1問1答 論文 エンド

最初にきつくなったファイル=根尖の太さ、ではなかった。湾曲した下顎小臼歯20本(抜去歯)の9割で、そのファイルは根管の短径より細かった(2002年)

1問1答 論文 エンド

エンド|「初回にきつくなったファイル(first file to bind)から3サイズ上げる」という根尖拡大の目安は、そのファイルが根尖の根管径を映しているという前提に立っている。その前提を、ファイルを作業長で固定したまま根尖を削り出して確かめた実験室研究(Wu 2002・International Endodontic Journal)

根尖部の根管径は歯種を問わずばらつきが大きく、決まったサイズで拡大するのは勧められない。そこで教科書が勧めてきたのが「作業長で最初にきつくなったファイルから3サイズ大きく拡大する」方法です。最初にきつくなったファイルが根尖の根管径を映しているなら、3サイズ上げれば感染の強い内層の象牙質を全周から削り取れる——という理屈でした。ところが著者らによれば、その前提を裏づける証拠は無かった。そこで湾曲した単根管の下顎小臼歯20本(抜去歯)を10本ずつ2群に分け、一方はKファイル、もう一方は先端がいちばん太くなるよう加工したLightspeedで、作業長で最初にきつくなった器具を、器具も歯も見えない状態の術者に探させました。器具をそのまま樹脂で固定し、根尖を作業長の位置まで削って断面を顕微鏡で測定。結果、20本中18本(90%)で器具の径は根管の短径より小さく、差は最大0.19mm(Kファイル群)。15本(75%)は器具が根管壁の片側に触れていただけで、残る5本(25%)は壁のどこにも触れていませんでした。器具と根管の径のずれの大きさは、Kファイルと加工Lightspeedで有意差がありませんでした(P>0.05)。著者らの結論は、初回にきつくなったファイルを根尖の根管径の物差しや拡大の目安に使うのは信頼できない、です。

論文
Does the first file to bind correspond to the diameter of the canal in the apical region?
著者
M.-K. Wu, D. Barkis, A. Roris, P. R. Wesselink(アムステルダム歯科学術センター ACTA・オランダ)
掲載
International Endodontic Journal 2002;35:264-267
種類
抜去歯を用いた実験室研究(in vitro・n=20)。対象=湾曲した単根管の下顎小臼歯20本(根尖孔が根尖にあり、湾曲は根の根尖側半分以内。湾曲度はSchneider法、平均26.5°と27°)。X線で測った頬舌的な内径をもとに10本ずつ2群に分けた。作業長=実長−1mm。歯冠側はGates Glidden(#1〜#4)で拡大し、各ドリル後に2%次亜塩素酸ナトリウム2mLで洗浄。一方の群はKファイル、他方は切削部の根尖側半分を削り落として先端が最大径になるよう加工したLightspeed(両器具とも同じ形の樹脂ハンドルに付け替え)。器具も歯も見えない術者が#10から順にサイズを上げ、きつくなった時点を別の研究者が記録(作業長に届かなければ回して作業長まで入れた)。器具を樹脂で固定し、根尖1mmを削って作業長の断面を露出、メチレンブルー染色・×40で撮影し、画像解析で直交する2方向の根管径(短いほう=短径)と器具径を0.01mm単位で測定。統計はMann–Whitney U検定。なお原著に extracted(抜去)の語は無いが、根尖を削って断面を観察する手順から抜去歯と判断した
PMID
11985678

「最初にきつくなったファイルから3サイズ上げる」の前提

根尖をどこまで拡大するか。「作業長で最初にきつくなったファイル(first file to bind)から3サイズ大きく」——そう習った方は多いと思います。原著でも、当時の教科書(Walton & Torabinejad 1996、Weine 1996)が勧める方法として紹介されています。

この方法には前提があります。最初にきつくなったファイルが、根尖の根管径を映していること。そうであれば、同じ作業長で3サイズ上げていけば、感染の強い内層の象牙質を根管壁の全周から削り取れる、という理屈です。

結論を先に言います。湾曲した下顎小臼歯20本(抜去歯)で確かめたところ、20本中18本で、最初にきつくなった器具は根管の短径より細かった。そして器具が全周で壁に触れていた例は1本もなく、15本は片側の壁に触れていただけ、5本は壁のどこにも触れていませんでした。

