エンド|根管治療と再根管治療のあとの根尖部の治癒に影響する因子を、著者ら自身の系統的レビュー・前向き研究・2020年末までに更新したメタ解析と、臨床・生物学の知見を合わせて論じたナラティブ総説(Gulabivala・Ng 2023・International Endodontic Journal)
根管治療は道具と手順の選択肢が多く、「どれを変えれば治りが良くなるのか」は迷いどころです。ロンドン・イーストマンの Gulabivala と Ng は、100年分の成績研究を、術前・術中・術後の因子に分けて整理し直しました。著者らの更新メタ解析では、根尖の健康を保てた・得られた歯の統合割合は、根尖病変の無い生活歯で84%(厳しい基準)、根尖病変のある失活歯で75%(図の値。本文は74%。研究間のばらつきは大きい)。再根管治療の完全な治癒は加重平均で69%。影響が強いとされたのは、術前の根尖病変の有無と大きさ、根尖まで穿通して(根尖病変のある歯)拡大と根管充填を根尖まで届かせること(外へ出さない)、術後の歯冠修復の質で、器具・洗浄液・拡大鏡などの選択の影響は弱いとされました。ただし系統的な文献検索の手順を示した論文ではなく、主な数値の多くは著者ら自身の研究で、根拠の中心は観察研究です。
①根管治療の成績、何がいちばん効いている?
新しいニッケルチタンファイル、洗浄液の濃度、超音波での撹拌、マイクロスコープ。根管治療は道具と手順の選択肢が多く、「どれを変えれば治りが良くなるのか」と迷う場面がよくあります。
ロンドン大学イーストマン歯科研究所の Gulabivala と Ng は、根管治療と再根管治療の成績に影響する因子を、臨床・生物学・生体力学・技術の知見を横断して1本の総説にまとめました。著者らは、ばらばらに見える結果を「根尖の感染と宿主のやりとりに直接かかわるかどうか」という1つの軸で整理し直しています。
・ナラティブ総説(International Endodontic Journal 2023・本文25頁)。著者らは自分たちの系統的レビューとメタ解析を2020年末までの研究で更新し、その結果も示している
・根尖の健康を保てた・得られた歯の統合割合は、根尖病変の無い生活歯で84%(厳しい基準)、根尖病変のある失活歯で75%(著者らの更新メタ解析の図。75%は本文では74%。研究間のばらつきは大きい)。再根管治療の完全な治癒は加重平均で69%
・著者らの整理で影響が強いのは、術前の根尖病変の有無と大きさ・感染の徴候、根尖まで穿通し(根尖病変のある歯)、拡大と根管充填を根尖まで届かせること(外へ出さない)、術後の歯冠修復の質と残っている歯質
・影響が無い・弱いとされたのは、年齢・性別・歯の種類、ラバーダム、拡大鏡、アクセス窩洞の形、器具や洗浄液・根管充填材の選択など
・注意:系統的な文献検索の手順を示した論文ではなく、主な数値の多くは著者ら自身の研究から。根拠の多くは観察研究で、「弱い」は「効かないと証明された」という意味ではない
②なぜ「何が効くか」が見えにくいのか
著者らはまず、根管治療の成績研究そのものの難しさを挙げます。根管治療は、アクセス・根管口の発見・穿通・作業長・拡大・洗浄・貼薬・根管充填と、前の工程の出来に次の工程が左右される多段階の処置です。工程どうしのかけ合わせまで記録して解析するのは非常に難しく、術前の状態や一部の工程は無作為に割り付けることもできません。
もう1つは、歯科医師の注意が「技術」に向きやすいことです。著者らは、根管治療でいちばん大事な細菌量の減少は、機械的・化学的な操作の副産物にすぎず、術者の頭の多くは根管充填の見た目に向かいがちだと書いています。実際、ニッケルチタンファイルとシングルコーン法の研修で根管充填の技術的な質は上がったのに、根尖部の治癒は同じようには良くならなかった研究(Koch 2014)を引いています。
そして根尖部の治癒には時間がかかります。多くの根尖病変は1年以内に治りますが、4年以上かかるものもある、と著者らは整理しています。
③この総説で、著者らがしたこと
- 種類:ナラティブ総説(系統的レビューではない)。根管治療と再根管治療のあとの根尖部の治癒に影響する因子を、臨床・生物学・生体力学・技術・医療制度の知見を合わせて論じた
- 数値の出どころ:著者ら(Ng・Gulabivala)の初回の根管治療・再根管治療の系統的レビュー(2007・2008年)、ロンドン・イーストマンでの前向き研究(2011年)、そして著者らが2020年末までの研究で更新したメタ解析(変量効果モデル。教科書の章でのみ公表)。ほかに総説が引用した個々の研究
