エンド|単根・単根管の感染した歯60本(44人)を、次亜塩素酸ナトリウム0.5%・1.0%・2.6%・5.2%の4群(各15本)にくじ引きで割り付け、洗浄の前後の根管内の菌(培養)と術後7日間の痛みを比べたガーナの前向き臨床研究(Konadu・Ampofo・Akyeh・Hewlett・Osei-Tutu・Nyako 2024・PLOS ONE)
根管洗浄の次亜塩素酸ナトリウムは、何%で使えばよいのか。Konadu らは、ガーナの大学歯科の診療室で、44人60本の歯を4つの濃度にくじ引きで割り付け、洗浄の前後に根管から採った菌を培養しました。どの濃度でも菌数は洗浄前より有意に減り、洗浄後に菌が培養された歯は2.6%と5.2%で15本中0本、0.5%と1.0%で15本中1本ずつでした。ただし4つの濃度の間の検定では、洗浄後の菌数にも術後の痛みにも有意差を検出していません。術後の痛みは60本中11本の軽い痛みだけで、中等度以上の痛みはありませんでした。各群15本の小さな研究で、X線での治り方は調べていません。
①次亜塩素酸ナトリウム、濃度は高いほうがいい?
根管洗浄の次亜塩素酸ナトリウム。手元にあるのは何%でしょうか。濃いほうが菌はよく減りそうだけれど、根尖の外へ押し出したときが怖い。薄いほうが安心だけれど、効き目は足りるのか。濃度は医院ごと・人ごとにまちまちで、迷いやすいところです。
この問いを、実際の患者さんの根管で確かめようとしたのが、ガーナ大学の Konadu らの研究(PLOS ONE 2024)です。0.5%・1.0%・2.6%・5.2%の4つの濃度で洗浄し、洗浄の前後に根管から採った菌を培養して比べました。
・単根・単根管の感染した歯60本(44人)を、4つの濃度の群(各15本)にくじ引きで割り付けた前向きの臨床研究
・根管の菌:洗浄の前は60本すべてで菌が培養された。どの濃度でも、洗浄後の菌数は洗浄前より有意に減った
・洗浄後に菌が培養された歯:2.6%と5.2%は15本中0本、0.5%と1.0%は15本中1本ずつ(残ったのはレンサ球菌の S. mitis と S. oralis)
・濃度の間の比較:洗浄後の菌数を4群で比べた検定では、有意差を検出しなかった
・術後の痛み:術後7日間に痛みを記録した60本のうち、軽い痛みが11本(18.3%)、中等度以上は0本。痛みの割合も痛みの値も、濃度の間で有意差を検出しなかった
・注意:各群15本と小さく、「濃度で差がない」ことを確かめた研究ではありません。X線での治り方は調べていません
②なぜこの研究が必要だったか
著者らによると、次亜塩素酸ナトリウムは根管洗浄でいちばん使われている薬液です。安価で、有機質を溶かし、菌を殺す力があります。一方で、誤って根尖の外へ押し出すと周りの組織を刺激し、痛みの原因になります。理想の濃度については議論が続いていて、0.5%から6.0%までの幅が提案されてきた、と著者らは書いています。
著者らが引用した調査では、ガーナの歯科医師の73.7%が次亜塩素酸ナトリウムを日常的に使い、その濃度はさまざまでした。ところがガーナでは、どの濃度が効いて合併症が少ないかを調べた臨床研究がありませんでした。経済的な理由や歯科の不足で受診が遅れがちな地域で、手元のデータを作ろうとしたのがこの研究です。
③何をどう比べたか
・研究の種類:前向きの臨床研究。2016年9月〜2017年7月、ガーナ大学歯学部の歯内療法外来
・対象:18歳以上で、根管治療が必要な単根・単根管の感染した歯(根管の再治療・最近1か月の抗菌薬・歯根の形態異常・歯周の問題・修復の見通しが悪い歯は除外)。44人の60本で、上顎中切歯が31本(51.7%)と半数を占めた。診断は症状のある根尖性歯周炎16本、症状の無い根尖性歯周炎14本、不可逆性歯髄炎13本、歯髄壊死10本など
・割り付け:歯を、くじ引き(balloting)で4つの濃度の群に15本ずつ割り付けた。1人で2本以上の歯がある人は、1本目をくじで決め、2本目以降は順番で次の群に入れた
・手順:同じ術者がラバーダム下で、手用ファイル(ProTaper)のクラウンダウンで形成。側方開口の23ゲージ針で、割り付けた濃度の次亜塩素酸ナトリウムと生理食塩水でたっぷり洗浄した。形成のあと根管を薬液で満たして5分置き、さらに5mL流し、最後に生理食塩水10mLで洗った。水酸化カルシウムを貼薬し、2回目の来院で根管充填
・評価:洗浄の前(S1)と、最後の洗浄の直後で貼薬の前(S2)に、紙ポイントで根管から試料を採り、嫌気・好気で培養して菌数(cfu/mL)を数え、MALDI-TOF 質量分析で菌の種類を調べた。痛みは、処置前と術後7日間を10cmのVAS(0〜10)で記録
・まとめ方:群の中の治療前後は Wilcoxon 符号付順位検定、4つの濃度の間は Kruskal-Wallis 検定、痛みの区分の割合はカイ二乗検定
研究の大きさ(60本)は、主な評価項目である菌数の減り方について、低い濃度と高い濃度の間の差を見つける前提で計算されていました。くじ引きの割り付けですが、2本目以降の歯は順番で決めていること、術者や評価者が群を知らされていなかったかの記載が無いことは、読むときに押さえておきたい点です。
