エンド|歯冠の壁が残っていない根管治療歯(フェルールの高さ0〜0.5mm)を、グラスファイバーポストか鋳造メタルポストに無作為に割り付け、最長3年追ったランダム化比較試験(Sarkis-Onofre・Jacinto・Boscato・Cenci・Pereira-Cenci 2014・Journal of Dentistry)。最終補綴は全員、単冠の陶材焼付金属冠。失敗は合わせて4本で、平均の観察期間は19.2か月と15.02か月
歯冠の壁が1つも残っていない根管治療歯にポストを立てるとき、グラスファイバーポストと鋳造メタルポストのどちらを選ぶか。Sarkis-Onofreらは2014年、フェルールの高さが0〜0.5mmの歯を対象に、この2種類を無作為に割り付けた試験の、最長3年までの結果を報告しました。評価できた72本のうち、失敗はグラスファイバー37本中3本、鋳造メタル35本中1本。原著の本文が「3年生存率」として示した値は鋳造メタル97.1%、グラスファイバー91.9%で、有意差は検出されませんでした(p=0.682)。ただし失敗は合わせて4本だけで、36か月の時点で評価できた歯は26本です。著者ら自身が、差を見つけるにはもっと長い追跡が要る、と書いています。
①歯冠の壁が残っていない歯のポスト、グラスファイバー? 鋳造メタル?
根管治療のあと、歯冠の壁が1つも残っていない歯。フェルールがほとんど取れないこの条件で、ポストを立ててクラウンを入れるとしたら、グラスファイバーポストと鋳造のメタルポストのどちらを選ぶか。「金属は硬いので歯根破折が心配」「ファイバーは外れやすいのでは」と、迷う場面だと思います。
Sarkis-Onofreらは2014年、この問いを患者さんの口の中で確かめたランダム化比較試験の、最長3年までの結果を報告しました。対象は、フェルールの高さが0〜0.5mmの根管治療歯です。
・評価できたのは54人の72本(グラスファイバー37本、鋳造メタル35本)
・失敗は合わせて4本。グラスファイバー37本中3本、鋳造メタル35本中1本
・原著の本文が「3年生存率」として示した値は、鋳造メタル97.1%、グラスファイバー91.9%。有意差は検出されなかった(p=0.682)
・失敗の中身は、グラスファイバーがポストの脱離2本と歯根破折1本、鋳造メタルが歯根破折1本
・36か月の時点で評価できた歯は26本だけ。平均の観察期間は、グラスファイバー19.2か月、鋳造メタル15.02か月
・著者らは「良好で同程度の臨床成績」と結論し、あわせて「差を見つけるにはもっと長い追跡が要る」と書いている
②なぜこの試験が必要だったか
著者らは序論で、歯冠の壁を少なくとも1つ残すことが、根管治療歯の修復がうまくいくための大事な条件の1つだ、と整理しています。壁が1つも残っていない歯は、修復にとっていちばん条件の悪い場面です。そして、そういう歯で修復物を保持する主な方法がポストです。
鋳造メタルポストは昔から使われ、10年後の高い生存率が報告されています。一方で、金属は象牙質より弾性係数が高く、歯根破折や、やり直しのきかない失敗が増えるのではないか、という仮説がありました。そこで代わりの選択肢として出てきたのが、力学的な性質が象牙質に近いグラスファイバーポストです。ファイバーポストの失敗の多くは、ポストの脱離だとされています。
ところが、歯冠の壁が残っていない歯で、この2種類を直接比べた臨床研究はほとんどありませんでした。著者らはこの空白を埋めるために、この試験を行っています。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく整理です。
③試験の組み立て:フェルール0〜0.5mmの歯を、2種類のポストに無作為に割り付けた
場所はブラジルのペロタス連邦大学です。2009年7月から2012年5月に、クラウンが必要な根管治療歯をもつ159人を調べ、95人が基準に合わないか参加を断りました。64人(原著の図1では83本)が無作為に割り付けられています。
・口の中の状態が良い(う蝕と歯周病がない)
・根管治療された前歯か臼歯で、歯冠の壁がない、または象牙質の裏打ちのないエナメル質が1壁残るだけ(フェルールの高さ0〜0.5mm)
・ポストによる保持と、単冠の陶材焼付金属冠が必要
・両側の臼歯部に咬合接触がある
・除外:歯周や咬合に問題のある根管治療歯、対合に大きな欠損補綴(Kennedy I級・II級)がある場合
・すべての処置をラバーダム防湿下で行った
・グラスファイバーポスト:既製のポストをシラン処理して装着。セメントはさらに無作為に2種類に分けた(通常のレジンセメント20本、セルフアドヒーシブレジンセメント21本)
