エンド|報告ごとに数字がばらつく根管形態を、1人の術者が単一の手法で2400本まとめて分類した研究。フロリダ大学のVertucciが、脱灰・染色・透明化した標本を実体顕微鏡で観察し、根管の型・側枝・横連絡・根尖孔の位置・根尖分岐を記録した(Vertucci 1984・Oral Surg Oral Med Oral Pathol)
根管治療の失敗の原因として、Ingleは根尖からの浸出とそれに続く根管内の停滞を挙げ、その主な理由を不完全な根管充填・手をつけられていない根管・銀ポイントの不用意な除去としました。このうち「手をつけられていない根管」が生まれる理由は単純です——術者がその存在に気づかないから。ところが当時の文献は、その「気づくべき形態」について合意していませんでした。下顎第一小臼歯で2根管以上の頻度は2.7%から62.5%まで、下顎第二小臼歯は0%から34.3%まで、上顎第二小臼歯で根尖に2根管ある頻度は4%から50%まで報告されており、材料の選び方と分類の定義が研究ごとに違うため、互いに直接比較できない状態だったのです。そこでVertucciは、成人から抜去された永久歯2400本を10%ホルマリンで固定、5%塩酸で脱灰、5%水酸化カリウムに24時間浸し、25ゲージ針でヘマトキシリンを歯髄腔に注入して、アルコールで脱水後に透明な液状キャスティングレジンで透明化しました(ヘマトキシリンは最も細い側枝の中の歯髄組織まで染め、しかも歯の外面からは除去できるので標本が見やすい)。器具を入れずに観察するので、根管の元の形と位置関係がそのまま保たれるのが利点です。結果、根管形態は8つの型に整理できました。数字でとくに記憶しておきたいのは2つ。ひとつは根尖で管が1本だった割合——上顎の中切歯・側切歯・犬歯は100%ですが、上顎第一小臼歯は26%(2本69%・3本5%)、上顎第一大臼歯の近心頬側根は82%、下顎第一大臼歯の近心根はわずか40%(2本59%・3本1%)、下顎第二大臼歯の近心根は65%。もうひとつは根尖孔の位置で、20の根すべてで「根尖の中央」より「側方」が多数派でした(上顎中切歯12%対88%、下顎第一大臼歯近心根22%対78%)。側枝は小臼歯で44〜60%に見られ、根尖側1/3への偏りは歯種で異なります(前歯80〜93%・小臼歯74〜80%・大臼歯の各根54.4〜70.1%)。上顎第一小臼歯では根分岐部の側枝が11.0%、下顎第一大臼歯では23%。根尖分岐の頻度が最も高かったのは上顎第二小臼歯(15.1%)で、著者は最も変異に富む根管形態は上顎第二小臼歯だったと記しています。抜去歯の透明標本による形態学の記述で、患者の年齢・性別・人種・抜歯理由は記録されておらず、治療成績との関連を見た研究ではありません。
①「見つけられなかった根管」は、なぜ生まれるのか
根管治療がうまくいかない理由として、Ingleは根尖からの浸出と、それに続く根管内の停滞を挙げました。その主な原因は不完全な根管充填・手をつけられていない根管・銀ポイントの不用意な除去の3つ。このうち「手をつけられていない根管」が生まれる理由は、Vertucciの書き方だと1行で終わります。術者がその存在に気づかないから。
ならば「気づくべき形態」を知ればよいわけですが、1984年当時の文献はそこで合意していませんでした。結論を先に言います。この論文が2400本を単一の手法で数え直した結果、根管形態は8つの型に整理され、根尖で管が1本だったのは下顎第一大臼歯の近心根でわずか40%、上顎第一小臼歯では26%でした。そして根尖孔が根尖の中央にあった歯は、調べた20の根のすべてで少数派でした。
②同じ歯種で、報告が20倍以上ちがっていた
当時の数字のばらつきは、いま見ると驚くほどです。下顎第一小臼歯の2.7%と62.5%は、約23倍の開きです。
Vertucciはこの食い違いを2つに分けて説明しています。ひとつは実際に解剖学的な変異が大きいこと。もうひとつは根管形態を調べるときに必ずぶつかる技術的な困難です。そして最も厄介な点として、材料の選び方と根管形態の分類の仕方が研究ごとに違うため、ほとんどの報告を互いに直接比較できないと指摘しました。文献が結論を出せない状態なので、自分で調べることにした——というのが本研究の動機です。
