エンド|根管治療した小臼歯122本を、咬頭を覆わない直接コンポジットレジン修復(61本)と全部被覆冠(61本)に分けて、破折の有無を診療記録で調べた後ろ向きコホート研究(Suksaphar・Banomyong・Jirathanyanatt・Ngoenwiwatkul 2018・Journal of Endodontics)。破折は合わせて17本。レジン群にはポストがなく、クラウン群は61本中57本にポストが入っている
根管治療を終えた小臼歯を、クラウンで覆うか、コンポジットレジンの直接修復で終えるか。Suksapharらは2018年、タイのマヒドン大学の診療記録から、根管治療した小臼歯122本を調べた後ろ向き研究を報告しました。破折しなかった歯の割合は、クラウン95.1%(61本中58本)、直接レジン修復77.0%(61本中47本)で、クラウンの方が高い結果でした(p=0.004)。一方、レジン群のうち歯面の欠損が1〜2面で、両隣に歯がある26本は88.5%で、クラウン群との有意差は検出されませんでした(p=0.278)。ただし、どちらの修復にするかは無作為に決めておらず、破折は合わせて17本です。「条件が良ければレジンでもクラウンと同じ」と確かめられたわけではありません。
①根管治療した小臼歯、クラウンで覆う? 直接レジンで終える?
根管治療を終えた小臼歯。歯質はそれなりに残っていて、両隣にも歯がある。「臼歯部の根管治療歯は咬頭を覆う」と習ったけれど、この歯を削ってクラウンにするべきか、コンポジットレジンの直接修復で終えてよいか。迷う場面だと思います。
Suksapharらは2018年、この問いを大学病院の診療記録で調べた後ろ向き研究を報告しました。見たのは「破折」です。
・対象は根管治療した小臼歯122本(直接コンポジットレジン修復61本、クラウン61本)
・破折しなかった歯の割合は、クラウン95.1%(61本中58本)、レジン77.0%(61本中47本)。クラウンの方が高かった(p=0.004)
・レジン群のうち、歯面の欠損が1〜2面で両隣に歯がある26本は88.5%。クラウン群との有意差は検出されなかった(p=0.278)
・両隣に歯がそろっていない歯は、欠損が1〜2面でも70.0%(10本中7本)だった
・破折のうち「再修復できる」と判定されたのは、レジン群14本中10本、クラウン群3本中0本
・修復の種類は無作為に決めていない。破折は合わせて17本。著者らは、確かめるにはランダム化比較試験が必要だと書いている
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、2つの考え方を並べています。1つは「保護」の考え方です。臼歯部の根管治療歯は、咬頭を覆うクラウンで破折から守る。咬頭を覆う修復が、破折を減らして臼歯部の根管治療歯の成績を上げた、という臨床研究がいくつも報告されています。
もう1つは「保存」の考え方です。歯質の欠損が小さい〜中くらいの歯なら、直接コンポジットレジン修復を最終修復にできる。これを支える研究として著者らが挙げたのが、隣接面の欠損が1〜2面の小臼歯で、ファイバーポストとコンポジットレジンで修復した歯の3年成績が、クラウンと同じくらい高かったというランダム化比較試験です。
一方で、欠損が中くらい〜大きい歯で、コンポジットレジン修復がどのくらいもつかには疑問が残っていました。どちらの考え方が適切かは、まだ議論が続いている。著者らはそう整理して、この研究を行っています。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく話です。
③研究の組み立て:小臼歯122本の診療記録を、あとから調べた
場所はタイのマヒドン大学歯学部の歯内療法クリニックです。学部生か大学院生が非外科的根管治療(再治療を含む)を行い、2012年から2016年にリコールを受けた小臼歯の診療記録とX線写真を調べました。