なぜ確かめる必要があったのか

感染した歯の組織切片では、歯髄に近い象牙細管の中に細菌が見つかります。だから最も強く感染した象牙質の層は取り除くのが妥当と考えられてきました。ところが根尖部の根管径は歯種を問わずばらつきが大きく、決まったサイズで拡大するわけにはいきません。そこで「最初にきつくなったファイル」を物差しにする発想が生まれました。

著者らが指摘する問題は3つです。
最初にきつくなった器具が根尖の根管径を映しているという証拠は無い
・根管の多くは楕円形で、楕円の張り出し(リセス)の壁まで器具で削れるかは分からない
・湾曲根管で同じ作業長に次々と太いファイルを入れると、根尖部の損傷(laceration)やレッジを招きやすい
つまり「3サイズ上げる」は、根拠に基づく方法ではなかったというのが出発点です。

今回の一手:器具を作業長で固定したまま、根尖を削って断面を見る

対象=湾曲した単根管の下顎小臼歯20本(根尖孔が根尖にあり、湾曲は根の根尖側半分以内)。X線で測った頬舌的な内径をもとに10本ずつ2群に分けた。
準備=#10ファイルが根尖孔から見えた長さを実長とし、作業長は実長−1mm。歯冠側はGates Gliddenで拡大(#1が根管のおよそ歯冠側3分の2を形成)。
器具=一方の群はKファイル、もう一方は切削部の根尖側半分を削り落として先端がいちばん太くなるよう加工したLightspeed。どちらも同じ形の樹脂ハンドルに付け替えた。
探し方=器具も歯も見えない術者が#10から順にサイズを上げ、きつくなった時点を別の研究者に伝えて記録。作業長より手前できつくなったら、回して作業長まで入れた。

きつくなった器具はそのまま樹脂で固定。根尖1mmを水平に削って作業長の位置の断面を出し、メチレンブルーで染めて40倍で撮影しました。画像解析で直交する2方向の根管径を0.01mm単位で測り、短いほうを「短径」として記録。器具の径(円なら直径、四角なら対角線、三角なら1辺)も同じ画面で測っています。統計はMann–Whitney U検定です。

結果①:9割で、器具は根管の「短径」より細かった

0 0.1mm 0.2mm 0.3mm 作業長での径(mm・平均) 0.23mm 0.28mm 0.22mm 0.27mm Kファイル(10本) Lightspeed(10本) 初回にきつくなった器具の径 根管の短径 原著Table 1。湾曲した下顎小臼歯(抜去歯・in vitro)の作業長の位置で根尖を削り出して測定。根管径は直交する2方向のうち短いほう(短径)で、長径はさらに大きい。標準偏差は器具0.06/0.04、根管0.08/0.06(Kファイル/Lightspeed)。器具と根管の差は2群で同程度(P>0.05)
作業長での器具径と根管の短径(原著Table 1。各群10本の平均)

最初にきつくなった器具のサイズは、KファイルでISO 20〜40、LightspeedでISO 22.5〜42.5。作業長での平均径は、Kファイル0.23mmに対し根管の短径0.28mmLightspeed 0.22mmに対し0.27mmでした。

20本中18本(90%)で、器具の径は根管の短径より小さかった(各群9本ずつ)。差は最大でKファイル群0.19mm、Lightspeed群0.14mm。器具と根管の差は2群で同程度でした(P>0.05)。

ここで比べているのは根管の短いほうの径です。根管は楕円のことが多いので、長径と比べれば差はさらに開きます。原著の図1(Kファイルの例)では、三角形の断面のファイルが根管の片側に触れているだけで、その径は長径よりはるかに短く、短径よりも短いことが示されています。

結果②:全周で触れていた器具は1本もなかった

0 6本 12本 18本 根管の数(計20本) 15本 5本 片側の壁だけに接触(75%) 壁のどこにも触れず(25%) 原著Results。作業長の断面で、初回にきつくなった器具が根管壁にどう触れていたか。触れなかった5本の内訳はKファイル1本・Lightspeed4本。原著が記載した分類はこの2つだけで、合計が20本になる
作業長の断面で、器具が根管壁にどう触れていたか(原著Results)

