エンド|根管内の Enterococcus faecalis の検出率を、初回の感染根管と根管治療後も感染が続く歯で比べた10研究を集めたシステマティックレビュー・メタ解析(Zhang 2015・Journal of Endodontics)
「治らない根管にはフェカリス菌がいる」とよく言われますが、初回の感染根管と比べた研究の答えは割れていました。Zhang らは、同じ研究の中で両方を同じ方法で調べた10研究を集めました。10研究のうち、根管治療後も感染が続く歯の方で検出率が高かったのは培養法4研究中3研究、PCR法8研究中6研究。初回を根管治療をしていない慢性根尖性歯周炎の歯に絞った5研究のメタ解析では、根管治療後も感染が続く歯の方が E. faecalis が検出されやすく、PCR法4研究の統合オッズ比は7.25(95%信頼区間 4.04–13.00)でした。ただし統合したのは根管の試料で菌が見つかったかどうか(検出の有無)で、菌の量は統合しておらず、病変の原因かどうかも調べていません。著者ら自身も、この菌は病変の主な原因というより、厳しい環境で生き残っている菌かもしれないと考察しています。
①根管治療後に治らない歯、フェカリス菌は見つかりやすい?
再根管治療の話になると、必ずと言っていいほど名前が出るのが Enterococcus faecalis(エンテロコッカス・フェカリス、以下 E. faecalis)です。「治らない根管にはフェカリス菌がいる」。そう習った方も多いはずです。
では、根管治療をしていない初回の感染根管と比べて、本当に根管治療後の歯の方で見つかりやすいのか。研究によって答えが割れていたこの問いを、中国の Zhang らがシステマティックレビューで整理しました。
・初回の感染根管と、根管治療後も感染が続く歯(根管治療が失敗した歯)で、根管内の E. faecalis の検出率を比べた10研究を集めたシステマティックレビュー
・10研究のうち、根管治療後の歯の方で検出率が高かったのは培養法4研究中3研究、PCR法8研究中6研究。研究どうしのばらつきが大きく、10研究まとめての統合はしていない
・初回を慢性根尖性歯周炎の歯に絞った5研究のメタ解析では、根管治療後も感染が続く歯の方が検出されやすく、PCR法4研究の統合オッズ比 7.25(95%信頼区間 4.04–13.00)、5研究を合わせると10.65(6.24–18.16)
・注意:統合したのは、根管から採った試料で菌が見つかったかどうか(検出の有無)。菌の量は統合しておらず、病変の原因かどうかも調べていない。著者ら自身も考察で、E. faecalis は病変の主な原因というより、厳しい環境で生き残っている菌かもしれないと書いている
②なぜ答えが割れていたのか
著者らは序論で、根管治療が失敗した歯の根管から見つかる菌の種類は、治療していない根管より限られ、その中で最も多く報告されてきたのが E. faecalis だと整理しています。グラム陽性の通性嫌気性の球菌で、1960年代から培養法で調べられてきました。
近年は PCR法などの分子生物学的な方法が使われ、菌を見つける感度が大きく上がりました。そのため研究によっては、治療していない根管でも E. faecalis が高い割合で見つかります。著者らが集めた研究の中にも、根管治療後の歯の方で多いとする研究と、統計的な差を認めなかった研究が混在していました。
そこで著者らは、同じ研究の中で初回と根管治療後の両方を同じ方法で調べた研究だけを集め、検出率を比べ直しました。
③今回の研究:10研究のシステマティックレビュー
- 検索:Medline・Embase(1966〜2014年)、Cochrane の CENTRAL、中国の文献データベース CNKI(1982〜2014年)。言語は英語と中国語に限定。188本から題と抄録で17本に絞り、全文を読んで10研究を採用
- 対象の条件:全身的に健康な人の永久歯。初回の群は壊死歯髄か急性・慢性の根尖性歯周炎の歯、根管治療後の群は根管治療が失敗して感染が続く歯。同じ研究の中で両群を同じ方法で調べ、ラバーダムをかけられる歯であること
- 検出法:培養法だけが2研究、PCR法だけが6研究、両方が2研究(解析では培養法4研究・PCR法8研究に分けた)
- 指標:E. faecalis が検出された歯の数と検出されなかった歯の数から求めたオッズ比(根管治療後の群の検出のオッズを、初回の群を1として比べた値)
- 研究の質:Newcastle-Ottawa scale で6〜8点。著者らは、含めた研究のバイアスのリスクはいずれも低いと判断
オッズ比は、検出割合そのものの比(横断的な比較なので有病率比にあたる)とは別の指標です。検出が珍しくない場面では、オッズ比は検出割合の比より1から遠い値になります。たとえば下の図1の Gong 2012 では、検出割合は10%と53%で、その比は(16/30)÷(3/30)=約5.3(原典の表1から筆者が計算)ですが、オッズ比は10.29です。
④結果:絞った5研究では、根管治療後の歯で検出されやすかった
まず10研究すべて(原典の表1・下の図1)。根管治療後の歯の方で検出率が高かったのは、培養法4研究中3研究、PCR法8研究中6研究でした。一方、表1の12の比較(2研究は培養法とPCR法の両方で調べたので12行)のうち、培養法の Sedgley 2006、PCR法の Gomes 2006 と Dumani 2012 の3つの比較はオッズ比が1を下回り、95%信頼区間は1をまたいでいました(筆者が表1から数えた)。なお Sedgley 2006 はPCR法では、Gomes 2006 は培養法では、根管治療後の歯の方が高い結果でした。研究どうしのばらつきは大きく(培養法 I²=85%、PCR法 I²=86%)、著者らは10研究をまとめた統合はせず、記述的な比較にとどめています。