・根が完成した小臼歯の根管治療歯で、単冠のクラウンか直接コンポジットレジンで修復されている
・対合歯と咬合接触がある(対合が天然歯か固定性補綴。対合が可撤性義歯の歯は入れない)
・リコールを1回以上受けている
・除外:歯内・歯周の理由で抜歯された歯、骨吸収が根の長さの半分を超える歯、ひびの既往や垂直性歯根破折の疑いがある歯、矯正装置がついた歯(保定装置は可)
・直接コンポジットレジン修復(61本):咬頭を覆わない。ポストは使っていない
・レジン修復が選ばれたのは、クラウンを希望しなかった人、クラウンの費用を負担できなかった人、欠損が根管治療の開口部だけだった歯
・クラウン(61本):全部被覆冠。ポストなし4本、既製のファイバーポスト24本、鋳造メタルポスト33本(61本中57本にポスト)
・根管治療はすべてラバーダム防湿下。修復をしたのは、学部生・大学院生・一般歯科医・補綴専門医
記録したのは、性別、上顎か下顎か、修復の種類、隣接歯の数(隣接面の接触が2か所か、0〜1か所か)、歯面の欠損の数です。破折は「歯質の破折」「修復物の破折」「その両方」に分け、さらに再修復できるかどうかで分けました。再修復できない破折とは、フェルールが足りない、歯肉縁下に及んで歯冠長延長もできない、垂直性歯根破折、のいずれかです。
破折しなかった歯の割合は、カプラン・マイヤー法とlog-rank検定で比べています。関連する要因は、Cox比例ハザードモデルで調べました。
④結果(1):破折しなかった歯は、クラウン95.1%、レジン77.0%
122本のうち、上顎が71本、下顎が51本でした。破折は合わせて17本で、全体では86.1%の歯が破折していません。
・修復の種類:クラウン95.1%(破折3/61本)、レジン77.0%(破折14/61本)。p=0.004
・破折した歯の割合にすると、レジン23.0%、クラウン4.9%。リスク比(レジン/クラウン)は約4.67(原著の値ではなく、表2の本数から筆者が計算。(14/61)÷(3/61)。95%信頼区間 約1.41〜15.4も筆者の計算)
・Cox比例ハザードモデルでのハザード比は、レジン対クラウンで13.01(95%信頼区間 3.22〜52.65)
・隣接面の接触:2か所92.2%(破折7/90本)、0〜1か所68.8%(破折10/32本)。p=0.001。ハザード比は8.69(95%信頼区間 2.75〜27.44)。破折した歯の割合は31.3%と7.8%で、リスク比は約4.02(表2の本数から筆者が計算。(10/32)÷(7/90))
・性別:女性91.2%(破折8/91本)、男性71.0%(破折9/31本)。log-rank検定ではp=0.078、Cox比例ハザードモデルではハザード比5.25(95%信頼区間 1.81〜15.29、p=0.002)
・上顎か下顎か:上顎88.7%、下顎82.4%。p=0.159。ハザード比1.67(95%信頼区間 0.61〜4.55、p=0.318)
ハザード比13.01の信頼区間は、3.22から52.65までと広い幅です。破折が17本という小さな数から出した値なので、13.01という数字の大きさをそのまま受け取るより、「この記録ではレジン群の破折が多かった」と読むのが合っています。本数から計算したリスク比は約4.67でした。
⑤結果(2):レジン群の中で分けると、欠損1〜2面・両隣に歯がある歯は88.5%
レジン群61本の歯面の欠損は、1面が5本、2面が31本、3面が20本、4面が5本でした。1面と4面が少ないので、著者らは「1〜2面」と「3〜4面」にまとめています。破折しなかった歯の割合は、1〜2面で83.3%、3〜4面で68%でした。
・欠損1〜2面・接触2か所:88.5%(破折3/26本)。p=0.278
・欠損1〜2面・接触0〜1か所:70.0%(破折3/10本)。p値は表の表記で.000
・欠損3〜4面・接触2か所:83.3%(破折3/18本)。p=0.033
・欠損3〜4面・接触0〜1か所:28.6%(破折5/7本)。p値は表の表記で.000
