エンド|根管充填でシーラーが根尖から溢れた105本を、溢れたシーラーがX線写真で見えなくなるか、根尖の治癒がシーラーの種類で変わるかについて、最長30年の経過から振り返った後ろ向き研究(Ricucciら 2016・Journal of Endodontics)
根管充填のあと、デンタルX線写真で根尖の外にシーラーが少し出ていた。この材料は消えるのか、治りに響くのか。Ricucciらは2016年、1人の術者が個人診療所で同じ手順(側方加圧で充填)で治療し、充填直後のX線写真でシーラーが根尖から溢れていた105本(術前に根尖病変あり75本・なし30本。ガッタパーチャが突き出た歯は除外)を振り返りました。4年を超えた時点で、溢れたシーラーがX線写真で見えなくなった歯は、酸化亜鉛ユージノール系の4種で71〜100%、AH Plus で15%、Apexit で33%でした。一方、根尖の治癒の割合には、どの時点でもシーラーの種類による有意差が検出されませんでした。4年を超えた時点で治癒と判定されたのは、術前に根尖病変が無かった歯で100%(30本中30本)、あった歯で79%(P<.01)でした。
①根尖から溢れたシーラー、消える?治りに響く?
根管充填を終えて撮ったデンタルX線写真。根尖の外に、白いシーラーが少しだけ出ている。この材料は、いずれ消えるのか。それとも残って、治りの足を引っぱるのか。経過観察のたびに、気になる場面だと思います。
この問いに、1人の術者の長い臨床記録から答えようとしたのが、Ricucciらが2016年に Journal of Endodontics に報告した後ろ向きの研究です。充填直後のX線写真でシーラーが根尖から溢れていた105本を集め、その後のX線写真で、溢れたシーラーが見えなくなったか、根尖が治癒したかを、シーラーの種類ごとに比べました。
・4年を超えた時点で、溢れたシーラーがX線写真で見えなくなった歯は、酸化亜鉛ユージノール系の4種で71〜100%、AH Plus で15%、Apexit で33%だった。2年と4年超の時点では、AH Plus と Apexit は、ほかの4種より有意に少なかった
・根尖の治癒の割合には、1年・2年・4年超のどの時点でも、シーラーの種類による有意差が検出されなかった
・4年を超えた時点で治癒と判定されたのは、術前に根尖病変が無かった歯で100%(30本中30本)、あった歯で79%だった(P<.01)
・1人の術者が個人診療所で同じ手順(側方加圧で充填)で治療し、充填直後のX線写真でシーラーが根尖から溢れていた105本の後ろ向き研究。ガッタパーチャが突き出た歯は除外し、判定はX線写真による
②なぜこの研究が必要だったか
根管充填材は、根管の中にとどめるのが理想とされます。著者らは序論で、X線写真上の根尖の0〜2mm手前で終わった充填の成功率が最も高く、足りない充填や溢れた充填では成功率が有意に低いとする研究を引いています。
一方で、材料が根尖から出てしまうことは、臨床ではときに起こります。溢れた材料がどうなるかは組織液への溶けやすさや貪食されやすさに、治りへの影響は材料の生体適合性によるだろう、と著者らは書いています。溢れた充填材が治りを悪くする理由としては、材料の細胞毒性や異物反応が挙げられてきました。その一方で、感染が無ければ充填の根尖側の位置は失敗と直接は結びつかない、とする報告もあります。
溢れたシーラーの行方と治りへの影響を調べた研究は少なく、異なるシーラーを比べた研究はあっても、溢れた症例に絞ったものは無かった、というのが著者らの問題意識です。
③何をどう調べたか
対象は、1人の術者が個人診療所で、30年にわたり同じ手順で治療した歯です。経過観察を1回以上受けた根管治療歯1,437本(830人)のうち、充填直後のX線写真で根尖から充填材が溢れていた105本を選びました。ガッタパーチャのポイントが根尖から突き出た歯は除外しているので、溢れたのはシーラーです。術前のX線写真で根尖病変があったのは75本、根尖周囲が正常だったのは30本でした。
