1問1答 論文 エンド

色素漏洩の「◯ mm」、論文どうしで比べていい?——冷間側方加圧の報告どうしで色素侵入の平均値は0.12〜9.25 mmとばらつき、著者らは「材料を比べ続ける前に、測り方を研究すべき」と主張した(方法論の総説)

1問1答 論文 エンド

エンド|1980〜1990年の色素漏洩研究のデータを並べ直し、「色素の長さで封鎖性を測る」前提そのものを問い直した方法論の総説(Wu・Wesselink 1993・Int Endod J)

新しいシーラーや充填法の論文でおなじみの「色素の侵入が◯ mm」。その数字は、どこまで信じて比べられるのでしょうか。オランダ・ACTAのWuとWesselinkは、1990年のJOEとIEJでは論文4.3本に1本が漏洩研究だったと数えたうえで、1980〜1990年に報告された冷間側方加圧のガッタパーチャの色素侵入の値を表にまとめました。著者らは方法がかなり似ていると評価しましたが、群ごとの平均値は0.12 mmから9.25 mmまで、77倍の開きがありました(両端の報告は、シーラー・色素・標本の作り方・浸漬期間が違います)。側方加圧はほぼすべての比較研究で「基準」に使われてきたため、著者らはこれらの結果の信頼性は疑わしいと指摘します。さらに、色素が長く入ったのは「すき間が広いから」とは限らず、すき間に空気や液が残っていたかで大きく変わるはずだ、という考察を示し、材料や術式の比較を重ねる前に、漏洩研究の方法論そのものを研究すべきだと結論しています。新しい実験の論文ではなく、既報のデータと理論にもとづく著者らの見解です。

論文
Endodontic leakage studies reconsidered. Part I. Methodology, application and relevance
著者
M.-K. Wu、P. R. Wesselink(Department of Cardiology and Endodontology, Academic Centre for Dentistry Amsterdam〔ACTA〕, The Netherlands)
掲載
International Endodontic Journal 1993;26(1):37-43
種類
方法論の総説(著者らの見解をまとめたもの)。系統的レビューではない。1971〜1990年に4誌(OSMP・JOE・IEJ・EDT)に出た漏洩研究189本を数え、うち1980〜1990年の冷間側方加圧のガッタパーチャの色素侵入(直線距離)の報告を表1に一覧(34報・筆者が数えた数)。サンプル数・シーラー・標本の作り方・色素・浸漬期間・結果(平均±SD)を並べ、ばらつき、標本の作り方ごとの平均、トレーサーの前提、根尖側と歯冠側からの測定、実験室と臨床のずれを論じ、4つの提言をまとめた。新たな実験データは、メチレンブルー溶液によるカルシウム溶出の予備実験1件の記載のみ
PMID
8473032

「封鎖性に優れる」、その数字は比べられる?

新しいシーラーや充填法の論文を読むと、よく「色素の侵入が◯ mmで、側方加圧より少なかった」と書いてあります。では、その「◯ mm」は、別の論文の「◯ mm」と並べて比べてよい数字でしょうか。

この問いに正面から答えたのが、1993年のオランダ・ACTA(アムステルダム)のWuとWesselinkによる方法論の総説です。結論を先に言うと、著者らの主張は「色素の長さで封鎖性を測る研究は、結果がばらつきすぎて信頼性が疑わしい。材料の比較を続ける前に、測り方そのものを研究すべきだ」というものです。新しい実験をした論文ではなく、既報のデータを並べ直して、測り方の前提を一つずつ問い直した論文です。

なぜ、これほど漏洩研究が増えたのか

著者らによると、Journal of Endodonticsに載った論文のうち漏洩研究の割合は、1975〜76年の2.9%から、1989〜90年には21.3%に増えていました。4誌(OSMP・JOE・IEJ・EDT)で過去20年(1971〜1990年)に出た漏洩研究189本のうち、61本が1989〜90年の2年間に集中し、1990年のJOEとIEJでは論文4.3本に1本が漏洩研究だったといいます。

