1問1答 論文 エンド

根管の細菌は「中の液」だけにいるわけではない——根尖病変のある抜去歯15本を電子顕微鏡で見ると、観察した中央・根尖1/3の根管のほぼ全域の壁に細菌が付き、一部は象牙細管へ約300µm入り込んでいた(2002年)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管治療をしていない感染根管の「菌がどこに、どう住んでいるか」を、根尖病変が付いたまま抜去された単根歯15本を縦に割り、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した形態学的研究(Siqueira 2002・Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)

根尖病変の主な原因が微生物であることは古くから知られています。培養法や分子生物学的な方法で「どの菌が多いか」は次々に分かってきましたが、著者らはそれだけでは根管系のどこに、どんな形で菌が住みついているのかは分からないと指摘します。光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡の先行研究では、根管内の菌の大部分は根管内の液体の中に浮遊しており、それとは別に壁に張り付く密な菌の塊も見えていました。そこで著者らは、立体的な表面の観察に向く走査型電子顕微鏡(SEM)を使い、無症状の根尖病変が付いたまま抜去された単根歯15本を縦に割って、根管の中央1/3と根尖1/3の壁と象牙細管を見ました。結果、15本すべての根管が感染しており、根管系の実質的にすべての領域に菌がいた。壁の大部分は菌で濃く覆われ、その菌は球菌と桿菌のどちらか、または両方で、しばしば混ざり合った共同体を作っていました。菌はしばしば象牙細管へ入り込み浅い侵入が最も多かったものの、一部の標本では約300µmに達していた。1本では酵母様の真菌も見つかっています。著者らは、器械的・化学的な清掃だけで根管の感染を完全になくすのは難しそうなので、根管貼薬が有用な補助になりうると考察しています(貼薬の効果そのものはこの研究では調べていません)。

論文
Patterns of microbial colonization in primary root canal infections
著者
José F. Siqueira Jr, Isabela N. Rôças, Hélio P. Lopes(エスタシオ・デ・サ大学、リオデジャネイロ連邦大学、ブラジル陸軍中央歯科クリニック・ブラジル)
掲載
Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, Oral Radiology, and Endodontics 2002;93(2):174-178
種類
抜去歯の形態学的観察研究(走査型電子顕微鏡・n=15)。対象=エスタシオ・デ・サ大学の外科外来で抜去された、無症状の根尖病変をもつ単根歯15本。いずれも広範なう蝕があり、大きさのさまざまなX線透過像の根尖病変が抜去後も歯根に付いたままだった。3mmを超える歯周ポケットのある歯はなし。抜去前に歯冠と周囲組織を2%クロルヘキシジンで消毒。抜去直後に滅菌生理食塩水で洗い、2.5%グルタルアルデヒドで2時間固定。残った歯冠を切断し、病変をメスで除去。歯根の長軸に沿って溝を切り、チゼルで2つに割った。エタノール上昇系列で脱水、臨界点乾燥、金蒸着ののち、根管の中央1/3と根尖1/3の象牙質壁と隣接する象牙細管をSEM(加速電圧15kV)で観察。菌数や面積の定量、菌種の同定は行っていない
資金
ブラジル政府機関CNPqの研究助成を一部受けた(原著記載)。利益相反の記載なし
PMID
11862207

根管の細菌は「中の液」だけにいるのではない

感染根管の菌、どこにいるイメージでしょうか。根管の中の壊死組織や液の中に浮いていて、洗えば流れていく——そう思っていると、この論文の写真は少しこたえます。

結論を先に言います。根尖病変が付いたまま抜去された単根歯15本を縦に割り、走査型電子顕微鏡(SEM)で見たところ、15本すべての根管が感染しており、根管系の実質的にすべての領域に菌がいました。壁の大部分は菌で濃く覆われ、菌はしばしば象牙細管へ入り込み一部の標本では約300µmに達していました。

ただし同じくらい大事な所見があります。象牙細管への侵入は浅いものが最も多く、ひどく(濃く)感染した細管があっても、すぐ隣の細管のほとんどは感染していなかったのです。

「どの菌か」は分かっても、「どこに、どう住むか」は分からなかった

根尖病変の主な原因が微生物であることは、古くから知られています。培養法や分子生物学的な方法で、感染根管に多い菌種は次々に同定されてきました。

しかし著者らは、そうした同定研究だけでは、根管系のどこに、どんな形で菌が住みついているのかは分からないと指摘します。菌の住み方を知ることは、病気の成り立ちを理解するうえでも、効く抗菌戦略を立てるうえでも重要だ、というのが出発点です。

