エンド|根管治療のあと、ファイバーポストとレジンコアで修復した歯と、ポストなしのレジン充填で修復した歯を、平均8.8年(5.1〜15.3年)追った後ろ向き研究(Guldener・Lanzrein・Siegrist Guldener・Lang・Ramseier・Salvi 2017・Journal of Endodontics)。最終修復は直接法のコンポジットレジン修復か単冠。ブリッジや義歯の支台歯は除かれている
根管治療のあとの歯に、ファイバーポストを入れるか、入れないか。Guldenerらは2017年、スイスの専門医1人が同じ手順で治療した100人・144本を、平均8.8年追った後ろ向き研究を報告しました。歯の生存はポストあり94.3%(100/106本)、ポストなし76.3%(29/38本)で、有意差がありました(P<.001)。垂直性歯根破折は21本あり、ポストの入った根で起きたのは1本だけでした。ただし、ポストは残った歯質が少ない歯にだけ使われています。無作為に割り付けた比較ではなく、2つの群はもともと条件が違います。「ポストを入れたから歯が残った」とまでは、この研究からは言えません。
①根管治療歯にファイバーポスト、入れる? 入れない?
根管治療のあとの支台築造。「ポストは歯を強くするわけではない」「ポスト孔を掘ると歯根破折が心配」と習ってきた方は多いと思います。では実際に、ファイバーポストを入れた歯と入れなかった歯は、長い目で見てどうなったのか。
Guldenerらは2017年、スイスの専門医1人が同じ手順で治療した歯を、平均8.8年追った後ろ向き研究を報告しました。対象は、直接法のコンポジットレジン修復か単冠で修復した根管治療歯です。
・対象は100人の144本。ファイバーポストあり106本、ポストなし38本
・歯の生存は、ポストあり94.3%(100/106本)、ポストなし76.3%(29/38本)。P<.001
・成功(合併症の治療を一度も受けずに歯が残った)は、ポストあり85.8%、ポストなし63.2%。P<.001
・垂直性歯根破折は21本(14.6%)。ポストの入った根で起きたのは1本だけ
・ポストの脱離とポストの破折は0本
・単冠と直接法のレジン修復の間では、生存と合併症に有意差は検出されなかった(P>.05)
・ただし、ポストは残った歯質が少ない歯にだけ使われた。無作為の割り付けではなく、2つの群はもともと条件が違う
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、根管治療歯の修復について臨床の根拠が限られていて、修復の原則は主に実験室の研究から引き出すしかない、と整理しています。多くの歯内療法の研究では、修復の中身がくわしく書かれていません。
ファイバーポストは、弾性係数が象牙質に近く、垂直性歯根破折のリスクを下げると考えられています。一方で、ファイバーポストの失敗でいちばん多いのは、ポストの脱離だとされています。ポスト孔を形成したあとに残る厚いスメア層を取り除くことが、接着には大事だという実験室の研究もあります。
そこで著者らは、こうした実験室の知見をふまえた手順で修復した歯が、5年以上たってどうなっていたかを調べました。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく整理です。
③研究の組み立て:歯質が少ない歯にだけ、ポストを入れた
場所はスイス・ベルンの開業医院です。歯周病学と歯内療法学の専門医1人が、通常の診療として行った治療を、あとからさかのぼって調べています。観察期間は全員5年以上です。
・全身の病気で問題になるものがない
・歯周治療が終わっている(全顎のプラークスコアと出血スコアがどちらも30%以下)
・サポーティブペリオドンタルセラピー(定期管理)にきちんと通っている
・単冠(陶材焼付金属冠)か、直接法のコンポジットレジン修復の支台になっている単根歯・複根歯
