エンド|ポストの種類(鋳造ポストコア・既製スチールポスト・グラスファイバーポスト)と長さ(5.0・7.5・10.0mm)で、歯根表面のひずみ・破折抵抗・壊れ方がどう変わるかを比べたウシの歯の実験(Santos-Filho・Castro・Silva・Campos・Soares 2008・International Endodontic Journal)。ウシの切歯の歯根135本・9群・1回の荷重で壊した実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない
「ポストは歯冠と同じ長さか、歯根の3分の2まで」。こう習った長さの目安は、もともと鋳造メタルポストについて語られたものでした。Santos-Filhoらは2008年、ウシの切歯の歯根135本を、ポスト3種類(鋳造ポストコア・既製スチールポスト・グラスファイバーポスト)×長さ3通り(5.0・7.5・10.0mm)の9群に分け、全部に2mmのフェルールと金属冠を与えて、壊れるまで荷重をかけました。ポストを10.0mmから5.0mmへ短くすると、破折抵抗の平均は鋳造ポストコアで769.85→399.23 N、既製スチールポストで698.76→390.16 Nと有意に下がりました。グラスファイバーポストは618.46→607.18 Nで、長さによる有意差はありません。壊れ方は、メタルポストの90本中80本が歯根破折、グラスファイバーポストは45本中44本がレジンコアかポストの破折でした。ウシの歯に1回の荷重をかけた実験室の研究で、臨床での破折率や歯の予後を調べたものではありません。
①ポストは長いほど折れにくい?ファイバーポストでも同じ?
根管治療した歯にポストを立てるとき。「歯冠と同じ長さ」「歯根の3分の2」といった長さの目安を習った方は多いと思います。一方で、深く形成するほど歯質は減り、根尖の封鎖にも気を使います。
著者らは序論で、こうした長さの目安はもともと鋳造メタルポストについて述べられたもので、性質の違う既製メタルポストやファイバーポストへ、そのまま持ち込まれてきたと指摘しています。では、ポストの材料が違えば、長さの影響も違うのでしょうか。Santos-Filhoらは2008年、ウシの歯を使ってこれを確かめました。
先に断っておきます。これはウシの歯の歯根に1回の荷重をかけて壊した実験室の研究です。患者さんの口の中で、何年後に何本が破折したかを調べた研究ではありません。
・ポストを10.0mmから5.0mmへ短くすると、破折抵抗の平均は鋳造ポストコアで769.85→399.23 N、既製スチールポストで698.76→390.16 N。どちらも有意に下がった
・グラスファイバーポストは618.46→607.18 N。長さによる有意差はなかった
・5.0mmでは、グラスファイバーポストがメタルポスト2種類より有意に高かった。10.0mmでは、鋳造ポストコアがグラスファイバーポストより有意に高かった
・壊れ方は、メタルポストの90本中80本が歯根破折。グラスファイバーポストは45本中44本がレジンコアかポストの破折
②実験の組み立て:ポスト3種類×長さ3通りの9群
使ったのは、大きさと形をそろえたウシの切歯135本です。根尖から15.0mmの位置で歯冠を切り落とし、歯根だけにしました。根管を形成し、ガッタパーチャとシーラーの側方加圧で根管充填しています。
・歯根をポストの種類3つに無作為に割り付け(各45本)、さらに長さ別の3群(各15本)に分けた
・ポストの種類:鋳造ポストコア(Ni-Cr合金。原著の略号はCPC)、既製スチールポスト(ステンレス鋼。PSP)、グラスファイバーポスト(FGP)
・ポストの長さ:5.0mm・7.5mm・10.0mm
・ポストの歯頸部の直径は、鋳造ポストコアが2.0mm、既製スチールポストとグラスファイバーポストが1.5mm(原著の表1)
