エンド|エルビウムレーザーで根管の洗浄液を動かす方法(LAI)の仕組み・効き方を左右する条件・実験室と臨床の根拠を、著者らが文献を選んで解説したナラティブレビュー(Meire・De Moor 2024・International Endodontic Journal)
根管の洗浄液をエルビウムレーザーで動かす LAI(laser-activated irrigation)。Meire 先生らはナラティブレビューで、その仕組みと根拠をまとめました。先端で蒸気の泡がふくらんでつぶれることで、離れた根管の奥まで液が動く(実験室の観察)。著者らが基準を決めて選んだ抜去歯の実験6本からは、従来の洗浄より消毒が進み、超音波での活性化より高い傾向とまとめています。臨床では、術後の痛みのRCT 5本で、活性化なし・ほかの活性化の方法よりLAIで痛みが多くなった試験は無く、根尖性歯周炎の治り方を調べたRCTは1本だけで、1年後に有意差を認めませんでした(洗浄液と貼薬も群で違う試験)。系統的レビューではなく、臨床の根拠はまだ少ない、という位置づけです。
①レーザーで洗浄液を動かすと、根管の消毒はよくなる?
根管形成と洗浄を丁寧にしても、イスムスや側枝の奥まで洗浄液が届いているのか、確かめようがない。そんなもどかしさから、超音波や音波で洗浄液を動かす「活性化」が広く使われるようになりました。その選択肢の1つが、エルビウムレーザーで洗浄液を動かす方法です。英語では laser-activated irrigation、略して LAI と呼ばれます。
LAIで何が起きているのか、どの条件で効き方が変わるのか、そして消毒や治り方にどこまで根拠があるのか。これを1本にまとめたのが、ベルギー・ゲント大学の Meire 先生と De Moor 先生による2024年の総説(International Endodontic Journal)です。
・研究の種類:ナラティブレビュー(著者らが文献を選んで解説する総説。文献の集め方を定めた系統的レビューではない)
・仕組み:エルビウムレーザーの光は水にとても強く吸収され、先端で蒸気の泡がふくらんでつぶれる(キャビテーション)。その結果、先端から離れた根管の奥まで洗浄液が動く。ここは水中や透明な模型を高速撮影した実験室の研究にもとづく説明
・実験室での消毒:著者らが基準を決めて選んだ抜去歯の実験6本から、「LAIは従来の洗浄より根管の消毒で優れ、超音波での活性化より高い傾向がある」とまとめている
・臨床:術後の痛みを調べたランダム化比較試験(RCT)5本で、活性化なし・ほかの活性化の方法と比べて、LAIで痛みが多くなった試験はなかった。一方、根尖性歯周炎の治り方を調べたRCTは1本だけで、1年後に有意差を認めなかった(洗浄液と貼薬も群で違う試験)
・著者らの結論:実験室では有望だが、治り方への効果を示す臨床の根拠は乏しく、質の高い臨床試験が必要
②なぜ、洗浄液を「動かす」のか
著者らは、根管の消毒がうまくいかない理由を2つ挙げています。1つは根管の形です。手用やエンジンのファイルと、針で流し込む洗浄は主根管が中心で、イスムス・フィン・根尖分岐・側枝のような細かい所はきれいになりにくい。もう1つは菌の状態です。感染した根管の菌は、液に浮いているのではなく、バイオフィルムとして根管壁に付いていて、落としにくい。
根管に残った菌は、根管治療のあとの根尖性歯周炎のいちばん大きな危険因子だと著者らは書いています。そこで、洗浄液の動きと広がりをよくして洗浄の力を上げようとするのが「活性化」です。根管に入れたチップを回したり振動させたりする方法、圧力を変える方法などがあり、パルスのレーザーを使うのがLAIです。
なお、LAIは、乾かした根管の壁に直接レーザーを当てる昔ながらの使い方(著者らの言う「従来のレーザー歯内療法」)とは別物です。直接当てる方法は、壁にまんべんなく当てるのが難しく、消毒の結果も期待に届かなかったため、洗浄液を介して間接的に使うLAIへ関心が移った、と著者らは整理しています。
③この総説が扱ったこと
・研究の種類:ナラティブレビュー(International Endodontic Journal 2024年57巻841〜860頁)。新しいデータを集めた研究ではなく、文献を読み解いて解説したもの
・解説した中身:LAIの物理的な仕組み、効き方を左右する条件(波長・パルスのエネルギーと長さ・先端の形と位置)、方法の移り変わり、2つのパルスを組み合わせる方法、実験室と臨床の根拠(特に消毒)、安全性など
