1問1答 論文 エンド

ポスト形成後に歯冠側から漏れたら、根尖に先に届くのは?——抜去歯21本の実験で、エンドトキシンは8日目に38%・70日で81%、細菌は43日目に19%・70日で67%の歯で根尖側に届いた(1998年・in vitro)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管充填後にポスト形成(ガッタパーチャを根尖側に約5mm残す)をした抜去歯で、歯冠側に置いた混合細菌からのエンドトキシンと細菌が、根尖側へ届くまでの日数を比べた実験(Alves ら 1998・Journal of Endodontics)。試験管内の実験で、根尖の組織の反応は調べていない

根管充填が終わっても、歯冠側の封鎖が破れれば、口の中の細菌やその成分が充填材を通り抜けて根尖へ届く、と考えられています。アイオワ大学のAlvesらは、ポスト形成をした抜去歯21本の歯冠側に4種の嫌気性菌の混合液を入れ続け、根尖側の液に何がいつ出てくるかを70日間調べました。エンドトキシンは8日目に21本中8本(38%)、70日で17本(81%)から検出されました。細菌が初めて検出されたのは43日目(4本・19%)で、70日で14本(67%)です。漏れた歯での平均は、エンドトキシン23日、細菌62日でした。抜去歯を使った試験管内の実験で、著者ら自身が「この日数を臨床にそのまま当てはめることはできない」と書いています。エンドトキシンが根尖の組織に何を起こすかは、この実験では調べていません。

論文
Coronal leakage: endotoxin penetration from mixed bacterial communities through obturated, post-prepared root canals
著者
Joseli Alves, Richard Walton, David Drake(アイオワ大学歯学部・米国)
掲載
Journal of Endodontics 1998;24(9):587-591. doi:10.1016/S0099-2399(98)80115-5
種類
in vitro(抜去歯を使った試験管内の実験)。エンドトキシン量の少ないヒト上顎切歯・犬歯31本を、実験群21本・陰性対照5本・陽性対照5本に無作為に割り付け。ガッタパーチャとシーラーの側方加圧で根管充填し、直後に根尖側約5mmを残して除去(ポスト形成の再現)。歯冠側に4種の嫌気性菌の混合液を3〜4日ごとに入れ、根尖側の液を週1回採って70日間測定
資金・利益相反
原著に利益相反の記載は見当たらない。謝辞にSESC-Brasilの名があり、アイオワ大学の修士論文の一部と記されている。PubMedの区分は「米国政府以外の研究助成」
PMID
9922745

①ポスト形成後に歯冠側から漏れたら、根尖に先に届くのは?

根管充填が終わり、ポストの形成と印象をして、次の来院を待つ。そのあいだ、仮封が外れたり、すき間ができたりしたら、根管の中では何が起きるでしょうか。ポスト形成をした根管は、根尖側に残るガッタパーチャが短く、歯冠側は空洞です。

アイオワ大学のAlvesらは、この状況を抜去歯で再現しました。歯冠側に細菌を入れ続け、根尖側に細菌そのものと、グラム陰性菌の成分であるエンドトキシンが、それぞれいつ出てくるかを70日間追った実験です。

結論を先に書きます。
・エンドトキシンは8日目に21本中8本(38%)、70日で17本(81%)の歯で根尖側から検出された
・細菌が初めて検出されたのは43日目(4本・19%)、70日で14本(67%)
・漏れた歯での平均は、エンドトキシン23日、細菌62日(原著の表2)
・70日たっても、エンドトキシンが検出されなかった歯が4本あった
・抜去歯を使った試験管内の実験

