1問1答 論文 エンド

不可逆性歯髄炎の大臼歯の部分断髄、失敗した歯に共通点はある?——MTAで処置した40本(解析36本)の単群の前向き研究で、1年後の成功は88.9%。失敗4本はすべて進行の速いう蝕・止血に4〜6分かかった歯だったが、どの比較も有意差は検出されなかった(Aldeen 2023)

1問1答 論文 エンド

エンド|不可逆性歯髄炎と臨床診断した成人の大臼歯で、MTAによる部分断髄を行い、う蝕の深さ・進行の速さ・止血にかかった時間と1年後の結果の関係を見た、対照群のない単群の前向き研究(Aldeen 2023・Bioengineering)

深いう蝕で自発痛のある大臼歯に部分断髄をするとき、「この歯はうまくいきそうか」を術前や術中に見分けたい場面があります。Aldeen らは、不可逆性歯髄炎と臨床診断した大臼歯40本にMTAで部分断髄を行い、う蝕の深さ(咬翼X線)、進行の速さ(う蝕象牙質の色・硬さ・湿り)、止血にかかった時間を記録して、1年後の結果と照らしました。1年後に臨床とX線の基準をともに満たした成功は88.9%(解析36本・失敗4本)。失敗した4本はすべて進行の速いう蝕で、止血に4〜6分かかった歯でした。ただし、どの因子でも成功と失敗の分かれ方に統計的な有意差は検出されませんでした(P=0.18・0.221・0.102)。失敗が4本しかない、対照群のない研究の結果です。

論文
The Influence of Carious Lesion and Bleeding Time on the Success of Partial Pulpotomy in Permanent Molars with Irreversible Pulpitis: A Prospective Study
著者
Rami Zen Aldeen, Ossama Aljabban, Ahmad Almanadili, Saleh Alkurdi, Ammar Eid, Davide Mancino, Youssef Haikel, Naji Kharouf(ダマスカス大学 歯学部 歯内療法学講座ほか・ストラスブール大学)
掲載
Bioengineering 2023; 10: 700
種類
対照群のない単群の前向き研究(ダマスカス大学 歯学部)。18〜65歳、1人1本。不可逆性歯髄炎と臨床診断した大臼歯50本で部分断髄を始め、術中に10本を除外(止血できない3本・感染が根管口以深に及んだ7本)、40本を処置。3・6・12か月に臨床とX線で評価(解析36本)。う蝕の深さ・進行の速さ・止血時間ごとの成績を Fisher の正確確率検定とカイ二乗検定で比べた。MTAの表面を調べた実験室の分析も含む
資金・利益相反
外部資金なし。著者らは利益相反は無いとしている。使った材料は PD-MTA White(Produits Dentaires)
PMID
37370631

①部分断髄が失敗した歯に、共通点はある?

深いう蝕の大臼歯で、自発痛や冷たい物で長引く痛みがある。不可逆性歯髄炎と診断しても、最近は露髄部の歯髄だけを除去する「部分断髄」で残す報告が増えてきました。そこで次に知りたいのは、「どんな歯なら、うまくいきにくいのか」です。

シリアのダマスカス大学の Aldeen らは、う蝕の深さ、う蝕の進行の速さ、断髄後の止血にかかった時間の3つを記録し、MTAで部分断髄した大臼歯の1年後の結果と照らしました。

結論を先に書きます。
・不可逆性歯髄炎と臨床診断した成人の大臼歯に、MTAで部分断髄を行った単群の前向き研究(処置40本・1年後の解析36本。対照群なし)
・1年後の成功:88.9%(解析36本・失敗4本)
・失敗した4本:すべて進行の速いう蝕で、止血に4〜6分かかった歯。深さでは「極めて深い」が3本、「深い」が1本
・ただし:進行の速さ(P=0.18)、深さ(P=0.221)、止血時間(P=0.102)のどれでも、成功と失敗の分かれ方に統計的な有意差は検出されなかった。失敗が4本しかなく、差を確かめるには数が少ない

