1問1答 論文 エンド

折れたファイル片、残したら予後は落ちる?——専門医の146歯で治癒率に有意差なし(Spili 2005)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管内でファイルが折れ、除去できずに残った歯は治るのか。歯内療法専門医院2施設の8460歯を振り返り、器具片が残った146歯と、条件をそろえた146歯を比べたケースコントロール研究(Spili 2005・Journal of Endodontics)

根管形成中にファイルが折れて、取れないまま根管充填した——その歯の予後は悪いのでしょうか。オーストラリア・メルボルンの歯内療法専門医院2施設(専門医7名)で1990〜2003年に治療した8460歯を振り返ると、器具片が残ったのは277歯(3.3%)。そのうち1年以上の経過観察がある146歯を、歯種・年齢・性別・術前の根尖病変・初回治療か再治療か・観察期間などをそろえた対照146歯と比べました。エックス線写真は器具片が見えないよう黒く塗りつぶし、2名の専門医が盲検で判定しています。結果、治癒率は器具片あり91.8%・対照94.5%で有意差なし(p=0.49)。術前に根尖病変があった歯に限ると86.7%対92.9%(p=0.21)で、差は開くものの有意ではありませんでした。多変量解析で治癒と有意に関連したのは術前の根尖病変だけ。著者らは「熟練した専門医の手では、器具片が残っても予後に有意な影響はなかった」と結論し、一般開業医の条件に当てはまるかはまだ分からないと付け加えています。

論文
The Impact of Instrument Fracture on Outcome of Endodontic Treatment
著者
Peter Spili、Peter Parashos、Harold H. Messer(メルボルン大学 歯学部・オーストラリア)
掲載
Journal of Endodontics 2005;31(12):845-850
種類
後ろ向きの2部構成の臨床研究第1部=メルボルンの歯内療法専門医院2施設・専門医7名が1990年1月〜2003年5月に行った非外科的根管治療(再治療を含む)8460歯の記録とエックス線写真から、器具片が残った歯の割合を調査。ロータリーNiTiが主体になった1997年以降の5103歯(専門医5名)は別に集計。第2部ケースコントロール研究。1年以上の臨床・エックス線の経過がある器具片あり146歯に、年齢・性別・歯種・術前の根尖病変の有無・初回治療か再治療か・観察期間・治療年月・術者をできるだけそろえた対照146歯を無作為に選んで組み合わせた。歯冠修復の明らかな不良・漏洩がある歯、記録やエックス線が不十分な歯は除外。器具片のある根と対照の同じ根を黒く塗りつぶし、較正した専門医2名が盲検で判定(κ=0.73)。治癒=完全治癒+治癒途中かつ臨床症状なし。統計はFisherの正確確率検定と段階的ロジスティック回帰
PMID
16306815

折れたファイル、取れなかったら「負け」ですか

根管形成の途中、手元の感触がふっと軽くなる。エックス線を撮ると、根尖側1/3に細い金属片。取りに行くべきか、このまま根管充填するか——多くの先生が一度は経験する場面です。

取れずに残したとき、頭に浮かぶのは「この歯は予後が悪いのでは」という不安です。

結論を先に言います。歯内療法専門医院で器具片が残った146歯と、条件をそろえた146歯を比べると、治癒率は91.8%対94.5%で、統計学的な差はありませんでした。予後と有意に関連したのは、器具片ではなく術前の根尖病変でした。

なぜ「器具片=予後不良」と思われてきたのか

古くから引用されてきた研究には、器具片が治癒を下げたと報告したものがあります。とくに術前に根尖病変があると悪くなる、という報告が複数ありました。一方で「影響なし」とする報告もあり、見解は割れていました。

著者らがまとめた過去の研究(原著Table 1)は、多くが少数の症例集積で、きちんとしたケースコントロール研究は1本だけ(Crump & Natkin 1970・53組)。しかも対象はすべて炭素鋼かステンレスの手用ファイルでした。
ロータリーのニッケルチタン(NiTi)ファイルが普及して10年以上たっても、NiTiの器具片が予後にどう響くかを見た臨床研究は無かった——それがこの研究の出発点です。

