エンド|抜歯予定の健全な第三大臼歯22本に部分断髄を行い、RetroMTAとProRoot MTAに11本ずつ無作為に割り付け、8週後に抜歯して歯髄の組織を比べた研究(Bakhtiar 2018・Journal of Endodontics)
硬化時間が180秒とされるRetroMTA(著者が引用した資料)。1回で処置を終えたい場面では魅力的ですが、歯髄に直接置いたときの組織の反応は分かっていませんでした。Bakhtiar らは、抜歯の予定がある健全な第三大臼歯22本に部分断髄を行い、RetroMTAとProRoot MTAに11本ずつ無作為に分け、8週後に抜歯して顕微鏡で比べました。8週までに症状が出た患者は両群ともおらず、抜歯前のX線にも根尖の病変はありませんでした。一方、組織では、象牙質の橋の厚さの分布と歯髄の組織の乱れに有意な差があり、RetroMTAは0.1mmより薄い橋が11本中6本(ProRoot MTAは0本)、歯髄が正常だったのは11本中1本(ProRoot MTAは6本)でした。炎症と、橋の形(完全・途切れた・石灰化なし)の分布は有意差を検出しませんでした。う蝕の無い健全な歯髄・各群11本・8週の組織の結果です。
①速く固まるRetroMTA、部分断髄でProRoot MTAと同じ?
露髄した歯髄にMTAを置く。ProRoot MTAは実績のある材料ですが、硬化に時間がかかります。そこで、数分で硬化するMTA系の材料に目が向きます。その1つが韓国のBioMTA社のRetroMTAです。
では、RetroMTAを歯髄に直接置いても、ProRoot MTAと同じような治り方をするのでしょうか。イランの Bakhtiar らは、抜歯の予定がある成人の第三大臼歯で部分断髄を行い、8週後に抜歯して、歯髄の組織を顕微鏡で比べました。
・抜歯予定の、う蝕の無い健全な第三大臼歯22本に部分断髄を行い、RetroMTAとProRoot MTAに11本ずつ無作為に割り付け、8週後に抜歯して組織を比べた研究
・症状とX線:両群とも症状が出て処置が必要になった患者はおらず、抜歯前のX線で根尖の病変は無かった(温冷刺激・触診・電気歯髄診は「no sensitivity」とだけ書かれ、その意味の説明は無い)
・象牙質の橋の厚さ:0.1mmより薄い橋がRetroMTA 11本中6本、ProRoot MTA 0本。0.25mmを超える橋はRetroMTA 0本、ProRoot MTA 5本。厚さの分布に有意な差があった(P=.002)
・歯髄の組織:正常な歯髄はRetroMTA 11本中1本、ProRoot MTA 6本。歯髄全体の乱れはRetroMTA 7本、ProRoot MTA 3本で、分布に有意な差があった(P=.047)
・有意差を検出しなかった項目:炎症の種類・強さ・広がりの分布(炎症なし RetroMTA 8本・ProRoot MTA 11本、P=.3)と、橋の形(完全・途切れた・石灰化の兆候なしの3区分)の分布(完全な橋 3本と7本、P=.116)
・注意:う蝕の無い健全な歯髄・各群11本・8週の組織の結果。長期の臨床成績は測っていない
②なぜRetroMTAが気になるのか
著者らの整理では、ProRoot MTAは湿った環境で硬化して封鎖性がよく、水酸化カルシウムより早く象牙質の橋を作るとされ、覆髄や断髄で高い成功率が報告されてきました。一方で、硬化に時間がかかる、操作しにくい、造影剤の酸化ビスマスで歯が変色する、という弱点があります。
RetroMTAは炭酸カルシウム・二酸化ケイ素・酸化アルミニウム・カルシウムジルコニア複合体からなり、硬化時間は180秒とされます(著者が引用した資料)。歯髄の細胞を使った実験ではProRoot MTAと同じような細胞の生存や成長因子の放出が見られ、犬の歯の断髄では連続した石灰化の層ができ、乳臼歯の断髄の臨床試験では12か月の臨床とX線の成績がMTAと同じようだったと報告されています(いずれも著者が引用した研究)。
ただ、成人の永久歯でRetroMTAを歯髄に直接置き、組織や炎症の状態を調べた研究は無かった、というのが著者らの問題意識です。
③今回の研究:抜歯予定の歯で部分断髄し、8週後に組織を見た
- 対象:18〜32歳の患者の、抜歯予定の上下の第三大臼歯22本。う蝕が無く、根尖病変が無く、根尖が完成した健全な歯。患者の人数は書かれておらず、1人に2本以上の処置をした場合は両方の材料を使った
- 割り付け:Excelでのブロック無作為化で、RetroMTA 11本とProRoot MTA 11本へ(イランの臨床試験登録あり)
- 処置:0.2%クロルヘキシジンで歯面を清拭し、局所麻酔とラバーダム防湿のもとで咬合面に窩洞を形成。滅菌生理食塩水で冷やしながらバーで直径約1.2mmの露髄を作り、滅菌綿球で止血して部分断髄を行った。処置は経験のある1人の術者
- 材料:ProRoot MTAは厚さ2mmで置いた。RetroMTAは粉0.3gを水3滴で練って、露髄部と周りの象牙質を覆った(厚さの記載は無い)。どちらもグラスアイオノマー(Ketac Molar)で修復
- 評価:1週と8週に臨床診査(電気歯髄診を含む)とX線。8週で抜歯し、ヘマトキシリン・エオジン染色の標本を、群を知らない病理医が採点した。項目は炎症の種類・強さ・広がり、象牙質の橋の厚さ(最も厚い所・薄い所・中央の3点の平均)と連続性、歯髄の組織の乱れ