・グラスファイバーポストには、エックス線写真で位置を確かめるためのステンレスの細い線(0.2mm)が入っている
ポストは3種類とも同じ手順で接着しました。根管をリン酸でエッチングし、接着システムを塗って光照射し、自己重合型のレジンセメントで装着しています。既製スチールポストとグラスファイバーポストのコアは、鋳造ポストコアの形を基準にしてコンポジットレジンで築盛しました。
歯根の表面はポリエーテル印象材の薄い層(0.3mm)で覆って歯根膜を模し、歯頸部の4mm下までポリスチレン樹脂に植えています。支台歯は、削除量1.5mm・フェルール2.0mmで形成し、全部にNi-Cr合金の金属冠を同じ手順で接着しました。
測ったものは3つです。1つめは歯根表面のひずみ。各群5本の歯根に、頬側面と隣接面の2か所、金属冠のマージンから1mmの位置にひずみゲージを貼り、歯軸に対して45度の方向から100 Nまで荷重をかけました(壊さない測定です)。2つめは破折抵抗。37℃の水が循環する装置の中で、口蓋側の切り込みに刃の形の圧子を当て、クロスヘッド速度0.5mm/分で壊れるまで荷重をかけています。3つめは壊れ方で、5つの様式に分類しました。破折抵抗の比較には、二元配置分散分析とTukeyの検定(有意水準5%)を使っています。
③結果:メタルポストは短いほど有意に低く、ファイバーポストは長さによる有意差がなかった
二元配置分散分析では、ポストの種類と長さの交互作用が有意でした。つまり、長さの効き方がポストの種類によって違った、ということです。
・鋳造ポストコア:10.0mm 769.85 ± 68.5 N、7.5mm 540.01 ± 86.2 N、5.0mm 399.23 ± 90.0 N。3つの長さの間はどれも有意差あり
・既製スチールポスト:10.0mm 698.76 ± 96.8 N、7.5mm 502.77 ± 134.7 N、5.0mm 390.16 ± 94.6 N。3つの長さの間はどれも有意差あり
・グラスファイバーポスト:10.0mm 618.46 ± 177.5 N、7.5mm 615.76 ± 127.7 N、5.0mm 607.18 ± 139.7 N。3つの長さの間に有意差なし
・10.0mm:鋳造ポストコアが、グラスファイバーポストより有意に高い。既製スチールポストは、どちらとも有意差なし
・7.5mm:グラスファイバーポストが、既製スチールポストより有意に高い。鋳造ポストコアは、どちらとも有意差なし
・5.0mm:グラスファイバーポストが、鋳造ポストコア・既製スチールポストの両方より有意に高い。メタルポスト2種類の間に有意差なし
平均で比べると、5.0mmの鋳造ポストコアは10.0mmのときよりおよそ48%低い値です(399.23 ÷ 769.85 = 約0.52。筆者の計算)。既製スチールポストはおよそ44%低く(390.16 ÷ 698.76 = 約0.56。筆者の計算)、グラスファイバーポストの差はおよそ2%でした(607.18 ÷ 618.46 = 約0.98。筆者の計算)。
④壊れ方:メタルポストは歯根、ファイバーポストはコアかポスト
壊れ方は、5つの様式に分けられました。Ⅰ=レジンコアまたはポストの破折、Ⅱ=歯頸部の歯根破折、Ⅲ=歯根中央部の歯根破折、Ⅳ=根尖部の歯根破折、Ⅴ=垂直性歯根破折です。著者らはⅠを「修復できる壊れ方」、歯根破折を「修復できない壊れ方」と位置づけています。
・鋳造ポストコア 5.0mm:Ⅱ 11本、Ⅲ 1本、Ⅴ 3本
・鋳造ポストコア 7.5mm:Ⅲ 9本、Ⅳ 2本、Ⅴ 4本
・鋳造ポストコア 10.0mm:Ⅴ 15本
・既製スチールポスト 5.0mm:Ⅰ 1本、Ⅱ 10本、Ⅲ 1本、Ⅴ 3本
・既製スチールポスト 7.5mm:Ⅰ 4本、Ⅲ 8本、Ⅳ 1本、Ⅴ 2本
・既製スチールポスト 10.0mm:Ⅰ 5本、Ⅳ 2本、Ⅴ 8本
