エンド|長さ19mm・0.06テーパーの円い円錐の根管を25・35・45・55号の4通りで作り、30Gのサイドベント針と先端が平らな針を作業長の3mm手前に固定して、1%次亜塩素酸ナトリウムを毎秒0.26mLで流したときの流れを計算したコンピュータの流体シミュレーション研究(Boutsioukis・Gogos・Verhaagen・Versluis・Kastrinakis・van der Sluis 2010・International Endodontic Journal)
根尖の拡大号数を上げると、洗浄液はどこまで届くようになるのか。Boutsioukis らは2010年、30Gの洗浄針2種を作業長の3mm手前に固定し、0.06テーパーの円い根管の号数だけを25・35・45・55と変えて、洗浄液の流れをコンピュータで計算しました。号数が大きいほど、どちらの針でも根尖側の入れ替わりは広がり、根尖孔の平均圧は下がりました。ただしサイドベント針は55号でも作業長まで入れ替わらず(針先から1.5mmまで)、先端が平らな針は35号と45号でほぼ作業長まで、55号で作業長まで入れ替わりました。実物の歯ではなく計算の結果で、清掃の効果や押し出しそのものは測っていません。
①根管の拡大、25号で止めていい?
根管形成の最終号数、何号まで上げていますか。細い根管を大きく削りたくない一方で、細いままだと洗浄針の先から出た洗浄液が根尖まで届いているのか、気になる場面は多いはずです。
この問いを、実物の歯ではなくコンピュータで洗浄液の流れを計算して確かめたのが、Boutsioukis・van der Sluis らが2010年に International Endodontic Journal に出した研究です。
・長さ19mm・0.06テーパーの円い円錐の根管を、根尖の号数25・35・45・55の4通りで作り、30Gの洗浄針2種(先端が閉じて側面に穴があるサイドベント針/先端が平らに開いた針)を作業長の3mm手前に固定して、流れを計算したコンピュータの流体シミュレーション(CFD)研究
・号数を大きくするほど、どちらの針でも根尖側の洗浄液の入れ替わりは広がった。サイドベント針は55号でも作業長まで入れ替わらず(針先から25号で0.75mm、55号で1.5mmまで)、先端が平らな針は35号と45号でほぼ作業長まで、55号で作業長まで入れ替わった
・根尖孔の平均圧は、どちらの針でも号数が大きいほど下がった。25号では先端が平らな針 49.3 kPa、サイドベント針 32.1 kPa
・根管壁の最大のずり応力(壁をこする力)は、25号で両方の針ともほぼ1000 N/m²で、号数が大きいほど下がった
・著者らは「25号より大きく拡大すると、シリンジ洗浄の働きが良くなった」とし、針と根管壁の間に、洗浄液が根管口へ戻る隙間を確保すべきと結論した
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、根管の拡大の目的は、根尖部へ抗菌性の洗浄液を届ける通り道を作ることだと考えられるようになってきた、と整理しています(引用文献)。そして、根尖部への洗浄液の届き方は拡大の大きさに大きく左右されるとされてきました(引用文献)。
ただ、これまでの研究の多くは「拡大を大きくする」と「針を作業長に近づける」を同時に変えていて、拡大の号数だけの影響を取り出して調べた研究は少ない、と著者らは書いています。そこで、著者らが過去に作り、高速度撮影の実験と照らして確かめた計算モデル(著者らの先行研究)を使って、針の位置を固定したまま号数だけを変えて計算しました。
③何をどう計算したか
・根管:長さ19mm、テーパー6%(0.06)の円い円錐。根尖の直径0.25・0.35・0.45・0.55mm(ISOの25・35・45・55号)の4通り。根尖側に長さ0.5mmの逆向きの円錐(根尖狭窄部と根尖孔)を付け、根尖孔は硬く水を通さない壁とした
・針:市販の30G針を手本にした2種。サイドベント針(先端が閉じて側面に穴)と、先端が平らに開いた針。外径320µm・内径196µm・長さ31mm。根管の中央、作業長の3mm手前に固定
・洗浄液:1%次亜塩素酸ナトリウムを想定し、毎秒0.26mL(30G針で臨床的にありうる流量とされる値)で流した
・計算:市販の流体計算ソフト(FLUENT 6.3)で、時間とともに変わる流れを50ミリ秒分計算した。管壁は硬く滑らかで水を通さないと仮定
・評価:根尖方向の流速(毎秒0.1mを超えると、洗浄液が十分に入れ替わるとみなした。著者らの先行研究の基準)、根管壁のずり応力、根尖孔の圧力。2種の針×4つの号数で、8通りの計算(方法の記載から筆者が数えた)
実物の歯や患者は使っていません。洗浄液が根尖孔から押し出されたか、根管がきれいになったかも測っておらず、計算で出した流速・壁にかかる力・圧力で比べています。
④結果1:号数を上げると、洗浄液の入れ替わりは根尖へ広がった
号数を大きくすると、針の種類に関係なく根尖側の入れ替わりは広がりました。ただし2種の針の差は大きく、サイドベント針は55号まで広げても作業長まで入れ替わりませんでした。2種の針×4つの号数の全8通り(筆者が数えた)を表にし、本文に数値の無い組み合わせはそう書きました。
