1問1答 論文 エンド

近心根のイスムス、どのファイルでも同じだけ綺麗になる?——抜去歯30本で、根管内は3システムとも同等、イスムスだけWaveOneが有意に劣った(2012年)

1問1答 論文 エンド

エンド|イスムス(峡部)のある下顎大臼歯の近心根で、自己調整ファイル(SAF)、レシプロのシングルファイル(WaveOne)、従来型のNiTiロータリー(K3)で、根管とイスムスに残るデブリを比べた抜去歯の実験(Dietrich 2012・Journal of Endodontics)

下顎大臼歯の近心根では、2本の根管がイスムス(峡部)でつながっていることがあり、根管系のこうした複雑な部分にはデブリや歯髄組織が残りやすいとされています。著者らは、近心根の根尖側1/3にイスムスがあることを3次元の画像で確かめて選んだ抜去下顎大臼歯30本の近心根を、K3(35/.04まで)・WaveOne Primary・SAFの3群(各10本)に分けて形成し、作業長から2mmと4mmの断面で清掃度(%)を画像ソフトで測りました。結果は、根管内の清掃度は3群で差がなく(K3は最終洗浄後97%)、イスムスではSAFとK3がWaveOneより有意に清潔(P<.012)。K3のイスムスは78%でしたが、WaveOneは原著の図から読むと約50%にとどまりました。ただし次亜塩素酸ナトリウムの使用量はSAF 21mL・K3 3.5mL・WaveOne 2.5mLと大きく違い、ファイルの差だけとは言い切れません。

論文
In Vitro Canal and Isthmus Debris Removal of the Self-Adjusting File, K3, and WaveOne Files in the Mesial Root of Human Mandibular Molars
著者
Matthew A. Dietrich, Timothy C. Kirkpatrick, John M. Yaccino(米空軍 Wilford Hall Ambulatory Surgical Center 歯内療法科・米国テキサス州)
掲載
Journal of Endodontics 2012;38(8):1140-1144
種類
抜去歯を使った実験研究(in vitro)。近心根の根尖側1/3にイスムスがあることを3次元の画像(Accuitomo)で確かめて選んだ抜去下顎大臼歯30本を、ランダムに3群(各10本)へ割り付けた。#20/.02のグライドパスの後、K3群=K3(.04テーパー)でクラウンダウン、#35/.04まで/WaveOne群=WaveOne Primary(25/.08)/SAF群=20/.04で作業長まで拡大後、SAF(1.5mm)を1根管4分間、6% NaOCl 毎分5mLで使用。最終洗浄は全群で17% EDTA 2mLを1分、その後K3・SAF群はNaOCl 1mL、WaveOne群はNaOCl 0.5mL+EndoActivator 45秒+NaOCl 0.5mL。K-Kube(樹脂に埋めた歯を切って組み直せる装置)で作業長から2mm・4mmの断面を作り、形成前・形成後・最終洗浄後・SAF追加洗浄後に撮影して、根管とイスムスの清掃度(%)をImageJで算出。統計は反復測定分散分析と事後検定(P<.05)
PMID
22794223

①根管は綺麗。でも、イスムスは?

下顎大臼歯の近心根。MBとMLの2根管を形成して、洗浄して、乾燥させる。根管の中はきれいに見えても、2本をつなぐイスムス(峡部)はどうなっているのか——見えないだけに、気になる部位です。

最近はシングルファイルのレシプロや、洗浄しながら削る特殊なファイルなど、形成の道具が大きく変わってきました。道具が変わると、イスムスの残り方も変わるのか。この論文はそこを抜去歯で比べています。

結論を先に言います。根管内の清掃度は3つのファイルで差がありませんでした。差が出たのはイスムスだけで、SAFとK3がWaveOneより有意に清潔でした(P<.012)。

②なぜイスムスが問題になるのか

根管系には、イスムス・フィン・側枝といった複雑な形があり、デブリや歯髄組織、細菌とその産物がここに残りやすいことが知られています。著者らは、清掃が不十分だと根管治療の成功率が下がると冒頭で述べています。

NiTiロータリーは形も作り方もさまざまですが、どのシステムでも根管壁には触れない部分が残り、デブリもいくらか残ります。そこで登場したのが次の2つです。

・WaveOne=M-Wire製の1本のファイルを、専用のモーターでレシプロ(往復回転)させて形成する。
・SAF(Self-Adjusting File)=NiTiの網でできた中空で薄い筒状のファイル。根管の形に合わせてつぶれ、振動しながら壁全体を少しずつ削る。中を洗浄液が流れ続けるので、削りながら洗う。楕円形の根管では従来のロータリーより有利という報告があった。

