1問1答 論文 エンド

根管シーラーは硬化すれば無害?

1問1答 論文 エンド

エンド|根管充填材を培養細胞の真下に敷き、練りたてと24時間硬化後で、細胞が壊れる割合を時間ごとに数値化した古典(Spångberg&Langeland 1973・Oral Surg Oral Med Oral Pathol)

根管内で硬化してしまえば、シーラーの刺激は気にしなくてよい——そう考えたくなります。1973年、コネチカット大学のSpångbergとLangelandは、ガッタパーチャポイント、クロロパーチャ、酸化亜鉛ユージノール系のシーラー、N2、試作のレジン系セメントなど12種類の根管充填材を、放射性クロム(51Cr)で標識したHeLa細胞の真下に敷き、細胞がどれだけ壊れるかを測りました。練りたての材料と、37℃で24時間硬化させた材料を、それぞれ細胞と1・4・24時間触れさせています。練りたての状態で測ったシーラー類10種では、Kerrの試作セメント(1時間で2.9%、対照2.2%)を除くすべてが強い毒性を示し(1時間で48.2〜89.2%)、著者らは多くについて「1時間以内に細胞がすべて壊れた」と記述しています。ガッタパーチャポイント2銘柄は、細胞と24時間触れても25.1%・27.1%(対照21.0%)と、わずかな増加にとどまりました。24時間硬化させると、接触1時間では6種が対照に近い値まで下がりましたが、接触を4時間に延ばすと、クロロパーチャ2種(5.2%、対照5.8%)以外は再び大きく細胞を壊しています。約600回の実験を踏まえ、著者らは当時の根管充填材の生物学的性質を「受け入れられない」と結論づけました。

論文
Biologic effects of dental materials. 1. Toxicity of root canal filling materials on HeLa cells in vitro
著者
Larz Spångberg(University of Connecticut Health Center 客員上級研究員/ルンド大学 歯内療法学講座 教授)、Kaare Langeland(University of Connecticut Health Center 歯内療法学講座 教授)
掲載
Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology 1973;35(3):402-414
種類
in vitro 細胞毒性試験(HeLa細胞・約600回の実験)。対象は12種類の根管充填材:ガッタパーチャポイント2銘柄(De Trey・Premier)、クロロパーチャ2種(Nygaard-Østby法・Moyco)、Tubli-Seal、AH26、N2、Proco-Sol、Rickertシーラーとその変法、レジンクロロホルム、Kerr試作根管セメント(Bis-GMA系レジン)。材料0.1 mLを培養チャンバーの底一面に塗り、51Crで標識した細胞の浮遊液1.5 mL(1 mLあたり50万個)を、練りたて直後または37℃で24時間硬化させた後に加えて、1・4・24時間培養。上澄みに漏れ出た51Crの割合(放出率)で細胞の破壊を数値化した。別に、24時間硬化中の材料に触れていた培養液(抽出液)を細胞と4時間反応させる試験も実施。国際歯科研究学会の客員上級研究員奨学金、コネチカット大学研究財団、スウェーデン医学研究評議会の助成による
PMID
4510611

硬化すれば、シーラーは無害か

根管充填のあと、デンタルに根尖孔の外へ少しはみ出したシーラーが写っている。硬化すれば落ち着くだろう、と経過を見る。多くの歯科医師に覚えのある場面です。では、シーラーの刺激は「練りたて」と「硬化後」でどれだけ違うのでしょうか。

この問いに数字で答えた古典が、1973年のこの細胞実験です。結論を先に言うと、練りたてで測ったシーラー類10種は、試作のレジン系セメント1種を除いてすべてが強く細胞を壊しました(ガッタパーチャポイントの影響は軽度)。24時間硬化させると接触1時間では多くが対照並みに下がりましたが、接触を4時間に延ばすと、低いまま保ったのはクロロパーチャ2種だけでした。「硬化したか」に加えて「どれだけ長く触れているか」で、結果が大きく変わったのです。