背景には「根管治療の失敗の多くは、根管充填が不十分なせいだ」という前提がありました。失敗例の多くで充填が不完全だったという臨床研究や、不完全な充填で漏れが起きるという実験があったからです。

ただ著者らは、ここに別の見方も添えています。技術的に質の高くない根管充填でも、エックス線上で健全な根尖周囲骨が比較的多く見られたという報告があり、感染の除去など、充填以外の要因も成否に大きく関わることを示している、と。それでも密閉は成功の大前提と考えられているので、漏洩試験で充填の質を評価すること自体には、なお意味がある——これが著者らの立ち位置です。

「側方加圧」の報告どうしで、0.12 mmから9.25 mmまで

著者らがまず示したのが表1です。1980〜1990年に報告された、冷間側方加圧のガッタパーチャで根管充填したあとの色素侵入の長さを、論文ごとに並べています(表に並ぶのは34報・筆者が数えた数)。

最も短い値:0.12 mm(Lares & ElDeeb 1990)
最も長い値:9.25 mm(Thirawat & Edmunds 1989)
その差:77倍(原著の記載。群ごとの平均値の最小と最大。両端の報告はシーラー・色素・標本の作り方・浸漬期間が違う)
同じ著者グループの中でも:ElDeeb 1985 と Lares & ElDeeb 1990 で大きく違う
著者らの評価:実験の方法は「かなり似ていた」

ここが問題の核心です。側方加圧は、新しい充填法を評価する研究のほぼすべてで「比較の基準(対照)」として使われてきました。その基準の値がこれだけ揺れるなら、「新しい方法は側方加圧より漏れが少なかった」という結論をどこまで信じてよいのか。著者らは、これらの結果は再現性も比較可能性もほとんどないようだ、と書いています。

しかも、ばらつきには説明のつかない向きがありました。

0 1.3 mm 2.7 mm 4 mm 色素が入り込んだ長さの平均(mm) 3.45 mm 2.29 mm 1.17 mm 縦に割る(範囲0.5〜9.25) 横に輪切り(範囲1.07〜3.9) 脱灰・透明化(範囲0.12〜5.96) 表1(冷間側方加圧のガッタパーチャ、1980〜1990年の報告)を標本の作り方で分けた値。数値は原著本文に書かれた値(表1から単純平均しても完全には一致しない)。著者らは、輪切りや透明化のほうが多く測れると予想したが逆だった、理由は分からない、と述べている。標本の作り方の効果を検証した比較試験ではない
表1の値を、標本の作り方(縦に割る/横に輪切り/脱灰して透明化)で分けた平均と範囲(原著本文に書かれた値で、表1から単純平均しても完全には一致しない)。著者らは、輪切りや透明化のほうが多く測れると予想していたが、結果は逆で、理由は分からないとしている

縦に割ると根管のごく一部しか見えないので、何枚も輪切りにしたり、透明化して全体を見たりするほうが長く測れるはず。ところが平均は逆でした。同じ充填法を測っているのに、標本の作り方で数字の並びが変わってしまう。ただしこれは既報を分類し直した値で、標本の作り方を同じ条件で比べた実験ではありません。

「長く入った=すき間が大きい」は本当か

著者らが最も強く疑ったのは、色素の長さで封鎖性を測るという前提そのものです。

長さを測る方法は「色素が入った長さは、充填材と根管壁のすき間の長さを表す」と仮定しています。色素を酸で溶かし出して量を測る方法も「取り込まれた量は、すき間の幅と関係する」と仮定しています。著者らは、どちらの仮定も正しくないと考えました。理由は、すき間の中に何が入っているかです。