今回の一手:8460歯から「器具片以外はそっくりな対照」を探す

舞台はオーストラリア・メルボルンの歯内療法専門医院2施設(専門医7名)。1990年1月〜2003年5月に行った非外科的な根管治療と再治療8460歯の記録とエックス線写真を洗い直しました。
器具片が残った歯のうち、1年以上の臨床・エックス線の経過がある146歯を「ケース」に。それぞれに、年齢・性別・歯種・術前の根尖病変の有無・初回治療か再治療か・観察期間などをできるだけそろえた器具片のない歯を、候補の中から無作為に1本ずつ選んで「対照」にしました。
歯冠修復が明らかに不良な歯、記録やエックス線が不十分な歯は、どちらからも除いています。

判定の工夫がこの研究の肝です。エックス線写真の上に透明シートを重ね、器具片のある根を黒いマーカーで塗りつぶし、対照の同じ根も同じように塗りました。根尖周囲だけが見える状態で、較正した専門医2名が盲検で判定しています(判定者間の一致度 κ=0.73)。「治癒」は完全治癒+治癒途中で、臨床症状が無いものと定義しました。

結果①:治癒率は91.8%対94.5%、差は有意ではなかった

0 33.3% 66.7% 100% 治癒率(完全治癒+治癒途中・%) 98.4% 96.8% 86.7% 92.9% 91.8% 94.5% 術前の根尖病変なし 術前の根尖病変あり 全体 器具片が残った歯(146歯) 対照=器具片なし(146歯) 原著Table 3(歯単位)。濃い棒=器具片あり、淡い棒=マッチさせた対照。病変なし 62/63 vs 60/62(p=0.62)、病変あり 72/83 vs 78/84(p=0.21)、全体 134/146 vs 138/146(p=0.49)。いずれもFisherの正確確率検定で有意差なし
器具片が残った歯と対照の治癒率(原著Table 3・歯単位。いずれも有意差なし)

全体の治癒率は器具片あり91.8%(134/146)・対照94.5%(138/146)。2.7ポイントの差は有意ではありませんでした(p=0.49)

術前の根尖病変で分けても同じです。

病変なし:器具片あり98.4%(62/63)・対照96.8%(60/62)、p=0.62
病変あり:器具片あり86.7%(72/83)・対照92.9%(78/84)、p=0.21
病変ありでは6.2ポイント低く出ましたが、差の95%信頼区間は−3.0〜15.3%と広く、著者らは「臨床的な意味づけは難しい」と書いています。

結果②:予後を分けたのは、器具片ではなく根尖病変

年齢・性別・歯種・初回か再治療か・観察期間・器具片の位置・バイパスできたかどうか——これらをまとめて段階的ロジスティック回帰にかけると、治癒と有意に関連したのは術前の根尖病変だけでした(p=0.015)。病変がない歯が治るオッズは、病変がある歯と比べてオッズ比 4.8と推定されています。

原著Table 3の歯数から割合を出すと(器具片ありと対照を合算)、治らなかった歯は
病変なし:125歯中3歯(2.4%
病変あり:167歯中17歯(10.2%
治らないリスク比 約4.2(本文の割合から計算。回帰で調整する前の単純な比)
※ 上のオッズ比 4.8は「治る側」を見た回帰の調整後の値、このリスク比 約4.2は「治らない側」を見た単純集計の値で、向きも計算の仕方も違います
器具片が残った歯だけで見ても、病変ありは病変なしより11.7ポイント治りにくく、こちらは有意差ありでした。

しかも、器具片をバイパスできたかどうかも、器具片が根管のどの高さにあったかも、予後とは有意に関連しませんでした(原著はデータを示していません)。

結果③:NiTiでもステンレスでも、治癒率に有意差なし

0 33.3% 66.7% 100% 治癒率(根単位・%) 95.0% 90.9% ニッケルチタン製ロータリー ステンレス製手用ファイル 原著Table 4(根単位)。ニッケルチタン 113/119、ステンレス 30/33。Fisherの正確確率検定で有意差なし(p=0.41)。図にないペーストフィラーは5/6根(83.3%)。ステンレス製は主にパスファインダー(#06〜15)として使われていた
器具片の種類別の治癒率(原著Table 4・根単位。p=0.41で差なし)

器具片が残った根で見ると、ロータリーNiTi 95.0%(113/119)・ステンレス手用ファイル 90.9%(30/33)で、有意差はありませんでした(p=0.41)。ペーストフィラーの器具片は6根中5根(83.3%)が治癒していましたが、数が少なく比較には向きません。著者らは「NiTiの器具片が、ステンレスの器具片より予後を悪くすることはない」とまとめています。

