料を選ぶ基準は事前に決めていない
PMID
2081958

逆根管充填、アマルガムでいい?

歯根端切除で根尖を切ったあと、切断面の根管に詰める逆根管充填材。いまはMTAなどの材料が話題になりますが、長いあいだ定番はアマルガムでした。その定番に疑問が出てきた1970〜80年代の流れを受けて、「実際の患者さんでは、どの材料の成績がよいのか」を振り返ったのがこの論文です。

結論を先に書くと、成功(完全治癒+治癒傾向)の割合はアマルガム75%、IRM 91%、SuperEBA 95%。SuperEBAとIRMはどちらもアマルガムより有意に高く、SuperEBAとIRMの間には有意差がありませんでした。ただし、材料をくじで割り付けた研究ではなく、1990年の術式と材料での数字です。

なぜアマルガムが疑われていたのか

著者らは緒言で、アマルガムへの懸念をまとめています。走査電顕でアマルガムと根管壁の間にすき間が見られたという報告、根尖周囲の組織に遊離水銀が及ぶことへの懸念、漏えい試験での成績の悪さ、腐食生成物や電気化学的な反応。いずれも著者らが引用した先行研究によるものです。

代わりの候補として挙がっていたのが、SuperEBAIRM。どちらも「強化型の酸化亜鉛ユージノール(ZOE)セメント」で、強化によって、初期のZOEやCavitで問題になった吸収されやすさを解消した、と著者らは説明しています。漏えい試験(in vitro)ではSuperEBAの漏えいが少ないとする報告が複数ある一方、それを確認できなかった研究も2本あり、評価は定まっていませんでした。

今回の研究:2つの専門医院の488例を振り返った

研究の骨格:米国の地理的に離れた2つの歯内療法専門医院で、過去10年に歯根端切除と逆根管充填をした患者の記録を使った後ろ向き研究。どちらの医院でも複数の歯内療法専門医(合計10人)が手術をしている。
材料:高銅・亜鉛フリーの球状アマルガム(Sybraloy)、SuperEBA、IRM。どの材料を使うかの基準は事前に決めていない
医院ごとの使い分け:医院1はアマルガム(129例)とSuperEBA(65例)、医院2はアマルガム(165例)とIRM(129例)。
評価:術直後のエックス線写真と最新のリコール時の写真(平行法)を比較。経過は最短6か月、最長10年。各医院が自分の症例を同じ基準で別々に判定した。
完全治癒:歯根膜腔の完全な再生がエックス線写真で見られる
治癒傾向:根尖部の透過像が小さくなったが、まだ残っている
失敗:透過像が大きくなった、または変わらない
垂直破折や歯周病による失敗の歯は、研究から除いている。

この研究の「成功」は、完全治癒と治癒傾向を足したものです。この定義は、あとで数字を読むときに効いてきます。

結果:セメント2種はアマルガムより成功率が高かった

0 33.3% 66.7% 100% 成功率 (%) 75% 91% 95% アマルガム(294例) IRM(129例) SuperEBA(65例) 成功=完全治癒+治癒傾向(エックス線写真で判定)。表1・本文の値。アマルガムは2医院の合計(221/294)、IRMは医院2(117/129)、SuperEBAは医院1(62/65)
材料ごとの成功率(完全治癒+治癒傾向)。論文の表1・本文の値(四捨五入)。アマルガムは2医院の合計

成功した症例は、アマルガム294例中221例(75%)、IRM 129例中117例(91%)、SuperEBA 65例中62例(95%)。カイ二乗検定で、SuperEBAとアマルガムの差はp<0.001、IRMとアマルガムの差はp<0.01で有意SuperEBAとIRMの差は有意ではありませんでした

失敗の割合でいえば、アマルガム約25%に対し、IRM約9%、SuperEBA約5%です(表1の件数から、同じ医院のアマルガムと比べたリスク比はSuperEBA 約0.19、IRM 約0.37。筆者の計算)。

もう1つ大事なのが、医院ごとに分けた数字です。

0 33.3% 66.7% 100% 割合 (%) 75% 49% 95% 75% 75% 65% 91% 74% 医院1アマルガム(129) 医院1SuperEBA(65) 医院2アマルガム(165) 医院2IRM(129) 成功(完全治癒+治癒傾向) 完全治癒のみ 表1の値(四捨五入)。濃い棒=成功、淡い棒=完全治癒のみ。SuperEBAは医院1、IRMは医院2だけで使われた
医院・材料ごとの成功率と完全治癒率(表1)。濃い棒=成功(完全治癒+治癒傾向)、淡い棒=完全治癒のみ

アマルガムの成功率は、医院1でも医院2でも75%でした。著者らは、この一致が結果の信頼性をいくらか高めると述べています。同じ医院の中で比べても、成功率はセメントのほうが高い(医院1:75%→95%、医院2:75%→91%)という向きは変わりません。

一方、完全治癒だけに絞ると印象が少し変わります。医院1はアマルガム49%に対しSuperEBA 75%と差が大きいのに、医院2はアマルガム65%に対しIRM 74%と差は小さめです。医院2のアマルガムは「治癒傾向」が10%と少なく、失敗が25%でした。完全治癒だけの比較について、論文は検定の結果を示していません。