ただ、SAFとWaveOneを、イスムスのある複雑な根管で比べた研究はほとんどありませんでした。

③今回の一手:イスムスのある近心根30本を、3つのファイルで

対象=近心根の根尖側1/3にイスムスがあることを3次元の画像(3Dスキャン)で確かめて選んだ抜去下顎大臼歯30本。#20/.02のグライドパスまで作ってから、ランダムに3群(各10本)へ。
・K3群(対照=従来型):K3(.04テーパー)でクラウンダウン、#35/.04まで。ファイルごとに6% NaOClを0.5mL
・WaveOne群:WaveOne Primary(25/.08)をメーカーの手順どおり。挿入のたびに6% NaOClを0.5mL
・SAF群:20/.04で作業長まで拡大した後、SAFを1根管4分間、6% NaOClを毎分5mL(1根管20mL)
最終洗浄は全群で17% EDTA 2mLを1分。その後、K3・SAF群はNaOCl 1mLで流し、WaveOne群はメーカー推奨どおりNaOCl 0.5mL+EndoActivator 45秒+NaOCl 0.5mL。

評価にはK-Kubeという装置を使いました。歯を樹脂のブロックに埋めて、作業長から2mmと4mmで切断し、また組み直して治療を続けられるしくみです。これで同じ断面を、形成前・形成後・最終洗浄後(K3群とWaveOne群は、さらにSAFを1分使った追加洗浄後)に撮影し、根管とイスムスのうちデブリの無い面積の割合=清掃度(%)を画像ソフトで出しました。1本の歯が自分自身の対照になる点が、この方法の強みです。

④結果①:根管は同等、イスムスだけWaveOneが有意に劣った

0 40% 80% 120% 最終洗浄後の清掃度(%) 97% 78% 97% 81% 98% 50% K3 SAF(図から概数) WaveOne(図から概数) 根管 イスムス 2mm・4mm断面の合算。K3は本文記載値、SAF・WaveOneは原著Figure 1の棒の高さから読み取った概数。濃い棒=根管(3群で差なし)、淡い棒=イスムス(SAF・K3>WaveOne、P<.012)
最終洗浄後の清掃度(%)。2mmと4mmの断面に差がなかったため合算。K3は本文記載値、SAF・WaveOneは原著Figure 1の棒の高さから読み取った概数。イスムスはSAF・K3がWaveOneより有意に清潔(P<.012)

最終洗浄後、根管内の清掃度は3群で統計学的な差がありませんでした。K3群は97%で、原著の図ではSAF・WaveOneもほぼ同じ高さです。

一方のイスムスでは、SAFとK3がWaveOneより有意に清潔(P<.012)。K3群は78%、SAF群も図ではほぼ同じ高さでしたが、WaveOne群は図から読むと約50%でした。SAFとK3の間には差がありませんでした。

見ておきたいのはばらつきの大きさです。原著の図では、イスムスの標準偏差の棒は根管よりはるかに長く、著者らはイスムスの幅や長さが歯ごとに違うためだろうと述べています。同じ群の中でも、きれいになるイスムスとならないイスムスがあるということです。
なお、2mmと4mmの断面の間には、どの群でも有意な差はありませんでした。

⑤なぜWaveOneのイスムスが残ったのか

著者らが挙げる理由は、時間です。WaveOneが作業長に届くまでの時間を測ったところ、平均86秒/歯でした。形成があまりに早く終わるため、次亜塩素酸ナトリウムが、ファイルの触れない不規則な部分に作用する時間が足りなかったのではないか、という考察です。

0 8mL 16mL 24mL NaOClの使用量(mL・1根管あたり平均) 2.5mL 3.5mL 21mL WaveOne K3 SAF 原著本文の記載値。洗浄量は臨床に近づけるため、あえてそろえていない(SAFはメーカーの手順どおり1根管4分・毎分5mL)
形成と最終洗浄で使ったNaOClの量(1根管あたりの平均・mL)。原著の本文記載値。洗浄量は臨床に近づけるため、あえてそろえていない

