エンド|根尖をどこまで広げるかは、実験室の研究では「大きいほどきれい」、一方で「削りすぎは歯を弱くする」と意見が割れてきた。拡大の大きさそのものを無作為に割り付け、根尖病変の治り方を1年追ったランダム化比較試験(Saini 2012・Journal of Endodontics)
根管形成で、根尖を何号まで広げるか。「作業長で最初に締まるファイル(FABF=first apical binding file)から3サイズ上げる」という昔ながらの目安がある一方、実験室の研究には6〜8サイズの拡大を勧めるものもあります。著者らは、根尖病変のある失活した下顎第一大臼歯の初回根管治療で、患者167人をFABFから2・3・4・5・6サイズ拡大する5群にランダムに割り付け、12か月後にデンタルX線の根尖歯周組織指数(PAI)で治り方を比べました(評価できたのは129人)。治癒(PAI 2以下)の割合は2サイズ48%・3サイズ71.43%・4サイズ80%・5サイズ84.61%・6サイズ92%と、広げるほど高くなりました。ただし統計学的に差があったのは2サイズ群と他の4群の間だけで、3〜6サイズの4群の間には有意差がありませんでした。著者らはここから「FABFから3サイズの拡大で十分で、それ以上広げても上乗せはない」と結論しています。
①根尖、何号まで広げていますか?
根管形成の終盤、「根尖はあと何号上げるか」で手が止まった経験は、多くの先生にあると思います。広げれば洗浄液は届きやすくなる。でも広げすぎれば歯質を失い、段差や穿孔のリスクも上がる。
よく知られた目安は「作業長で最初に締まるファイル(FABF=first apical binding file)から3サイズ上げる」というものです。では、2サイズで止めたら? 6サイズまで広げたら? 治り方は変わるのでしょうか。
結論を先に言います。根尖病変のある下顎第一大臼歯で比べると、1年後の治癒率は2サイズ48%・3サイズ71.43%・4サイズ80%・5サイズ84.61%・6サイズ92%。ただし統計学的に劣っていたのは2サイズ群だけで、3〜6サイズの4群の間には有意差がありませんでした。
②なぜ「何号まで」が決まらなかったのか
大きく広げる派の根拠は、実験室の研究です。根尖を大きくするほど、感染した象牙質が取れ、洗浄液が根尖まで流れ、細菌数が減る——#30、#40、#45、#60〜#80といった数字が、それぞれ別の研究で推奨されてきました。ただし、#25でも#40と同じくらい細菌を減らせたという報告(Yared & Dagher)もあります。根尖部の形を測った研究からは、FABFから6〜8サイズの拡大を勧める報告もあります。
一方で、小さく仕上げる派もいます。根の強度を保ち、元の根管の形からの逸脱や、段差・トランスポーテーション・穿孔、充填材の溢出を防ぐためです。#20で十分とする考え方もありました。
③今回の一手:拡大の大きさだけを変えて、5群に割り付ける
患者167人を封筒法でFABFから2・3・4・5・6サイズ拡大する5群(A〜E)に割り付け。
治療は1人の術者が統一した手順で行いました:ラバーダム → ゲーツグリッデンで根管上部を拡大 → 0.02テーパーのステンレス手用ファイルでステップバック(1サイズごとに0.5mmずつ短く)→ 各サイクルで3%次亜塩素酸ナトリウム5mLを27Gの針で → 17%EDTA → 水酸化カルシウム+2%クロルヘキシジンを1週間貼薬 → 側方加圧充填 → アマルガム修復。
評価=12か月後のPAI(根尖歯周組織指数・1〜5点)の変化。3人の評価者が、どの群か知らされずにデンタルX線を判定し、多根歯は最も悪い根の点数を採用しました。PAI 2以下を「治癒」としています。