治療はラバーダムと術野の消毒のもとで行い、作業長は根尖の狭窄部に置きました。歯冠側3分の2を Gates-Glidden バーと手用ファイルで、根尖側3分の1を手用ファイルで形成し、作業長を越えて器具を出さない(根尖の穿通用のファイルは使わない)、1%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄、という手順です。歯髄が壊死していた歯は水酸化カルシウムを貼薬して2回で、生活歯髄の歯は1回で治療しています。
充填は、ガッタパーチャの側方加圧とシーラーです。シーラーは次の6種でした。
・酸化亜鉛ユージノール系:Pulp Canal Sealer(PCS)、PCS Extended Working Time(PCS EWT)、Tubli-Seal、Endomethasone
・レジン系:AH Plus
・水酸化カルシウム系:Apexit
経過のX線写真を充填直後のものと比べ、溢れたシーラーが見えるか見えないか(行方)と、根尖が治癒したか(Strindbergの基準。歯根膜腔の幅と輪郭が正常か、溢れた材料の周りだけわずかに広い状態を「治癒」、根尖に透過像が見えるものを「病変あり」)を判定しました。1年と2年の時点では、病変が残っていても小さくなったものを「治癒途中」としています。判定したのは、使ったシーラーを知らされていない、経験のある歯内療法医2人です(一致度を示すκ値は、行方で0.86、治癒で0.76。意見が割れたら3人目に相談)。根が複数ある歯では、溢れた根だけを評価しました。
経過は1年から最長30年と歯ごとにばらばらなので、1年・2年・4年超の3つの時点にまとめ、カイ二乗検定とフィッシャーの正確検定で比べています。1年の時点で見られたのは63本、2年は73本、4年超は105本全てです。
④結果:シーラーの消え方は種類で違ったが、治癒の割合にシーラーによる有意差は検出されなかった
溢れたシーラーの行方から見ます。4年を超えた時点で、X線写真で見えなくなった歯は、Tubli-Seal で6本中6本(100%)、Endomethasone で87%、PCS で82%、PCS EWT で71%でした。これに対して、Apexit は33%、AH Plus は15%にとどまりました。
時点ごとの検定では、1年の時点で有意差があったのは、Tubli-Seal と AH Plus・Apexit・Endomethasone のあいだだけでした。2年と4年超の時点では、AH Plus と Apexit が見えなくなった頻度は、ほかの4種のどれと比べても有意に低い、という結果です(P<.05)。それ以外の組み合わせには、有意差は検出されませんでした。
次に治り方です。術前に根尖病変が無かった歯は、シーラーの種類にかかわらず、各時点で評価できた歯が全て治癒と判定されました(1年20本・2年21本・4年超30本。表2の本数から筆者が合計)。術前に根尖病変があった歯では、治癒と判定された割合は1年で46.5%(43本中20本。ほかに治癒途中33%)、2年で60%(52本中31本。治癒途中23%)、4年超で79%でした。4年超の時点の100%と79%の差は、有意でした(P<.01)。
術前に根尖病変があった歯の、4年超の治癒の割合は、PCS の67%から PCS EWT の91%まででした。AH Plus は78%、Apexit は82%です。どの時点でも、シーラーの種類による有意差は検出されませんでした(P>.05)。ただし各群の本数は5〜21本と少なく、差が無いことを確かめたわけではありません。
⑤結果の読み方
シーラーの消え方の違いについて、著者らは、水への溶けやすさなどの物理化学的な性質が関わると考えています。AH Plus は溶けにくいと報告されており、根管の中では長所でも、根尖の外に出たときには不利かもしれない、と書いています。Apexit は、ほかのシーラーより有意に溶けにくいという報告は無いため、AH Plus の主成分のエポキシ樹脂が Apexit にも含まれるという報告を引いて、それが見えなくなりにくい理由かもしれない、と推測しています。この研究で成分や溶けやすさを測ったわけではありません。
見えなくならなかった AH Plus と Apexit の多くは、X線写真の上では長い年月ほとんど変わらずに写っていました。原著には、10年たった AH Plus の8本、16年たった Apexit の3本の例が挙がっています。それでも、AH Plus の症例でも根尖病変は治癒しています(原著の図2・図4)。
