エンド|作業長の終点にしたい「根尖狭窄部」は、根尖からどれだけ手前にあり、どんな形をしているのか。年齢不明の抜去歯270本を縦に割り、20倍の実体顕微鏡で測った形態学研究(Dummer 1984・International Endodontic Journal)
根管形成は根尖狭窄部(apical constriction)で止めたい——根管の中身と根尖周囲組織を隔てる「天然のバリア」として働くからです。ところが著者らは、「形成はX線写真上の根尖から1mm手前で終える」という決まり文句に頼ることは次第に受け入れられなくなっていると、複数の文献を挙げて述べます。そこで根尖が完成した年齢不明の抜去歯270本(切歯・犬歯・小臼歯)を用い、根尖孔の位置と、根尖部を縦に割って狭窄部の位置・形を20倍で調べました。結果、根尖から根尖孔までは平均0.38mm、根尖から狭窄部までは平均0.89mm。ただし狭窄部の距離は歯種別の範囲で0.07〜2.69mmと幅が広く、形も4つの型に分かれました。とくにB型(テーパー状の狭窄)は4つの型のうち3割を占め、狭窄部が平均0.52mmと根尖のすぐ近く。著者らは、「根尖から1mm」の目安ではB型で形成が足りなくなり、手指の感覚だけに頼る方法では狭窄が複数あるC型でおそらく足りなくなると考察し、複数の方法を組み合わせて狭窄部の位置を見積もることを勧めています。
①「根尖から1mm手前」で、狭窄部に届いている?
根管形成の終点をどこに置くか。多くの先生が「X線写真上の根尖から1mm手前」を目安に習ったはずです。本当に止めたいのは根尖狭窄部(apical constriction)——根管が最も細くなる所で、根管の中身と根尖周囲組織を隔てる天然のバリアとして、あらゆる根管形成法がこれを利用しようとしてきました。
ところが1984年の時点で著者らは、「1mm手前で終える」という決まり文句に頼ることは次第に受け入れられなくなっていると、複数の文献を挙げて述べています。
結論を先に言います。抜去歯270本で測ると、根尖から狭窄部までは平均0.89mm。ここまでは「1mm」とほぼ合います。しかし距離は歯種別の範囲で0.07〜2.69mmとばらつき、狭窄部の形は4つの型に分かれました。そして4つの型のうち3割を占めるテーパー型(B型)では、狭窄部が平均0.52mmと根尖のすぐ近くにあったのです。
②なぜ根尖部の形を調べ直したのか
根尖部の複雑さは1950〜60年代にも報告されていました。けれども著者らによれば、その後は根尖部の詳しい解剖、とくに狭窄部の位置と形にほとんど光が当たっていなかった。
③今回の一手:270本の根尖を縦に割って、20倍で見る
①根尖孔の位置:根尖を溶かした青いインレーワックスに一瞬浸し、余剰を紙で拭うと孔にだけワックスが残る。根尖から根尖孔の中心までを20倍の実体顕微鏡と目盛で測る(台上の基準点で位置を揃えて視差を排除、精度0.01mm)。
②狭窄部の位置と形:ダイヤモンドディスクで根尖部を縦方向に切断し、食用の青色色素で染めて歯髄の残渣を取り除く。20倍で根管の形を観察し、根尖から根管が最も細い位置までを測る。
統計は平均・標準偏差・観察範囲の記述だけで、群間の検定は行われていません。「どこに・どんな形で」を丁寧に数えた、記述的な形態学研究です。
④結果①:根尖孔は平均0.38mm、狭窄部は平均0.89mm手前
根尖孔は、根尖の真上ではなく平均0.38mm手前に開いていました。狭窄部はさらに奥で、根尖から平均0.89mm。差し引きすると、狭窄部から根尖孔までは約0.51mmになります(著者らの計算)。
問題はばらつきです。著者ら自身が抄録で「幅の広い値が観察されたことを強調しなければならない」と書いています。
・根尖→根尖孔:上顎切歯0.23mm・下顎切歯0.36mm・上顎犬歯0.36mm・下顎犬歯0.47mm・上顎小臼歯0.42mm・下顎小臼歯0.44mm。観察範囲は小臼歯で最も広く(約2mm)、上顎切歯で最も狭い(0.7mm)