- 統計:群の分布をMann-Whitney U検定で比べた
④結果:症状は出なくても、組織では橋の厚さと歯髄の乱れに差
まず臨床です。両群とも、症状が出て処置が必要になった患者はいませんでした。抜歯前のX線でも根尖の病変は見られませんでした。1週と8週の温冷刺激・触診・電気歯髄診については、原典は「no sensitivity」とだけ書いており、それが痛みが無いことを指すのか、反応が無いことを指すのかの説明はありません。
差が出たのは組織です。象牙質の橋の厚さは、ProRoot MTAでは11本すべてが0.1mm以上で、うち5本は0.25mmを超えていました。RetroMTAでは0.25mmを超えた歯は無く、6本は0.1mmより薄い橋でした。厚さの分布の差は統計的に有意でした(P=.002)。
歯髄の組織も違いました。ProRoot MTAでは11本中6本が正常な歯髄で、窩洞の下だけ乱れていたのが2本、歯髄全体が乱れていたのが3本。RetroMTAでは正常は1本だけで、窩洞の下だけ乱れていたのが3本、歯髄全体が乱れていたのが7本でした(P=.047)。
一方、有意差を検出しなかった項目もあります。炎症が無かったのはProRoot MTAで11本すべて、RetroMTAで8本で、RetroMTAの3本には慢性の炎症が見られました(強さは軽度=炎症細胞が10個未満、広がりは中等度=歯冠部の歯髄の一部)(炎症の種類・強さ・広がりの分布の比較で P=.3)。象牙質の橋の形は、ProRoot MTAが完全な橋7本・途切れた橋4本、RetroMTAが完全な橋3本・途切れた橋7本・石灰化の兆候なし1本でした(3区分の分布の比較で P=.116)。
著者らは、橋の状態と歯髄の状態を組み合わせた表3も示し、こちらもProRoot MTAのほうがよい分布でした(P=.04)。「完全な橋+正常な歯髄」はProRoot MTA 6本(55%)に対し、RetroMTA 1本(9%)でした。
⑤結果の読み方:炎症は少なくても、橋は薄く途切れがち
著者らは、RetroMTAの下で炎症が目立たなかった理由を、毒性のある成分を含まないこととアルカリ性のpHによる抗菌作用で説明しています。両材料とも歯髄との境目に石灰化を作ったのは、カルシウムの放出と、水と反応して水酸化カルシウムができることによると考えています。これらは著者の推測で、この研究で確かめたものではありません。
一方、RetroMTAの下で歯髄の組織が乱れた理由は、著者らも「合理的に説明できない」と書いています。そのうえで、途切れた石灰化では、修復物の下で歯髄を封鎖するのに十分でない可能性がある、と考察しています。犬の歯の部分断髄でRetroMTAが乱れの無い歯髄と象牙質を作ったという報告(著者が引用した研究)とは食い違っており、著者らは動物の種の違いの可能性に触れています。
著者らの結論は、「RetroMTAは歯髄の組織の乱れと途切れた石灰化を示し、永久歯の部分断髄という適応では欠点になりうる」です。
⑥明日の臨床へ
硬化が速い材料は、1回で処置を終えたい部分断髄や覆髄では魅力です。ただこの研究では、8週の時点で症状の出た患者がおらず、抜歯前のX線で根尖の病変も無くても、組織ではRetroMTAの下の橋が薄く、歯髄の組織が乱れた歯が多いという違いがありました。症状やX線の根尖病変だけでは、材料による組織の反応の違いはつかめない、ということになります(筆者の読み)。
歯髄に直接置く材料を選ぶときは、硬化の速さや操作性だけでなく、歯髄に直接置いた時のヒトの組織や臨床の報告がどこまであるかも確かめておきたいところです。この研究はう蝕の無い健全な歯髄での8週の結果なので、う蝕で露髄した歯での長期の成績は、別の研究で確かめる必要があります(ここまで筆者の読み)。
⑦ここだけ補助線
・規模と期間:各群11本・8週の1時点だけ。患者の人数は書かれておらず、1人に両方の材料を使った例がある
・対象:う蝕の無い健全な第三大臼歯で、臨床でう蝕により露髄した歯とは状況が違う(著者らも限界として挙げている)
・材料の置き方:ProRoot MTAは厚さ2mmと書かれているが、RetroMTAの厚さは書かれていない
・数字の食い違い:本文は「RetroMTAの64%が途切れた橋か橋なし」と書くが、表2・表3から数えると途切れた橋7本+橋なし1本で8本(約73%、筆者の計算)。記事は表の本数を使った。抄録と結論は「RetroMTAで炎症が無い」とまとめるが、表1では3本に慢性の炎症がある
・評価:長期の臨床成績や歯の生存は測っていない。考察は「臨床の成績はRetroMTAで明らかに劣る」と書くが、症状の出た患者は両群ともおらずX線の根尖病変も無かったので、筆者はこれを組織の結果を踏まえた表現と読む
8週でも組織にははっきり違いが出る、という視点は材料選びに役立ちます。う蝕のある歯での長期の臨床試験での確認が楽しみです。
今日のひとこと
抜歯予定の健全な第三大臼歯の部分断髄では、8週までに症状の出た患者がおらず、抜歯前のX線にも根尖病変が無くても、RetroMTAの下には薄い象牙質の橋と組織の乱れた歯髄が多く、ProRoot MTAとは組織の反応が違いました。硬化の速さだけで、歯髄に直接置く材料を選ばないための1本です。ただし各群11本・8週・う蝕の無い歯での組織の結果で、長期の臨床成績は測っていません。


