エンド|抜歯予定の生活歯でRoot ZXの「APEX」表示までファイルを入れて固定し、抜歯後に走査型電子顕微鏡でファイル先端と根尖孔の位置関係を測った研究。根尖孔が歯根の先端に開く歯と、側方に開く歯を比べている(Pagavino 1998・Journal of Endodontics)
電気的根管長測定器は、電解質の影響や根管ごとの較正という課題を経て、2つの周波数のインピーダンスの比から位置を割り出す「比率法」のRoot ZXに行き着きました。乾いた根管でも較正なしで測れるとされ、先行研究では実体顕微鏡での評価で、根尖孔から0.5mm以内の正確度が96.2%と報告されています。さらに著者らは考察で、エックス線写真での確認は測定器の精度評価として妥当ではないと述べています。この研究では抜歯予定の患者19名・単根の生活歯35本で、Root ZXの「APEX」表示(0の目盛り)までファイルを入れてレジンで固定し、抜歯してから走査型電子顕微鏡(SEM)でファイル先端から根尖孔の最も歯冠側の縁までの距離を測りました(処理中の除外6本を除き29本を解析)。結果、根尖孔の歯冠側(手前側)の縁にぴったり一致したのは1本だけで、残りのすべて(28本)が0.12〜0.85mmその縁を越えており、手前で止まった歯は0本。全体の平均は0.395mm、±0.5mm以内に82.75%、±1.0mm以内なら全29本が収まりました。そして根尖孔が歯根の先端に開く歯(15本)は平均0.268mmで全例が±0.5mm以内だったのに対し、側方に開く歯(14本)は平均0.531mmで、±0.5mm以内は14本中9本。差は有意でした(p=0.0009)。
①「APEX」が点滅したとき、ファイルの先はどこにある?
根管長測定器が「APEX」を示した位置から、何mm引いて作業長にするか。毎日のように決めているのに、その「APEX」が根尖孔に対して実際どこなのかを、自分の目で確かめる機会はまずありません。エックス線写真での確認には限界がある——そこで著者らは、電子顕微鏡で直接見ることにしました。
結論を先に言います。抜歯予定の生活歯29本で、Root ZXの「APEX」表示でファイルを止めて固定し、抜歯して走査型電子顕微鏡(SEM)で見ると、先端が根尖孔の歯冠側(手前側)の縁にぴったり一致したのは1本だけ。残りのすべて(28本)が0.12〜0.85mm、その縁を越えていました。手前で止まった歯は1本もありませんでした。
そしてずれ方は、根尖孔の開き方で変わりました。根尖孔が歯根の先端に開いている歯では平均0.268mm、歯根の側面に開いている歯では平均0.531mmで、差は有意(p=0.0009)。著者らは、器具を約0.5mm(根尖孔が先端)〜1.0mm(側方)引き戻すことが妥当だとしています。
②電気で根管長を測る——その精度を、どう確かめるか
電気的根管長測定の歴史は長く、50年以上前にSuzukiが「根管内の器具と口腔粘膜の電極のあいだの電気抵抗は、歯周組織のどこでも一定の値を示す」ことを見つけ、1962年にSunadaがこの原理で根管長を測る方法を初めて作りました。ところがその後、次亜塩素酸ナトリウムや滲出液、多量の出血のような電解質があると正確に測れないことが問題になります。
1984年にYamashitaが提案した2周波数の方式(Endex)は電解質があっても測れる一方、根管ごとに根尖孔の数mm手前で較正(ゼロ合わせ)が必要で、乾いた根管ではその較正が不正確でした。そして1991年、Kobayashiらが「比率法」を報告します。2つの周波数のインピーダンスを同時に測ってその比を求め、根管内のファイルの位置として表す方式で、これがRoot ZXとして製品化されました。根管内の電気的な状態の影響をほとんど受けず、乾いた根管でも較正なしで測れるとされています。
③今回の一手:口の中で止めて固定し、抜いてからSEMで見る
この研究のいちばんの特徴は、測定そのものは生体内(生きた歯髄のある歯)で行い、判定は抜歯後にSEMで行った点です。抜去歯を模型に埋めて測る実験とは、測定の条件が違います。
手順=局所麻酔(2%メピバカイン、アドレナリン1:100,000)とラバーダムのもと、臨床歯冠の大部分を削除し、Gates-Gliddenで根管口を広げ、抜歯中にファイルを固定するためのアンダーカットを髄室に付与。根管口を2.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄して余分な液を吸引し、#08〜#15のファイルを挿入。
測定=Root ZXをメーカーの指示どおりに使い、クリップを口唇に、電極をファイルにつないで、画面の「APEX」が点滅し連続音が鳴った位置(0の目盛り)で挿入を止めた。そのまま光重合コンポジットレジンでファイルを固定し、柄を削り落としてから抜歯。