光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡を使った先行研究では、根管内の菌は形の上で球菌・桿菌・糸状の細菌・らせん菌からなり、その大部分は根管内の液体の中に浮遊していたと報告されていました。一方で、壁に張り付いた密な菌の塊も見えており、ときに何層にも重なっていた。著者らは、こうした方法には限界があり、立体的な表面(トポグラフィー)を見るにはSEMのほうが向いていると考えました。

今回の一手:病変ごと抜いた歯を、縦に割ってSEMで見る

対象=エスタシオ・デ・サ大学の外科外来で抜去された単根歯15本。いずれも無症状の根尖病変をもち、広範なう蝕があり、大きさのさまざまなX線透過像の病変が抜去後も歯根に付いたままだった。3mmを超える歯周ポケットのある歯は含まない。
手順=抜去前に歯冠と周囲を2%クロルヘキシジンで消毒 → 抜去直後に滅菌生理食塩水で洗い、2.5%グルタルアルデヒドで2時間固定 → 残った歯冠を切断し、病変をメスで除去 → 歯根の長軸に沿って溝を切り、チゼルで2つに割る → 脱水・臨界点乾燥・金蒸着。
観察=根管の中央1/3と根尖1/3の象牙質壁と、隣接する象牙細管をSEMで観察した。

ポイントは、根管の中身を取り出して培養するのではなく、歯を割って「その場にいる姿のまま」見たこと。菌がどこに、どんな並び方でいるかが写真に残ります。一方で、菌の数や面積を数えたり、菌種を同定したりはしていません。結果は写真を見た記述です。

結果①:15本すべてが感染、しかも住み方は一様ではない

抜去歯15本のうち、その所見が見られた本数(1つの丸=1本) 根管が感染していた 15 / 15本 象牙前質・壊死組織に桿菌だけ 3 / 15本 酵母様の真菌がいた 1 / 15本 本数の記載がない所見:分裂中の細菌=実質的にすべての標本/壊死歯髄の残り=ほとんどの標本/ 球菌が優勢=ほとんどの標本/らせん菌=ときどき/象牙細管への侵入=しばしば(多くは浅い) 壊れた菌体が2本で見られたが、標本処理による人工的な変化の可能性がある(原著) 単根歯・無症状の根尖病変つき・中央1/3と根尖1/3をSEMで観察。菌種の同定・菌量の計測はしていない

15本の観察で本数が明記されている所見(原著の結果の記述から作成)

15本すべての根管が感染しており、根管系の実質的にすべての領域に菌がいました分裂中の菌は実質的にすべての標本で見られ、壊死した歯髄組織の残りもほとんどの標本で見えています。

興味深いのは、住み方が標本ごとに違い、同じ歯の中でも違うことがあった点です。ほとんどの壁は濃く覆われていましたが、薄くしか付いていない場所もわずかにあり、それは根管のどの位置かとは関係がなかった。同じ歯の中で、菌の形や形の違う菌の割合が揃っていないこともありました。

・菌は全標本で球菌と桿菌のどちらか、または両方で、しばしば混ざり合った共同体を作っていた。桿菌には糸状・まっすぐ・曲がった・短い球桿菌などさまざまな形があった
ほとんどの標本では球菌が優勢。密な塊を作る場合もあれば、1つずつ離れて並び、細い線維状の構造でつながっているように見える場合もあった
3本では、象牙前質と壊死組織を覆っていたのは桿菌だけだった
・桿菌は場所によって象牙細管の入口に密な塊を作り、細管と細管の間の象牙質にはまれだった。別の場所では、桿菌のコロニーが根管壁の広い範囲を覆っていた
らせん菌はときどき、単独か少数の塊として他の菌の間に見られた

結果②:象牙細管への侵入——多くは浅く、一部は約300µm

根管壁から象牙細管への侵入(模式図・縮尺は正確ではない) 根管 壊死歯髄の残り 壁を覆う細菌 象牙質(象牙細管が横に走る) 一部の標本で約300µmに達した細管 ①根管壁の大部分は細菌で濃く覆われていた(薄い場所もわずかにあり、位置とは無関係) ②細管への侵入はしばしば見られたが、浅いものが最も多かった ③ひどく(濃く)感染した細管があっても、すぐ隣の細管のほとんどは感染していなかった 原著の記述とFig 3・4から作図。細管内の菌は主に球菌(桿菌も)。侵入の深さの測り方は原著に記載がなく、「約300µm」は原著の表記のまま

根管壁と象牙細管の模式図(縮尺は正確ではない。原著の記述とFig 3・Fig 4をもとに作成)

菌はふつう根管壁に密な塊を作り、根管のどの位置でも、しばしば象牙細管へ入り込んでいました浅い侵入のほうが多かったものの、一部の標本では約300µmに達していた(原著Fig 4は、主根管から約300µmの細管内にいる球菌の写真で、一部は分裂中です)。

