1問1答 論文 エンド

感染根管の細菌は、口の中の菌の縮図?——口腔には300種以上の菌がいるのに、根尖病変のある根管から見つかるのは限られた嫌気性菌が中心。酸素の乏しさと栄養がふるいになり、菌同士の組み合わせで病原性が強まる、とSundqvistが論じた総説(1994)

1問1答 論文 エンド

エンド|感染根管の細菌を「分類(何がいるか)」「生態(なぜそこで育つか)」「病原性(どう病変をつくるか)」の3章で整理した、ウメオ大学Sundqvist教授の総説(Oral Surg Oral Med Oral Pathol 1994)

根管治療の説明で「根の中の細菌が原因です」と話すとき、その細菌はどんな顔ぶれなのでしょうか。スウェーデン・ウメオ大学歯内療法学講座のGöran Sundqvist教授は、1994年のこの総説で、感染根管の細菌を3つの角度から整理しました。口の中には300を超える菌群・菌種が知られていますが、著者によれば、根管から見つかるのはそのうちの限られた菌で、嫌気培養の技術が入ってからは偏性嫌気性菌が中心(最大で菌叢の90%)だとわかってきました。著者自身が根尖病変のある歯の根管から分離した菌のまとめ(表II)では、いちばん多かったのが Fusobacterium nucleatum の48%です。著者はその理由を、酸素が乏しく、アミノ酸やペプチドを使える嫌気性菌が育ちやすい根管の環境と、菌同士の栄養のやり取りに求めました。そして病原性は1種の菌の力ではなく、複数の菌の相乗効果に依存する、と結論しています。ただしこれは著者1人による総説で、主な根拠は著者らの培養研究とサル・モルモットの動物実験です。治療法を比べた研究ではありません。

論文
Taxonomy, ecology, and pathogenicity of the root canal flora
著者
Göran Sundqvist(Department of Endodontics, Umeå University, Sweden・教授/講座主任)
掲載
Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology 1994;78(4):522-530
種類
単著のナラティブ総説(文献68本)。系統的な文献検索の方法は書かれていない。本文は分類(Taxonomy)・生態(Ecology)・病原性(Pathogenicity)の3章。数値の中心は、著者が歯髄腔の壁が保たれた歯の根管から自身の研究(文献4・11〜14)で分離した菌の検出率の表(表II・25行)で、調べた歯の本数は本文に書かれていない。ほかに黒色色素産生嫌気性桿菌の新旧の菌名の対照表(表I)と、根尖性肉芽腫を伴う歯の根尖部根管の電子顕微鏡写真(図1・Nair 1987提供)。生態と病原性の章の主な根拠は、サル(根管への接種)とモルモット(皮下への接種)の動物実験と、膿瘍の細菌学的研究の引用。いずれも培養法に基づく
PMID
7800383

根の中の細菌は、口の中の菌と同じ顔ぶれ?

歯髄が壊死すれば、口の中の菌はどれでも根管に入り込めるはずです。では、感染根管には口腔の菌がそのまま全部そろっているのでしょうか。

この総説で Sundqvist 教授が出した答えは「いいえ」です。結論を先に言うと、著者の主張は3つにまとまります。根管にいるのは口腔の菌のうち限られた菌で、嫌気性菌が中心。それを決めるのは酸素の乏しさと、根管で手に入る栄養と、菌同士の関係。そして病原性は1種の菌ではなく、複数の菌の相乗効果に依存する

著者の論旨を図にした「感染根管の菌叢」ができるまで(総説の3章を要約)口腔には300種以上理論上はどれも根管に入り得る根管で育つのは一部の菌酸素の乏しさと栄養がふるいに菌同士が栄養でつながる代謝産物が互いの栄養になり得る病原性は組み合わせで強まる動物実験で単独より混合が強いSundqvist 1994(総説)の本文から筆者が要約。各段の根拠は本文の各章(分類・生態・病原性)で、動物実験を含む
総説の3章(分類・生態・病原性)の論旨を、筆者が1本の流れに要約した概念図。原著にこの図はありません

「培養できない菌」が長く見えていなかった

口の中には300を超える菌群・菌種が知られていて、名前の付いていない菌もまだ多い、と著者は書き出します。

100年前、W.D. Miller は根管の塗抹標本にさまざまな形の菌を見ていましたが、培養できたのはその一部でした。Miller は「歯髄の菌の多くは培養が難しいとわかるだろう」と予言しています。状況を変えたのは、菌を検査のあいだ酸素に触れさせない厳密な嫌気培養の技術です。これを根管の試料に使うと、偏性嫌気性菌が優勢で、最大で菌叢の90%を占めることがわかりました。