- 因子の分け方:術前(患者と歯)・術中(治療)・術後(修復)の3つ
- 成績の物差し:主にエックス線写真と臨床症状で見た根尖部の状態(「治癒した」「治癒中」「病変あり」など)。基準の厳しさは研究で異なる
- 利益相反:著者らは無いとしている
④結果:効く因子と、効きにくい因子
術前:著者らがいちばん強いとするのは、術前の根尖病変の有無と大きさです。病変が大きいほど根管内の細菌の種類が多く、感染を抑えにくい、と著者らは説明します。痛み・腫れ・瘻孔・歯根吸収も、治癒の見込みを下げる因子として挙げられています。一方、術前の歯髄が生きているか壊死しているかは、根尖病変が無ければ成績に影響しない、とされます。年齢・性別・全身の健康の影響は弱く(糖尿病などの特定の病気は影響しうるが根拠は限られる)、前歯と臼歯で成績に大きな差は無いと整理されています。
術中:治療の因子の多くは、1つずつ見ると影響が弱いとされます。その中で強いのが、根尖まで穿通できるか、拡大と根管充填が根尖にどこまで届くか、そして根管充填材を根尖の外へ出さないことです。著者らは、根尖病変のある歯では根尖の複雑な形まで到達して消毒することが治療の目的そのもので、そこに届かなければ治療はうまくいきにくいと書いています。逆に根尖病変の無い歯では、根尖まで届かせることは必須ではなく、少し手前で止めて根尖側の歯髄を残す方が良いとしています。エックス線で見た根管充填の質が良い歯ほど成功率が高い、という一貫した結果も挙げられています。
弱いとされた術中の因子:ラバーダムは、成績への効果が厳密には確かめられていません(再根管治療で綿花よりラバーダムの方が治癒が良かった観察研究などはある)。著者らは、ラバーダムの価値は作業野を管理して各工程を丁寧に進められることにある、としています。拡大鏡は、追加の根管を見つけるのを助ける以外に、治癒が良くなるという客観的な根拠は見つかっていないとされます。洗浄液の種類や次亜塩素酸ナトリウムの濃度(5%と2.5%など)、超音波での撹拌も、根尖部の治癒への明らかな差は示されていません。
術後:著者らが「根尖病変の有無と張り合うほど」と表現するのが、歯冠修復の質です。修復が良好な歯は不良な歯より治癒の割合が大きく上回り、著者らの前向き研究では、根管充填材の露出・辺縁の欠陥・脱離の既往を「不良」とした定義で、修復の状態のオッズ比は10.7(95%信頼区間 3.7–31.5)でした。一方、クラウンか充填かといった修復の種類は、治癒に有意な影響を示さなかったとされます。
⑤数字で見る:総説が挙げた主な値
成績の目安として、著者らの更新メタ解析では、根尖の健康を保てた・得られた歯の統合割合が、根尖病変の無い生活歯で84%(95%信頼区間 80–89%・厳しい基準)、根尖病変のある失活歯で75%(70–79%)でした。どちらも研究間のばらつき(I²)が約97%と大きく、1つの数字で全体を代表させにくい点には注意が要ります。なお、根尖病変のある失活歯の値は、本文では74%、図3では0.75と書かれています。再根管治療の完全な治癒は加重平均で69%(出典として著者らの系統的レビューと前向き研究を併記)で、根尖病変のある初回治療より約6%低い、と著者らは書いています。
根管充填の位置では、エックス線写真上の根尖から2mm以内の群の成功率が81%、根尖を越えた群が66%でした(著者らの系統的レビュー)。著者らの前向き研究では、根尖まで穿通できた歯は、できなかった歯と比べて治癒のオッズ比が約2でした。根尖側に拡大していない長さが1mm増えるごとに治癒のオッズが12〜14%下がる、という結果は、Chugal 2003 と著者らの前向き研究から引かれています。次亜塩素酸ナトリウムの洗浄に EDTA を併用すると、治癒のオッズ比は1.3(初回)・2.3(再治療)でした(著者らの前向き研究)。一方、洗浄液の種類では、再根管治療の無作為化試験で、2%クロルヘキシジンと1%次亜塩素酸ナトリウムの4年の治癒が81%と82%で、差を認めなかった結果(Zandi 2019)が引かれています。
根管充填の前の細菌培養が陰性だった歯は、陽性だった歯と比べて、根尖部の健康のオッズ比が1.6(1.4–1.9)でした(著者らのメタ解析・図4)。本文では成功が「twofold」に増えたと書かれていますが、図の統合オッズ比は1.6です。オッズ比はリスク比とも別の指標です。