15本(75%)は、器具が根管壁の片側の一部に触れていただけ残る5本(25%)は、壁のどこにも触れていませんでした(Kファイル1本・Lightspeed4本)。

作業長の断面では壁に触れていないのに、術者は「きつくなった」と感じたわけです(手前のどこかで当たっていた可能性は残ります)。著者らは、加工Lightspeedが壁に触れていなかったことを、湾曲根管の中で中心を保ちやすい性質の表れと読んでいます。

一方、「きつい」という感触そのものについては、石灰化した組織や密なコラーゲン線維など、器具の太さ以外の要因でも生じうると著者らは述べています。

なぜ「きつい」が根管径を映さないのか

Kファイルは歯冠側ほど太いので、先端ではなく途中の部分が壁に当たってきつく感じることがあります。つまりきつくなったKファイルが、作業長の位置できつくなっているとは限らない。これを避けようと著者らが用意したのが、先端がいちばん太く、しなやかで湾曲に沿いやすい加工Lightspeedでした。

ところが加工Lightspeedでも、根尖の根管径は映せませんでした。歯冠側3分の2をGates Gliddenでまっすぐにして、歯冠側での当たりを減らす工夫もしています。それでも、器具が作業長だけできつくなることは保証できなかった。しかも著者らは、臨床では湾曲の半径が大きいと歯冠側3分の2をまっすぐにできないこともある、と付け加えています。

明日の臨床へ

「きつくなった」を「根管径に達した」と読み替えない。この研究では器具の9割が根管の短径より細く、全周で触れていた例はなかった。
3サイズ上げても、削れているのは片側だけかもしれない。著者らは、感染した内層の象牙質を除去するという目的は達成されないかもしれない、と書いている。
アピカルストップも片側だけの小さな段になりうる。マスターファイルが根尖側へ進むのを止める働きはあっても、漏洩や材料の押し出しを減らす働きがあるかは疑問だ、と著者らは述べている。
・拡大の目的は、洗浄液を入れて入れ替える・貼薬する・根管充填するための広さを確保すること。一方で著者らは、歯根を不必要に弱めて破折リスクを上げるほど広げるべきではないとも書いている。
・楕円の張り出しの清掃は、器具より洗浄に頼る部分が大きいかもしれない、というのが著者らの見立てである。

ここだけ、冷静に補助線

この研究は湾曲した下顎小臼歯20本(各群10本)の抜去歯を使った実験室研究です。まっすぐな根管や他の歯種で同じ割合になるかは分かりません。また測ったのは作業長の1断面だけで、器具を固定したあとに根尖を削る方法なので、実際に3サイズ上げたときに壁がどれだけ削れるかは調べていません。どこまで拡大すれば治療成績が良くなるのかも、この研究の対象外です。なお利益相反・資金源の記載は原著にありません。それでも、当たり前に使われてきた「最初にきつくなったファイル」という物差しを、断面を直接見るという単純な方法で確かめたことに、この論文の値打ちがあります。根尖拡大の大きさを考え直すための、確かな出発点になる1本です。

今日のひとこと

著者らの結論:作業長で最初にきつくなったファイルは、作業長での根管径を反映していなかった。したがって、そのファイルより3サイズ大きく拡大しても、根管壁の全周から内層の象牙質が除去される保証はない。初回にきつくなったファイルを根尖の根管径の物差しや、根尖拡大の目安に使うのは信頼できない。臨床に置き直すと2つです。①「きつい」は「根管径に達した」の合図とは限らない——この研究では器具の多くが片側の壁に触れていただけで、作業長の断面では壁にまったく触れていないのに「きつい」と感じた例もあり、著者らは石灰化物や密なコラーゲン線維がその感触を生む可能性を挙げています。②3サイズ上げても、削れているのは片側だけかもしれない——作ったつもりのアピカルストップも片側だけの小さな段になりうる。一方で著者らは、拡大は洗浄液・貼薬・根管充填のために十分な広さが要るが、歯根を不必要に弱めて破折リスクを上げるほど広げるべきではないとも書いています。ただしこれは湾曲した下顎小臼歯20本の抜去歯での結果であり、どこまで拡大すれば治療成績が上がるかは、この研究では調べられていません。

Wu M-K, Barkis D, Roris A, Wesselink PR. Does the first file to bind correspond to the diameter of the canal in the apical region? Int Endod J. 2002;35:264-267. PMID: 11985678
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。