どれくらい折れていたかも書いておきます。8460歯のうち器具片が残ったのは277歯(3.3%)。その器具片301本の78.1%がロータリーNiTi77.1%が根尖側1/3にありました。NiTiが主体になった1997年以降(5103歯)では5.1%(NiTi 4.4%・ステンレス 0.7%)で、年を追っても、経験を積んでも一貫して下がる傾向はありませんでした。

なぜ器具片の影響は小さかったのか

著者らの説明は2つです。

治療の質が高かった:厳密な無菌的処置のもと、経験のある専門医が行った治療だった。
本当に効くのは「どこまで清掃できていたか」:最終的な予後は、器具が形成のどの段階で折れたか、つまり細菌の制御がどこまで損なわれたかで決まる可能性が高い。ただし、この研究のデータではそこまでは分からない、と著者ら自身が断っています。

器具片そのものが悪さをするというより、器具片の先に取り残された感染が問題になる——そう読むと、病変の有無が効いてくる結果とつながります。

明日の臨床へ

折れた=予後不良、と即断しない。専門医の水準の治療なら、器具片が残っても治癒率は対照と有意差がありませんでした。
見るべきは根尖病変。病変のない歯では98.4%対96.8%でほぼ差がなく、病変のある歯では6.2ポイント低かったものの、有意差はありませんでした(p=0.21)。器具片を残した歯の見通しを立てるとき、術前の病変の有無がまず見るべき目安になります。
著者らが予後の鍵と見ているのは、折れた段階での細菌の制御です。この研究で直接確かめたことではありませんが、器具片を残す場合も、そこまでの根管をどれだけ清掃できているかを意識しておく価値はあります。
患者さんへの説明の材料になる。「器具片が残っても、治癒率は残っていない歯と大きく変わらなかった」という専門医院のデータがあります。ただし一般開業医でも同じかは分かっていない点は、正直に添えておきたいところです。

ここだけ、冷静に補助線

これは専門医院2施設の記録を振り返った後ろ向き研究です。器具片が残った277歯のうち、1年以上の経過が追えた146歯しか比較に入っておらず、観察期間は56.8%が1〜2年と短めです(治癒途中の歯が多く含まれます)。エックス線は規格化されていないものが主体でした。病変ありの歯での6.2ポイントの差は信頼区間が広く、「差がない」ことを証明したわけではなく、「有意な差は見つからなかった」という結果です。器具が形成のどの段階で折れたかは記録されておらず、歯冠修復が不良な歯は除外されています。著者の一人(Parashos)は参加した医院の院長で、原著に資金源・利益相反の記載はありません。著者ら自身が「一般開業医の条件に当てはまるかはまだ分からない」と書いているとおり、専門医の水準の治療での成績として受け取るのが妥当です。それでも、NiTiが主体の器具片を、過去の研究を合わせたのに匹敵する146組のケースコントロールで検証し、「器具片より根尖病変」という見取り図を示した点は、折れた後の判断を落ち着かせてくれる材料です。

今日のひとこと

著者らの結論:熟練した専門医の手では、根管内に器具片が残っても、非外科的根管治療・再治療の予後に有意な影響はなかった。治癒率は器具片あり91.8%・対照94.5%(p=0.49)。予後を左右したのは器具片ではなく術前の根尖病変で、多変量解析で有意に関連したのはこれだけでした(病変なしの歯が治るオッズは、病変ありと比べてオッズ比 4.8。これは治る側を見た回帰の調整後の値で、表の歯数から出した「治らない」リスク比 約4.2は調整前の単純集計)。ただし病変ありの歯では86.7%対92.9%と6.2ポイントの差があり、95%信頼区間は−3.0〜15.3%と広く、「差がない」と言い切れるほどの数でもありません。折れた瞬間に青ざめる前に、根尖病変の有無と、そこまでにどれだけ清掃できていたかを冷静に見る——この論文の持ち帰りはそこです。専門医院の成績であり、一般開業医の条件に当てはまるかは著者ら自身も「まだ分からない」としています。

Spili P, Parashos P, Messer HH. The impact of instrument fracture on outcome of endodontic treatment. J Endod. 2005;31(12):845-850. PMID: 16306815
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。