エンド|支台築造・補綴:根管治療してMOD窩洞を作った抜去下顎大臼歯を、CRのみ・フロアブル+CR・ポリエチレン繊維リボン+フロアブル+CRで修復し、健全歯・修復なしの歯と、試験機で壊れるまでの荷重を比べた実験室研究(Belli・Erdemir・Ozcopur・Eskitascioglu 2005・International Endodontic Journal)
根管治療を終えた下顎大臼歯。近心も遠心も辺縁隆線が無く、MOD の大きな窩洞が残っている。CR で詰めるだけで割れないか、気になる場面です。トルコの Belli らは2005年、抜去歯でこの状況を作り、CR の下にポリエチレン繊維のリボンを敷くと壊れにくくなるかを試しました。繊維を入れた群は壊れるまでの荷重の平均が943.63 Nで、CRのみ(733.23 N)とフロアブル+CR(786.48 N)より有意に高くなりました。フロアブルを足しただけでは、CRのみと有意差を検出しませんでした。ただし抜去歯の実験室研究で各群12本、24時間保管したあと試験機で1回だけ押した結果です。健全歯(1676.75 N)には届かず、口の中での長期の成績や、咬頭の被覆・クラウンとの比較は調べていません。
①MODの根管治療歯、CRだけで割れない?
根管治療を終えた下顎大臼歯。近心も遠心も辺縁隆線が無く、MOD の大きな窩洞が残っている。クラウンまで進むか、まずはコンポジットレジン(CR)で詰めるか。CR で詰めるなら、何か補強を足したほうが割れにくいのか――迷う場面です。
この疑問を抜去歯で試したのが、トルコの Belli・Erdemir・Ozcopur・Eskitascioglu が2005年に International Endodontic Journal に出した論文です。CR の下にフロアブルレジンを敷く方法と、さらにその中にポリエチレン繊維のリボンを埋める方法を、試験機で壊れるまでの荷重で比べました。
・抜去した下顎大臼歯60本(各群12本)の実験室研究。群2〜5は根管治療して MOD 窩洞を作り、24時間保管したあと試験機で1回だけ圧縮して、壊れた荷重を測った
・壊れるまでの荷重の平均は、繊維+フロアブル+CR が943.63 Nで、CRのみ(733.23 N)とフロアブル+CR(786.48 N)より有意に高かった
・フロアブルを足しただけでは、CRのみと有意差を検出しなかった
・どの修復の群も、健全歯(1676.75 N)よりは有意に低かった
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、根管治療した歯は象牙質の弾性や水分が減り、窩洞が深く、象牙質が多く失われているため、割れやすいと考えられていると整理しています。最終修復には全部被覆の鋳造冠、咬頭を覆う間接法の鋳造修復、アマルガム、コンポジットレジンなどが使われてきました。
接着の進歩で、大きな窩洞も CR で直接修復できるようになりました。ただ、CR と歯が接着していると、CR の重合収縮によって接着の境目に力(収縮応力)が生じます。この力を和らげるために、接着材と CR の間にやわらかいフロアブルを「緩衝の層」として敷く方法が提案されてきました。
一方、繊維で補強したコンポジットレジン(FRC)は、ブリッジや固定に使われてきましたが、大きな CR 修復の中に繊維を「緩衝の層」として入れる効果は調べられていなかった、と著者らは書いています。そこで「CR の下にフロアブル、あるいはポリエチレン繊維のリボンで弾性のある層を作ると、MOD 窩洞の根管治療歯の破折強さが上がる」という仮説を立てました。
③何をどう調べたか
・試料:抜歯したばかりの成熟した下顎大臼歯60本。大きさが似ていて、むし歯・摩耗による欠損・鉗子による傷・破折の無いもの。無作為に5群(各12本)に分けた
・群1(健全歯):窩洞も根管治療もしない対照
・群2〜5の共通の処置:K ファイルで #35 までステップバック法で根管形成し、5.25%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄、ガッタパーチャと AH Plus シーラーの側方加圧で根管充填。そのあと根管口の深さまでの MOD 窩洞を作った(残した壁の厚さは、頬側が咬合面で2mm・セメントエナメル境で2.5mm、舌側がどちらも1.5mm)
・群2:修復しない
・群3:接着材(SE Primer・SE Bond)のあと CR(Clearfil AP-X)を一括で充填
・群4:接着材のあと、フロアブル(Protect Liner F)を窩洞の面に1層塗って光重合し、その上に CR を一括で充填
・群5:接着材とフロアブルを塗り、固める前に、接着材をなじませたポリエチレン繊維のリボン(Ribbond・長さ8mm・幅3mm)を頬側から舌側へフロアブルの中に埋めて光重合し、その上に CR を一括で充填(原著の図5の模式図では、繊維は窩洞の床から頬側・舌側の壁に沿って描かれている)
