エンド|EndoSequence BC Sealer とシングルコーン法で根管充填した歯を、米国の歯内療法の専門医の開業医院1施設で、1年以上たってから X 線写真と診察で振り返り、成功の割合と関係する因子を調べた後ろ向きコホート研究(Chybowskiら 2018・Journal of Endodontics)
バイオセラミック系シーラーでガッタパーチャを1本入れるだけのシングルコーン法。手早い一方で、本当に治るのか、根尖からシーラーが出ても大丈夫かと迷う方も多いはずです。Chybowskiらは2018年、専門医の開業医院で BC シーラーとシングルコーン法で根管充填した歯を振り返りました。解析した307本(平均30.1か月の経過)で、成功(治癒+治癒途中)は90.9%。根尖病変の直径が5mmより小さい歯(95.7%)は、5mmより大きい歯(86.5%)より有意に成功が多く、シーラーの溢出は約半数に見られましたが、溢出のある歯とない歯の成功の割合に有意差は検出されませんでした。ただし1施設の後ろ向き研究で、ほかの充填法と比べる対照群はありません。
①BCシーラー+シングルコーン、成績は大丈夫?
バイオセラミック系のシーラーを使って、ガッタパーチャを1本入れるだけで根管充填を終える。シングルコーン法は手早い一方で、「加圧しなくて本当に治るのか」「根尖からシーラーが出ても大丈夫か」と迷う方も多いはずです。
この問いに、患者さんの歯の経過で答えようとしたのが、Chybowskiらが2018年に Journal of Endodontics に報告した研究です。米国の歯内療法の専門医の開業医院1施設で、EndoSequence BC Sealer(以下 BC シーラー)とシングルコーン法で根管充填した歯を、1年以上たってから X 線写真と診察で振り返りました。著者らは、BC シーラーを使った根管治療の臨床成績を調べた最初の研究だとしています。
・解析した307本の歯(平均30.1か月の経過)で、成功(治癒+治癒途中)は90.9%。内訳は治癒83.1%、治癒途中7.8%、治っていない9.1%
・初回の根管治療は90.6%、再根管治療は91.7%で、有意差は検出されなかった
・根尖病変の直径が5mmより小さい歯は95.7%、5mmより大きい歯は86.5%で、有意な差があった
・根尖の外へのシーラーの溢出は約半数(47.4%)に見られたが、溢出のある歯とない歯の成功の割合(90.4%と91.3%)に有意差は検出されなかった
・ただし1施設の後ろ向き研究で、ほかの充填法と比べる対照群はない
②なぜこの研究が必要だったか
根管治療では、清掃・拡大のあとに根管系をしっかり封鎖することが大切とされ、封鎖の不良は失敗と結びつけられてきた、と著者らは序論で書いています。
BC シーラーはカルシウムシリケート系のシーラーで、原著の説明では、酸化ジルコニウム、カルシウムシリケート、リン酸二水素カルシウム、水酸化カルシウムなどからなります。練和の要らない既製のペーストで、流れがよく、硬化のときにわずかに膨張し、象牙細管からの水分で硬化する、とされています。こうした性質からシングルコーン法で使われるようになりました。
ところが、よく使われているわりに、この組み合わせの臨床成績を調べた研究はほとんど無い。そこで著者らは、開業医院で BC シーラーとシングルコーン法で治療した歯の成績と、成績に関係する因子を調べました。
③何をどう調べたか
・研究の種類:後ろ向きのコホート研究(過去の記録と X 線写真を振り返った研究)
・場所と術者:米国の歯内療法の専門医の開業医院1施設。専門医4人が、1回の来院で、手術用顕微鏡のもとで治療
・対象:2009〜2015年に治療し、1年以上たって再診に来た歯。初回の根管治療と再根管治療の両方を含む
・主な選び方:根の完成した歯、全身状態が ASA の分類 I か II、全ての根管が充填され、X 線で1mmを超える空隙がなく、X 線上の根尖から2mm以内まで充填された歯、再診の時点で歯冠修復が適切な歯。穿孔、根管口まで及ぶ亀裂、重い歯周組織の骨吸収、垂直歯根破折の所見がある歯は除いた
・充填の方法:最終拡大のファイルより1サイズ小さいガッタパーチャを用意し、BC シーラーを根管の歯冠側半分まで注入してから、ガッタパーチャ1本を作業長までゆっくり入れた。余分なガッタパーチャは専用の器具(EndoPro 270)で除き、残りをプラガーで垂直に押した。楕円形やリボン状の根管では、補助のガッタパーチャを加圧せずに追加した
再診では、症状、瘻孔、打診・触診の痛み、腫れ、歯周ポケットを診て、X 線写真は2人の評価者が判定しました。歯は3つに分けています。
・治癒:症状がなく機能していて、X 線で根尖の透過像がないか、ごくわずか
・治癒途中:症状がなく機能していて、根尖の透過像が小さくなっている
・治っていない:機能していない・症状がある歯(透過像の有無を問わない)、または症状はないが透過像が変わらない・新しく出た・大きくなった歯
治癒と治癒途中を「成功」、治っていないものを「失敗」として数え、性別・年齢・初回か再治療か・病変の有無と大きさ・シーラーの溢出などの因子ごとに、成功の割合をカイ二乗検定(有意水準5%)で1つずつ比べています。
④結果:成功は90.9%、溢出があっても有意差は検出されなかった
解析したのは307本です(女性58.6%、平均48.0歳、再根管治療23.5%、臼歯92.2%、根尖の透過像ありが47.2%)。経過観察は平均30.1か月(標準偏差18.7か月)でした。
全体の成功は90.9%(治癒83.1%、治癒途中7.8%、治っていない9.1%)。初回の根管治療は90.6%、再根管治療は91.7%で、有意差は検出されませんでした(P=.719)。