当時の問題:試験法で結果がばらつく

根管充填材の毒性は、それまでも細胞を使った実験で盛んに調べられていました。ところが結果は、材料によってだけでなく試験の方法によっても食い違っていました。

そこでSpångbergは、①材料と細胞がすきまなく触れる、②材料の硬化の段階に合わせて触れさせる時間を変えられる、③結果を数値で比べられる、という3つを満たす試験法を別の論文で開発しました。この論文は、その方法を当時よく使われていた根管充填材・シーラーと試作品に当てはめ、以前の埋植実験の結果と比べることを目的にしています。

材料を細胞の真下に敷く

細胞:HeLa細胞(ヒト由来の培養細胞株)を、放射性クロム(クロム酸ナトリウム、51Cr)で標識。細胞が壊れると、細胞内の51Crが液中に漏れ出します。
材料の置き方:ガラスリングをスライドガラスにワセリンで固定した培養チャンバーの底一面に、材料0.1 mLを塗り広げる。その上に細胞浮遊液1.5 mL(1 mLあたり50万個)を加えます。
2つの状態:練った直後に細胞を加える「練りたて」と、37℃で24時間硬化させてから加える「硬化後」。
接触時間:37℃で1・4・24時間
抽出液の試験:培養液に覆ったまま24時間硬化させ、その液1 mLを細胞浮遊液1 mLと混ぜて4時間反応させる。溶け出した成分だけの毒性を見る方法です。
数値の出し方:遠心した上澄みの51Crを数え、細胞に取り込まれた総量に対する割合(51Cr放出率)を計算。材料を入れないチャンバーを対照とし、実験はおよそ600回行われました。

材料は12種類です。ガッタパーチャポイント2銘柄、クロロパーチャ2種(Nygaard-Østby法とMoyco)、Tubli-Seal、AH26、N2、Proco-Sol、Rickertシーラーとその変法、レジンクロロホルム(ロジン5%+クロロホルム95%)、そしてKerr社の試作根管セメント(Bis-GMA系のレジン)。

結果1:練りたては、ほぼすべて強い毒性

練りたて 24時間硬化後 51Cr放出率(%)=細胞が壊れた目安 0 25 50 75 100 対照(材料なし) 2.2 2.0 レジンクロロホルム 89.2 2.3 AH26 48.2 2.3 クロロパーチャN-Ø 80.6 2.1 クロロパーチャMoyco 86.9 2.1 Kerr試作 2.9 3.1 Tubli-Seal 59.0 2.4 Rickert 88.0 89.5 Rickert変法 89.1 87.2 N2 66.7 73.4 Proco-Sol 85.6 89.5 細胞と材料の接触1時間 濃い棒=練りたて、淡い棒=37℃で24時間硬化させた後 原著Table Iの1時間の列の全行(ガッタパーチャポイント2種は1時間の測定なし) 平均値、各群n=6〜17
接触1時間での51Cr放出率(平均値)。練りたてと24時間硬化後の比較。原著Table Iの1時間の列を全行掲載
対照:材料なしでも細胞は自然に少しずつ壊れ、放出率は1時間2.2%、4時間5.6%、24時間21.0%でした。
Kerr試作セメント:1時間2.9%、4時間40.3%。1時間・4時間とも他のすべての材料より有意に低い(p<0.001)一方で、対照よりは有意に高い値でした。
AH26:1時間48.2%。Kerr試作を除く他の材料より有意に低いものの、高い放出率です。
残りの8種(レジンクロロホルム、クロロパーチャ2種、Tubli-Seal、Rickert 2種、N2、Proco-Sol):1時間で59.0〜89.2%。著者らは「1時間以内に細胞がすべて壊れた(total cell lysis)」と書いています。ただし表の値は59.0〜89.2%で、数値のうえでは完全な破壊とまでは読めません。
ガッタパーチャポイント:表に載っているのは接触24時間の値だけで、放出率は25.1%(De Trey)・27.1%(Premier)で、対照の21.0%からわずかに増えただけでした。