・グラスファイバーポスト 5.0mm:Ⅰ 15本
・グラスファイバーポスト 7.5mm:Ⅰ 15本
・グラスファイバーポスト 10.0mm:Ⅰ 14本、Ⅱ 1本
表3を足し合わせると(筆者の集計)、鋳造ポストコアは45本すべてが歯根破折、既製スチールポストは45本中35本が歯根破折でした。メタルポスト全体では90本中80本です。グラスファイバーポストは45本中44本がレジンコアかポストの破折で、歯根破折は10.0mmの群の1本でした。
目を引くのは、平均の破折抵抗がいちばん高かった10.0mmの鋳造ポストコアです。壊れたときは、15本すべてが垂直性歯根破折でした。「高い荷重に耐えること」と「壊れたあとに歯を残せること」は、この実験では別の結果になっています。
⑤歯根表面のひずみと、差が出た理由(著者らの考察)
ひずみゲージの値(マイクロストレイン。100 Nまでの荷重。各群5本)は、次のとおりでした。
・鋳造ポストコア:頬側面 335 → 460 → 730、隣接面 90 → 130 → 200
・既製スチールポスト:頬側面 700 → 960 → 1360、隣接面 106 → 138 → 216
・グラスファイバーポスト:頬側面 780 → 840 → 880、隣接面 78 → 80 → 80
頬側面のひずみは、3種類ともポストが短いほど大きくなりました。ただし増え方が違います。メタルポスト2種類は、5.0mmで10.0mmのおよそ2倍になりました(原著の記載)。グラスファイバーポストの増え方は小さく、隣接面ではほとんど変わっていません。
注意したいのは、値そのものの大小です。10.0mmどうしで比べると、頬側面のひずみがいちばん小さいのは鋳造ポストコア(335)で、グラスファイバーポスト(780)のほうが大きい値です。「ファイバーポストはひずみが小さい」のではなく、「ファイバーポストは長さを変えてもひずみの変化が小さかった」というのが表4の内容です。なお、ひずみの値について、検定の結果(P値や群分け)は原著の結果に示されていません。
・グラスファイバーポストは弾性率が象牙質に近い。そのため、修復した歯根が健全な歯に近い形でたわみ、長さを変えてもひずみと破折抵抗が安定した
・メタルポストは弾性率が高く、変形しにくい。境界に応力が集中しやすく、ポストが短いとその影響が強く出た
・隣接面のゲージは歯軸と直角の向きに貼られ、引っ張りのひずみを測っている。この引っ張りは根管の内側から始まり、亀裂を通って破局的な破折につながりうる
⑥明日の臨床へ
・ポストの長さが有意な因子だったのはメタルポストだけで、グラスファイバーポストの挙動には影響しなかった
・長さ10.0mmでは、鋳造ポストコアの破折抵抗がいちばん高かった
・グラスファイバーポストは、調べた3つの長さのどれでも同じように働き、5.0mmでは鋳造ポストコアより破折抵抗が高かった
・メタルポストは歯根破折を伴う「修復できない壊れ方」、グラスファイバーポストはレジンコアかポストの破折という「修復できる壊れ方」だった
補足します。結論の「同じように働き」は著者らの表現です。表2が示しているのは「3つの長さの間に有意差がなかった」ことで、同等だと確かめられたわけではありません。10.0mmでいちばん高かった鋳造ポストコアも、既製スチールポストとの間には有意差がありません(表2)。
著者らは考察で、接着で装着するポストは深く入れなくても同じ程度の保持が得られるという報告を引き、術者がより保存的になれる、と述べています。同時に、根尖側3分の1では光が届きにくく接着が不利になることにも触れ、根尖側の接着が非メタルポストの保持に与える影響は、さらに研究が必要だとしています。
・メタルポストを選ぶなら、長さを確保する意味がある。それを支持する実験です