著者は、昔の研究の結果を誤解させやすい点も挙げています。最初に液体培地で増やすと速く育つ菌だけが残りやすいこと。オートクレーブ中の市販の液体培地に、嫌気性菌を殺し得る過酸化水素などができること。「根管には通性菌しかいない」とした研究の多くは嫌気培養を使っていなかった、とも指摘しています。

細菌が根尖性歯周炎の原因であることの根拠として、著者は3つを並べます。外傷で失活した歯の壊死歯髄を調べた研究で、根尖性歯周炎のない歯からは菌が分離されず、ある歯からは常に分離されたこと。サルの実験。そして、歯髄腔を口に開放しても無菌ラットでは歯髄壊死も根尖部の骨破壊も起きなかったという Kakehashi らの古典です。著者はこれらが「壊死歯髄や停滞した組織液そのものが根尖性歯周炎を起こす」という考えと強く矛盾する、と述べています。

分類:何がいるのか

まず著者は、菌名が次々に変わることに注意を促します。たとえば、血液寒天で黒い集落をつくる嫌気性桿菌は、かつて Bacteroides melaninogenicus という1種にまとめられていましたが、その後に分けられ、糖を分解する種は Prevotella 属、分解しない種は Porphyromonas 属になりました(原著の表I)。Wolinella rectaCampylobacter rectus になったのも同じ流れです。異なる研究の結果を読み比べるには、今の分類を知っておく必要がある、というのが著者の立場です。

そのうえで示されるのが、著者自身が根管から分離した菌のまとめ(原著の表II)です。

根尖病変のある歯の根管から分離された菌の検出率(原著 表II・全25行)検出率(その菌が見つかった根管の割合)0%25%50%Fusobacterium nucleatum48%Streptococcus sp.40%Bacteroides sp. *35%Prevotella intermedia34%Peptostreptococcus micros34%Eubacterium alactolyticum34%Peptostreptococcus anaerobius31%Lactobacillus sp. †32%Eubacterium lentum31%Fusobacterium sp. ‡29%Campylobacter sp.25%Peptostreptococcus sp. §15%Actinomyces sp.15%Eubacterium timidum11%Capnocytophaga ochracea11%Eubacterium brachy9%Selenomonas sputigena9%Veillonella parvula9%Porphyromonas endodontalis9%Prevotella buccae9%Prevotella oralis8%Propionibact. propionicum8%Prevotella denticola6%Prevotella loescheii6%Eubacterium nodatum6%著者(Sundqvist)が歯髄腔の壁が保たれた歯の根管から自身の研究(文献4・11〜14)で分離した菌のまとめ。調べた歯の本数は本文に記載なし並びは原著どおり(P. anaerobius 31% が Lactobacillus sp. 32% より上に置かれている)。* 種まで同定していない非色素産生の糖非分解性菌† 嫌気性で「group D2」・Lactobacillus rimae と同定 ‡ F. alocis・F. sulci に似た小桿菌 § P. micros・P. anaerobius 以外表外に低頻度の菌として P. gingivalis、Enterococcus faecalis など9種の記載あり(割合は示されていない)
原著の表IIを全25行そのまま横棒にしたもの。数値と並び順は原著どおりで、調べた歯の本数は原著に書かれていません
最も多かった菌:Fusobacterium nucleatum48%
ペプトストレプトコッカス:属としてまとめると最も多い菌。P. micros(34%)と P. anaerobius(31%)は一緒に見つかることが多かった。
黒色色素産生菌:Prevotella intermedia が最も多く34%P. loescheiiP. denticola は各6%。糖を分解しない種では Porphyromonas endodontalis(9%)のほうが P. gingivalis より多く、P. gingivalis は表の外の「低頻度」の菌として挙げられています。
放線菌:Actinomyces 属は約15%、そのうち A. israelii は11%。著者は、根尖周囲組織に感染を定着させる力があるため治療の失敗に関わるとされる菌として挙げています。
通性嫌気性菌・好気性菌:レンサ球菌などの通性嫌気性菌も、とくにう蝕で歯髄腔が口に開いた歯の歯冠側では、菌叢の大きな部分を占め得る。好気性菌は最初の感染ではごくまれだが、治療中に持ち込まれることがある(例:緑膿菌)。