②なぜ「見分ける手がかり」が求められるのか

著者らの整理では、不可逆性歯髄炎は従来、根管治療の適応とされてきました。一方で、炎症は露髄部に近い歯冠部の歯髄に限られ、残りの歯冠部の歯髄は正常なことが多いとする組織学の研究があり(著者が引用した研究)、症状のある成熟歯でも部分断髄や断髄で歯髄を残す試みが広がっています。ただし、不可逆性歯髄炎に部分断髄が適するかは文献でも意見が分かれ、さらに研究が要るとされています(著者らの整理)。

難しいのは、症状などの臨床所見と、歯髄の実際の炎症の程度が一致しにくいことです。そこで著者らは、う蝕の深さと進行の速さを、歯髄の状態を推し量る追加の手がかりとして使えないかと考えました。著者らによれば、う蝕の深さ・進行の速さ・止血時間と、部分断髄の結果との関係を調べた報告はほとんどありませんでした。

③今回の研究:う蝕と止血を記録してから部分断髄

ダマスカス大学 歯学部の外来を受診した、不可逆性歯髄炎の症状がある大臼歯の患者64人を評価し、50人50本(1人1本)で部分断髄を始めました。

  • 組み入れ:18歳以上・歯根が完成した第一・第二大臼歯。自発痛や、冷刺激で起きて数秒〜数時間続く痛みの既往があり、冷刺激試験で再現できる。冷刺激試験に反応あり・腫脹や瘻孔なし・歯周ポケットと動揺は正常・クラウンやポストなしで修復可能。X線で深い、または極めて深いう蝕があり、根尖部や根分岐部の透過像・石灰化・吸収がない
  • う蝕の深さ(術前の咬翼X線):「深い」=象牙質の内側4分の1に達するが、歯髄との間に硬い象牙質の層が残る。「極めて深い」=象牙質の全層に及び、露髄が確実。2人の評価者が別々に判定(一致度 κ=0.8)
  • う蝕の進行の速さ(術中・窩洞の側壁のう蝕と、脱灰象牙質の表層だけを除いた後に判定):う蝕象牙質が明るい黄色〜黄色で軟らかく湿っていれば「進行が速い」、明るい茶色〜茶色で硬めで乾いていれば「進行が遅い」
  • 処置:局所麻酔(2%リドカイン・エピネフリン入り)・ラバーダム・マイクロスコープ下で、う蝕を非選択的に除去して露髄させ、露髄部の歯髄を2〜3mm除去。2.5%次亜塩素酸ナトリウムで1分洗い、断面の歯髄が正常に見えれば2.5%次亜塩素酸ナトリウムの綿球で止血し、1分ごとに最長6分まで確認した
  • 止血時間:1〜3分と4〜6分の2つに分けた
  • 覆罩と修復:MTA(PD-MTA White)を2〜3mm、湿綿球で15分置いてから、レジン添加型グラスアイオノマー(Fuji II LC)を重ね、コンポジットレジンで修復
  • 評価:3・6・12か月。う蝕の深さ・進行・止血時間を知らない歯内療法の専門医が、臨床とX線で判定。冷刺激試験に正常範囲で反応し、歯髄炎の症状・異常な動揺・瘻孔がなく、X線で根尖の透過像や内部・外部吸収がなければ成功(臨床とX線の両方を満たす)

始めた50本のうち10本は、術中に部分断髄から外れました。止血できなかった3本と、感染した組織が根管口かそれより深くまで及んでいた7本で、全部断髄か根管治療に切り替えています。残る40本を処置し、4人が来院せず、1年の解析は36本でした(男性13人・女性23人、18〜65歳)。

④結果:成功88.9%、失敗4本にそろった特徴

1年後の成功は88.9%(解析36本・失敗4本)でした。失敗した4本のうち3本は3か月以内の早い失敗、1本は12か月以降に見つかった遅い失敗です(原文は after 12 months で、正確な時点は書かれていません)。

