1問1答 論文 エンド

逆根管充填、MTAは細菌を通しにくい?

1問1答 論文 エンド

エンド|抜去歯の逆根管充填4材料(アマルガム・Super-EBA・IRM・MTA)に歯冠側から表皮ブドウ球菌を入れ、根端側の培地の色が変わるまでの日数を90日間、毎日追った古典(Torabinejad ほか 1995・J Endod)

歯根端切除術で根端を切ったあと、窩洞に何を詰めるか。いまでこそMTAが第一候補として語られますが、その評価を「色素」ではなく「細菌」で確かめたのがこの1995年の実験です。米国ロマリンダ大学のグループは、単根の抜去歯56本の根端を3 mm切除し、深さ3 mmの逆根管窩洞をアマルガム・Super-EBA・IRM・MTAで各12本ずつ充填しました(うち各10本に細菌、各2本に滅菌生理食塩水)。歯冠側から根管内に表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を入れ、根端側の培地が赤から黄色に変わる=細菌が充填材を抜けた日を毎日観察しています。90日の観察で、アマルガムは10本中9本が6〜50日(残り1本は記載なし)、Super-EBAは10本中8本が11〜57日、IRMは10本すべてが8〜52日で漏れました。MTAは10本中8本が最後まで漏れず、漏れた2本は25日目と41日目でした。統計学的には、アマルガム・Super-EBA・IRMの3材料の間に有意差はなく、MTAだけが他の3材料より有意に漏れが少ない(p<0.05)という結果です。ただし抜去歯を使った実験室のモデルで、1群10本・細菌1種類の条件です。

論文
Bacterial leakage of mineral trioxide aggregate as a root-end filling material
著者
Mahmoud Torabinejad(Loma Linda University School of Dentistry・歯内療法学 教授)、Akbar Falah Rastegar(Mashad University・助教授)、James D. Kettering(Loma Linda University School of Medicine・微生物学 教授)、Thomas R. Pitt Ford(Guy’s Hospital, London・保存修復学 上級講師)
掲載
Journal of Endodontics 1995;21(3):109-112
種類
抜去歯を使った実験室研究(in vitro)。まっすぐな根管をもつ単根のヒト抜去歯56本(10%ホルマリン保存)。根管を#40までステップバック法で形成し、根端3 mmを歯軸に90度で切除、#330バーで深さ3 mmの逆根管窩洞を形成。アマルガム(亜鉛フリー)・Super-EBA・IRM・MTAで各12本を充填し、うち各10本の根管に表皮ブドウ球菌(約7.5×106個/0.1 mL)、各2本に滅菌生理食塩水を入れた。対照は、シーラーなしの加熱軟化ガッタパーチャ4本(陽性対照)と、スティッキーワックス+マニキュア2層4本(陰性対照)。歯根表面はマニキュア2層で覆い、歯冠を外に出してプラスチック容器のふたに固定、根端をフェノールレッド乳糖培地に浸した。菌液は1日おきに新しいものへ交換。培地が黄色に変わった日を毎日、90日間記録し、Kruskal-Wallis検定と多重比較で解析。MTAの入手先は筆頭著者の所属するロマリンダ大学と記載(当時は市販前の大学製MTAと読める)
PMID
7561650

根端を切ったあと、何で塞ぐ?

歯根端切除術で根端を落とし、逆根管窩洞を形成した。さて、ここに何を詰めるか。アマルガム、Super-EBA、IRM、そしてMTA。いまはMTAを選ぶ先生が多いはずですが、「MTAのほうが封鎖がよい」と言える根拠は、どんな実験から始まったのでしょうか。

その初期の1本がこの1995年の研究です。結論を先に言うと、抜去歯の根端3 mmを各材料で塞ぎ、歯冠側から細菌を入れて90日間見たところ、アマルガム・Super-EBA・IRMは10本中8〜10本が漏れ、MTAは10本中2本でした。MTAだけが、ほかの3材料より統計学的に有意に漏れが少なかったのです。

なぜ「細菌」で測り直したのか

当時、逆根管充填材の封鎖性は、根端を色素や放射性同位元素の液に浸して、どこまで染み込むかで測るのが主流でした。手軽で、同じグループもそれまでに色素を使った実験で「MTAはアマルガムやSuper-EBAより漏れが少ない」と報告していました。

ただし著者らは、その方法の弱点を3つ挙げています。色素の分子は細菌よりずっと小さいこと。多くの実験が1つの断面でしか漏れを測っていないこと。そして、根管と根尖周囲組織の間で起きている動的なやり取りを再現していないこと。実際、色素の漏れと細菌の漏れは相関しなかった、という報告もありました。だから「細菌が本当に抜けるのか」で確かめ直す必要があった、というのがこの研究の出発点です。