著者は、培養や同定の技術が進んでまだ名前のない菌が見つかっても、この10年で描いてきた根管の菌叢の姿が大きく変わることはないだろう、と見通しを書いています。これは1994年時点の著者の予想です。

生態:なぜ、その菌が残るのか

著者は、根管の菌叢が歯周ポケットと似ていることに触れたうえで(どちらも口腔の菌のうち特別で限られた組み合わせ)、選ばれ方を3つの要因で説明します。

時間とともに嫌気性菌が増える:根管感染の経過を追った研究(Fabricius ら。著者は病原性の章でサルの実験として紹介)では、時間がたつほど嫌気性菌の割合と菌数が増え、3か月以上たつと通性嫌気性菌を数で上回った
根管が菌を選ぶ:サルの実験で、感染根管から分離した菌株の組み合わせを、同じ量ずつ別の根管に入れても、嫌気性菌が優勢になり、元の根管と同じような比率が再現された。サルの実験で、Prevotella oralis の株は単独で入れると根管で生き残れなかったが、ほかの菌と一緒なら生き残り、優勢になった。
酸素:時間とともに通性菌が減り嫌気性菌が増えるのは、酸素が消費され、酸化還元電位が下がるためと考えられる。
栄養:根管では組織液や崩れた結合組織が栄養源になる。アミノ酸やペプチドを発酵してエネルギーを得る嫌気性菌が育ちやすく、主に糖を発酵する菌は使える栄養が乏しく制限される。たとえば P. micros は、血清の糖タンパクからアミノ酸やペプチドを切り出す力が幅広い。

著者がとくに強調するのが菌同士の「食物連鎖」です。C. rectus は、エネルギーを得る代謝にギ酸か水素しか使えないため、それをつくる菌に頼っています。黒色色素産生菌はビタミンKとヘミンを必要とし、ビタミンKはほかの菌がつくり、C. rectus はヘミンに関係する増殖因子を出して Porphyromonas の増殖を促します。実際に根管では PorphyromonasPrevotellaCampylobacter が一緒に見つかる傾向があります。

著者は、ある菌がいるときに別の菌が見つかりやすいかをオッズ比で調べた自身の研究も紹介しています(本文に数値は示されていません)。たとえば F. nucleatumP. microsP. endodontalisC. rectusSelenomonas sputigena と一緒に見つかりやすく、P. endodontalisP. intermedia とは逆の関係でした。通性レンサ球菌は、ほかの菌とほとんど関連がないか、逆の関係でした。著者はこうした結びつきを、栄養の要求と栄養のやり取りに基づくものと考えています。

病原性:1種より「組み合わせ」

著者はまず、根管に感染する菌の多くは根尖の炎症を起こす力をもち、病原菌とみなすべきだ、と述べます。そのうえで、病原性を強めるのは菌の組み合わせだとする根拠を2つの動物実験に置いています。

サルの根管(Fabricius ら):サルの根管から分離した菌を、別のサルの根管に単独で入れると根尖の反応は比較的軽く、病変も小さかった。組み合わせて入れると反応は強くなった。Enterococcus faecalisS. milleri などの通性レンサ球菌は、単独でも根管で生き残ったが、弱い根尖の反応しか起こさなかった。
モルモットの皮下(Sundqvist ら):根尖病変のある歯の根管から分離した菌をモルモットの皮下に入れると膿瘍はできたが、長引く膿瘍になったのは、化膿性の根尖の炎症があった歯の菌の組み合わせだけ。次の動物へ感染を移せた組み合わせには、どれも P. intermediaP. endodontalis が含まれていた。ただしこの2菌も、病原性を出すにはほかの菌の助けが必要だった。
膿瘍の研究(van Winkelhoff ら):歯内由来の膿瘍はすべて PrevotellaPorphyromonas を含み、P. intermedia は63%、P. endodontalis は53%、P. gingivalis は12%の膿瘍から見つかった。これらは培養できた菌叢の平均30%を占めた。

相乗効果の仕組みとして著者が挙げるのは、嫌気性菌が白血球の貪食・殺菌を妨げて相手の通性菌を守ること、増殖に必要な物質を互いに供給すること(コハク酸をつくる菌が Porphyromonas の増殖と病原性を高める)、通性菌が酸素濃度と酸化還元電位を下げること、の3つです。