表2 因子ごとの1年後の成績(原典の表2の全行・解析36本) 因子 区分 本数 成功 失敗 P値 進行の速さ 速い 24本 20本(83.3%) 4本(16.7%) 0.18 遅い 12本 12本(100%) 0本(0%) 深さ 深い 20本 19本(95%) 1本(5%) 0.221 極めて深い 16本 13本(81.3%) 3本(18.7%) 止血時間 1〜3分 15本 15本(100%) 0本(0%) 0.102 4〜6分 21本 17本(81%) 4本(19%) P値は各因子の2区分の成功と失敗を比べた Fisher の正確確率検定。どれも有意差は検出されなかった (有意水準0.05) う蝕の深さは術前の咬翼X線、進行の速さは術中のう蝕象牙質の色・硬さ・湿りで分けた。止血時間は 2.5%次亜塩素酸ナトリウムの綿球で止血するまでの分数 不可逆性歯髄炎と臨床診断した成人の大臼歯の単群の前向き研究(対照群なし)。MTAで部分断髄した 40本のうち1年の解析36本
図1 う蝕の進行の速さ・深さ・止血時間ごとの成績(原典の表2の全行)。不可逆性歯髄炎と臨床診断した大臼歯の単群の前向き研究・解析36本・1年。P値は各因子の2区分を比べた Fisher の正確確率検定で、どれも有意差は検出されなかった。

失敗した4本は、進行の速いう蝕ではすべて(24本中4本・16.7%)、進行の遅いう蝕では0本(12本中0本)。止血に4〜6分かかった歯で4本(21本中4本・19%)、1〜3分の歯で0本(15本中0本)。深さでは、極めて深いう蝕で3本(16本中3本・18.7%)、深いう蝕で1本(20本中1本・5%)でした。

深さと進行の速さを組み合わせると、失敗の割合は「進行が速く極めて深い」10本中3本(30%)が最も高く、「進行が速く深い」14本中1本(7.1%)、進行の遅い12本(深い6本・極めて深い6本)では0本でした。この4区分の比較も、有意差は検出されていません(カイ二乗検定 P=0.149)。

表3 進行の速さと深さを組み合わせた4区分の1年後の成績(原典の表3の全行) う蝕の状態 本数 成功 失敗 進行が速い・深い 14本 13本(92.9%) 1本(7.1%) 進行が速い・極めて深い 10本 7本(70%) 3本(30%) 進行が遅い・深い 6本 6本(100%) 0本(0%) 進行が遅い・極めて深い 6本 6本(100%) 0本(0%) 4区分の成功と失敗の分布を比べたカイ二乗検定で P=0.149。有意差は検出されなかった 不可逆性歯髄炎と臨床診断した成人の大臼歯の単群の前向き研究(対照群なし)。MTAで部分断髄・1年 の解析36本
図2 う蝕の進行の速さと深さを組み合わせた4区分の成績(原典の表3の全行)。P値は4区分の成功と失敗の分布を比べたカイ二乗検定。

なお、原典の中には数字の食い違いがあります。抄録は「失敗はすべて極めて深いう蝕だった」と書きますが、結果の本文と表2・表3では、失敗4本のうち1本は「深い」う蝕です。この記事は表と結果の本文に従いました。また、止血に4〜6分かかった歯の割合は結果の本文で53.3%、表2で58.3%(21÷36)と食い違っており、表2の値を使いました。

⑤結果の読み方

まず確かなのは、「不可逆性歯髄炎と臨床診断した大臼歯でも、術中の見極めを通った歯では、MTAの部分断髄の88.9%が1年後に成功の基準を満たした」ということです。ただし対照群がないので、ほかの処置と比べて良いかどうかは、この研究からは言えません。