サイドベント針は、25号では針先から0.75mm(作業長の手前2.25mmまで)、55号でも針先から1.5mm(作業長の手前1.5mmまで)でした。考察では、55号まで広げても「針先から1〜1.5mm」にとどまったと書かれています。先端が平らな針は、どの号数でもサイドベント針より広く入れ替わり、35号と45号でほぼ作業長まで、55号で作業長まで入れ替わりました。針より歯冠側(洗浄液が根管口へ戻る流れ)は、針の種類や号数にかかわらず入れ替わっていました。
⑤結果2:号数を上げると、根尖孔の平均圧と、壁のずり応力の最大値は下がった
根尖孔の平均圧は、すべての号数で先端が平らな針のほうが高く、25号で 49.3±1.3 kPa、サイドベント針は 32.1±3.2 kPa でした(図)。どちらの針も、号数が大きいほど同じように(2次関数的に)下がりました。
原著は、サイドベント針の圧を「significantly lower(有意に低い)」と書いていますが、方法に統計の検定は書かれていません。この記事では「低かった」と書きます。
根管壁のずり応力は、25号で両方の針ともほぼ1000 N/m²の最大値になり、号数が大きいほど最大値は下がりました(先端が平らな針でよりはっきり)。一方、ずり応力の高い範囲は、号数が大きいほど広がりました。サイドベント針では針先の周り(側面の穴に面した壁)に、先端が平らな針では針先より根尖側に集まりました。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、次のように考察しています。
・隙間が効く:針の位置と太さ、根管のテーパーが同じなら、号数を上げると針先の高さで針と根管壁の間の隙間(輪の形の断面)が広がる。根尖孔の平均圧は、この隙間の面積にほぼ反比例していた(著者らの計算)。だから針と根管壁の間に、洗浄液が根管口へ戻る隙間を確保すべき(著者らの結論)
・3つは両立しない:十分な入れ替わり、高いずり応力、低い根尖孔の圧は互いに相反し、どれが大事かに合意は無い。バランスが要る(著者ら)
・削りすぎの可能性:最大のずり応力は号数とともに下がるので、ある号数を超えた過度な拡大は、洗浄の清掃効果をかえって下げるかもしれない(著者らの仮説)。ただし、洗浄液の入れ替わりが増えることによる化学的な効果も清掃に加わる(著者ら)
・針が食い込んだら:針が管壁に食い込んだ状態では、サイドベント針は根尖側の入れ替わりが止まり圧はほぼゼロに、先端が平らな針は逃げ場が無くなり圧が極端に上がって押し出しが起こりうる(著者らの考察。この状態は計算していない)
読み方として大事なのは、これは円い円錐の根管を、硬く滑らかな壁として計算した結果だという点です。根尖孔は閉じた壁として扱っているので、「圧が低い」は計算上の根尖孔の圧で、洗浄液の押し出しそのものを測ったわけではありません。著者らも、抜去歯や臨床の研究で確かめる必要があるとしています。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み。数字はこの計算の条件のもの)。
・先端が平らな針は、35号以上なら3mm手前でもほぼ作業長まで届いた:著者らは、押し出しの危険を下げるため、この針は作業長の2〜3mm手前に置くことを提案している
・号数だけでなく「針と壁の隙間」を意識する:隙間が狭いほど、計算上の根尖孔の圧は高かった。著者らは、針の太さを拡大の号数に合わせて選ぶ必要があるかもしれないとしている
・拡大は大きいほど良い、とは言えない:最大のずり応力は号数とともに下がり、著者らはバランスが要るとしている
なお、この研究は清掃の効果や押し出しそのもの、臨床の成績は調べていません。最適な針の深さはテーパーにも左右されうるので、今後の研究課題とされています(著者ら)。
(2)条件が1つずつです。針の位置は作業長の3mm手前だけ、テーパーは0.06だけ、流量は毎秒0.26mLだけ、針は30Gの2種だけで、2種の針×4つの号数の8通り(方法の記載から筆者が数えた)を計算しています。
(3)清掃や押し出しを直接は測っていません。入れ替わりは「根尖方向の流速が毎秒0.1mを超えた範囲」(著者らの先行研究の基準)で判定し、根尖孔は閉じた壁として圧を計算しています。
(4)原著は根尖孔の圧の差を「有意に低い」と表現していますが、方法に統計の検定の記載はありません。サイドベント針の35・45号、先端が平らな針の25号の入れ替わりの範囲は、本文に数値が無く、図3のグラフだけです。
(5)資金は、テッサロニキ大学の博士課程の奨学金と、オランダの技術財団 STW の研究費から一部の援助があったと書かれています。利益相反の記載は見当たりませんでした。
今日のひとこと
このコンピュータの計算では、根尖の号数を上げるほど洗浄液の入れ替わりは根尖へ広がりましたが、作業長の3mm手前のサイドベント針は55号でも作業長まで届きませんでした。針の種類と位置、そして針と根管壁の間の「戻りの隙間」をセットで考えるのが、この論文に合った読み方です。円い根管・硬い壁を仮定した計算で、清掃の効果や押し出しそのものは測っていない点を頭に置いて使いましょう。