根端3 mmだけを関所にする

歯:まっすぐな根管をもつ単根のヒト抜去歯56本(10%ホルマリンで保存)。根管は#40まで形成。
根端の処理:根端3 mmを歯軸に90度で切除し、深さ3 mmの逆根管窩洞を形成。
充填:アマルガム(亜鉛フリー)、Super-EBA、IRM、MTAで各12本。うち各10本の根管に細菌、各2本には滅菌生理食塩水を入れて、装置そのものが汚染されていないかを確かめました。
対照:シーラーを使わない加熱軟化ガッタパーチャで塞いだ4本(陽性対照)、スティッキーワックスの上にマニキュアを2層塗った4本(陰性対照)。こちらも各1本は生理食塩水。
装置:歯根の表面はマニキュア2層で覆い、細菌の通り道を逆根管充填の部分だけに限定。歯をプラスチック容器のふたの穴に通して歯冠は外、根は中に出し、根端をフェノールレッド乳糖培地に浸しました。
細菌:表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)約7.5×106個を含む菌液0.1 mLを、歯冠側のアクセス窩洞から根管へ。1日おきに新しい菌液へ交換し、生きていることも培養で確認しています。
判定:細菌が充填材を抜けて培地に届くと酸ができ、赤から黄色に変わる。その日を毎日、90日間記録し、黄色くなった培地からは入れた菌と同じ菌が出ることを確かめました。解析はKruskal-Wallis検定と多重比較です。

つまり、根管の中は菌液で満たし続け、根端の3 mmの充填材だけが関所になる設計です。著者らはこれを「最も厳しい汚染条件」と表現しています。

結果:MTAだけが90日もちこたえた

0 4本 8本 12本 90日間で漏れた本数(各10本中) 9本 8本 10本 2本 アマルガム(残り1本は記載なし) Super-EBA IRM MTA 根管に表皮ブドウ球菌を入れた各10本のうち、90日の観察中に根端側の培地が黄色に変わった本数(原著の結果の記述から)。アマルガムは「1本を除き6〜50日で漏れた」とだけ記載され、残り1本が漏れなかったのか50日より後に漏れたのかは書かれていない。漏れた日はSuper-EBA 11〜57日、IRM 8〜52日、MTA 25日と41日。3材料の間に有意差なし、MTAは他の3材料より有意に少ない(p<0.05)
根管に細菌を入れた各10本のうち、90日間で漏れた本数(原著の結果の記述から)。アマルガムの残り1本は6〜50日の範囲外で、漏れたかどうかは記載なし。3材料の間に有意差なし、MTAは他の3材料より有意に少ない(p<0.05)
アマルガム:1本を除く9本が6〜50日で漏れた。残り1本は、90日間漏れなかったのか50日より後に漏れたのか、原著に記載がありません。中央値28.5日。
Super-EBA:8本が11〜57日で漏れた。中央値34.5日。
IRM:10本すべてが8〜52日で漏れた。中央値15.0日。
MTA:8本は90日間、一度も漏れなかった。漏れた2本は25日目と41日目。表の中央値は90.0日。
対照:シーラーなしのガッタパーチャ(陽性対照)は3本すべてが3〜8日で漏れ(中央値5.5日は原著の値。3本では数が合わない)、陰性対照と、生理食塩水を入れた歯はどれも色が変わりませんでした。
0 40日 80日 120日 細菌が漏れるまでの日数(中央値) 5.5日 15日 28.5日 34.5日 90日 GP単独(陽性対照3本) IRM アマルガム Super-EBA MTA 4材料は原著の表1(各10本)、陽性対照(シーラーなしの加熱軟化ガッタパーチャ)は結果の記述(3〜8日・中央値5.5日)。陽性対照の本数3本は図1と抄録から。中央値5.5日は原著の値で、3本・日単位の観察とは数が合わない。MTAの90日は観察期間の上限と同じ値で、10本中8本が90日まで漏れなかったためと読める(筆者の読み)。90日より先は観察していない
細菌が漏れるまでの日数の中央値(4材料は原著の表1、陽性対照は結果の記述)。MTAの90.0日は観察期間の上限と同じ値

