エンド|根尖病変が残る根管充填歯54本を、根管内の菌を培養しながら再根管治療し、最長5年のエックス線写真で治癒を判定した古典(Sundqvist ほか 1998・Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)
根管充填してあるのに根尖病変が消えない歯。やり直すか、外科に回すか、様子を見るか。この1998年の研究は、スウェーデンのウメオ大学のグループが、症状はないが根尖病変が残る根管充填歯54本を再根管治療し、①古い根管充填材を外した根管にどんな菌がいるか、②再治療で何割が治るか、を同時に調べたものです。菌が培養できたのは54本中24本で、多くは1種類だけ、主にグラム陽性菌でした。いちばん多かったのは Enterococcus faecalis(24本中9本)で、出た9本ではどれもE. faecalisが唯一の菌でした。経過を追えた50本のうち37本が治癒し、成功率は74%。治癒を分けた要因は2つで、根管充填の直前に採った検体で菌が培養された6本の成功率は33%(2本)、培養されなかった44本は80%(35本)でした(p=0.033)。再治療前の根尖病変は、治った歯で平均3.7 mm、治らなかった歯で平均5.6 mmでした(p=0.034)。ただし1施設・対照群なしの症例の追跡で、充填時に菌が出た歯は6本しかありません。
①根管充填してあるのに、根尖病変が消えない
エックス線写真を見ると、根管充填はそれなりに入っている。症状もない。でも根尖の透過像が何年たっても消えない。こういう歯を前に、再根管治療をするか、外科に回すか、もう少し様子を見るか、迷った経験はないでしょうか。
この1998年の研究は、まさにその歯54本を再根管治療し、最長5年追いかけたものです。結論を先に言うと、経過を追えた50本のうち37本(74%)が治癒しました。そして治癒を分けたのは、根管充填の直前に採った検体で菌が培養されたかどうかでした。菌が培養された6本の成功率は33%(2本)、培養されなかった44本は80%(35本)です。
②なぜ「中に残っている菌」を調べたのか
著者らによれば、無菌的に、原則どおりに行った根管治療の成功率は、多くの追跡研究で85〜90%と報告されてきました。それでも、見た目にはきちんと治療されているのに治らない歯があります。根尖外の感染、異物反応、真性嚢胞といった原因も知られていますが、著者らは失敗の多くは、根管充填後も根管の根尖部に生き残った微生物によると位置づけています。
ところが、根管充填歯の中にどんな菌が残っているのかは情報が少なく、再根管治療の成績を前向きに追った研究もわずかでした。そこでこの研究は、①失敗した歯の根管の菌を、嫌気培養の技術で調べる、②再根管治療の成功率と、それを左右する要因を明らかにする、の2つを同時に行っています。
③菌を3回採りながら、3回の来院で再治療
準備:ポスト・コア・クラウンを撤去し、ラバーダム防湿。歯とクランプ周囲を30%過酸化水素、5%ヨードチンキで消毒し、ヨードをチオ硫酸ナトリウムで中和(検体に影響しないように)。古い根管充填材は溶剤を使わず、バーとファイルで除去。
1回目:根管に滅菌生理食塩水を入れて壁を削り、ペーパーポイントで検体を採取。根管は何も入れず空のまま仮封し、生き残った菌が検出できる量まで増えるのを待つ。
2回目(7日後):もう一度検体を採取し、手用ファイルと0.5%次亜塩素酸ナトリウムで拡大洗浄。水酸化カルシウムを貼薬。
3回目(7〜14日後):水酸化カルシウムを洗い流し、根管充填の直前に検体を採取。ガッタパーチャの側方加圧で根管充填。その後の修復はラバーダムなし・無菌操作なしで行われた。
菌の調べ方:酸素に弱い菌も死なない培地と嫌気ボックスで培養し、菌種を同定。
治癒の判定:毎年、規格化したエックス線写真で診査。Strindbergの基準(歯根膜腔の輪郭・幅・構造が正常、または溢出した充填材の周りだけが広がっている)を満たせば成功、満たさなければすべて失敗。完全に治癒しなければ5年まで追跡し、2人の観察者が独立して判定しました。
ポイントは、同じ歯で「古い充填材を外した直後」と「詰める直前」の両方の菌を見ていることです。これで「もともと菌がいたか」と「治療で菌を消し切れたか」を分けて、治癒との関係を見られるようになっています。
④結果1:残っていた菌は「少数・グラム陽性・E. faecalis」
古い充填材を外した根管のうち、菌が培養できたのは54本中24本でした。その24本の内訳は、1種類だけが19本、2種類が4本、4種類が1本。4種類が出た1本は、もとの根管充填の質がきわめて低かった唯一の歯でした。
Enterococcus faecalis 9本/Actinomyces israelii 3本/Bacteroides gracilis 3本/Streptococcus anginosus 2本/Peptostreptococcus micros 2本/Candida albicans 2本(真菌)/Streptococcus constellatus・S. intermedius・S. mitis・S. parasanguis・Pseudoramibacter alactolyticus・Eubacterium timidum・Lactobacillus catenaforme・Propionibacterium acnes・P. propionicum・Fusobacterium nucleatum 各1本