さらに個々の菌の武器として、PrevotellaPorphyromonas免疫グロブリンや補体C3などの血漿タンパクを分解する酵素をもつこと、いくつかの菌が莢膜で貪食に抵抗すること、鉄を取り込むために宿主の鉄結合タンパクを分解できることを紹介しています。

臨床像との関係で押さえておきたい記述もあります。症状のない慢性の根尖病変では、根管の中の菌は根尖孔付近の好中球や上皮細胞の厚い壁で根尖組織から隔てられていて(原著の図1)、病変の本体に菌がいることはまれ。例外は急性膿瘍と根尖部の放線菌症だ、と著者は書いています。A. israeliiPropionibacterium propionicum は、急速に広がる感染は起こさないものの、組織の中で貪食をかわしてくすぶるように長引く感染を起こし得る、という位置づけです。

明日の臨床へ

著者の結論:感染根管の菌叢は口腔の菌のうち限られた菌で、根管には、アミノ酸やペプチドを発酵できる嫌気性菌が育ち、糖を主なエネルギー源とする菌が栄養不足で制限される条件がある。感染が進むあいだに菌同士の関係ができて構成が移り変わり、強い結びつきが生まれる。それは栄養の要求と栄養のやり取りに基づく可能性が高く、多菌種からなる根管の菌叢の病原性は、菌の相乗効果に依存する。
補足(筆者の読み):
・この総説は治療法を比べていません。以下は、書かれている事実から臨床の見方として読めることです。
・「根管の中の菌が根尖性歯周炎の原因」という前提を、壊死歯髄の研究・サルの実験・無菌ラットの実験という複数の方向から支えているので、患者さんへの説明の土台として読み返す価値があります。
・著者は、好気性菌は最初の感染ではまれだが、治療中に持ち込まれ得ると書いています。治療中の汚染を防ぐ操作の意味を、この一文から考えることができます。
症状のない慢性の根尖病変では、菌は主に根管の中にとどまり、病変の本体にはまれ、という記述は、治療の標的がまず根管の中にあるという考え方と合います。ただし急性膿瘍と放線菌症は例外として挙げられています。
・「単独より組み合わせで病原性が強い」という主張は、サルの根管とモルモットの皮下の実験が根拠です。ヒトの根管で菌の組み合わせを変えて治りを比べたわけではありません。
・菌名はこの総説のあとも変わっています(例:筆者の補足として、Peptostreptococcus micros は現在 Parvimonas micra と呼ばれています)。新しい論文と読み比べるときは、著者自身が勧めるとおり、分類の変化に注意が要ります。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、これは著者1人によるナラティブ総説で、文献の探し方は書かれておらず、表II・オッズ比による菌同士の関連・モルモットの実験など、中心的な根拠に著者自身の研究が含まれます。第二に、中心の数字である表IIは調べた歯の本数が本文に示されていません。また本文では P. microsP. anaerobius を「試料の3分の1を超えて見つかった」としていますが、表の P. anaerobius は31%で、3分の1にわずかに届きません。表の並びも、31%の P. anaerobius が32%の Lactobacillus sp. より上に置かれています。第三に、すべて培養法の時代の知見で、培養できない菌は数に入っていません(著者は大きくは変わらないと予想しています)。第四に、生態と病原性の章の主な根拠はサルとモルモットの動物実験で、モルモットは皮下に菌を入れた実験です。ヒトの根管で同じことが起きるかは、この総説からは言えません。第五に、オッズ比による菌同士の関連は、数値が本文に示されていないため、関連の強さは確かめられません。それでも、「根管の中はふるいにかけられた小さな生態系で、病原性は組み合わせで決まる」という見方を、分類・生態・病原性の3章で1本にまとめた総説として、今も感染根管を考える出発点になる1本です。

今日のひとこと

著者の主張:感染根管の菌叢は、口腔の菌のうち限られた菌、とくに嫌気性菌が中心で、それを決めるのは酸素の乏しさ・使える栄養・菌同士の関係。そして病原性は複数の菌の相乗効果に依存する。筆者の読みでは、「根管の中は、口の菌がそのまま入った場所ではなく、ふるいにかけられた小さな生態系」という見方を1本にまとめた点に価値があります。ただし単著の総説で、根拠は培養研究と動物実験。治療法の優劣を示したものではありません。

Sundqvist G. Taxonomy, ecology, and pathogenicity of the root canal flora. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1994;78(4):522-530. PMID: 7800383
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。