・グラスファイバーポストでは、5.0〜10.0mmの範囲で破折抵抗に有意差がありませんでした。ただし、これは「ファイバーポストは短くてよい」と臨床で確かめた結果ではありません
・この実験が測ったのは破折抵抗・壊れ方・ひずみです。ポストの脱離(保持力)は測っていません
・全部の歯に2mmのフェルールがありました。フェルールが取れない歯に、この結果をそのまま当てはめることはできません
ポストを使わない対照群はありません。ウシの歯根では修復物を保持するのにポストが必要だったため、と著者らは説明しています。したがって、ポストを入れること自体の是非は、この実験からは分かりません。条件も限られています。歯はウシの切歯、フェルールは全部2mm、歯冠は金属冠、荷重の方向は1通りです。
読むときに気をつけたい点が3つあります(筆者の指摘)。(1)鋳造ポストコアは歯頸部の直径が2.0mm、ほかの2種類は1.5mmです。コアも、鋳造ポストコアは金属の一体型、ほかの2種類はコンポジットレジンです。ポストどうしの差には、材料だけでなく太さとコアの違いも重なっています。鋳造ポストコアにはレジンコアがないので、「レジンコアの破折」という壊れ方は起こりにくい条件でもあります。(2)ひずみを測ったのは各群5本で、検定の結果は示されていません。(3)使われたグラスファイバーポストはステンレスの細い線が入った製品で、ほかのファイバーポストに同じ結果が当てはまるかは調べられていません。
原著の中で、記載がそろわない箇所もあります。考察の本文は、グラスファイバーポストはどの長さでもレジンコアかポストの破折だったと書いていますが、表3では10.0mmの群の1本が歯頸部の歯根破折です。5.0mmでの比較は、抄録と考察では「メタルポストより高い」、結論の項では「鋳造ポストコアより高い」と書かれています(表2では、鋳造ポストコア・既製スチールポストの両方より有意に高い)。ひずみについても、結果の項は「3種類とも短いほど増えた」、考察は「グラスファイバーポストでは長さの影響がなかった」と表現が分かれています。表2では、5.0mmのメタルポスト2群の肩文字が小文字の「cb」と印字されています。この記事では表の凡例(大文字=長さどうしの比較)に従い、大文字のCと読みました。
資金・利益相反:ブラジル・ミナスジェライス州の研究助成機関FAPEMIGの助成を受けたと謝辞に記載されています。利益相反についての記載は見当たりません。本文には、ポスト・セメント・コンポジットレジンなどの製品名が登場しますが、メーカーからの資金提供の記載はありません。
それでも、ポストの種類と長さを同じ条件で組み合わせ、破折抵抗・壊れ方・ひずみの3つを並べて見せた実験です。「ポストは何mm入れるか」を、材料とセットで考える材料になる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、ウシの歯の歯根では、メタルポスト(鋳造ポストコア・既製スチールポスト)は短くするほど破折抵抗が有意に下がり、グラスファイバーポストは5.0〜10.0mmの範囲で長さによる有意差がなかったということです(10.0mm→5.0mmの平均は、鋳造ポストコア769.85→399.23 N、既製スチールポスト698.76→390.16 N、グラスファイバーポスト618.46→607.18 N)。平均の破折抵抗がいちばん高かったのは10.0mmの鋳造ポストコアでしたが、壊れたときは15本すべてが垂直性歯根破折でした。グラスファイバーポストは45本中44本がレジンコアかポストの破折です。著者らは「ポストの長さが効くのはメタルポストだけ」と結論しています。全部の歯に2mmのフェルールがあり、1回の荷重で壊した実験で、くり返しの力や温度変化は与えていません。臨床での破折率や歯の予後を調べた研究ではありません。筆者の読みでは、「ポストの長さの目安」を、ポストの材料とセットで考え直すきっかけになる1本です。