著者らは、ばらつきの出どころを1研究ずつ外して調べ(感度解析)、初回の群に含めた歯の状態(壊死歯髄だけか、瘻孔や症状のある歯まで含むか)の違いが原因ではないかと考えました。そこで、初回の群を根管治療をしていない慢性根尖性歯周炎の歯に絞れる5研究(培養法1・PCR法4)だけでメタ解析をしました。
この5研究では、初回の慢性根尖性歯周炎の歯での検出率は2〜33%、根管治療後も感染が続く歯では39〜74%でした。PCR法の4研究はばらつきが小さく(I²=0%)、固定効果モデルで統合したオッズ比は7.25(95%信頼区間 4.04–13.00)。培養法は Guo 2011 の1研究だけで、オッズ比は108.31(13.47–870.68)と信頼区間が非常に広い値でした。5研究を合わせると、オッズ比は10.65(6.24–18.16、I²=48.7%)でした。
なお、10研究全体についての Begg 検定と漏斗図では、出版バイアスがあると判断されています(P=.027)。メタ解析の5研究は数が少ないため、出版バイアスの検定はしていません。
⑤結果の読み方:「見つかりやすい」は「原因」とは限らない
この研究で比べたのは、根管から採った試料に E. faecalis がいたかどうかです。菌の量、ほかの菌との比率、病変の大きさや症状との関係は、統合した解析には入っていません。また、ある時点の根管を調べた横断的な比較なので、菌がいつ根管に入ったのかも分かりません(含めた研究の中には、定量PCRで菌の量まで測った研究もありますが、このレビューが統合したのは検出の有無です)。
著者らも考察で、この結果の読み方に慎重です。初回の慢性根尖性歯周炎の歯での PCR法の検出率は8〜33%と低く、著者らは「慢性根尖性歯周炎の感染根管で、E. faecalis は主な菌(predominant species)ではないかもしれない」と書いています。さらに、著者らが引用した他の研究として、E. faecalis は症状のある歯より症状のない歯と結びついていたという報告、サルの歯に入れても6か月で明らかな根尖病変ができたのは9例中2例だったという報告、病変のある根管充填歯とない根管充填歯で同じように見つかったという報告を挙げています。
そのうえで著者らは、E. faecalis が根管治療後の歯に多いのは、病変の主な原因だからではなく、厳しい環境で生き残る力があるからではないかという見方を示しています(水酸化カルシウムのアルカリに耐える、栄養が乏しくても生きてバイオフィルムを作る、象牙細管に入り込む、など。いずれも著者らが引用した研究に基づく説明)。どこから入ったのかについても、治療中・治療後に口腔や歯冠側から入った可能性と、初回から根管にいて生き残った可能性の両方を考察しています。どれもこの研究で確かめたことではありません。
⑥明日の臨床へ
この研究から言えるのは、「根管治療後も感染が続く歯では、初回の慢性根尖性歯周炎の歯より、E. faecalis が見つかりやすい」という傾向です。再根管治療の歯では、この菌がいる前提で考える理由の1つになります(ここから筆者の読み)。
ただし、この研究は治療法の効果を比べたものではありません。「フェカリス菌を狙った薬剤を使えば治る」とまでは言えませんし、そもそもこの菌が病変の主な原因かどうかも、著者ら自身が疑問を残しています。
著者らは考察で、口腔内から菌を持ち込まないためのラバーダムによる防湿、ガッタパーチャポイントの消毒を含む無菌的な操作、歯冠側の封鎖の大切さに触れています。どれもこの研究で効果を確かめたものではありませんが、「初回の治療で入れない・残さない」という当たり前の工程を、改めて丁寧に行う理由として読むのが、この数字を誇張しない使い方です(ここまで筆者の読み)。
⑦ここだけ補助線
・統合したのは検出の有無:このレビューが統合したのは、根管の試料に菌がいたかどうか。菌の量は統合しておらず、病変の原因かどうかも調べていない
・絞り込み後は5研究:メタ解析は初回を慢性根尖性歯周炎に絞った5研究だけ。培養法は1研究で、信頼区間が非常に広い
・研究どうしの違い:10研究全体ではばらつきが大きく、統合していない。表1の12の比較のうち3つは差を認めなかった(筆者が数えた)。初回の群の定義も研究ごとに違う。出版バイアスも10研究全体について指摘されている(メタ解析の5研究では検定していない)
・検索の範囲:言語は英語と中国語に限定。含めた研究には中国の雑誌に載った2本(Guo 2011・Gong 2012)があり、メタ解析の5研究のうち2つがこの2本
・原典の中の数の食い違い:抄録は「10研究972歯」と書くが、表1の各研究の歯数を足すと952(筆者の計算)。考察はメタ解析の総数を331と書くが、表2の5研究の数を足すと382(筆者の計算)。食い違いの理由は原典に書かれていない。この記事では表と結果の節の数値を紹介した
「よく見つかる」と「原因である」を分けて読むと、再根管治療の歯に向き合うときの頭の整理に役立つ1本です。
今日のひとこと
根管治療後も感染が続く歯では、初回の慢性根尖性歯周炎の歯よりE. faecalis が見つかりやすい傾向がありました(PCR法4研究の統合オッズ比7.25)。ただし統合したのは検出の有無で、菌の量は統合しておらず、病変の原因かどうかも調べておらず、著者ら自身も「生き残っている菌」という見方を示しています。「よく見つかる」と「原因である」を分けて読み、初回の治療で菌を入れない・残さない工程を丁寧に行う理由の1つとして受け取るのがよさそうです。