③今回の一手:器具を入れずに、歯を透明にして覗く
手法の核心は器具を入れないことです。ファイルを通した瞬間に、調べたい元の形は失われてしまいます。
透明標本の利点は、著者の言葉では歯の外形との関係の中で歯髄腔を三次元的に見られること。加えて器具を入れる必要がないので、根管の元の形と位置関係が保たれます。従来の透明化法との違いは透明化剤で、キシレンのような薬剤ではなく液状キャスティングレジンを使っています。観察は実体顕微鏡で、根管の数と型・側枝の数と位置・根尖孔の位置・根尖分岐の頻度を記録しました。
標本数は歯種で異なります。前歯と大臼歯は各歯種100本(大臼歯はその100本の各根を観察しているので、表では根ごとに100と記されます)、上顎第一小臼歯・下顎第一小臼歯・下顎第二小臼歯は各400本、上顎第二小臼歯は200本。合計で2400本になります。ばらつきの大きい小臼歯に数を厚く割いた配分です。
④結果:8つの型と、2つの覚えておきたい数字
まず分類です。根管形態は次の8型に整理されました。
そして数字です。1つめは根尖で管が1本だった割合。
上顎の中切歯・側切歯・犬歯はいずれも100%がType I。ところが小臼歯から先は様子が変わります。上顎第一小臼歯は1本が26%で、2本が69%、3本が5%。上顎第二小臼歯は1本75%・2本24%・3本1%。上顎第一大臼歯の近心頬側根は1本82%・2本18%、第二大臼歯の近心頬側根は1本88%・2本12%。
下顎はさらに極端です。下顎第一大臼歯の近心根で、根尖まで1本だったのはわずか40%。2本が59%、3本が1%。うちType Iが12%、Type II(2本が出て根尖前で合流)が28%で、合わせて40%になります。下顎第二大臼歯の近心根は1本65%・2本35%。一方で下顎の遠心根は落ち着いていて、第一大臼歯の遠心根が1本85%、第二大臼歯の遠心根は95%。下顎の前歯は中切歯97%・側切歯98%・犬歯94%が1本、下顎第一小臼歯は74%(2本25.5%・3本0.5%)、下顎第二小臼歯は97.5%でした。
2つめの数字は、もっと見過ごされているものです。
根尖孔が「根尖の中央」にあったのは、上顎中切歯で12%(側方が88%)。上顎第二小臼歯22.2%、上顎第一大臼歯の近心頬側根24%、下顎中切歯25%、下顎第一大臼歯の近心根22%——表にある20の根のすべてで、側方に開くほうが多数派でした(各行の中央+側方は必ず100%になります)。
側枝と根尖分岐についても記録があります。側枝を持つ歯の割合は上顎前歯で24〜30%、上顎第一小臼歯49.5%・上顎第二小臼歯59.5%、下顎小臼歯44.3%・48.3%、大臼歯の各根で29〜51%。そして位置は明確に根尖側へ偏っています。ただしその割合は歯種でかなり違うので、表の全行を並べておきます。根尖側1/3にあった割合は、前歯で80〜93%、小臼歯で74〜80%、大臼歯の各根では54.4〜70.1%(最も低いのは下顎第一大臼歯の近心根の54.4%、最も高いのは上顎中切歯の93%)。大臼歯では、前歯や小臼歯ほど根尖側に偏りません。根分岐部の側枝は、上顎第一小臼歯で11.0%、下顎第一大臼歯で23%(表では近心・遠心の2行に共有された歯単位の値)、上顎第一大臼歯で18%、上顎第二大臼歯で10%、下顎第二大臼歯で11%でした。根尖分岐の頻度がいちばん高かったのは上顎第二小臼歯の15.1%で、著者は最も変異に富む根管形態は上顎第二小臼歯だったと明記しています。
⑤写真と髄室底から、型を推定する
この論文が単なる形態の一覧を超えているのは、読み取りの手順を書いているからです。
まずX線写真。正放線の写真で根管が急に細くなる、あるいは消えて見えたら、その点で管が2つに分かれていることを意味すると著者は述べます。そして分かれた後は2通りしかない——分かれたまま根尖に至る(Type V)か、根尖前で再合流する(Type II)か。写真から得たこの情報と、「どういう内部形態の組み合わせがありうるか」という知識を合わせれば、治療を始める前に型を推定できるという組み立てです。
