エンド|9歯群の抜去歯180本を、根尖から1・2・3・4・5mmで水平に輪切りにし、根管の長径と短径を測った形態学の研究。歯種別・根尖からの距離別に「長楕円根管」の割合を数えている(Wu 2000・Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)
根管形成は「丸い穴を丸いファイルで丸く広げる」イメージで語られがちです。でも、根尖側の根管は本当に丸いのでしょうか。アムステルダムのWuらは、成人の抜去歯180本(上下の切歯と犬歯・小臼歯・大臼歯の9歯群×各20本)を、根尖から1・2・3・4・5mmの位置で水平に切断し、計1181断面の根管の径を測定顕微鏡で測りました。長径が短径の2倍以上を「長楕円根管」と定義して数えると、293断面(25%)が長楕円。歯種による差は大きく、下顎大臼歯の近心根(1根管)は根尖から5mmで92%、上顎大臼歯の近心頬側の第2根管は3mmで80%だった一方、上顎中切歯と上下の犬歯はどの断面でも11%以下でした。多くの根管で根尖に近づくほど丸に近づく傾向はあるものの例外もあり、5mmで長楕円が多かった6群の67根管では31%が長径÷短径4倍超の「扁平」。著者らは、こうした長く細い根管を丸い形成で削りきろうとすれば穿孔や歯根の著しい菲薄化を招くとし、形成だけに頼らず洗浄の効果を高める工夫が要ると述べています。治療成績は見ていない、抜去歯の断面の記述研究です。
①根尖部の根管、丸いと思っていませんか
根管形成のイメージは、たいてい「丸い穴を、丸いファイルで、少し大きく丸く削る」です。根尖側ほど細く丸くなる——そう思っている人は多いはずです。
結論を先に言います。抜去歯180本の根尖側1〜5mmを輪切りにすると、断面の4本に1本(1181断面中293断面・25%)は「長径が短径の2倍以上」の長楕円でした。しかも歯種によって差が大きく、下顎大臼歯の近心根(1根管)では根尖から5mmで92%、上顎大臼歯の近心頬側の第2根管では3mmで80%に達しました。一方、上顎中切歯と上下の犬歯は多くの断面で0〜6%と、ほぼ丸いままでした。
丸い器具を回しても、長楕円の端(頬側・舌側に張り出した部分)には届かない壁が残る。「形成だけで根尖部をきれいにする」ことの物理的な限界を、断面の数字で示した研究です。
②なぜ「楕円かどうか」が問題になるのか
根管の断面には楕円形のものがあり、その清掃が難しいことは以前から指摘されていました。回転で作る丸い形成は、楕円の張り出し部分(リセス)を取り込めず、そこが形成されずに残るからです。
③今回の一手:抜去歯180本を、根尖から1mmずつ輪切りに
前処置=#08ファイルが根尖孔を通ることで根管の開通を確認。根尖孔が解剖学的根尖から1mm以上離れている歯は除外。
切片=低速ソーで各歯根を根尖から1・2・3・4・5mmの位置で水平に切断し、使えた断面は計1181。
計測=測定顕微鏡(×30)で根管の径を測り、2人の検者の意見が一致した値を採用。
定義=長径が短径の2倍以上(直交する2方向の一方が他方の2倍以上)を長楕円根管とした。統計検定はせず、割合を表にまとめた記述的な研究です。
④結果①:全体で25%、歯種によっては半数を超える
1181断面のうち長楕円は293断面(25%)。残りの75%は丸いか、わずかに楕円でした。
図を見ると、差ははっきりしています。根尖から5mmで50%以上だったのは、上顎小臼歯の単根管(63%)・上顎大臼歯の近心頬側根〔1根管〕(60%)と第2根管(60%)・下顎切歯(56%)・下顎大臼歯の近心根〔1根管〕(92%)と近心頬側根管(50%=ちょうど半数)の6行です。逆に上顎中切歯・上顎犬歯・下顎犬歯は5mmで5%、1〜5mmのどの断面でも11%以下でした。