ポイントは、「何号まで」を絶対値ではなくFABFからの相対で決めたことです。根尖の太さは歯ごとに違うので、「#40まで」と一律に決めるより、「最初に締まるファイルから何サイズ」のほうが臨床で使いやすい、というのが著者らの考えです。
12か月後に評価できたのは129人(25/28/25/26/25人)。37人が来院しなくなり、E群の1人は3か月時点で排膿と瘻孔が出て外科処置に回りました。
④結果①:治癒率は、広げるほど上がった
治癒率は2サイズ48%(25人中12人)→3サイズ71.43%(28人中20人)→4サイズ80%(25人中20人)→5サイズ84.61%(26人中22人)→6サイズ92%(25人中23人)。見た目には、きれいな右肩上がりです。
ところがカイ二乗検定で有意差があったのは、2サイズ群と他の4群の間だけ。3〜6サイズの4群どうしには有意差がありませんでした。なお、PAIの点数が少しでも下がった歯は全群で100%。悪化した歯は解析対象の中にはありませんでした。
⑤結果②:PAIの下がり方も、2サイズだけが小さかった
PAIの平均は、術直後4.68〜4.84から12か月後1.88〜2.60へ、全群で有意に下がりました(p<0.001)。低下量は2サイズ2.08(95%CI 1.79〜2.369)・3サイズ2.68・4サイズ2.84・5サイズ2.73・6サイズ2.92。ここでも有意に小さかったのは2サイズ群だけで、3〜6サイズの間に差はありませんでした。
⑥なぜ「3サイズ」で頭打ちになったのか
著者らの説明の中心は、洗浄針が届くかどうかです。今回使った27Gの洗浄針は、外径がISO 40号のファイルに相当します。ステップバックで形成した根管では、根尖が最低30号あって初めて、この針が根尖から1〜2mm手前まで入る。そしてFABFから3サイズ拡大した群の根尖の平均が、ちょうど30号前後だった——というのです。洗浄液は針先から約1mmしか届かないという研究もあり、針が届く太さを超えれば、それ以上広げても効き目は大きく変わらない、という理屈です。
ほかに著者らは、1週間の水酸化カルシウム+クロルヘキシジン貼薬が消毒を補ったこと、根管が太くなると洗浄液の壁へのせん断応力がかえって下がるという流体解析の報告も挙げています。
⑦明日の臨床へ
・まずFABFを確かめる。拡大の号数は「#何号まで」ではなく「FABFから何サイズ」で考えると、歯ごとの根尖の太さの違いを吸収できる。
・3サイズを最低ラインに、洗浄針が根尖近くまで届く太さかを確認する。今回の条件(27G針)では、それが平均およそ30号だった。
・洗浄と貼薬を省かない。「小さめの拡大で足りた」のは、十分な洗浄と1週間の貼薬とセットの話。
・それ以上広げるかは、根の太さ・湾曲・残存歯質との相談。数字の上では6サイズが92%で最も高かったことも、頭の片隅に。
なお、この試験はステンレスの手用ファイル(0.02テーパー)でのステップバックです。テーパーの大きいNi-Tiロータリーで形成した場合に、同じ「3サイズ」がそのまま当てはまるかは、この論文からはわかりません。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
根尖病変のある下顎第一大臼歯で、FABFから2サイズしか広げなかった群は、1年後の治癒率が48%と、3〜6サイズの群(71.43〜92%)より有意に低くなりました。一方、3・4・5・6サイズの4群の間には有意差がなく、著者らは「FABFから3サイズで十分、それ以上の拡大に上乗せはない」と結論しています。3サイズ拡大で根尖は平均およそ30号になり、27Gの洗浄針が根尖近くまで入る太さに達する——これが著者らの説明です。ただし治癒率は数字の上では広げるほど上がっており(6サイズで92%)、各群25〜28人の試験なので、「3〜6サイズは同じ」と証明されたわけではありません。持ち帰りは「2サイズで止めない。まずFABFを確かめ、3サイズを最低ラインに」。