クラウン群との有意差が検出されなかったのは、「欠損1〜2面で、両隣に歯がある」歯だけでした。著者らはこの結果から、この条件の歯ではレジン修復の成績がクラウンと同程度だった、と述べています。
欠損が1〜2面でも、両隣に歯がそろっていない歯は70.0%でした。欠損が3〜4面で両隣がそろっていない7本では、5本が破折しています。なお、クラウン群については、残っていた歯質の量が診療記録に書かれておらず、同じ分け方はできていません。
⑥結果(3):その破折は、再修復できる破折だったか
・レジン群(破折14本):歯質の破折42.9%、修復物の破折28.6%、その両方28.6%
・クラウン群(破折3本):歯質の破折66.7%、その両方33.3%。ポストなし・ファイバーポスト・鋳造メタルポストの歯で1本ずつ
・「再修復できる」と判定された破折:レジン群14本中10本(71.4%)。再修復できないと判定されたものが4本(28.6%)
・クラウン群の3本は、3本とも再修復できない破折と判定された
破折の数はレジン群の方が多い。けれど、再修復できると判定された破折も、レジン群の方が多い。数だけでなく、破折の形にも目が向く結果です。ここでの「再修復できる」は判定の話で、実際に再修復してその後どうなったかは、書かれていません。
⑦なぜこうなったのか(著者らの考察)
・歯質が多く残っているほど、破折しにくいと考えられる。欠損が3面以上の歯で破折が多かったことは、これまでの研究と合っている
・両隣に歯があると、咬合力が分散され、根管治療歯にかかる応力が減るのかもしれない
・レジン修復の歯は、修復物と歯質の接着が壊れることで、歯冠側で破折しやすい。そのため歯根ではなく、歯冠の歯質やレジンの破折になり、再修復しやすいのだろう
・クラウンの歯は、強い力がクラウンを通して歯根に伝わり、垂直性歯根破折の形をとりやすいのかもしれない。不適切なポストが歯根を弱める可能性もあり、今後の研究が要る
・男性に破折が多かったのは、咬合力の強さや、硬い食べ物を好む傾向と関係しているかもしれない
著者らは考察で、クラウン群の破折の多くは再修復できない歯根破折だった、と書いています。ただ、結果の項に示されているのは「歯質の破折66.7%、両方33.3%」という分け方で、歯根破折が何本だったかは示されていません。
著者らの結論は、「破折に対する生存率は、クラウンの方がコンポジットレジンより高かった。ただし、歯面の欠損が1〜2面で隣接面の接触が2か所あり、コンポジットレジンで修復した根管治療歯は、クラウンと同程度の生存率を示した」です。
⑧明日の臨床へ
・全体としては、クラウンの方が望ましい結果になりやすい。これは臼歯部の根管治療歯についての一般的な推奨と合っている
・ただし、欠損が1〜2面で両隣に歯がある小臼歯は、レジンで修復してうまくいっていた。「根管治療のあとは原則として咬頭を覆うクラウン」という考え方に、問いを投げかける結果である
・歯質が十分に残っている歯なら、直接レジン修復を最終修復にできる場合がある。治療の時間が短くなり、患者さんの費用の負担も軽くなる
・欠損が3〜4面の小臼歯には、やはり咬頭を覆う修復を勧める
・レジンと歯質の接着が劣化して歯冠側から漏洩が起きることは、長い目で見た心配として残る
・この結果を確かめるには、ランダム化比較試験が必要である
・修復を選ぶときに見るところが、2つ示されています。歯面の欠損が何面か。両隣に歯があるか。どちらもチェアサイドですぐ分かる項目です
・「欠損が少なければレジンでよい」とまとめると、半分しか伝わりません。欠損が1〜2面でも、両隣がそろっていない歯は10本中3本が破折していました
・著者らは、レジン修復なら時間と費用を抑えられる可能性を挙げています。ただ、この研究で時間や費用を測ったわけではありません。レジンで終えるなら、破折は起こりうるものとして、リコールで歯質のひびや修復物の欠けを見ていくことになります