術前の根尖病変の有無で治癒の割合が分かれた点について、著者らは、溢れた充填にともなう病気は、材料の毒性ではなく、多くは同時にある感染によるものという考え方を支える結果だ、と書いています。溢れる前には器具が根尖を越えていることが多く、根尖孔が広がって封鎖が甘くなる、感染した削りかすを根尖の外へ押し出す、といった理由を挙げています。ただし、この研究で感染や器具の通り方を調べたわけではなく、あくまで著者らの解釈です。
長い経過も報告されています。10年を超えて追えた66本のうち、4年の時点から判定が変わったのは4本でした。1本は25年後に治癒から病変ありに戻り、3本は完全に治癒するまでに10年を超えています。この長い時間が溢れた材料のせいかどうかは、この研究からは言えない、と著者らは書いています。
著者らの結論は、「溢れたシーラーの全てが、X線写真で見えなくなるわけではない。根管が適切に治療されていれば、治療の成績に、溢れたシーラーの種類による有意な影響は見られない。成功の割合は、根尖病変の無い歯で有意に高い」というものです。そのうえで、大量の溢出は重い術後の合併症の報告があり、溢れた充填を勧めるものではない、と念を押しています。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
充填直後のX線写真で、シーラーが根尖から少し出ていた。そんなとき、シーラーの種類だけを理由に予後を悲観する根拠は、この研究からは見つかりません。シーラーの種類のあいだでは治癒の割合に有意差が検出されず、術前の根尖病変の有無で比べたときには有意差がありました(観察研究なので、病変そのものが原因とまでは言えません)。
経過観察で役に立つのは、シーラーによっては何年たってもX線写真に写り続ける、という点です。AH Plus や Apexit が根尖の外に残って見えていても、それだけで失敗とは読まず、歯根膜腔や透過像の変化で判断する。患者さんへの説明にも使える知見だと思います。
ただし、これは1人の術者が標準化した手順(Gates-Glidden バーと手用ファイルでの形成、側方加圧での充填)で治療した歯の記録です。溢れた量は測っていません。著者らも、毒性について述べたのは少量の溢出の場合で、大量の溢出には重い合併症の報告がある、としています。ガッタパーチャの突き出しや、バイオセラミック系のシーラーも調べていません。溢出は避けるもの、という原則は変わりません。
(1)後ろ向きの観察研究で、1人の術者の個人診療所の症例です。シーラーの割り付けは適切に無作為化されておらず、経過観察の時期もそろっていません(著者らが限界に記載)。
(2)「見えなくなった」はX線写真の判定です。量や密度が下がって写らなくなっただけかもしれず、組織から無くなったかは組織標本でしか確かめられない、と著者らも書いています。溢れた量は測っていません。
(3)シーラーが溢れなかった歯の比較群はありません。溢れたこと自体が治りに影響するかは、この研究では分かりません。
(4)各シーラーの本数は6〜28本(術前に病変があった歯では5〜21本)と少なく、治癒の割合に有意差が検出されなかったことは、差が無いことの証明ではありません。
(5)充填は側方加圧だけで、ガッタパーチャが突き出た歯は除外、バイオセラミック系のシーラーは含みません。
(6)著者らは利益相反は無いと記載しています。
溢出を見つけたら、シーラーが写り続けることも想定して経過を見る。その出発点として読みたい1本です。
今日のひとこと
1人の術者が治療しシーラーが根尖から溢れた105本の後ろ向き研究で、4年を超えた時点でX線写真から見えなくなったシーラーは、酸化亜鉛ユージノール系で71〜100%、AH Plus で15%、Apexit で33%。それでも、根尖の治癒の割合にシーラーの種類による有意差は検出されず、治癒の割合は術前に根尖病変が無かった歯100%・あった歯79%で、この差は有意でした。溢出を見つけたら、シーラーが写り続けることも想定して経過を見る。ただし溢出を勧める結果ではありません。その出発点として読みたい1本です。