②どんな実験だったのか

使ったのは、う蝕も修復もないヒトの上顎切歯と犬歯です。あらかじめ歯そのもののエンドトキシン量を測り、ごく少ない31本を選びました。

歯の準備(原著の方法)
・根管形成のあと、ガッタパーチャとシーラーを使い、側方加圧で根管充填
・充填の直後にガッタパーチャを除去し、根尖側に約5mmだけ残した(ポスト形成の再現)
・髄腔には乾いた滅菌綿球を置いただけで、1週間おいてシーラーを硬化
モデルと群分け
・歯の上に「上の容器」、下に「下の容器」をつなぐ。上には、歯髄壊死でよく見つかる4種の嫌気性菌の混合液を、3〜4日ごとに入れ直す
・根の表面はワックスで覆い、通り道を根尖孔だけにする
・下の容器の液を週1回採り、エンドトキシン(リムルス試験による定量)と細菌(培養)を調べる
・実験群21本:上の手順どおり
・陰性対照5本:根尖まで含めて根の表面をすべてワックスで封鎖
・陽性対照5本:ガッタパーチャのポイント1本だけ、シーラーなし(不十分な根管充填の再現)

これまでにも、歯冠側からの漏洩を調べた実験はありました。1種類の細菌を使った実験、混合細菌を使った実験、精製したエンドトキシンを使った実験です。混合細菌から出てくるエンドトキシンと、その細菌自身の、通り抜ける速さを比べた研究はまだなかった、と著者らは述べています。

③結果:先に届いたのはエンドトキシン

0 25% 50% 75% 100% 検出された歯の割合(21本中) 24時間 8日 15日 22日 29日 43日 54日 70日 38% 52% 57% 67% 19% 81% 19% 81% 67% エンドトキシン 細菌 原著の表2の全8時点(実験群21本。ガッタパーチャを根尖側に約5mm残した抜去歯の実験)。22日目のエンドトキシンは測定なし(破線)。歯数は 8日 8本、15日 11本、29日 12本、43日 14本と4本、54日 17本と4本、70日 17本と14本。試験管内の実験で、臨床での日数にそのまま置き換えられない
根尖側でエンドトキシン・細菌が検出された歯の割合(原著の表2の全8時点。実験群21本)

開始24時間の時点では、どの歯の根尖側からも、エンドトキシンも細菌も検出されませんでした。

実験群21本(原著の表2)
・8日目:エンドトキシン8本(38%)、細菌0本
・15日目:エンドトキシン11本(52%)、細菌0本
・22日目:エンドトキシンは測定なし、細菌0本
・29日目:エンドトキシン12本(57%)、細菌0本
・43日目:エンドトキシン14本(67%)、細菌4本(19%)
・54日目:エンドトキシン17本(81%)、細菌4本(19%)
・70日目:エンドトキシン17本(81%)、細菌14本(67%)
・漏れるまでの平均:エンドトキシン23日、細菌62日

下の容器のエンドトキシン濃度は、24時間の時点で2.5pg/ml未満、8日目に17pg/ml、70日目に22pg/mlでした。原著は、この結果を統計的に有意(p<0.05)と書いています。図2の注記では、実験群のエンドトキシン濃度が陰性対照と有意に異なる、とされています。

対照群はどうだったか
・陽性対照(ポイント1本・シーラーなし):エンドトキシンは8日目に全5本、細菌は15日目に全5本で検出
・陰性対照(根の表面を全て封鎖):エンドトキシンは1本を除いて検出されなかった。細菌は4本で検出されず、残る1本は22日目に検出されたため、採取時の汚染とみて研究から除外された

④著者らはこの結果をどう読んだか

著者らは、実験の前には別の結果もありえたと書いています。エンドトキシンが根管の象牙質の壁に結合したり、充填材の成分で不活化されたりして、通り抜けないかもしれない。実際には、通り抜けました。

先行研究との比べ方(著者らの考察)
・Tropeら(1995)は、精製したエンドトキシンを使い、根管全体を充填した歯で、エンドトキシンが根尖に届くことを示していた。今回のほうが速かった。著者らは条件の違いとして、混合細菌を使ったことと、充填材が5mmしかなかったことを挙げる
・細菌が通り抜けるまでの平均は、ポスト形成をした歯を使った先行研究で66〜72日。今回は62日
・著者らは、大事なのは日数の違いではなく、この現象が一貫して起きることだと書いている
・陽性対照(ポイント1本・シーラーなし)の結果は、十分な封鎖にシーラーが必要という先行研究を支持する