失敗した4本の特徴(進行が速い・止血に4〜6分)は目を引きますが、どの比較でも有意差は検出されていません。失敗が4本だけなので、「関係がない」とも「関係がある」とも確かめきれない、というのが正確な読み方です。著者らは結論で、う蝕の深さと進行の速さ、止血時間を「重要な因子」とし、長い止血と進行の速い極めて深いう蝕は失敗と関連しうる、と述べています。これは統計的に示された結果というより、少数の失敗例の偏りからの著者の解釈と読めます(筆者の読み)。

進行の速いう蝕に失敗が集まった理由について、著者らは、進行の速いう蝕にはう蝕原性の強いバイオフィルムが多く、進行の遅いう蝕ではそれが少なく歯髄へ刺激が伝わりにくいと考えています(著者の推測。この研究では細菌や組織を調べていない)。

⑥明日の臨床へ

この研究で使われた手がかりは、どれも特別な機器なしで記録できるものです。術前の咬翼X線でのう蝕の深さ、除去中のう蝕象牙質の色・硬さ・湿り、断髄後に止血までかかった分数。これらをカルテに残しておけば、自分の症例を振り返るときの材料になります。

止血に4分以上かかった歯や、進行の速い極めて深いう蝕の歯に、この研究の失敗は集まっていました。ただし差は有意ではなく、こうした歯で説明や経過観察を変えることの効果も調べられていません。今の段階では、記録を積み重ねて自分の症例で確かめていく材料と考えるのが妥当そうです(筆者の読み)。この研究の評価時点は、全例で共通の3・6・12か月に設定されていました(4人は追跡に来院していません)。

もう1つ大事なのは、術中の見極めです。この研究では、露髄後の出血が乏しく一部壊死と判断した歯は対象外とし、術中に感染が根管口かそれより深くまで及んでいた歯と、6分で止血できなかった歯は部分断髄から外しています。88.9%は、その見極めを通った歯の数字です。

⑦ここだけ補助線

臨床で記録しやすい手がかりに目を向けた、実用的な研究です。読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・デザイン:対照群のない単群の前向き研究。1施設で、解析36本・失敗4本。因子と結果の関係を確かめるには数が少なく、どの比較も有意差は検出されなかった
・選ばれた歯:始めた50本のうち10本は術中に外れた(止血できない3本・感染が根管口以深の7本)。成績はその見極めを通った40本(解析36本)のもの
・評価の主観:深さは2次元の咬翼X線で判定、進行の速さは色・硬さ・湿りによる術者の判定で、著者らもより確かな方法が要るとしている
・追跡:1年まで。組織での確認は無い
・原典の食い違い:抄録の「失敗はすべて極めて深いう蝕」は表と合わない(失敗1本は深いう蝕)。止血4〜6分の割合も本文53.3%・表58.3%
・その他:MTAの表面を血液・リン酸緩衝液・人工唾液に7日浸した実験室の分析もあるが、臨床の結果とは別の話
失敗する歯に共通点があるかを、日々の記録で確かめていく出発点になる1本です。より多くの歯での続報が楽しみです。

今日のひとこと

不可逆性歯髄炎と臨床診断した大臼歯でも、MTAの部分断髄で1年後に解析36本の88.9%が成功の基準を満たしました(失敗4本)。失敗した4本はすべて進行の速いう蝕で、止血に4〜6分かかった歯でしたが、どの因子でも有意差は検出されていません。う蝕の色・硬さ・湿りと止血時間を記録しておき、自分の症例を振り返る材料にする——という使い方が現実的です(筆者の読み)。失敗4本・対照群なし・1年の結果です。

Aldeen RZ, Aljabban O, Almanadili A, Alkurdi S, Eid A, Mancino D, Haikel Y, Kharouf N. The Influence of Carious Lesion and Bleeding Time on the Success of Partial Pulpotomy in Permanent Molars with Irreversible Pulpitis: A Prospective Study. Bioengineering. 2023;10:700. doi: 10.3390/bioengineering10060700. PMID: 37370631
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。