エンド|湾曲根管でのNiTiファイル破折。形がまったく同じで、合金の熱処理だけが違う2種類(M-WireのProFile Vortexと、ブルー処理のVortex Blue)を、2製品×7サイズ×各10本(計140本)を模擬根管の中で折れるまで回した実験室の研究(Plotino 2014・Journal of Endodontics)
湾曲根管でNiTiファイルを回すと、曲がった部分で金属が曲げ伸ばしを繰り返し、やがて前ぶれなく折れることがあります(繰り返し疲労=cyclic fatigue)。著者らは、刃の形・先端径・テーパーがまったく同じで、合金の熱処理だけが違う2種類のファイル——ProFile Vortex(M-Wire)とVortex Blue(表面に青い酸化チタン層ができる独自の熱処理)——を、2製品×7サイズ×各10本(計140本)用意し、60°に曲がった模擬根管(曲率半径5mm)の中で300rpmで折れるまで回しました。結果、15/.04を除く6サイズで、ブルー処理のほうが破折までの回転数が統計学的に多く(P<.05)、平均回転数どうしを割ると約1.5〜2.8倍(筆者計算)でした。いちばん細い15/.04だけは差がありませんでした(P=1.000)。折れた先端の長さは、どの群でも差がありませんでした。
①湾曲根管で、ファイルの「素材」は効くのか
強く曲がった根管でNiTiファイルを回すとき、「このファイル、今日で何本目の根管だっけ」と気になった経験は多くの先生にあると思います。NiTiファイルの破折は、いまも根管治療の大きな心配ごとの一つです。
ここ十数年、メーカー各社は合金の熱処理を変えた新しいファイルを次々に出してきました。では、刃の形がまったく同じで、熱処理だけが違うファイルを並べたら、折れにくさはどれくらい変わるのでしょうか。
結論を先に言います。60°に曲がった模擬根管で、ブルー処理のファイルは7サイズ中6サイズで、破折までの回転数が統計学的に多かった(平均回転数どうしを割ると約1.5〜2.8倍・筆者計算)。ただしいちばん細い15/.04だけは差がありませんでした。
②なぜ「熱処理」が注目されてきたのか
著者らによると、回転するNiTiファイルの破折はねじれと曲げのどちらか、または両方で起こります。湾曲根管の中で回すと、曲がった部分で金属が回転のたびに曲げ伸ばしされ、やがて疲労で折れる——これが繰り返し疲労(cyclic fatigue)です。しかもこの破折は、目に見える変形などの前ぶれなく起こりうると報告されています。
そこでメーカーは、製造工程と合金そのものを変える方向で改良を進めてきました。R-Phase、M-Wire、CM Wireといった熱処理を加えたNiTiは、従来のNiTiより柔軟で、疲労に強いとされてきました。
・ProFile Vortex=M-Wire(NiTi線を張力と温度をかけながら引き伸ばす独自の処理)
・Vortex Blue=さらに別の独自の熱処理で、表面に青い酸化チタン層ができる。形状記憶を弱め、曲げた形を保てるとメーカーは説明している(処理の中身は非公開)
著者らの帰無仮説は「両者の繰り返し疲労への強さに差はない」でした。
③今回の一手:形は同じ、熱処理だけが違う140本を折れるまで回す
・模擬根管:ステンレスのブロックに、各サイズの径とテーパーに合わせて作った60°湾曲・曲率半径5mmの根管(湾曲の中心は先端から5mm、湾曲部の長さは約5mm)
・回し方:6:1減速コントラ+トルク制御モーターで300rpmの連続回転。壁との摩擦を減らすため潤滑油を使用
・測ったもの:回し始めから折れるまでの秒数(同じ術者がストップウォッチで計測)×回転数=破折までの回転数。回転数が多いほど、繰り返し疲労に強いと考える。あわせて折れた先端の長さも記録
ポイントは、刃の形・先端径・テーパーが同一であることです。ファイルの形が違えば、疲労への強さの差が形のせいか素材のせいか分けられません。形をそろえたことで、熱処理(合金)の違いだけを比べる設計になっています。
④結果①:6サイズでブルー処理が有意に長持ち、15/.04だけは差なし
破折までの回転数の平均(標準偏差)は、ProFile Vortex → Vortex Blueの順に次のとおりでした。
15/.04:1542(153)→1705(716)/20/.06:643(62)→1466(101)/25/.04:902(108)→1562(69)/25/.06:536(52)→1377(133)/30/.06:305(96)→840(165)/35/.06:296(80)→456(33)/40/.04:471(80)→826(129)
同じサイズどうしで比べると、15/.04を除くすべてのサイズで、Vortex Blueの回転数が統計学的に多い(P<.05)結果でした。15/.04はP=1.000で差がありませんでした。折れた先端の長さは、どの群の間にも差がありませんでした(P>.05)。
イメージしやすいように、この装置の条件(300rpm)で秒数に戻すと、30/.06はM-Wireが約61秒、ブルー処理が約168秒で折れた計算です(筆者換算)。ただしこれは60°・曲率半径5mmの金属の模擬根管で、同じ位置のまま回し続けたときの数字で、臨床でファイルを使える時間の目安ではありません。
⑤なぜ差が出たのか、なぜ15/.04では出なかったのか
2つのファイルは形が同一で、製造工程だけが違うので、著者らは差の原因を合金の処理に求めています。熱処理は合金の結晶の並びを整え、柔軟性と強さを高めると考えられており、熱処理したNiTiでは相変態の温度が上がることも別の研究で報告されています。今回の結果は、Vortex BlueがM-Wireやそれ以前のNiTiより疲労に強く柔軟だったという先行研究とも一致していました。
一方、15/.04で差が出なかった理由について、著者らは細いファイルはもともと柔軟で疲労にも強いため、合金の処理の違いが寿命に与える影響が小さいのかもしれないと述べています。なお、15/.04のVortex Blueは標準偏差が716と、ほかの群よりばらつきが大きい点も表から読み取れます。
⑥明日の臨床へ
・強い湾曲で太い・テーパーの大きいファイルを回すときほど、破折までの余裕は小さい傾向(筆者の読み取り・サイズ間の検定なし。この研究では35/.06・30/.06が最も少なかった)。
・一方で、細い15/.04では処理による差が見えなかった。熱処理の恩恵は、どのサイズでも同じではない。
・熱処理ファイルでも、折れないわけではない。Vortex Blueの35/.06は平均456回で折れている。
著者らも、柔軟性と疲労への強さが大きく上がれば、湾曲根管を根管の偏位や器具の破折などのリスクを減らして形成できる「可能性がある」と、あくまで理論上の話として書き、さらに実験室と臨床での確認が必要だと結んでいます。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
刃の形がまったく同じファイルでも、合金の熱処理が違うだけで、湾曲根管での繰り返し疲労への強さは変わる——この論文の持ち帰りはそこです。60°・曲率半径5mmの模擬根管で、ブルー処理のVortex Blueは、M-WireのProFile Vortexより7サイズ中6サイズで破折までの回転数が有意に多く(例:30/.06で平均305回→840回)、平均回転数どうしを割ると約1.5〜2.8倍(筆者計算)でした。ただしいちばん細い15/.04では差がなく、また太くテーパーの大きいファイルほど、どちらの合金でも回転数は少ない傾向でした(筆者の読み取り・サイズ間の検定はなく、40/.04が35/.06より多いなど例外もあります)。これは金属ブロックの模擬根管で新品を回した実験室の結果で、患者さんでの破折率を比べた研究ではありません。