・試験:37℃・湿度100%で24時間保管したあと、試験機で、直径5mmの金属の棒を頬側と舌側の咬頭に触れるように咬合面に当て、毎分0.5mmで圧縮。歯が壊れた時の荷重(N)を記録した
・解析:一元配置分散分析と Tukey 法で5群を比べた(有意水準0.05)
層を重ねる積層充填ではなく一括充填にしたのは、積層の影響を除いて、フロアブルと繊維の効果だけを見るためだと著者らは書いています。
④結果:繊維を入れた群が、ほかの修復の群より高かった
壊れるまでの荷重の平均は、健全歯が1676.75 N、MOD 窩洞で修復しない歯が376.51 N でした。CR で修復すると、CRのみで733.23 N、フロアブル+CR で786.48 N、繊維+フロアブル+CR で943.63 N でした。
・健全歯は、ほかの4群より有意に高かった
・CR で修復した2群(群3・群4)は、修復なしより有意に高かった
・フロアブルを足した群4は、CRのみの群3と有意差を検出しなかった
・繊維を入れた群5は、群3・群4より有意に高かった(群5も群4と同じくフロアブルを使っているので、群4との差は、フロアブルの上に繊維を足した分と読める)
なお、どの比較も原著には「P<0.05」「P>0.05」としか書かれておらず、個々の P値の数字はありません。歯がどう割れたか(修復できる割れ方か、歯根まで割れたか)も記録されていません。
⑤結果の読み方:なぜ繊維で上がったのか
著者らは、窩洞を作ると歯の強さが有意に下がったことは、これまでの多くの研究と同じだと書いています(この研究で比べたのは、健全歯と、根管治療して MOD 窩洞を作った歯です。根管治療だけで窩洞の無い群はありません)。
繊維で上がった理由については、次のように推測しています。いずれも著者らの考察で、この研究で境目の力を測ったわけではありません。
・ポリエチレン繊維の弾性の性質が、修復物と歯の境目に生じる力のかかり方を変えたのかもしれない(牛のエナメル質の平らな面で4種の繊維材料を試し、1種が接着強さを上げたという別の実験室研究も引用している)
・フロアブルを足しても有意な上昇を検出しなかった理由として、MOD 窩洞の中の収縮応力を補うには、フロアブルの層が薄すぎたのかもしれない
・この研究は平らな面ではなく MOD 窩洞で試したので、平らな面なら結果は違うかもしれない
⑥明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・フロアブルを敷くだけでは、有意差を検出しなかった:「フロアブルを敷けば割れにくい」とは、この研究からは言えない
・それでも健全歯の平均(1676.75 N)には届かなかった:繊維を入れても、失われた歯質が戻るわけではない
・口の中での長期の成績や、割れ方は調べていない:咬頭の被覆・アンレー・クラウンとも比べていないので、それらの代わりになるかは分からない
大きな MOD 窩洞の根管治療歯を CR で修復する時に、繊維で補強するという選択肢があり、その考えが実験室の試験では支持された――という位置づけで持ち帰りたい一本です。咬頭を覆うか、間接修復やクラウンにするかの判断は、この研究とは別に考える必要があります。
(2)24時間保管したあと、1回だけ押して壊した静的な試験です。温度変化や、かむ動作の繰り返し(疲労)の負荷はかけておらず、著者らも長い期間の口の中での負荷が結果を変え得ると書いています。
(3)歯の割れ方は記録されておらず、繊維の長さ・幅・向きも1通りだけです。CR は一括充填で、積層充填とは比べていません。
(4)咬頭の被覆、間接修復、クラウンとは比べていません。
(5)原著の抄録は群5を「繊維を入れて接着材と CR で修復」と書いていますが、方法と表1では群5もフロアブルを使っています。記事は方法と表1に従いました。資金・利益相反の記載は無く、謝辞に繊維とレジンのメーカーから材料の提供を受けたとあります。
「CR の下に繊維を入れると、実験室では壊れるまでの荷重が上がった」という点で、補強の可能性を示した結果です。口の中で長くもつかは、続く研究で確かめたいところです。
今日のひとこと
根管治療してMOD窩洞を作った抜去下顎大臼歯では、CRの下にポリエチレン繊維リボンを入れた群の壊れるまでの荷重の平均(943.63 N)が、CRのみ(733.23 N)・フロアブル+CR(786.48 N)より有意に高くなりました。フロアブルを足しただけでは有意差を検出していません。ただし抜去歯・各群12本・24時間後に1回押しただけの実験室の結果で、健全歯(1676.75 N)には届いていません。「繊維で補強する考えは実験室では支持された。口の中でどれだけ長くもつか、咬頭の被覆やクラウンと比べてどうかは、まだ分からない」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。