そして、使ったNaOClの量も大きく違いました。1根管あたりSAF群21mL・K3群3.5mL・WaveOne群2.5mL。SAFはメーカーの手順どおりに使うと、それだけで洗浄液の量が多くなります。著者らは、臨床の実際に近づけるため、洗浄量はあえてそろえなかったと書いています。

つまりこの結果は、「ファイルの形」だけの差ではなく、「洗浄液の量と、根管の中にいる時間」の差を含んだ比較です。WaveOne群はEndoActivatorで音波の活性化まで受けていたのに、イスムスは約50%にとどまりました。一方で、SAF群はNaOClをK3群の約6倍使いましたが、イスムスの清掃度はK3群と差がありませんでした。

⑥結果②:SAFを「仕上げの洗浄」に足すと?

2つ目の問いは、K3やWaveOneで形成した後に、SAFを洗浄の補助として1分使うと、さらにきれいになるかでした(6% NaOCl 毎分5mL)。

統計学的に改善したのは、K3群の根管・2mmの断面だけで、97.8%→99.5%(P<.021)。著者ら自身、臨床的な意味は無いかもしれないと書いています。WaveOne群のイスムスは、図の上では追加洗浄後に高くなって見えますが、統計学的に有意な改善ではありませんでした。

⑦明日の臨床へ

・根管が綺麗でも、イスムスは別物。どのファイルでも根管内は97%前後まで清掃できたが、イスムスはK3で78%、SAFでも約81%(図から読んだ概数)と、最もよい群でも8割前後で、ばらつきも大きかった。
・形成が早く終わるときは、洗浄の時間も意識する。著者らの推測だが、WaveOneは作業長まで平均86秒と短く、次亜塩素酸ナトリウムがファイルの触れない不規則な部分に作用する時間が足りなかった可能性がある。
・イスムスのある近心根では、根管の清掃度だけで判断しない。この研究の30本は、近心根の根尖側1/3にイスムスがあることを3Dスキャンで確かめて選んだ歯。
・SAFを最後に1分足しても、上乗せはわずか。有意だったのはK3群の根管・2mmの97.8%→99.5%だけ。

どのファイルを選ぶかより先に、「形成が終わった=清掃が終わった」ではないと意識しておくことが、この論文から持ち帰れることだと思います。

⑧ここだけ、冷静に補助線

これは抜去歯を使った実験研究(in vitro)で、各群10本と小規模です。測ったのは断面の画像上のデブリの残り方で、細菌が減ったか、治療の成績が変わるかを見たものではありません。評価したのは作業長から2mmと4mmの2断面だけです。3群は洗浄液の量(2.5〜21mL)も、最終洗浄の手順(WaveOne群だけEndoActivator)も違い、ファイルそのものの差とは切り分けられていません。WaveOneはPrimaryファイル1種類だけを、この研究の時点の製品で試しています。また、SAFとWaveOneの清掃度の具体的な数値は本文に無く、この記事では原著の図から読み取った概数で示しました。それでも、「根管の清掃度が同じでも、イスムスでは差が出る」ことを、同じ歯の同じ断面で追って示した点は、形成と洗浄の組み立てを見直す材料になります。

今日のひとこと

抜去した下顎大臼歯の近心根で、根管内の清掃度はK3・SAF・WaveOneで差がなく(最終洗浄後はどれもおよそ97〜98%)、差が出たのはイスムスだけでした。イスムスではSAFとK3がWaveOneより有意に清潔で、K3が78%、WaveOneは図から読んで約50%。著者らは、WaveOneが作業長まで平均86秒と短く、次亜塩素酸ナトリウムが根管の不規則な部分に触れる時間が足りなかった可能性を挙げています。一方、NaOClの量はSAF 21mL・K3 3.5mL・WaveOne 2.5mLとそろっておらず、ファイルそのものの差と洗浄量・時間の差は切り分けられていません。「根管が綺麗でもイスムスは別物。形成が早く終わるときは、洗浄の時間も意識する」——この論文の持ち帰りはそこです。各群10本の抜去歯でデブリを画像で測った研究で、細菌や治療成績を見たものではありません。

Dietrich MA, Kirkpatrick TC, Yaccino JM. In vitro canal and isthmus debris removal of the self-adjusting file, K3, and WaveOne files in the mesial root of human mandibular molars. J Endod. 2012;38(8):1140-1144. doi:10.1016/j.joen.2012.05.007. PMID: 22794223
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。