・この研究のレジン修復は、咬頭を覆わない修復です。咬頭を覆うレジン修復や、アンレーなどの間接修復は調べていません
・比べた相手のクラウン群は、61本中57本にポストが入っています。「ポストなしのクラウン」との比較にはなっていません
・対象は小臼歯だけです。大臼歯には、そのまま広げられません
(1)後ろ向きの研究で、修復の種類は無作為に決めていません。レジン修復になったのは、クラウンを希望しなかった人、費用を負担できなかった人、欠損が開口部だけだった歯です。2つの群は、はじめから条件が違っていた可能性があります。
(2)「クラウンと同程度」の根拠は、レジン群26本中3本の破折と、クラウン群61本中3本の破折の比較です(p=0.278)。「有意差が検出されなかった」は、「差がないと確かめられた」とは別のことです。同じ両隣に歯がある歯でも、欠損3〜4面は83.3%(破折3/18本)でp=0.033でした。88.5%と83.3%の間に、はっきりした線が引けるほどの本数ではありません。再修復できるかどうかの比較も、クラウン群の破折が3本だけなので、割合の比較としては弱い数字です。
(3)原著が「生存率」と呼ぶ95.1%や77.0%は、破折しなかった歯の本数を全体の本数で割った値と一致します(58/61、47/61。筆者の計算)。追跡の長さを考えに入れた5年時点の推定値とは、別の数字である可能性があります。原著の図2の生存曲線は、60か月のところでクラウンが0.8台、レジンが0.5台に描かれています(筆者が図を見た読み)。
(4)1本1本の歯を何か月追えたのか(平均や中央値)は、書かれていません。組み入れの条件は「リコールを1回以上」です。
(5)クラウン群は、残っていた歯質の量が記録されていません。歯質が多く残った歯どうしで、レジンとクラウンを比べた結果ではありません。
(6)Cox比例ハザードモデルには4つの要因が入っていますが、破折は17本です。ハザード比の信頼区間は広く、性別はlog-rank検定では有意でなく(p=0.078)、モデルに入れると有意になっています。要因の大きさは、参考の値として読むのが安全です。著者ら自身も、破折の数が少なく、要因を見つける力には限りがあると書いています。
(7)解析の単位は歯です。患者さんが何人だったかは書かれておらず、同じ人の歯どうしが似ることをどう扱ったかも、書かれていません。
(8)歯内・歯周の理由で抜歯された歯は、対象から外されています。評価したのは破折だけで、二次う蝕や根尖の経過は、この研究の対象ではありません。
(9)処置をしたのは、学部生から補綴専門医までさまざまです。1つの大学病院の記録でもあります。
資金の提供元についての記載は、入手した原著PDFの中には見当たりません。利益相反については、著者らは「ない」と記しています。
それでも、「欠損の面数」と「両隣の歯」という2つの条件で成績が分かれた、という結果は、修復を選ぶときの見方として役に立ちます。著者ら自身が、この結果を確かめるランダム化比較試験が必要だと書いています。条件を見て修復を選ぶための、仮説の段階の1本として読むのが合っています。
今日のひとこと
この研究が示したのは、根管治療した小臼歯122本の診療記録では、破折しなかった歯の割合がクラウン95.1%、直接コンポジットレジン修復77.0%で、クラウンの方が高かったということです(p=0.004)。レジン群のうち、歯面の欠損が1〜2面で両隣に歯がある26本は88.5%で、クラウン群との有意差は検出されませんでした(p=0.278)。破折のうち「再修復できる」と判定されたのは、レジン群14本中10本、クラウン群は3本中0本でした。ただし、修復の種類は無作為に決めておらず、破折は合わせて17本です。「同程度」の根拠は26本中3本の破折で、差がないと確かめられたわけではありません。著者ら自身が、確かめるにはランダム化比較試験が必要だと書いています。欠損の面数と両隣の歯を見て修復を選ぶ、という見方の手がかりとして読む1本です。