結果2:硬化後も「触れている時間」で変わる

24時間硬化させた材料を細胞と1時間触れさせると、レジンクロロホルム、クロロパーチャ2種、Kerr試作セメント、Tubli-Seal、AH26の6種は放出率2.1〜3.1%で、対照の2.0%に近い値まで下がりました(それでも5種は統計的に有意な上昇)。一方、Rickertシーラー(89.5%)、その変法(87.2%)、N2(73.4%)、Proco-Sol(89.5%)は硬化後も1時間で強く細胞を壊しています。

接触4時間 接触24時間 51Cr放出率(%)=細胞が壊れた目安 0 25 50 75 100 対照(材料なし) 5.8 22.9 レジンクロロホルム 64.6 98.9 AH26 60.1 92.0 クロロパーチャN-Ø 5.2 76.1 クロロパーチャMoyco 5.2 20.3 Kerr試作 32.3 71.7 Tubli-Seal 45.6 70.5 Rickert 85.9 82.1 Rickert変法 84.3 82.9 N2 83.6 83.0 Proco-Sol 82.9 91.9 すべて37℃で24時間硬化させた後の材料 濃い棒=細胞との接触4時間、淡い棒=接触24時間 対照(材料なし)でも時間とともに自然な放出が増える 原著Table Iの硬化後4時間・24時間の列の全行
24時間硬化後の材料を、細胞と4時間・24時間触れさせたときの51Cr放出率(平均値)。原著Table Iの該当列を全行掲載

接触を4時間に延ばすと、様子が変わります。クロロパーチャ2種(どちらも5.2%、対照5.8%)以外は、すべて放出率が大きく上がりました。その中ではKerr試作セメント(32.3%)がTubli-Seal(45.6%)より有意に低く、Tubli-Sealはクロロパーチャ2種と試作セメントを除く残りの材料より有意に低い値でした。

さらに24時間触れさせると、著者らの記述では、Moycoのクロロパーチャ(20.3%、対照22.9%)を除くすべての材料で細胞がすべて壊れた(total cell lysis)とされています。ただし表の値は70.5〜98.9%で、こちらも完全な破壊とまでは読めません。同じクロロパーチャでもNygaard-Østby法は76.1%まで上がっています。

抽出液(溶け出した成分だけ)の試験(接触4時間、対照5.5%):
Moycoのクロロパーチャ 4.7%(反応なし)/Nygaard-Østby法 7.8%(小さいが有意な上昇)/AH26 14.6%/Tubli-Seal 34.3%/N2 65.5%/Proco-Sol 88.2%。N2とProco-Solの抽出液について、著者らは「細胞がすべて壊れた」と記述しています(表の値は65.5%・88.2%)。

クロロパーチャとN2、差はどこから

クロロパーチャは、クロロホルムが残っている間は強い毒性を示します(Moyco品はクロロホルム91%)。クロロホルムが蒸発すると、主な毒性成分が消える。Nygaard-Østby法がMoyco品より毒性が高いのは、ガッタパーチャに加えてカナダバルサム、ロジン、酸化亜鉛を含むためだろう、と著者らは説明しています。

ただし著者ら自身、この結果をそのまま生体に当てはめるのは難しいと断っています。クロロパーチャの硬化は蒸発、ほかの材料は化学反応で、密閉された根管の中でクロロホルムがどれだけの速さで抜けるかは分かっていない。組織液を通して抜けるしかないので、おそらくゆっくりだろう、と。また毒性の低いMoyco品は、粘着性がなく体積の安定性も劣るため、臨床での使い勝手は限られるとも書いています。

対照的に槍玉に挙げられたのがN2です。組成は過去15年に何度も変わり、ある分析では約20%の酸化鉛を含み、多くの配合に有機水銀化合物(ホウ酸フェニル水銀)とパラホルムアルデヒドが入っていました。著者らの別の研究では、マウスの首に注射した標識フェニル水銀が12時間後に骨髄・肝臓・腎臓・消化管へ広がっており、ラットの結合組織に埋めたチューブでは組織の崩壊と異物反応、ヒトの切歯では652日後に根尖部の肉芽腫が観察されています(いずれも過去の研究・症例の図の引用)。こうした例から著者らは、細胞試験と生体での反応はよく対応していると述べています。