そして見落とせないのがここです。ひどく感染した細管があっても、そのすぐ隣の細管のほとんどは感染していなかった。これは根管壁全体が濃く覆われている場所でも同じでした。細管に入っていた菌は主に球菌で、桿菌もいて、細管の中で分裂している菌も見えています。

著者らは考察で、細管への侵入の深さは研究によってまちまちだと整理しています。実験室(in vitro)では、セメント質とスミア層を取り除いた条件で700〜900µmに達したという報告がある一方、生体から得た歯を観察した研究では、そこまで深い侵入は報告されていない。今回の約300µmも、生体から得た歯をその場の姿で観察した結果です。

結果③:混ざり合って「落ち着いた」共同体、そしてときに真菌

形の違う菌どうしが1つの塊を作っている様子から、著者らは異なる菌が互いにくっつき合っている(共凝集)可能性を読み取っています。そしていくつもの標本で、この菌の集まりは「極相群集(クライマックス・コミュニティ)」の特徴を示していたと述べます。

極相群集とは、菌が環境と調和し、釣り合いを保ちながら自分たちで増えていく集まりのこと。内部にいくつもの住みかがあるので、性質の違う菌が互いに折り合える限り、いつまでも共存できる。著者らは、ひとたびこうした集まりができあがると根尖病変が長引く一因になりうるので、その除去には配慮が要るかもしれない、と考えています。

もうひとつ、1本では酵母様の真菌が見つかりました。根管の中央1/3の壊死組織の網目の中に密なコロニーを作り、一部は出芽していました。ただしこの歯でも優勢だったのは細菌(主に球菌)です。著者らは、真菌はふだん治りにくい根尖病変につながる持続感染・二次感染と関係づけられてきたが、最初の感染根管でもときに見つかるという他の研究と一致する、と書いています。

明日の臨床へ

菌は根管の中の液や壊死組織だけでなく、壁そのものと象牙細管の入口付近にも住んでいる(この研究は液の中の菌は評価していない)。根尖病変のある歯の根管を、そういうイメージで見る
・その住み方は標本ごとに、同じ歯の中でも一様ではない。「この部分は薄いはず」と場所で決めつけられない
・著者らのまとめ=器械的・化学的な清掃だけで根管の感染を完全になくすのは難しそうなので、根管貼薬は根尖病変のある歯の治療で有用な補助になりうる
・ただし貼薬の効果そのものは、この研究では調べていない。どの薬を、どれくらいの期間使うかは、この論文からは決められない

ここだけ、冷静に補助線

この研究は抜去歯15本を電子顕微鏡で見た形態学的な観察です。菌の量や面積は数えておらず、「濃く」「浅い」は写真を見た記述で、約300µmも「一部の標本で」という最大寄りの所見です。著者ら自身が、形だけでは写っている菌が病原菌なのか、単に居合わせただけなのかは区別できないと明記しています。また対象は無症状の根尖病変をもつ単根歯に限られ、見たのは中央1/3と根尖1/3だけ。壊れた菌体が2本で見られましたが、標本処理による人工的な変化の可能性も著者らは認めています。根管貼薬を勧める一文も、観察から導いた考察であって試験した結果ではありません。それでも、「感染根管の菌は壁と細管に、混ざり合って住んでいる」ことを写真で示したこの論文は、洗浄や貼薬を考えるときの地図として今も役に立ちます。

今日のひとこと

著者らの結論:根尖病変のある歯の根管は細菌で濃く感染しており、ときに真菌もいる。菌の住み方はしばしば「極相群集(クライマックス・コミュニティ)」の特徴を示し、その除去と臨床上の問題の予防には特別な配慮が要るかもしれない。感染が根管系全体に広がっていたことから、根管の感染を完全になくすには適切な治療手段が必要だろう。臨床に引き寄せると、菌は根管の中の液や壊死組織だけでなく、壁そのものと象牙細管の入口付近にまで住んでいる——著者らが「器械的・化学的な清掃だけで完全になくすのは難しそうだ」と考える理由はここにあります。ただし象牙細管への侵入は浅いものが多く、ひどく(濃く)感染した細管があっても、すぐ隣の細管のほとんどは感染していなかったという点も同じくらい大事な所見です。そして根管貼薬を勧める一文は著者らの考察であって、この研究は15本の抜去歯を電子顕微鏡で見た観察まで。何で・どこまで落とせるかは、別の研究で確かめる話です。

Siqueira JF Jr, Rôças IN, Lopes HP. Patterns of microbial colonization in primary root canal infections. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2002;93(2):174-178. doi:10.1067/moe.2002.119910. PMID: 11862207
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。