・除外:歯周病を治療していない人、ブリッジ・義歯・テレスコープ冠の支台になっている根管治療歯
・根管治療と再根管治療は、すべてラバーダム防湿下で行った。拡大鏡かマイクロスコープを使用
・根管充填から2〜3週間以内に、ラバーダム防湿下で窩洞を最終的に封鎖した
・残っている壁が1つだけ、または臨床歯冠の高さが3分の1より少ない歯(Perozらの分類のクラスIV・V)に、ファイバーポストを入れた
・ポストは、いちばん丈夫な根に1本(下顎大臼歯なら遠心根、上顎大臼歯なら口蓋根)
・ポスト孔は根管口から8mmまで。根尖側に3〜4mm以上の根管充填を残した
・ポスト孔のスメア層を回転ブラシとキレート剤で取り除き、リン酸エッチング、接着処理、シラン処理をしたポストの装着、コンポジットレジンのコア築造の順で行った
・それ以外の歯は、ポストなしでコンポジットレジンを充填した
つまり、ポストを入れるかどうかは、歯質の残り方で決まっています。ポストあり群は「歯質が少ない歯」、ポストなし群は「歯質が比較的残っている歯」です。くじ引きで2つに分けた比較ではありません。
評価は2つです。「生存」は、合併症の治療を受けた歯も含めて、歯が残っていること。「成功」は、合併症の治療を一度も受けずに、歯が残っていること。合併症は、生物学的なもの(根管治療の失敗、う蝕の再発、歯周炎の再発)と、技術的なもの(脱離、歯根破折など)に分けて記録されました。
④結果(1):生存は94.3%と76.3%、成功は85.8%と63.2%
144本のうち、ファイバーポストありは106本(直接法のレジン修復65本、単冠41本)、ポストなしは38本(直接法のレジン修復33本、単冠5本)でした。観察期間の平均は、ポストあり群8.6年、ポストなし群9.4年です。
・生存:ポストあり100/106本(94.3%)、ポストなし29/38本(76.3%)。P<.001
・成功:ポストあり91/106本(85.8%)、ポストなし24/38本(63.2%)。P<.001
・歯の喪失:ポストあり6本(5.7%)、ポストなし9本(23.7%)。リスク比(ポストなし/ポストあり)は約4.2(本文の本数から筆者が計算。95%信頼区間は約1.6〜11.0)
・全体では、生存129/144本(89.6%)、成功115/144本(79.9%)、歯の喪失15本(10.4%)
リスク比の4.2は、歯質の残り方も歯の種類も違う2つの群を、そのまま割り算した値です。「ポストを入れなかったせいで、歯を失いやすくなった」ことを示す数字ではありません。読み方は⑦と補助線で書きます。
・ポストあり:直接法のレジン修復61/65本(93.8%)、単冠39/41本(95.1%)
・ポストなし:直接法のレジン修復25/33本(75.8%)、単冠4/5本(80.0%)
・生存と合併症の割合に、単冠と直接法のレジン修復の間で有意差は検出されなかった(P>.05)
・ポストなしの単冠は5本だけ
⑤結果(2):垂直性歯根破折21本は、どの根で起きたか
合併症は合わせて29本(20.1%)にありました。そのうち21本(全体の14.6%)が垂直性歯根破折で、いちばん多い合併症です。
・ポストの入った根で起きたのは1本(小臼歯)
・ポストあり群の歯の、ポストのない根で11本(下顎大臼歯10本、小臼歯1本)
・ポストなし群の歯で9本(上顎大臼歯4本、切歯2本、小臼歯2本、下顎大臼歯1本)
・21本のうち11本(52.4%)は、下顎大臼歯の、ポストのない近心根で起きた
・歯を単位にすると、ポストあり群12/106本、ポストなし群9/38本(原著の表4)。割合にすると約11.3%と約23.7%で、リスク比(ポストなし/ポストあり)は約2.1(原著の表4の本数から筆者が計算した、調整していない値。歯の喪失のリスク比4.2とは別の数字)
・14本(全体の9.7%)は垂直性歯根破折で歯を失った。7本(4.9%)は大臼歯で、破折した根を切除して歯を残した
・根管治療の失敗:4本(ポストあり2本、ポストなし2本)。歯の喪失はなし
