エンド|根尖切除後の逆根管窩洞を直径1.5mm・深さ3mmに統一し、アマルガム・super EBA・MTAの初期の封鎖をローダミンB蛍光色素と共焦点顕微鏡で比べた実験。MTAがまだ「実験的材料」と呼ばれていた時期の報告(Torabinejad 1993・Journal of Endodontics)
根尖病変は、根管が口腔内の細菌叢にさらされたときにだけ生じます。根管系は細菌も毒素も代謝産物も抱え込み、それが根尖周囲組織へ漏れ出して病変になる。だから逆根管充填の目的はただひとつ、根管内に残った刺激物が根尖周囲組織へ漏れるのを止めることです。1016症例を後ろ向きに調べたHartyらは、外科的歯内療法の成功を決める単一で最も重要な因子は根尖の封鎖だと報告していました。著者らは単根管の抜去歯30本を通法で形成・充填し、根尖から3〜4mmを歯軸に対し90度で切除。切除面を接着システムで封鎖して象牙細管経由の漏れを排除し、測るのは充填材と窩洞壁の界面だけという設計にしたうえで、窩洞を直径1.5mm・深さ3mmに統一しました。10本ずつ3群に分け、亜鉛フリーのアマルガム/super EBA/MTA(粉:水=3:1)を詰め、ローダミンB蛍光色素に24時間浸けて共焦点顕微鏡で観察すると——アマルガムは10本すべてで窩洞の全深さ3mmまで色素が達し、super EBAは8本が1〜2mm・2本が3mm、MTAは6本で侵入ゼロ・残る4本も窩洞の3分の1未満。Kruskal-Wallis検定で有意差があり(p<0.0005)、漏れの大きさで アマルガム>super EBA(p<0.0006)>MTA(p<0.0007)と順序がつきました。数字の前に断面の見え方も違っていて、MTA以外はほとんどの標本で充填材と窩洞壁の間に隙間や気泡があり、適合が最も悪かったのはアマルガム、最もよかったのはMTAでした。
①逆根管充填で、いちばん大事なのは何か
根尖病変は、根管が口腔内の細菌叢にさらされたときにだけ生じます。根管系は細菌もその毒素も代謝産物も抱え込み、それが根尖周囲組織へ漏れ出すことで病変ができる。だから非外科的治療の目標は刺激物の除去と根管系の三次元的な封鎖です。
ところが根管系は複雑で、現在の器具と技術では完全には清掃できません。再治療でも救えないとき、外科的歯内療法——根尖の露出、根尖切除、窩洞形成、逆根管充填——が必要になります。1016症例を後ろ向きに調べたHartyらは、外科的歯内療法の成功を決める単一で最も重要な因子は根尖の封鎖だと報告しました(本文の引用より)。
結論を先に言います。ローダミンB蛍光色素と共焦点顕微鏡で見ると、アマルガムは10本すべてで窩洞の全深さ3mmまで色素が届き、super EBAは8本が1〜2mm・2本が3mm、MTAは6本で侵入ゼロ・残る4本も窩洞の3分の1未満でした。
②「理想の逆根管充填材」は、まだ無かった
理想の材料に求められる条件は、当時すでに整理されていました。
ガッタパーチャ、酸化亜鉛ユージノール、Cavit、コンポジットレジン、金箔、グラスアイオノマー——多くの材料が提案されましたが、著者らは「これらの性質を全部、あるいはほとんど備えた材料はまだ見つかっていない」と書いています。
長年の標準はアマルガムでした。ただし欠点も列挙されています。初期の漏洩、二次的な腐食、水銀とスズによる汚染、湿気への弱さ、窩洞にアンダーカットが要ること、硬組織・軟組織の着色、アマルガム粒子の飛散。この欠点を避けるために推されたのが酸化亜鉛ユージノール系のsuper EBAやIRMですが、こちらにも湿気への弱さ、生活組織への刺激、溶解性、臨床での扱いにくさという欠点がありました。
③今回の一手:蛍光色素と共焦点顕微鏡で「界面」を見る
この論文の技術的な新しさは、測り方にあります。
手順はこうです。単根管の抜去歯30本(術前X線で複根管・石灰化・強い根尖湾曲がないことを確認)の歯冠をCEJで切断。#15 Kファイルが根尖孔から出るところを作業長とし、根尖孔を#40 Kファイルまで拡大して、5.25%次亜塩素酸ナトリウムを使いステップバック法で形成。側方加圧ガッタパーチャとGrossmanシーラーで充填し、100%湿度で1週間保管しました。
10本ずつ3群に無作為に分け、亜鉛フリーのアマルガム/super EBA/MTA(粉:水=3:1のパテ状)を小型のプラガーで圧接。24時間100%湿度に置いたあと、ローダミンB水溶液に24時間浸漬しました。