2枚目の図で気をつけたいのは、MTAの「90.0日」は、90日で観察を打ち切ったからこの値になっていると読める点です(10本中8本が最後まで漏れなかったため・筆者の読み)。MTAが本当は何日もつのかは、この実験では測れていません。また、3材料の中ではIRMの中央値がいちばん短く見えますが、アマルガム・Super-EBA・IRMの間に統計学的な差はありませんでした

なぜMTAは漏れにくいのか

著者らの説明は2つです。ひとつは、MTAが親水性で、湿った環境で硬化するときにわずかに膨張すること。窩壁との隙間ができにくい、という考え方です。

もうひとつの候補はMTAの抗菌作用です。同じグループの予備的な研究では、練ったばかりのMTAにも、24時間たったMTAにも、いくつかの口腔細菌に対する抗菌作用が見られていました。ただし著者らは、以前の色素実験で色素がMTAと歯の境目を通らなかったこと、そして硬化後のMTAの抗菌作用は練りたてより弱かったことから、今回の漏れにくさは抗菌作用よりも封鎖性によるものと考えるのが妥当だ、と述べています。

あわせて著者らは、Super-EBAとIRMで比べると、以前の色素実験より今回の細菌のほうが抜けるのに時間がかかっていたことから、色素は細菌より速く漏れるようだとも書いています。物差しを変えると、日数の感覚も変わるということです。

明日の臨床へ

著者らの結論:90日間、歯冠側を細菌で汚染し続けた条件で、MTAはアマルガム・Super-EBA・IRMより有意に漏れが少なかった。これは同じグループの色素実験の結果とも一致し、MTAは逆根管充填材としてより良い根端封鎖をもたらす。
補足(筆者の読み):
・この論文が示したのは「根端3 mmの充填材を、細菌がどれだけ抜けにくいか」という材料の性能です。歯根端切除術のあとに根尖病変が治るかどうかは、ここでは比べていません。
陽性対照の結果も実務的です。シーラーを使わないガッタパーチャは、3本すべてが3〜8日で細菌を通しました。著者らも「ガッタパーチャにはシーラーが要る」と書いています。
アマルガム・Super-EBA・IRMの間に差はありませんでした。この3つの中で「どれが一番よい」とは、この実験からは言えません。
・逆根管窩洞の深さ3 mm、根端の切除は歯軸に90度という条件での結果です。著者らは考察で、充填が深いほど、切除面の傾斜が小さいほど漏れが減るという別の研究にも触れています。
・MTAは筆頭著者の所属するロマリンダ大学から供給されたもので(材料欄に製造会社ではなく大学名が書かれており、当時は市販前の大学製のMTAだったと読めます)、評価したのもそのグループ自身です。その後の他施設の研究と合わせて読むのが素直です。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、ホルマリン保存の抜去歯を使った実験室のモデルで、口の中の血液・組織液・咬合の力はありません。第二に、1群10本と小さく、MTAの「10本中2本」も、数本の違いで印象が変わる規模です。第三に、細菌は表皮ブドウ球菌の1種類だけで、著者らも条件を管理しやすくするために意図的に絞ったと書いています(唾液を使った追加実験で似た傾向が出たとも書いていますが、未発表のデータで、数値は示されていません)。第四に、観察は90日までで、MTAの中央値90.0日は上限に張り付いた値です。90日を超えて見ていないため、MTAと他材料の差の大きさは観察期間しだいで変わり得ます。第五に、装置は酸化エチレンガスで滅菌しており、著者ら自身、予備実験ではワックスの封鎖がこの滅菌で損なわれた可能性に触れています。材料への影響は調べられていません。第六に、MTAと窩壁の適合を電子顕微鏡で見る研究は「進行中」とされ、この論文には含まれていません。それでも、色素ではなく生きた細菌を、1日おきに補充しながら90日間当て続けた設計は当時として手間のかかるもので、MTAを逆根管充填材として細菌で評価した初期の1本として、今も読む価値があります。

今日のひとこと

著者らの結論:歯冠側を細菌で強く汚染し続けた条件で、MTAはアマルガム・Super-EBA・IRMより有意に漏れが少なかった。3材料の間には有意差がなかった。筆者の読みでは、この論文の値打ちは「MTAが勝った」ことだけでなく、それまでの色素漏洩の結果を、細菌という別の物差しで同じ向きに確かめた点にあります。ただし抜去歯・1群10本・細菌1種類の実験室の話で、歯根端切除術の治癒そのものを比べたものではありません

Torabinejad M, Rastegar AF, Kettering JD, Pitt Ford TR. Bacterial leakage of mineral trioxide aggregate as a root-end filling material. J Endod. 1995;21(3):109-112. PMID: 7561650
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。