・鋳造メタルポスト:コバルトクロム合金。セルフアドヒーシブレジンセメントで装着
・グラスファイバーポストのコアはコンポジットレジン
・最終補綴は全員、単冠の陶材焼付金属冠
・処置をしたのは、12時間の講義とトレーニングを受けた学部生と大学院生
患者さんと評価者には、どちらのポストかを知らせていません(二重盲検)。再評価は装着の6・12・24・36か月後で、較正を受けた2人の評価者がFDIの基準で診査し、X線写真も撮っています。記録したのは、X線での変化(根尖病変・二次う蝕)、ポストやクラウンの脱離、修復物・コア・ポスト・歯根の破折です。
原著は「主な評価項目はポストの脱離」と書いています。ただし、生存の解析では、脱離も歯根破折もまとめて「失敗」として数えています。群の比較はカプラン・マイヤー法とlog-rank検定です。症例数は「2つの治療は同等」という想定で計算され、64人が必要とされていました(両側90%信頼区間で、18%を超える差を否定できる人数)。
④結果(1):失敗は37本中3本と35本中1本、有意差は検出されなかった
ポストを装着できたのは78本です。そのあと追跡から外れた分があり(試験からの離脱と金属アレルギー1件。原著の本文では6人、図1では6本)、54人の72本が評価されました(男性9人、女性45人、平均42.7歳)。原著が「リコール率92.3%」と書いているのは、この72本と78本の割合にあたります(筆者の計算)。
・ポストの種類:「3年生存率」は鋳造メタル97.1%、グラスファイバー91.9%。p=0.682
・失敗の本数にすると、グラスファイバー3/37(8.1%)、鋳造メタル1/35(2.9%)。失敗のリスク比(グラスファイバー/鋳造メタル)は約2.84(本文の本数から筆者が計算。95%信頼区間は約0.31〜26.0)
・推定した平均生存期間は、グラスファイバー30.1か月(95%信頼区間 28.1〜32.2)、鋳造メタル32.3か月(95%信頼区間 29.1〜35.5)
・歯の位置:前歯97.5%(40本)、臼歯90.6%(32本)。p=0.217
・グラスファイバー群の中でのセメントの種類:p=0.691
・評価できた歯は、6か月で72本、12か月で53本、36か月で26本
・平均の観察期間は、グラスファイバー19.2か月(標準偏差7.84)、鋳造メタル15.02か月(標準偏差7.04)
リスク比の2.84は、3本と1本という小さな数から計算した値です。筆者が計算した信頼区間は約0.31から26.0までと、とても広い幅になります。グラスファイバーの方が失敗がずっと少ない場合も、ずっと多い場合も、どちらも否定できません。「有意差が検出されなかった」は、「差がないと確かめられた」とは別のことです。
⑤結果(2):4本の失敗の中身
・グラスファイバー(3本)
ポストの脱離:上顎前歯1本(8か月後)、小臼歯1本(26か月後)。どちらも通常のレジンセメントで装着した歯
歯根破折:小臼歯1本(15か月後)。セルフアドヒーシブレジンセメントで装着した歯
・鋳造メタル(1本)
歯根破折:大臼歯1本(20か月後)
脱離した2本は、同じ種類のポストでやり直されました。歯根破折の2本は抜歯です。4本とも女性の患者さんでした。
失敗した4本のうち3本は臼歯で、前歯は1本です。ポストで保持したクラウンの失敗は上顎前歯に多い、という先行研究とは違う並びでした。ただ、歯の位置による生存の差も、有意ではありません(p=0.217)。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・4本の失敗が起きたのは、歯冠の歯質がほとんど残っていない歯を修復する難しさのためだろう
・接着の失敗(脱離)は、接着操作の問題(重合の不足など)と結びつくことが多い。一方で、歯根破折の早いサインや、フェルール効果がないことの表れである可能性もある
・歯根破折は、もともとあった歯根のひびなど、見えなかった歯質の欠陥と関係しているかもしれない
・ポストの弾性係数が歯根破折のリスクにかかわるという仮説は、まだ確かめられていない。この試験でも、群の間に有意な差は検出されなかった
・前歯と臼歯の生存に有意差が検出されなかったのは、歯冠の壁がないという条件が、どちらの部位にも同じように働いたためかもしれない
著者らの結論は、「3年の追跡のあと、グラスファイバーポストと鋳造メタルポストは、歯の位置にかかわらず、良好で同程度の臨床成績を示した。ただし、ポストの間にありうる差を見つけるには、もっと長い追跡が必要である」です。
⑦明日の臨床へ