・消毒の実験の選び方:研究ごとに方法がばらばらなため、著者らが基準を決めて選んだ。基準は、象牙質の上で菌を育てる、各群8本以上、培養7日以上、レーザーの設定を詳しく書き活性化は30秒以上、根管壁を削るなど積極的に菌を採る、治療前後の同じ歯の比較ではなく処置しない対照群と比べる、など。この基準で6本が残った
・臨床の根拠:術後の痛みのRCT(5本)と、根尖性歯周炎の治り方のRCT(1本)、根管の菌の減り方を測ったRCT(痛みの5本のうちの1本)を紹介
④仕組み:泡のふくらみとしぼみで、根管の奥まで液が動く
著者らの説明を順に追います。エルビウムレーザー(Er:YAG 2940nm、Er,Cr:YSGG 2780nm)の波長は、水の吸収の山に重なっています。水への吸収の強さ(吸収係数)は、Er:YAGで約13,000、Er,Cr:YSGGで約7000(単位 cm⁻¹)。810〜1064nmの半導体レーザーの領域は0.2を下回り、桁違いです。光はわずか数マイクロメートルの液に吸収され、その液が一瞬で沸騰して蒸気の泡になります。泡はふくらんだあと勢いよくつぶれ、その一生は数百マイクロ秒です。
広い水の中なら、泡がつぶれる時に衝撃波が出ます。しかし根管のような狭い所では、泡は小さく、動きもゆっくりになり、衝撃波は出ません。代わりに、歯髄腔の泡がつぶれる時に、下の根管の中にも小さな泡の群れが生まれ、根管の液が小さく速く上下します。これがパルスごと(選んだパルスの回数により、1秒に15〜20回)に繰り返され、根管の中に強い液の流れが生まれる、という説明です。
総説が引用した模型の実験では、LAIで根管の中の液の速さは秒速0.3〜0.5mで、超音波で振動させたファイルの約10倍。PIPS(後述)では先端から19mm離れた所まで液が大きく動いた一方、超音波のチップでは先端から1mmより下ではほとんど動かなかった、と紹介されています。器具を根管に入れなくても液が動く点を、著者らは「離れた所からの洗浄」と呼び、LAIの特徴に挙げています。
効き方を左右する条件も整理されています。波長は、洗浄液への吸収がいちばん大事な条件で、著者らは吸収係数10 cm⁻¹以上を目安に挙げ、半導体レーザーは泡を使うLAIには向かないとしています。同じ条件なら、パルスのエネルギーが大きいほど、パルスが短いほど泡は大きくなり、平らな先端より円すい形の先端のほうが泡の力が大きい。ただし、標準の設定や、指針・合意は無く、多くの術者は機器メーカーの推奨に従っている、と著者らは書いています。
使い方は2つの流れがあります。初期の研究は先端を根管の中(作業長から1〜5mm手前)に入れていましたが、泡が先端より数mm先まで広がることから洗浄液が根尖から押し出される心配があり、先端の位置は歯冠側へ移りました。Er:YAGで円すい形の先端を歯髄腔に置き、短いパルス(50マイクロ秒)と低いエネルギー(10〜20mJ)で使う方法が PIPS(photon-induced photoacoustic streaming)です。一方、Er,Cr:YSGGのメーカーは、先端を作業長の1〜5mm手前に入れて動かす方法を推奨しています。2つのパルスを組み合わせて泡のつぶれ方を強める SWEEPS という方法もありますが、1つのパルスのLAIより効くという根拠は今のところ乏しい、というのが著者らのまとめです。
⑤実験室での消毒:著者らが選んだ6本
LAIの消毒を調べた研究はたくさんありますが、菌の育て方、根管の太さとテーパー、洗浄液の種類と濃度、時間、レーザーの設定、先端の形と位置がばらばらです。著者らは、③の基準で抜去歯の実験を選び、6本を表にまとめました。下の表は、その6本すべてです。
この6本から、著者らは「研究の間のばらつきは解消しきれないが、LAIによる根管の消毒は従来の洗浄より優れ、超音波での活性化より抗菌効果が高いはっきりした傾向がある」と結論しています。表を筆者が数えると、超音波と比べた4本のうち、LAIが上回ったと記載されたのが3本、差を認めなかったのが1本でした。
読むときの注意もあります。PIPSの研究の設定は、今すすめられている方法と違う所があります(Peters 2011 と Neelakantan 2015 は今の20mJではなく50mJ、Cheng 2017 の2本は先端を歯髄腔ではなく根管の入口から1mm下に置いた)。Er,Cr:YSGGの2本は、メーカーの推奨(根管の中で動かす)ではなく、歯冠側で活性化していました。そして、すべて抜去歯の実験室研究で、患者さんの歯の治り方は見ていません。