E. faecalis:菌が出た24本中9本(38%)で最多。しかも9本すべてで、E. faecalisが唯一の菌でした。
全体の性質(原著の表III):菌が出た根管あたりの菌種数は1.3、分離菌のうちグラム陽性菌が87%、嫌気性菌が42%。
著者らは、未処置の感染根管は複数の菌が混ざり、グラム陰性菌と陽性菌がほぼ半々で、偏性嫌気性菌が優位なのが典型だと述べています。それと比べると、根管充填後に失敗した歯の菌は「種類が少なく、グラム陽性が中心」で、中身が大きく違ったというのが1つ目の結論です。
⑤結果2:74%が治癒。分かれ目は「詰める直前の菌」と「病変の大きさ」
54本中50本(93%)が経過観察に戻り、37本が完全に治癒、13本が失敗と判定されました。成功率は74%です。
古い根管充填材を除去した後にE. faecalisが出た歯:成功率66%で、全体の平均より「やや低い」と著者らは書いています。ただし何本中の何本かは記載がなく、検定の記載もありません。下の「根管充填の直前」の6本とは採取の時点が違います。
根管充填の直前に菌がいたか:菌が培養されたのは6本で、治癒は2本(33%)。うち治らなかった4本は、E. faecalisが3本、A. israeliiが1本。治った2本からもE. faecalisが出ていました。菌が培養されなかった44本では35本(80%)が治癒。差は有意でした(p=0.033)。
根管充填の位置:50本中37本が根尖から0.5〜2 mm手前、9本が根尖と一致、4本が1 mm未満の溢出。成績に統計的な差はありませんでした。
もう1つの要因は病変の大きさです。再治療前の病変は全体で平均4.2 mm(2〜13 mm)。治った歯は平均3.7 mm(2〜6.5 mm)、治らなかった歯は平均5.6 mm(2.5〜13 mm)でした。著者らは、充填時の菌の有無と病変の大きさには相関がなく、2つは別々に成績へ影響していたと書いています。
⑥なぜE. faecalisが残るのか(著者らの考察)
著者らの説明はこうです。E. faecalisは、未処置の感染根管ではふつう見つからないか、ごく少数しかいない。一方で、治療中の薬剤に強く、試験管内では水酸化カルシウムの抗菌作用にも耐える数少ない菌の1つで、ほかの菌の助けがなくても単独で根管の中に生き残れることが示されてきた。だから、治療の途中で根管に入り込み、消毒をくぐり抜け、根管充填後も居座るのだろう、という考え方です。著者らは、いったん根管系に定着すると除去が難しい菌だとも書いています。
2本から出たCandida albicansについても、ほかの菌がいなくなった隙を使い、栄養の乏しい根管の中で増えられる点がE. faecalisと似ている、と考察しています。
では、菌が出なかった26本のうち19本が、なぜ再治療で治ったのか。著者らは「菌はいたが、根管の分岐や、前回の治療で塞がった根尖部に隠れていて、検体に採れなかった」可能性がもっとも高く、それが再治療の消毒で処理されたのだろう、と解釈しています。古い充填材の除去で菌が除かれた可能性も否定できない、とも書いています。
治らなかった歯については、充填時にA. israeliiが出た1本を、根尖周囲組織にこの菌が残ったためだろうと推測しています。そのほかの失敗例の原因は、器具が届かない場所の感染が続いたのかどうかも含め、わからないとしています。病変が大きいほど成績が悪かったことには、大きな病変ほど歯根嚢胞である可能性が高くなることが関わったかもしれない、と述べています。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・この研究の治療は、ラバーダム・歯面の消毒・0.5%次亜塩素酸ナトリウム・水酸化カルシウム貼薬・複数回来院という無菌的な手順で行われています。74%はこの手順での数字です。
・「外した直後に菌がいたか」では差がなく、「詰める直前に菌が培養されたか」で差が出た。再治療では、詰める前に菌を減らし切ることに意味がある、と読める結果です。著者らも「根管系から微生物を完全に取り除くことを目標にする重要性」を強調しています。
・ただし日常臨床では、充填直前に培養検査をするのは一般的ではありません。この結果を「培養しないと再治療できない」と読む必要はなく、詰め急がず、感染を減らしてから根管充填するという方向で活かすのが素直です。
・病変が大きい歯は治りにくかったので、再治療前の説明で予後の見通しを伝える材料になります。
・治癒の判定は最長5年です。著者らは、治りのゆっくりな例があり、完全に治るまで4〜5年の経過観察が必要だったと書いています。短い期間で「治らない」と決めつけない根拠の1つです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:根管充填後に失敗した歯の根管の菌は、1種類だけ・グラム陽性菌が中心で、未処置の感染根管とは大きく違い、最も多かったのはE. faecalisだった。再根管治療で経過を追えた50本中37本(74%)が治癒し(著者らの言う「4本中3本」)、根管充填時の検体で菌が培養されることと根尖病変が大きいことが治りにくさに関わっていた。筆者の読みでは、「除去直後に菌がいたか」では差がなく、「詰める直前の検体で菌が培養されたか」で差が出たところが臨床の要点です。ただし1施設・対照群なしで、充填時に菌が出たのは6本だけです。