抜歯後は次亜塩素酸ナトリウムで歯根表面の有機物を落とし、実体顕微鏡(40倍)で根尖孔の位置を確認しました。根尖孔が歯の長軸上で歯根の先端に一致する18本をA群、長軸からずれて側方に開く17本をB群とし、SEM用に処理します。この処理の途中で6本が破損やファイルの位置ずれで除外され、最終的にはA群15本・B群14本の計29本になりました。
評価したのは、ファイル先端から根尖孔の最も歯冠側の縁までの距離。画像解析ソフトで測り、測定は1人の研究者が担当しました。別の研究者が無作為の10件を測り直したところ、測定誤差(Dahlbergの式)は0.012mm。群の比較はMann-Whitney U検定です。
④結果①:手前で止まった歯は0本、ずれはすべて「越える」方向
29本全体の平均は0.395mm(標準偏差0.215、範囲0〜0.85mm)。根尖孔の歯冠側(手前側)の縁にぴったり一致したのはA群の1本だけで、残りのすべて(28本)はファイル先端がその縁を越えていました。根尖孔より手前で止まった歯は1本もありません。
群で分けると差がはっきりします。A群(根尖孔が歯根の先端)は平均0.268mm(標準偏差0.135、範囲0〜0.49mm)、B群(側方に開口)は平均0.531mm(標準偏差0.205、範囲0.12〜0.85mm)。側方に開いている歯のほうが、有意に大きく越えていました(p=0.0009)。最大の0.85mmもB群の1本です。
⑤結果②:±0.5mmなら82.75%、±1.0mmなら全29本
先行研究で使われてきた±0.5mmの許容範囲で見ると、全体の82.75%が正しく根尖孔を捉えていました。先行研究の96.2%より低いものの、著者らはほかの測定器で報告されてきた範囲から大きく外れてはいないと述べています。±1.0mmの緩い基準なら、29本すべてが収まりました。
⑥読み解き:側方の根尖孔は、写真でも当てにしにくい
B群の数字をどう受け止めるか。著者らは2つの補足を添えています。
1つ目は測り方の癖です。距離はどの歯でも「根尖孔の最も歯冠側の縁」を基準に測りました。基準点を1つに決めることで測定のばらつきは避けられますが、根尖孔が楕円形のとき、特に側方の根尖孔では距離をやや大きめに見積もった可能性がある、と著者ら自身が書いています。
2つ目は比べる相手です。側方に開く根尖孔の歯では、エックス線写真で根尖の位置を決める方法もやはり信頼性が低い。だから著者らは、臨床的な観点ではRoot ZXの結果は側方の根尖孔の位置決めにも十分受け入れられると結論しています。側方孔は「電気でも誤差が大きくなる」が「写真も当てにしにくい」、という位置づけです。
⑦明日の臨床へ
・作業長は「APEX」から引き戻して決める。著者らは、根尖狭窄部を越えて器具が突き出さないよう調整が必要だとし、根尖孔が先端なら約0.5mm、側方なら約1.0mmの引き戻しが妥当としている(過剰な拡大を避けるため)。
・偏心した(側方に開く)根尖孔では、写真でのファイル位置の判定は当てにしにくい(著者らの指摘)。側方孔かどうかを写真で確かめきれない場面では、ずれが大きくなりうる側を念頭に置いておきたい(筆者の私見)。
・確認のエックス線写真だけで、ファイルの位置を「合っている」と決めつけない(記事としての提案)。根拠は、側方の根尖孔では写真での根尖の位置決めは信頼性が低いと著者らが述べていること。
なお、この研究の条件は生活歯・拡大前の根管・細いファイル(#08〜#15)・根管口を次亜塩素酸ナトリウムで洗って余分な液を吸引した状態です。壊死歯や根尖孔の大きさの影響は、著者らも今後の課題としています。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:根尖孔が歯根の先端に開く歯ではRoot ZXの臨床的な正確度は高く、±0.5mm以内に100%が収まった。側方に開く根尖孔では正確度が有意に低い。誤差は常にファイル先端が根尖孔の歯冠側の縁を越える方向だったので、根尖孔が先端なら約0.5mm、側方なら約1.0mm器具を引き戻すのが妥当と思われる。臨床に効く形に直すと2つです。①Root ZXの「APEX」表示(0の目盛り)の位置は、根尖孔の歯冠側(手前側)の縁より先にあると考える——29本中28本がその縁を0.12〜0.85mm越えており、手前で止まった歯は1本もありませんでした。②偏心した(側方に開く)根尖孔では、写真でのファイル位置の判定は当てにしにくい——著者らはこの点を挙げ、側方孔の位置決めでもRoot ZXの結果は臨床的に十分受け入れられると述べています。ただし解析は29本・生活歯・拡大前の根管に限られ、壊死歯や根尖孔の大きさの影響は調べていません。