また著者らによれば、長いのはほとんどの根管で頬舌方向で、例外は上顎大臼歯の口蓋根(近遠心方向が長い)でした。(筆者注)デンタルX線写真は頬舌方向から撮るので、写真では分かりにくい向きに根管が伸びていることになります。
⑤結果②:根尖に近づくほど、丸くなる傾向
著者らは多くの場合、長径は根尖に向かって小さくなり、断面は丸に近づいたとまとめています。図でも、根尖から1mmの列は多くの行で最も低い値です。たとえば下顎大臼歯の近心根〔1根管〕は5mmで92%でも、1mmでは20%。上顎大臼歯の近心頬側の第2根管は2mmで73%なのに、1mmでは0%でした。
⑥結果③:長楕円が多い6群の根管の3割は、もはや「扁平」
5mmで長楕円が多かった6群の67根管を、長径と短径の比で分けると、2倍以下(丸〜やや楕円)が25本(37%)、2倍を超え4倍以下の長楕円が21本(31%)、4倍を超える「扁平」が21本(31%)でした。10倍を超えるものも4本ありました。2倍を超える42本に限れば、その半数の21本が扁平という計算です(表IIIから計算)。
数字で見ると極端さが分かります。下顎大臼歯の近心根〔1根管〕は、5mmの位置で頬舌径の中央値2.11mmに対して近遠心径の中央値は0.29mm(原著Table I)。下顎切歯は同じ5mmで0.81mm対0.29mmです(いずれも各方向の中央値どうしの比較)。
⑦なぜ困るのか:丸く削りきると、根が薄くなる
このような長くて細い根管を、丸い形成で全周削りきろうとすると、近遠心方向に穿孔するか、歯根を大きく弱めるほどの太さの器具が必要になる——これが著者らの結論です。
著者らは、テーパー0.05で形成すると頬舌方向に削れていない面が残る、0.10に上げれば頬舌方向の清掃には有利かもしれないが、近遠心方向の壁が薄くなると書いています。どこまで歯根を弱めるかは分かっていない、とも。
⑧明日の臨床へ
・形成だけで根尖部を清掃しきれるとは考えない。著者らは洗浄の効果を高める工夫が必要だとし、その例として超音波洗浄のアコースティック・マイクロストリーミングや、形成されずに残った部分の有機質を溶かす5%次亜塩素酸ナトリウムを挙げている(いずれも著者らが引用する別研究に基づく提案で、この研究で効果を確かめたわけではない)。
・すべての根管を同じ号数(例:#80)まで拡大するのは不適切と著者らは書く。根尖部の径の幅が大きく、ある根管は削りすぎ、別の根管は清掃不足になるからだ。
・「最初に引っかかったファイルから3号大きく」の目安にも注意。ファイルは先細りなので、作業長ではなくもっと歯冠側で引っかかっている可能性があり、引っかかりそのものは根尖部の径を示さないと著者らは指摘している。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:根尖側の根管の約4分の1で、長径が短径の2倍以上ある。この食い違いが根管の清掃・形成・充填を複雑にしうる。臨床に効く形に直すと3つです。①長楕円は歯種で偏る——下顎切歯、下顎大臼歯の近心根(1根管のもの)、上顎大臼歯の近心頬側根(1根管のもの)とその第2根管、上顎小臼歯の単根管では根尖5mmで50%以上。上顎中切歯と犬歯はほぼ丸い。②丸く削りきるのは物理的に無理がある——長くて細い根管を全周形成しようとすれば、近遠心方向に穿孔するか歯根を大きく弱める。③だから洗浄で補う——著者らは超音波洗浄や次亜塩素酸ナトリウムで形成の届かない部分を補う工夫を挙げています(この研究で効果を確かめたわけではありません)。ただしこれは抜去歯の断面を数えた研究で、長楕円の根管で予後が悪くなるかは調べていません。