・根尖→狭窄部:上顎切歯0.85mm・下顎切歯0.79mm・上顎犬歯0.84mm・下顎犬歯0.95mm・上顎小臼歯0.95mm・下顎小臼歯0.99mm。観察範囲は切歯で最も広く(2.6mm)、犬歯で最も狭い(約2mm)
・全歯の最小と最大は、根尖孔が0〜1.93mm、狭窄部が0.07〜2.69mm(Table II・IIIの歯種別範囲による。型別のTable IVではB型の最小が0.06mmと記載され、表の間に0.01mmの食い違いがある)
平均だけ見れば歯種による差は0.2mm程度ですが、狭窄部までの距離の観察範囲は、どの歯種でも約2mm以上に広がっています。「この歯種なら何mm」と決め打ちできる幅ではありません。
⑤結果②:狭窄部の形は4つあった
270本を見終えて分かったのは、狭窄部の形は一定ではないこと。ただし見られた形ははっきり区別できる4つだけでした。
・B型(30%):テーパー状の狭窄。根管が細くなり続け、最も細い所が根尖のすぐ近くにある
・C型(19%):狭窄が複数ある
・D型(5%):狭窄のあとに細く平行な根管が続く
これとは別に、根管が第二象牙質やセメント質で完全に閉塞していた歯が全体の6%ありました原著はこれを5つ目の型として挙げていますが、Table IVの割合46・30・19・5%は、この閉塞を除いた4型の中での内訳です。
原著Fig. 4の歯種別の頻度グラフを見る限り、どの歯種でもA型が最も多いものの、その割合は歯種によって約4〜5割で、下顎切歯ではA型とB型がほぼ同じくらい見られます。
⑥結果③:形が変わると、距離も変わる——B型だけ0.52mm
型ごとに距離を並べると、A型1.07mm・C型1.08mm・D型1.14mmとほぼ1mm前後に揃うのに対し、B型だけが0.52mm(観察範囲0.06〜1.33mm)。全体の平均0.89mmは、この3割のB型に引き下げられた値でもあります。
原著は理由までは書いていませんが、図の形から読むと、手前の狭窄を最も細い所と取り違えやすいためと考えられます(筆者の補足)。
つまり、1つの方法で全部の型に当てはまる目安は無い。これが「複数の方法を組み合わせる」という結論の根拠になっています。
⑦明日の臨床へ
・1つの目安で作業長を決め打ちしない。著者らは複数の方法を組み合わせることを勧めている。原著が例に挙げた「X線写真上の根尖から1mm」と「手指の感覚」は、苦手な型がそれぞれ違う(前者はB型、後者はC型)。ただし原著は具体的な組み合わせ方までは示していない。
・手指の感覚だけに頼る方法は、狭窄が複数あるC型(4型のうち約2割)で形成不足になるおそれがあると著者らは考察している。
・根尖孔は根尖の先端ではなく、平均0.38mm手前に開いていた(観察範囲0〜1.93mm)。
・根管が第二象牙質やセメント質で完全に閉塞していた歯も、全体の6%あった。
なお、この論文は1984年のもので、現在の電気的根管長測定器は検討の範囲に入っていません。ただ「形は外から見えない、だから目安を1つに頼らない」という考え方は、測定機器が変わっても通用します。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:根管治療中に根尖狭窄部の位置を完全な確実さで決めることは不可能であり、1つの方法に頼るより複数の方法を組み合わせるほうがうまくいく可能性がある。数字で言えば、根尖から狭窄部までは平均0.89mmですが、歯種別の観察範囲では0.07〜2.69mm。そして狭窄部の形は単一(A型46%)・テーパー状(B型30%)・複数(C型19%)・平行(D型5%)の4つに分かれ、B型だけは平均0.52mmと根尖のすぐ近くでした(割合は閉塞していた6%を除く4型の中での内訳)。「1mm手前」はA・C・D型にはおおむね合っても、B型では形成不足になり得る。手指の感覚だけに頼る方法はC型でおそらく形成不足になる、と著者らは考察しています。1本の歯の根尖の形は外から見えないので、目安を1つに決め打ちしない——この論文の持ち帰りはそこです。ただし抜去歯の解剖学的な根尖から測った値で、X線写真上の根尖から測ったものではありません。