次に髄室底。根管が1本なら、根管口はふつう髄室開拡の中央に比較的簡単に見つかる。ここからが実務的です。根管口が1つだけ見つかって、それが歯の中央になければ、別の根管が存在する可能性が高いので、反対側を探すべき。さらに、2つの根管口が互いに近いほど、その2本が根の中のどこかで合流する可能性が高い——根管口の距離が、内部の型のヒントになるという指摘です。
そして分岐が中央1/3や根尖側1/3にある歯の難しさも率直に書かれています。主たる太い通路と連続している側の管は拡大も充填もできるが、もう一方の管の形成と充填はしばしば極めて困難。だからX線写真と臨床では根管系が充填されているように見えても、充填されていない管が残っていることが失敗の説明になりうる。
最後に外科の注意点まで踏み込んでいます。根尖切除と逆根管充填を行うと、1つだった根尖孔が2つの別々の孔になってしまうことがある。だから手術中も第二根管の探索を習慣にしなければ結果は悪くなる、と。
⑥明日の臨床へ:数字を「探す姿勢」に変換する
⑦ここだけ、冷静に補助線
抜去歯の形態学の記述研究です。治療成績との関連は検証していません。「2本あった」ことと「2本目を見落とすと失敗する」ことは、この研究の中ではつながっていません(著者は別の文献を引いて後者を述べています)。
標本の背景情報が残っていないのも制約です。年齢・性別・人種・抜歯理由は記録されていません。背景が記録されていない以上、患者の属性による違いをこの研究から検討することはできません。目の前の患者にこの数字をそのまま当てるときには、幅を持たせる必要があります。標本は口腔外科で抜かれた歯なので、何らかの理由で抜歯された歯に偏っている可能性もあります。また歯種ごとの標本数が100〜400本と異なるため、精度も歯種で一様ではありません。
手法そのものにも副作用があります。脱灰と透明化は歯を化学的に大きく変える処理で、染色液が最小の側枝まで入るという長所は、逆に「臨床的に意味のある通路」と「顕微鏡で見えるだけの通路」を区別しないという意味でもあります。側枝が5割あるからといって、その5割が臨床上の問題になるとは限りません。
それでも40年以上引用され続けているのは、8つの型という共通語を作ったからだと思います。それまで研究ごとにばらばらだった分類が1つに揃ったことで、後の研究が互いに比較可能になりました。数字の一覧は教科書に引き写せますが、「写真の急に細くなる点」と「根管口が中央にないこと」から内部を推定するという読み取りの手順は、実際に歯を開ける人にしか書けないものです。
今日のひとこと
著者の結論:根管形態は8つの型に分類でき、その知識なしに歯内療法を合理的に進めることはできない。実務に直結する数字は2つです。ひとつは根尖で管が1本だった割合——上顎前歯は100%なのに、上顎第一小臼歯は26%、下顎第一大臼歯の近心根は40%、下顎第二大臼歯の近心根は65%、上顎第一大臼歯の近心頬側根は82%。もうひとつは根尖孔の位置で、調べた20の根すべてで「根尖の中央」ではなく「側方」が多数派だった(上顎中切歯では12%対88%)。側枝は小臼歯の44〜60%に存在し、根尖側1/3への偏りは前歯80〜93%・小臼歯74〜80%・大臼歯の各根54.4〜70.1%と歯種で異なります。最も変異に富むのは上顎第二小臼歯(根尖分岐15.1%)。診断への使い方も具体的で、正放線のX線写真で根管が急に細くなる、あるいは消えて見えたら、その点で管が2つに分かれている——分かれたまま根尖に至る型か、根尖前で再合流する型かのどちらかだと著者は述べています。また髄室底で見つかった根管口が中央にない場合は、反対側に別の根管を探すべきで、2つの根管口が互いに近いほど、根の中で合流する可能性が高い。筆者の読みでは、この論文の値打ちは形態の一覧そのものより「写真と髄室底から、内部の型を推定してから器具を入れる」という手順を言語化した点にあります。ただし抜去歯の形態学の記述で、治療成績との関連を検証した研究ではありません。