明日の臨床へ

著者らの結論:練りたての材料はすべて毒性が強く、試作セメントだけが際立って低かった。硬化後はクロロホルムが抜けたクロロパーチャの毒性が最も低い。市販のシーラーは、毒性が高く、体積が安定せず、吸収されるため、それ単独では根管充填材の条件を満たさない。著者らは「細胞試験で毒性のある材料には、常に組織刺激が予想される」と述べています。ただし細胞試験で毒性が低くても組織への刺激が少ないとは限らない(吸収・溶解・細かく砕けることによる炎症は細胞試験では評価できない)。
補足(筆者の読み):
・いちばん実務的なのは、多くの材料で練りたての毒性が最も強かったという点です(ただしN2・Rickert系2種・Proco-Solは硬化後も同等以上)。根尖孔の外に押し出されたシーラーは、硬化前の状態で組織に触れます。シーラーは量を必要最小限にし、押し出しを避ける工夫に意味があります。
「硬化後の短い接触」だけを見て安心しないこと。接触1時間では多くが対照並みでしたが、4時間・24時間と延ばすと大半が再び強い毒性を示しました。組織は材料と長く触れ続けます。
・著者らは、ガッタパーチャ自体は刺激が少なく、「弱点はシーラー」だと書いています。シルバーポイントでは根尖組織に触れる材料の大半がシーラーになる、とも指摘しています。コアとシーラーの比率に目を向けるきっかけとして読むこともできそうです。
・この論文で比べた製品の多くは、組成が変わったり使われなくなったりしています。個々の順位より、「状態」と「時間」で毒性が変わるという原則として読むのが素直です。
・著者らは、新しい材料を細胞試験→小動物への埋植試験→ヒトの歯の順に確かめ、標準化された方法で試験してから臨床に出すことを義務にすべきだと主張しています。材料の宣伝文句を読むとき、どの段階の根拠なのかを確かめる習慣につながります。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、これは培養細胞の実験です。使われたHeLa細胞はヒト由来の株化細胞で、根尖周囲の線維芽細胞や骨の細胞そのものではありません。第二に、材料をチャンバーの底一面に塗り、その上に細胞をじかに載せるという、生体よりずっと厳しい接触条件です。根管の中で材料が組織に触れる面積や、組織液による洗い流しは再現されていません。第三に、クロロパーチャの硬化はクロロホルムの蒸発によるもので、密閉された根管の中ではずっとゆっくり抜けるはずだと著者ら自身が指摘しています。培養チャンバーで24時間硬化させた値を、そのまま根管内に当てはめることはできません。第四に、材料ごとの実験回数は各条件5〜13回で、表には平均値と標準誤差、本文にp値が示されていますが、どの統計検定を使ったかは書かれていません。第五に、N2を例にした「細胞試験と生体の対応」は、この実験とは別の過去の研究・症例を並べたもので、同じ材料ロットで同時に比べたものではありません。最後に、比べた製品の多くは1973年当時の組成です。それでも、同じ方法で練りたてと硬化後、接触時間の違いを数値で並べたこの設計は明快で、「シーラーは硬化すれば無害」という思い込みに、半世紀前から数字で待ったをかけている1本です。

今日のひとこと

著者らの結論:試した材料は練りたてではすべて毒性が強く(表の値ではガッタパーチャポイントは軽度)、試作セメントだけが際立って低かった。硬化後の材料では、クロロホルムが抜けたクロロパーチャの毒性が最も低かった。当時の根管充填材の生物学的性質は受け入れられず、新しい材料は細胞試験→小動物への埋植試験→ヒトの歯の順に確かめてから臨床に出すべきだ、と著者らは主張しています。筆者の読みでは、この論文の値打ちは個々の製品の順位より、「硬化したかどうか」と「どれだけ長く触れているか」で毒性が大きく変わることを、同じ方法で数値として並べて見せた点にあります。

Spångberg L, Langeland K. Biologic effects of dental materials. 1. Toxicity of root canal filling materials on HeLa cells in vitro. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1973;35(3):402-414. PMID: 4510611
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。