術者の影響については、多段階モデルで治癒のばらつきを分けた著者らの施設の研究(Yee 2019・修士論文)が引かれています。治癒のばらつきのうち、歯の水準が69%、患者の水準が17%、術者の水準が14%でした。著者らは、成績を大きく左右するのは術者がそのまま操れる要素ではなく、術者が患者と歯の条件にどう向き合うかだ、と読んでいます。
⑥結果の読み方:根管治療を「感染した傷の管理」と捉え直す
著者らは、これらの一見ばらばらな結果を1つの考え方で説明します(ここからは著者らの解釈で、実験で確かめた機序ではありません)。器具が届いた部分の感染は抑えられても、根尖の複雑な形の中には感染が残る。治療は、そこでの細菌と宿主のつり合いを宿主の側へ「能動的に」傾け、炎症を鎮める。その後は、歯の亀裂や修復の辺縁の漏れが、そのつり合いを「受動的に」逆戻りさせうる。だから、根尖のやりとりに直接かかわる因子(病変の大きさ、根尖への到達と充填、修復の質)だけが強く効き、器具や洗浄液の選択のように間接的な因子は差を生みにくい、という説明です。
洗浄液の種類や濃度で治癒に差が出にくいことについても、著者らは、根尖部では液が流れずに淀み、薬液がほとんど拡散でしか届かないためだと説明しています。これも著者らの解釈として読むのが妥当です。
著者らはこの考え方から、根尖病変のある歯では2回に分けた治療(1回目で清掃まで終える)を強く支持しています。ただし、総説が引いた無作為化比較試験では、治療回数による有意な差は見つかっておらず(どれも検出力が足りないと著者らは評価)、2回法の支持は試験の結果ではなく著者らの推論です。
⑦明日の臨床へ
この総説から持ち帰れるのは、「道具や薬液を替えるより、根尖病変のある歯では根尖まで届かせること、根管充填材を外へ出さないこと、そして最後の修復までを治療と考えること」という優先順位です(ここから筆者の読み)。
たとえば、根尖病変のある歯では、まず根尖まで穿通できるかに集中する。根管充填材は根尖を越えないようにする。根管治療が終わったら、漏れの無い歯冠修復までを同じ治療の続きとして仕上げる。術前の病変の大きさや症状は、患者さんへの見通しの説明(予後)にも使えます。再根管治療では、前の根管充填材や破折器具を除去・迂回して根尖まで届けるかどうかが成績を分けた、と著者らは書いています。
一方で、ラバーダムや拡大鏡が「要らない」という意味ではありません。著者らは、ラバーダムの成績への効果は厳密に試されていないと書き、その価値を作業野を管理して各工程を丁寧に進められることに置いています。拡大鏡も追加の根管を見つける助けにはなるとしています。安全と作業野の管理のためにラバーダムを使う、という前提はこの総説でも変わりません(ここまで筆者の読み)。
⑧ここだけ補助線
・ナラティブ総説:文献の探し方や選び方の手順は示されておらず、因子の強弱は著者らの統合と判断による
・数値の多くが著者ら自身の研究:系統的レビュー(2007・2008年)、前向き研究(2011年)、教科書の章でのみ公表した更新メタ解析。術者の影響の数字は修士論文(Yee 2019)。筆者は引用元の論文を開いていない
・観察研究が中心:多くの因子は無作為に割り付けられておらず、ほかの要因が混ざりうる。統合割合の研究間のばらつき(I²)は約97%
・物差しはエックス線写真が中心:二次元のエックス線写真は感度が低く、CBCTで見ると治癒の割合は低く出る、と著者ら自身が書いている
・原典の中の食い違い:根尖病変のある歯の統合割合は本文74%・図3 0.75、培養陰性の効果は本文「twofold」・図4のオッズ比1.6
・解釈は仮説:「感染した傷の管理」という捉え直しと、根尖病変のある歯での2回法の支持は、著者らの推論
それでも、自分の治療のどこに力を入れるかを考える地図として、手元に置いておきたい1本です。
今日のひとこと
この総説の著者らの整理では、根管治療の成績を強く左右するのは、術前の根尖病変、根尖病変のある歯での根尖までの到達、根管充填材を外へ出さないこと、そして漏れの無い歯冠修復でした。器具・洗浄液・拡大鏡などの選択の影響は弱いとされています。数値の多くは著者ら自身の研究と観察研究からで、「弱い」は「効かないと証明された」という意味ではありません。それでも、道具を替える前に、根尖への到達と最後の修復までを1つの治療として見直すきっかけになります。