なぜセメントの成績がよかったのか(著者らの推察)

著者らは、同じ時期の漏えい試験との一致を挙げています。とくにBondraほか(1989)の色素漏えい試験では、SuperEBAとIRMはアマルガムより漏えいが少なく、SuperEBAはIRMよりわずかによいものの有意差はなかった。今回の臨床成績も同じ並びだった、という読みです。ただし、これは実験室研究との照らし合わせで、この研究で漏えいを測ったわけではありません。

SuperEBAの漏えいがアマルガムより悪かったという研究については、余剰をメスで削ったために材料が辺縁から引きはがされた可能性を指摘し、余剰を除いたあとボールバニッシャーやキュレットの背で辺縁を圧接することが大事だと、著者らは自分たちの臨床経験として述べています。

ユージノールの組織への影響については、IRMの組織反応は軽微だったとする研究を引用し、SuperEBAの液に含まれるユージノールはIRMの約3分の1なので同様の結果が期待できる、と推測しています(表2:液中のユージノールはSuperEBA 37.5%、IRM 99%)。これも引用研究にもとづく推測で、この研究で組織を調べたわけではありません。

明日の臨床へ

著者らの結論(この後ろ向き研究の範囲で):強化型ZOEセメント(SuperEBA・IRM)を逆根管充填材に使ったときの予後は良好と考えられる。アマルガムの成績(75%)は、ほかの研究者の報告と同じ範囲だった。
補足(筆者の読み):
・この論文には、現在よく使われるMTAやバイオセラミック系の材料は出てきません。窩洞の形成方法や拡大視野の有無も書かれていません。今の材料選びを、この研究だけで決めることはできません。
・アマルガム逆根管充填の成功率は、この2医院では75%でした。著者らが表3で並べた他の研究は49〜83%で、成功の定義もそろっていません(Hirschほかは治癒途中をすべて失敗扱い)。
・もう1つは成功の定義。治癒傾向を成功に含めるかどうかで、同じ症例群でも数字が大きく変わります(医院1のアマルガムは、完全治癒だけなら49%)。他の論文の成功率と並べるときは、定義をそろえて読みたいところです。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、材料を割り付けていない後ろ向き研究です。どの症例にどの材料を使うかは術者の判断で、症例の難しさ(病変の大きさ、歯の種類、再手術かどうか)が材料ごとにそろっていたかは分かりません。第二に、SuperEBAは医院1、IRMは医院2だけで使われており、「SuperEBAとIRMに有意差なし」は、医院も術者も違う群どうしの比較です。第三に、経過期間は最短6か月〜最長10年と幅がありますが、材料ごとの経過期間は示されていません。緒言には「最近、多くの著者がアマルガムの適性に疑問を呈している」とあり、もしセメントの症例が新しい時期に偏って経過が短かったなら、失敗が表に出る時間が短かった可能性があります(これは筆者の読み)。第四に、評価はエックス線写真だけで、症状などの臨床所見は判定に使っていません。医院1は Dorn、医院2は Gartner(著者本人)の医院で、それぞれ自院の症例を盲検の記載なしに判定しています。判定者の人数も書かれていません。第五に、「成功」には透過像がまだ残る治癒傾向を含み、垂直破折や歯周病による失敗は除外されています(除外した数は書かれていません)。統計は3区分(完全治癒・治癒傾向・失敗)の分布を比べたカイ二乗検定(自由度2)で、アマルガムを2医院合算したのか医院ごとに比べたのかは書かれておらず、表1の件数から筆者が計算した値は論文のカイ二乗値(18.67・11.34)と一致しませんでした(筆者の計算:アマルガム合算で SuperEBA 13.1・IRM 14.2、医院別で 15.8・13.4。いずれも自由度2)。表3のアマルガムの完全治癒57%・治癒傾向18%も、表1の件数から計算した値(約58%・約17%)とわずかに違います。資金提供や利益相反の記載はありません。それでも、「同じ医院の中で比べても、強化型ZOEセメントの成功率はアマルガムより高かった」という結果は、逆根管充填材がアマルガムから離れていく流れの出発点の1つとして、今読んでも面白い数字です。

今日のひとこと

著者らの結論:この後ろ向き研究の範囲では、強化型の酸化亜鉛ユージノールセメント(SuperEBA・IRM)で逆根管充填した歯は、アマルガムより成功率が高かった(95%・91% vs 75%)。SuperEBAとIRMの差は有意ではなかった。ただし材料は割り付けておらず、SuperEBAとIRMは別々の医院で使われ、成功には「治癒傾向」も含む。MTAなど現在の材料や術式は比べていない1990年の数字として読みたい。

Dorn SO, Gartner AH. Retrograde filling materials: a retrospective success-failure study of amalgam, EBA, and IRM. J Endod. 1990;16(8):391-393. PMID: 2081958. DOI: 10.1016/S0099-2399(06)81912-6
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。