同じ幅のすき間でも、色素の入り方は変わる(著者らの考察)すき間に空気が閉じ込められている空気が液の侵入をじゃまする色素は奥まで入りにくい→ 漏れは「短く」測れるすき間が液体で満たされている色素が拡散で入り続ける平衡に達するまで取り込まれる→ 漏れは「長く」測れる著者らの理論上の説明を図にしたもの。この論文で実測したデータではない
著者らの考察を図にしたもの(実測データではない)。すき間に閉じ込められた空気は色素の侵入をじゃまし、液体で満たされたすき間には色素が拡散で入り続ける

つまり、色素が長く入ったのは「すき間が広いから」とは限らず、すき間に空気や液が残っていたかどうかでほぼ決まってしまう、というのが著者らの見立てです。空気や液の残り方は制御しにくく、測ることもできません。そこで著者らは、この問題が解決されるまでトレーサー法は推奨できないと書いています。

解決策の候補として真空下での測定を挙げつつ、最近の研究では真空下でも非真空下より漏れが多くならなかったという報告にも触れています。答えはまだ出ていない、という書き方です。

測り方を揺らす、ほかの要因

漏洩研究の82%は、色素か放射性同位元素の侵入を測っていました。そのうえで著者らは、術者の経験の差に加えて、次のような条件が結果を揺らすと挙げています。

浸漬までの時間・浸漬の期間
トレーサーの種類(分子の大きさ・イオンの変化・pHや化学的な反応性)
スメア層の有無
実験中の温度サイクル

中でも具体的なのがpHです。メチレンブルーの水溶液は酸性で、象牙質を脱灰して漏れを増やすおそれがあります。著者らの予備実験では、0.01%のメチレンブルー水溶液(pH 4.25±0.25)5 mLにヒトの歯を18時間浸けると、1 mmolのカルシウムが溶け出しました。それなのに、多くの研究は溶液のpHを中和したかどうかを書いていない、と指摘しています。

トレーサーの大きさについても整理しています。水のような小さな分子は、アルブミンのような大きな分子の100倍漏れることがある、という既報があります。細菌そのものは大きくても、その産物や、細菌の栄養になる糖などの分子は小さい。完全な封鎖が必要だという証拠はまだないものの、著者らは小さな分子も通さない充填が理想で、評価には分子の小さなトレーサーを使うべきだと考えています。

根尖から染み込ませるか、歯冠側から流すか

多くの研究が根尖を色素液に浸けて、根尖から歯冠側へ染み込ませてきました。これは、根尖部に滞った組織液が分解して炎症を起こすという古い「中空管理論」を背景にしています。

しかし著者らは、無菌の組織液だけでは長期の炎症は起こらず、主役は細菌とその産物だとする研究を挙げ、根尖側から測る方法の臨床的な意味は疑わしいとしています。口腔の細菌や唾液に歯冠側がさらされることは、根尖側からの感染よりおそらくずっとよく起きる。だから、歯冠側から根尖孔へ抜ける漏れの量を測るほうが臨床的に意味がある、というのが著者らの考えです。

ただし一言、慎重な補足もあります。歯冠から根尖へ漏れが出てこなくても、途中のどの高さでも漏れていないとは限りません。根管に細菌が残っていれば、側枝を通って産物が出ていく可能性もある。そこで、全体の漏れに加えて、歯冠側・中央・根尖側を別々に測ることも提案しています。なお著者らは、歯冠側からの漏れについて実験室の結果を生体内の研究が裏づけていないことにも触れています。

実験室の数字と、臨床の成績のずれ

側方加圧は臨床では約90%の成功率とされる方法です。ところが表1では、実験室での色素侵入の約3分の1が4.16〜9.25 mmとかなり長い値でした(著者らの記載)。さらに、実験室で測った封鎖性と、生体での組織の反応との間に相関を示せなかったという研究もあります。