この順番について、著者らは序論で、細菌が増えるときに出す可溶性の因子(代謝産物・毒素・たんぱく質)は、細菌の細胞より速く根管を通り抜けるだろう、と予想していました。この実験は、その予想に合う結果を示したことになります。なぜ先に届くのかという仕組みまでは、原著は説明していません。

⑤明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・細菌もエンドトキシンも、ポスト形成をした根管の充填材を通り抜けた。エンドトキシンのほうが速かった
・同じことが臨床でも起きると仮定すれば、エンドトキシンの速い侵入は、早い時期の根尖の反応と、その後の治療の失敗、再治療や根尖の外科につながりうる
・根管治療のあと、すぐに適切な歯冠修復を行う必要性が、改めて裏づけられる
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・この論文は「何日までなら安全」を示したものではありません。読み取れるのは、ポスト形成をした根管は、歯冠側の封鎖が破れると、細菌が届くより前に細菌の成分が根尖側に届きうる、ということです
・ポスト形成から築造・装着までのあいだの仮封と、唾液を入れない手順を見直すきっかけになります。ポスト形成と築造を同じ日に済ませるかどうかは、この論文は比べていません
・ポスト形成のあとに仮封が外れていた歯を見たとき、この論文は再治療を考える材料の1つになります
ここだけ、冷静に補助線この研究は、抜去歯を使った試験管内の実験です。著者ら自身が、日数を臨床にそのまま当てはめられないと書き、根尖の組織や組織液、口の中の温度変化や圧、細菌叢の多様さなどは再現できていないと認めています。細菌を浮かべたのは唾液ではなく培養液で、唾液より粘りが少ないぶん、速く通り抜けた可能性がある、とも書いています。
上の容器には細菌の混合液を3〜4日ごとに入れ直しています。歯冠側の封鎖がまったくなく、細菌にさらされ続ける条件です。根尖側に残したガッタパーチャは約5mmで、使った充填法は側方加圧とRothのシーラーの1通りです。
測ったのは「根尖側の液から検出されたか」で、エンドトキシンが根尖の組織に炎症を起こすかどうかは、この実験では調べていません。検出された濃度(17〜22pg/ml)が生体でどんな意味を持つかも、原著は論じていません。
平均の日数(23日と62日)は、漏れた歯だけの平均です。考察には「81%の根管で平均23日」とあり、表2の本数から筆者が計算しても、漏れた歯だけの平均(エンドトキシン17本で約22.7日、細菌14本で約62.3日)と合います。70日間で検出されなかった歯(エンドトキシン4本、細菌は21本から14本を引いた7本)は入っていません。方法には日数を比べたとありますが、エンドトキシンと細菌の日数の差についての検定結果は示されていません。陰性対照でも、1本でエンドトキシンが、1本で細菌が検出されています(同じ歯かどうかは書かれていません)。細菌が出た1本について、著者らは採取時の汚染とみて研究から除外しました。
資金・利益相反:原著に利益相反の記載は見当たりません。謝辞にSESC-Brasilの名があり、PubMedでは米国政府以外の研究助成を受けた研究と分類されています。
それでも、「細菌が届く前に、細菌の出す物質が先に届きうる」ことを、同じ歯で並べて示した実験です。根管充填のあとの歯冠側の封鎖を、治療の続きとして考える理由を1つ足してくれます。

今日のひとこと

ポスト形成をした抜去歯の実験で、歯冠側に置いた細菌のエンドトキシンは8日目に38%、70日で81%の歯で根尖側に届き、細菌そのものは43日目から検出されて70日で67%でした。漏れた歯での平均はエンドトキシン23日、細菌62日です。著者らは、根管治療のあとすぐに適切な歯冠修復をする必要性が改めて裏づけられたと述べています。ただし試験管内の実験で、著者ら自身が日数を臨床にそのまま当てはめられないと書いています。筆者の読みでは、「何日なら大丈夫」を決める数字ではなく、細菌が届く前に、細菌の出す物質が先に届きうることを示した1本です。

Alves J, Walton R, Drake D. Coronal leakage: endotoxin penetration from mixed bacterial communities through obturated, post-prepared root canals. J Endod. 1998;24(9):587-591. doi:10.1016/S0099-2399(98)80115-5. PMID: 9922745
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。