ほかにも総説は、別の著者らの文献レビュー2本の結果を紹介しています。Er:YAGのLAIを調べた抜去歯の研究18本のうち11本でLAIがほかの方法を上回り7本では差を認めなかった(Do と Gaudin 2020)、LAIと超音波を比べた系統的レビューで8本中5本がLAI優位・3本は差を認めなかった(Badami ら 2023)、というものです。どちらも研究の方法のばらつきが大きいことを指摘しています。
⑥臨床の根拠は、まだ少ない
・術後の痛み:泡による強い液の動きで、洗浄液が根尖から押し出され、痛みが増えるのではという心配がありました(模型では根尖の圧や押し出しの増加を示した研究もある)。総説が紹介したRCT 5本では、LAIで、活性化なし・ほかの方法より痛みが多くなった試験はなく、LAIによる好ましくない出来事の報告もありませんでした。そのうち2本は、LAIのほうが痛みのスコアが低かったと報告しています
・根尖性歯周炎の治り方:RCTは Martins 2014 の1本だけ。単根歯と小臼歯を学生の診療で2回の来院で治療し、Er,Cr:YSGGレーザー群と従来の方法の群を比べて、1年後の根尖の治癒に有意差を認めませんでした。ただしレーザー群は生理食塩水で洗浄し貼薬なし、対照群は次亜塩素酸ナトリウムで洗浄し水酸化カルシウムを貼薬と、条件がいくつも違います
・根管の菌の減り方:針での洗浄とLAIを比べたRCT(Mandras 2020)では、有意差を認めませんでした。ただ、針の群の菌の減り方(90〜98%)がほかの研究の典型値(99.9%)と合わず、著者らは菌の測り方に疑問を示しています
著者らは「根拠が無いことは、効果が無いことの証明ではない」と書いています。歯内療法のさまざまな補助の処置を集めた別の系統的レビューでも、効果が無いと分かったのではなく、質の高い試験が足りないために、すすめられる補助の処置は無いという結論だった、とも紹介しています。LAIも同じ状況だ、というのが著者らの見方です。
⑦明日の臨床へ
この総説の範囲で言えるのは、「LAIは、抜去歯の実験では消毒を進める方向の結果がそろっており、臨床試験では術後の痛みが増えたという報告は無い。ただし、根尖性歯周炎がよく治るかどうかは、臨床ではまだ確かめられていない」ということです。導入するなら、根管形成と洗浄という土台の上に足す補助の一手、と位置づけるのが原典に合った読み方だと思います(ここは筆者の読みです)。
使うときの確認点として、総説は安全面の研究も紹介しています。根管の中でEr:YAG・Er,Cr:YSGGを使った実験で、根尖の歯根の表面の温度上昇は最大2.5℃。Er:YAGの光は歯科用顕微鏡を透過しなかったという実験もあります。それでも、波長に合った保護眼鏡を、患者さんとその場の全員がかけるよう勧めています。設定の標準が無いので、使う機器のメーカーの推奨と、先端を歯髄腔に置くのか根管の中で動かすのかを、まず確認しておきたいところです。
⑧ここだけ補助線
・ナラティブレビュー:文献の集め方と選び方を前もって定めた系統的レビューではありません。消毒の実験の6本は、著者らが決めた基準で選んだものです。仕組みの説明の多くは、水中や透明な模型での実験室の観察にもとづきます
・臨床の根拠の少なさ:治り方を見たRCTは1本、それも群の条件がいくつも違う試験でした。実験室で菌が減ることと、患者さんの根尖性歯周炎が治ることの間には、まだ距離があります
・利益相反:論文の末尾に、Meire 先生はレーザー機器メーカー Fotona 社から金銭以外の支援を、De Moor 先生は同社から個人的な謝金を受けたと記載されています(いずれもこの論文とは別の仕事)。研究資金は無しと記載
「LAIは何をしていて、どこまで分かっているのか」を押さえる土台として読みたい1本です。臨床の試験が増えるのが楽しみです。
今日のひとこと
このナラティブレビューでは、エルビウムレーザーで洗浄液を動かすLAIは、抜去歯の実験では従来の洗浄より消毒が進み、超音波での活性化より高い傾向がある一方、臨床では根尖性歯周炎の治り方への効果を示す根拠が乏しい(術後の痛みのRCT 5本では、活性化なし・ほかの活性化の方法よりLAIで痛みが多くなった試験は無い)。系統的レビューではなく、治り方を見たRCTは1本だけです。「LAIは根管形成と洗浄の土台に足す補助の一手で、治りがよくなるかはこれからの臨床試験しだい」というのが、この論文に合った読み方です。