・グラスファイバーポストは、力学的・審美的な性質から、鋳造メタルポストに代わる信頼できる選択肢になりうる
・根管治療歯を修復する「いちばん良い方法」を支持する根拠は見つかっていない、とする2つの系統的レビューと、今回の結果は合っている
・追跡期間が短いことは、この研究の限界である
・ほかの研究との比べ合わせは、研究の形・ポスト・セメント・歯質の残り方・最終補綴が違うので、慎重に読む必要がある
・フェルールが取れない歯で、ポストの種類だけで成績が大きく分かれる、という結果ではありませんでした。ただし失敗は4本だけで、「どちらでも同じ」と言える大きさの試験でもありません
・失敗の形には目を向けたいところです。グラスファイバーの脱離2本はやり直せましたが、歯根破折の2本は抜歯になっています。歯根破折は、グラスファイバー群でも鋳造メタル群でも1本ずつ起きました
・この試験の歯は、ラバーダム防湿下で、決められた手順どおりに処置されています。条件は、う蝕と歯周病がなく、両側の臼歯部に咬合接触があり、対合に大きな欠損補綴がない人です。咬合の条件が厳しい症例に、そのまま当てはめることはできません
・比べたのは、既製のグラスファイバーポストと、コバルトクロムの鋳造ポストです。金銀パラジウム合金の鋳造コアや、既製の金属ポストは調べていません
・脱離した2本は、どちらも通常のレジンセメントの歯でした。ただ、セメントの種類による差は有意ではなく(p=0.691)、2本の話から接着システムの優劣は言えません
(1)追跡は「最長」3年です。平均の観察期間は19.2か月と15.02か月で、36か月の時点で評価できた歯は72本のうち26本でした。
(2)失敗は合わせて4本です。原著は同等性を想定して症例数を計算していますが、結果として示されているのはlog-rank検定のp値で、群の差の信頼区間は示されていません。必要とされた64人に対し、評価されたのは54人です。「同等と確かめられた」とまでは、原著の数字からは読み取れません。
(3)生存率の数字には、原著の中で食い違いがあります。抄録は「グラスファイバー97.1%、鋳造メタル91.9%」、本文は「鋳造メタル97.1%、グラスファイバー91.9%」です。失敗の本数(3/37と1/35)から計算すると本文の向きと一致するので、この記事は本文の値を使いました。
(4)この97.1%と91.9%は、評価した本数から失敗を引いて割った値(34/35、34/37)と一致します(筆者の計算)。途中で観察が終わった歯を考えに入れた3年時点の推定値とは、別の数字である可能性があります。原著の図2の生存曲線は、どちらの群も終わりの位置が90%より下に描かれています(筆者が図を見た読み)。
(5)割り付けの単位は歯で、1人に複数の歯が入っています(54人で72本)。同じ人の歯どうしが似ることをどう扱ったかは、解析の方法の項に書かれていません。
(6)割り付けられた83本のうち、解析に入ったのは72本です。装着に至らなかった歯と、追跡から外れた歯は、解析に含まれていません。
(7)処置をしたのは、トレーニングを受けた学部生と大学院生です。経験のある術者の成績とは、違うかもしれません。
(8)参加者の大半は女性(54人中45人)でした。
資金の提供元と利益相反についての記載は、入手した原著PDFの中には見当たりません。試験で使われたグラスファイバーポスト(White Post DC)はFGM社、レジンセメント(RelyX ARC、RelyX U100)は3M ESPE社の製品です。
それでも、歯冠の壁がない歯にしぼって2種類のポストを比べたランダム化比較試験は貴重です。著者ら自身が「もっと長い追跡が要る」と書き、それを今後の研究の目標に挙げています。この報告は、最長3年までの途中経過として読むのが合っています。
今日のひとこと
この試験が示したのは、歯冠の壁が残っていない根管治療歯(フェルール0〜0.5mm)にグラスファイバーポストか鋳造メタルポストを使い、陶材焼付金属冠で修復した条件では、最長3年までの生存に有意差は検出されなかったということです(p=0.682)。失敗はグラスファイバー37本中3本(脱離2本・歯根破折1本)、鋳造メタル35本中1本(歯根破折1本)でした。ただし失敗は合わせて4本だけで、36か月の時点で評価できた歯は72本のうち26本です。失敗のリスク比は約2.84(本文の本数から筆者が計算)ですが、信頼区間はとても広く、「2つのポストは同じ」と確かめられたわけではありません。著者ら自身が、差を見つけるにはもっと長い追跡が要る、と書いています。最長3年までの途中経過として読む1本です。