観察は油浸対物と緑色フィルター(波長546nm)。ローダミンBは緑色光で励起すると赤橙色に光ります。アマルガムでは標本内部からの反射光が邪魔になるため、600nmの赤フィルターで反射を遮って色素の存在を確認しています。1本につき最低2か所(半割標本の各壁)を測り、別の研究者が再確認したうえで最大値をその歯のスコアとしました。
④結果:色素だけでなく、隙間そのものが違った
数字の前に、断面の見え方が違っていました。MTAを詰めたもの以外は、ほとんどの標本で充填材と窩洞壁の間に隙間や気泡があった。適合が最も悪かったのはアマルガムで、最もよく適合し隙間が少なかったのがMTAです。
色素侵入はアマルガムが全10本で窩洞の全深さに達し、super EBAはそれより少ないものの、色素が界面だけでなく材料そのものの中に取り込まれている例もありました。MTAは大半で侵入ゼロ、残りもごくわずか。3群の差はKruskal-Wallis検定で有意(p<0.0005)、2群ずつの比較でも漏れの大きさで アマルガム>super EBA(p<0.0006)、super EBA>MTA(p<0.0007)と、きれいに順序がつきました(>の左が漏れが大きい側)。
⑤アマルガムに不利な条件だった可能性
ここは著者らが自分から書いている部分で、読むうえで大事です。
super EBAについても、先行研究の結果は割れていました。super EBAとバーニッシュ付きアマルガムがKetacセメントや熱バーニッシュしたガッタパーチャより漏れが少なかったという報告、逆にアマルガムとsuper EBAは同等だったという報告が混在しています。著者らは自分たちの結果が一部の研究と一致し一部と矛盾することを認め、その理由を使う色素と評価手技の違いに求めています。
⑥MTAの長所と、はっきりした短所
著者らが挙げるMTAの実務的な利点は3つです。
一方、短所として挙げられているのが硬化時間の長さです(著者らの書き方は「起こりうる短所」)。MTA自体は4時間足らずで硬い構造になるとされていますが、予備実験で、逆根管充填した直後にローダミンB水溶液へ浸けたところ、MTAと窩洞壁の間にいくらか漏れが生じました。著者らはこれを長い硬化時間のせいだろうと考えています。興味深いのは、同じ現象がメチレンブルーでは観察されなかったこと。2つの色素の性質の違いによるのかもしれない、と述べられています。
⑦明日の臨床へ
・MTAは硬化に時間がかかる。予備実験では、充填した直後に色素へ浸けると漏れが生じている(本実験は充填後100%湿度に24時間置いてから浸漬しており、MTAは10本中6本で侵入ゼロ)。閉創までの扱い、血液や洗浄液との接触の順番を考える材料である。
・アマルガムの封鎖は時間とともに改善する性質がある。24時間の試験はアマルガムに厳しい条件で、そのぶんこの比較は「初期の封鎖」の比較として読むのが正確。
・切除面を接着材で封鎖してから測るという設計は、「界面の漏れ」と「象牙細管経由の漏れ」を切り分けるための工夫。論文を読むときにこの切り分けがあるかを見ると、数字の意味が変わる。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:MTAはアマルガムおよびsuper EBAより有意に色素の漏れが少なかった。アマルガムは10本すべてで窩洞の全深さ3mmまで色素が達し、MTAは6本で侵入ゼロ・残る4本も窩洞の3分の1未満(漏れの大きさで アマルガム>super EBA p<0.0006、super EBA>MTA p<0.0007)。色素の前に隙間そのものが違い、適合が最も悪いのがアマルガム、最もよいのがMTAでした。実務上のMTAの利点として著者らは練和と填入が容易・乾燥した術野を必要としない・余剰の除去が容易の3つを挙げ、「起こりうる短所」として硬化時間の長さを挙げています(予備実験では、充填直後にローダミンBへ浸けるとMTAと窩洞壁の間に漏れが生じた)。公平を期すために押さえておきたいのは、著者ら自身がこの24時間という条件はアマルガムに不利だと認めている点です。アマルガムの封鎖は腐食生成物が溜まるにつれて時間とともに改善するため、バーニッシュを塗るか時間を与えていれば結果は変わったかもしれない、と。筆者の読みでは、この論文の値打ちは順位そのものより「切除面を接着材で封鎖して、界面の漏れだけを測る」という設計の明快さにあります。ただし各群10本・浸漬24時間のin vitro試験であり、著者らは色素試験の臨床への外挿に疑問があることを明記しています。