そこで著者らは、実験室のトレーサー法が根管充填の質の評価に適しているかは議論の余地がある、と述べ、次の4つを提言しました。

著者らが挙げた、漏洩研究の4つの提言① 歯根の条件をそろえる長さ・解剖を近づけ、根尖孔の開通と径も管理する② できれば量(体積)で測る閉じ込められた空気・液を、真空や陽圧で除く③ トレーサーのpHを明記するメチレンブルー水溶液は酸性で、象牙質を溶かし得る④ 漏れと炎症の関係を決める細菌産物の漏れの量と根尖周囲の炎症の量的な関係原著の結論部(p41〜42)の4項目を要約
原著の結論部で挙げられた4項目の要約

そして、これらが確立するまでは、根管系をできるだけ効果的に閉じることを目指し、分子の小さなトレーサーを使い、歯冠から根尖への漏れを重視するのが賢明だろう、と締めくくっています。

明日の臨床へ

著者らの主張:冷間側方加圧の色素侵入は、著者らが「かなり似た方法」と評価した報告どうしでも、群ごとの平均値が0.12〜9.25 mmとばらつき、比較の基準として信頼できるか疑わしい。色素の長さや量をすき間の大きさとみなす前提も成り立たない可能性が高い。材料や術式の比較を重ねる前に、測り方の研究が必要だ。
補足(筆者の読み):
・この論文は「どの材料・充填法が良いか」には答えていません。答えているのは「色素漏洩の数字を、どこまで信じて読めるか」です。
論文を読むときの物差しになります。「側方加圧より色素侵入が少ない」という結果を見たら、①論文間で比べていないか、②標本の作り方は何か、③すき間の空気や液をどう扱ったか、④色素液のpHは書いてあるか、⑤根尖から浸けたのか歯冠側から流したのか、を確かめる。
・「実験室で漏れが少ない」ことと「臨床で治る」ことは別物です。著者ら自身、臨床で約90%成功する方法が、実験室では大きく漏れて見えることを挙げています。
・臨床の構えとしては、著者らの言う根管系をできるだけ効果的に閉じること、そして歯冠側からの漏れを重く見ることが、この総説から引き出せる素直な結論です。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、これは著者ら2人の見解をまとめた方法論の総説で、文献を系統的に集めた系統的レビューではありません。表1に採った論文の選び方は書かれておらず、「一部のデータを比べると」という書き方です。第二に、77倍の差や標本の作り方ごとの平均は、条件の違う論文の平均値を並べたもので、ばらつきの原因を実験で切り分けたわけではありません。第三に、「すき間の空気や液で侵入の長さが決まる」という中心の主張は、理論と既報からの推論で、この論文で実測したものではなく、真空下の研究でも結果は一致していません。第四に、著者らが勧める体積での測定も、この時点では研究の数が少なく、本当に再現性が高いかは判断できないと著者ら自身が書いています(なお統計の問題は、同じグループが「Part II」で別に論じています)。それでも、「数字が出ている」ことと「比べられる数字である」ことは違うと、30年以上前にデータを並べて示した点で、エンドの論文を読むすべての人に効く1本です。

今日のひとこと

著者らの結論:著者らが「かなり似た方法」と評価した冷間側方加圧の報告どうしでも、色素侵入の平均値は0.12〜9.25 mmとばらつき、それを基準にした比較の信頼性は疑わしい。色素の長さや量を「すき間の大きさ」とみなす前提も、すき間に残る空気や液のせいで成り立たない可能性がある。材料を比べ続ける前に、測り方そのものを研究すべきだ。筆者の読みでは、この総説は「どの材料が良いか」には答えていません。答えているのは「色素漏洩の数字を、どこまで信じて読めるか」で、実験室の数字と臨床の成績を分けて読むための物差しになる1本です。

Wu MK, Wesselink PR. Endodontic leakage studies reconsidered. Part I. Methodology, application and relevance. Int Endod J. 1993;26(1):37-43. doi:10.1111/j.1365-2591.1993.tb00540.x. PMID: 8473032
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。