④結果:根管の菌はどう変わったか
洗浄の前の試料は、60本すべてで菌が培養されました。1本の根管から少なくとも2種類の菌が見つかり、全体で53種・20属。いちばん多かったのはレンサ球菌(Streptococcus)でした。
4つの濃度ごとの結果を、菌と痛みの両方で表にまとめます。
・菌数:どの濃度でも、洗浄後の菌数は洗浄前より有意に減りました(群の中の比較で p≦0.001)
・洗浄後に菌が培養された歯:2.6%と5.2%では、菌が培養された歯は各15本中0本。0.5%と1.0%では15本中1本ずつで、残っていたのはレンサ球菌の S. mitis と S. oralis の1種ずつでした(その2本の診断は、急性根尖膿瘍と症状のある根尖性歯周炎)
・濃度の間の比較:洗浄後の菌数を4つの濃度で比べた Kruskal-Wallis 検定では、有意差を検出しませんでした。同じ検定のp値は、表1では0.565、本文では1.00と2通り書かれています。どちらでも有意差を検出していない点は同じです
「0本」と「15本中1本」の違いは、各群でちょうど1本ずつの差です。著者らは「低い濃度は、効いてはいるが高い濃度ほどではない」と考察していますが、菌が培養された歯の割合を濃度の間で比べた検定は示されていません。
⑤術後の痛みはどうだったか
痛みは、60本を合わせて見ると処置の前より術後に軽くなっていました(Wilcoxon 符号付順位検定 p<0.001)。
・術後の痛み:60本中49本(81.7%)は痛みなし、11本(18.3%)が軽い痛み(VAS 1〜3)、中等度以上は0本。軽い痛みは最初の処置から24時間以内に出て、48時間で消えたと書かれています(考察の節では16.7%と書かれた箇所もあります)
・濃度の間の比較:痛みのある人の割合(カイ二乗検定 p=0.696)も、術後の痛みのVAS(Kruskal-Wallis 検定 p=0.430)も、濃度の間で有意差を検出しませんでした
・群の中の変化:処置前から術後への痛みの減り方は、1.0%と2.6%の群で有意(どちらも p=0.005)、0.5%(p=0.26)と5.2%(p=0.15)の群では有意差を検出しませんでした。処置前の痛みの平均が群ごとにばらつき(1.87〜3.2)、各群15本と少ないので、ここから濃度の優劣は読めません
著者らは、機械的な清掃と洗浄で壊死組織と菌の産物が取り除かれたことが、痛みの少なさにつながったのではないかと考察しています。これはこの研究で確かめたことではなく、考察の中の説明です。
⑥明日の臨床へ
著者らは結論で、1.0%を超え2.6%までの濃度で、根管を十分に消毒できる可能性があるとまとめています。ただし、この研究の濃度の間の検定では、菌数にも痛みにも有意差を検出していません。2.6%と5.2%で洗浄後に菌が培養されなかったことは目を引きますが、低い濃度との違いは各群15本のうち1本ずつです。
この研究の菌の結果は、形成のあと薬液を5分ためて5mL流し、生理食塩水10mLで洗った直後に採った試料のものです(水酸化カルシウムの貼薬より前)。濃度だけでなく、こうした手順を通した結果で、どの部分がどれだけ効いたかは分けて調べていません。手元の濃度を変えるかどうかを考えるときも、ためる時間・量・針の届き方まで含めて見直すほうが、この論文に合った使い方だと思います(ここは筆者の読みです)。術後の痛みは、5.2%の群を含めてどの群でも中等度以上は出ていません。ただ、根尖の外へ押し出したときの安全性は、この研究では調べていません。
⑦ここだけ補助線
・研究の大きさ:各群15本、合わせて44人60本。1人で2本以上の歯が入った人もいて、2本目以降は順番で群に入れています。術者・評価者が群を知らされていなかったかの記載はありません
・測ったもの:紙ポイントで採れた、培養できる菌と、術後7日間の痛みです。根尖病変がX線で治ったかどうかは調べていません。対象の歯の半数は上顎中切歯でした
・数の食い違い:同じ比較のp値が表と本文で違う(洗浄後の菌数 0.565と1.00)、術後の痛みの割合が18.3%と16.7%の2通り、など原典の中に食い違いがあります
「どの濃度でも、手順をそろえれば菌は大きく減った」という手応えと、「濃度の差を言い切るには小さい」という幅の両方を持って読みたい1本です。
今日のひとこと
この研究では、0.5%から5.2%のどの濃度でも根管の菌は有意に減り、洗浄後に菌が培養された歯は2.6%と5.2%で0本、0.5%と1.0%で15本中1本ずつでした。ただし4つの濃度の間の検定では、菌数にも術後の痛みにも有意差を検出していません。各群15本の小さな研究で、X線での治り方は調べていません。「濃度の数字だけで決めず、ためる時間・量まで含めた洗浄の手順全体で考える。5.2%の群でも、術後に中等度以上の痛みが出た歯は無かった」というのが、この論文に合った読み方です。