表2の因子のうち、有意な差があったのは病変の大きさだけでした。根尖の透過像があった145本のうち、直径5mmより小さい歯は95.7%、5mmより大きい歯は86.5%が成功(本文では P=.044、表2では .0457)。一方、透過像があるかないか(92.4%と89.5%)では有意差は検出されませんでした。50歳以下は94.0%、50歳を超える人は87.1%で、P=.054 と有意水準にわずかに届きませんでした。
シーラーの溢出は、1本以上の根で術後の X 線写真に見られた歯が約半数でした(抄録と考察では47.4%、結果の節では47%。表2では307本中146本)。溢出があった歯の成功は90.4%、なかった歯は91.3%で、有意差は検出されませんでした(P=.537)。
溢出は、術前に根尖の透過像があった歯で多く(66%)、なかった歯では少なかった(30.7%)と書かれています(P<.001。考察では66.2%と30.9%)。溢出した歯のうち、再診の X 線写真でシーラーが完全に吸収されていたのは15.8%、部分的に吸収されていたのは36.3%でした。透過像の有無で吸収に有意差は検出されませんでした(P=.165)。
失敗した28本のうち13本には、診察・X 線・外科の所見で亀裂(4本)か垂直歯根破折(9本)の証拠がありました。残りの15本は、痛みが続いた歯か、根尖の透過像が残った・大きくなった・新しく出た歯でした。
⑤結果の読み方
著者らの結論は、BC シーラーとシングルコーン法は根管充填の「実行可能な選択肢」だ、というものです。病変の大きさは成績に関係する因子で、溢出は約半数に見られたものの成績には影響しなかったようだ、とまとめています。
90.9%という値について、著者らは、トロントの研究の初回治療の成功86%や、Ng らの研究の初回89.1%・再治療85.6%(根単位・ゆるい基準)と比べて同程度だとしています。ただし、施設(大学ではなく開業医院)、患者の選び方、治療の手順、経過の長さ、成績の判定のしかたが違うので、研究どうしを比べるのは難しい、とも書いています。
大きな病変で成功が低かった理由として、著者らは、大きな病変では骨をつくる細胞のもとになる細胞が少ないこと、嚢胞である可能性が高いことを挙げています。また、失敗の約半数に亀裂や垂直歯根破折があったことから、シングルコーン法ではテーパーの大きな形成が要らず象牙質を残しやすい、それが破折を防ぐのに役立つかもしれない、と考察しています。どちらもこの研究で確かめたことではなく、著者らの考えです。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
専門医が顕微鏡のもとで治療し、充填の質と歯冠修復のよい歯に限ってみると、BC シーラーとシングルコーン法で9割ほどが成功と数えられた。この方法で治療した条件のよい歯の成績の目安として、1つの手がかりになりそうです。ただし、ほかの方法と比べたものではありません。
シーラーの溢出は、病変のある歯で多く起こり、この研究の範囲では溢出の有無で成功の割合に有意差は検出されませんでした。ただし「出ても問題ない」ことを証明したわけではありません。溢出を減らす配慮(シーラーを入れる量・位置)は、これまでどおり大切にしたいところです。
また、失敗の中に亀裂や垂直歯根破折が目立ったことは、充填の方法とは別に、術前の診査で破折の兆候を見逃さないことの大切さを思い出させてくれます。
(1)後ろ向きの研究で、再診に来た歯だけが入っています。痛む人ほど再診に来やすい一方で、症状のない失敗は数えられにくい、と著者らも書いています(成功の割合はどちらの向きにもずれうる)。
(2)対照群がありません。この医院は2008年から BC シーラーだけを使っており、ほかの充填法やシーラーより良いか悪いかは、この研究からは言えません。
(3)充填の質がよく、再診時の歯冠修復が適切な歯に限り、予後の悪い歯は除いています。成功の割合は、この条件の歯での値です。
(4)因子は1つずつカイ二乗検定で比べただけで、ほかの因子をそろえた解析はしていません。成績の判定者の1人は、一部の歯の治療にも関わっていました。
(5)原著の中に数値の食い違いがあります。対象を結果の節では「307人」、抄録では「307本」と書いています。溢出の割合は47.4%と47%で、表2の146本÷307本から計算すると47.6%です。病変の大きさの P は本文 .044、表2 .0457。亀裂・破折は「28本中13本=44%」と書かれていますが、13÷28 は約46%です(筆者の計算)。
(6)資金は米国歯内療法学会の研修医向けの研究助成です。論文では利益相反は無いとしていましたが、のちの訂正記事(J Endod 2018;44(7):1199)で、著者の1人(Fleury)が、原著で BC シーラーの製造元とされている Brasseler 社(訂正記事の綴りは Brassler)と金銭的な関係があることが追加で開示されました。製造元からの研究資金や材料の提供については、原著にも訂正記事にも記載がありません。
BC シーラーとシングルコーン法の成績を、実際の開業医院の数字で見せてくれた最初の1本、という位置づけで読むのがよさそうです。ほかの方法と比べる前向きの研究が待たれます。
今日のひとこと
専門医の開業医院で、充填の質と歯冠修復のよい歯に限ってみると、BC シーラーとシングルコーン法で約9割(90.9%)が成功と数えられました。シーラーの溢出は約半数に見られましたが、溢出の有無で成功の割合に有意差は検出されませんでした。ただし1施設の後ろ向き研究で対照群はなく、ほかの充填法より良いとは言えません。この方法で治療した歯の成績の目安を、実際の開業医院の数字で知る手がかりとして読みたい1本です。