・う蝕または歯周炎の再発:3本(ポストあり1本、ポストなし2本)。歯の喪失はなし
・支台歯の破折:1本(ポストなし)。歯を失った
・ポストの脱離:0本。ポストの破折:0本
ここで押さえたいのは、ポストあり群でも破折は12本の歯に起きていて、そのほとんどが「ポストを入れなかった根」だったことです。下顎大臼歯では、ポストは遠心根に入っています。破折したのは、ポストのない近心根でした。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・ポストの脱離が1本もなかったのは、ラバーダム防湿下でポスト孔の形成と装着を行い、スメア層の除去と装着にとくに注意を払ったためかもしれない。ただし研究ごとに手順が違い、手順のくわしい記載もないことが多いので、理由は推測にとどまる
・破折がポストのない根に多かったことは、これまでの多くの研究と合わない
・下顎大臼歯の近心根は、2つの根管がイスムスでつながり、砂時計のような断面で、弯曲もある。この形が根を弱くしている可能性がある
・強すぎる咬合力を避けるため、患者さんには早期接触に気づいたら知らせてもらい、すぐに調整していた
著者らの結論は4つです。(1)定期管理に通う患者さんの根管治療歯は、ファイバーポストがあってもなくても、単冠があってもなくても、長期の生存は良好だった。(2)ファイバーポストは歯根を弱くしなかった。(3)ポストのない根の垂直性歯根破折が、いちばん多い合併症だった。(4)ポストのない根の垂直性歯根破折は重大な問題で、今後の臨床研究で調べる必要がある。
抄録の結論は「ファイバーポストで修復した歯は、ポストなしで修復した歯より生存率と成功率が高かった」という書き方です。本文の結論は、上のようにもう少し控えめな言い回しになっています。
⑦明日の臨床へ
・根管治療は、予知性があり信頼できる治療として受け入れてよい。約90%という生存率は、単冠を支えるインプラントの10年生存率95.2%(著者らが引いた系統的レビューの値)と比べても見劣りしない
・根管治療と修復を終えた歯を、インプラントに置き換えるために予防的に抜歯することは勧められない
・単冠で覆っても、直接法のレジン修復より成績が良くなるわけではなかった。これは、3年の観察でそう報告した先行研究の仮説を、8〜10年の観察でも支持する
・ポストを入れるかどうかを無作為に割り付けることはできなかった。症例数の計算ができなかったことは、この研究の弱点である
・この研究で確かに言えるのは、「歯質が少ない歯に、決められた接着の手順でファイバーポストを入れた106本(観察期間の平均は、原著の表1で8.6年)では、脱離は0本、ポストの入った根の破折は1本だった」というところまでです。平均8.8年は、ポストなしの歯も合わせた144本全体の値です
・「ポストを入れれば歯が長もちする」とは読めません。歯質が残っている歯のほうが成績が悪かった、という並びは不思議で、歯の種類の違いなど、ポスト以外の理由が混ざっている可能性があります。ポストなし群は大臼歯が38本中21本、ポストあり群は106本中45本でした(原著の表2より)
・目を向けたいのは「歯」ではなく「根」です。破折21本のうち20本は、ポストのない根で起きました。下顎大臼歯の近心根のように、形そのものが弱い根があることを、補綴の設計や咬合の確認のときに思い出したいところです
・「ポストのない根にもポストを入れればよい」とは、この研究からは言えません。著者らも、今後の臨床研究で調べる課題として残しています
・成績の前提は、ラバーダム防湿、拡大視野、スメア層の除去まで含めた接着の手順、歯周治療が終わって定期管理に通う患者さん、そして専門医1人です。条件が違う場面に、数字をそのまま持ち込むことはできません
(1)後ろ向きの研究で、無作為の割り付けではありません。ポストは歯質が少ない歯にだけ使われました。2つの群は、歯質の残り方がもともと違います。
(2)歯の種類の内訳も違います。ポストあり群は小臼歯が34本(32.1%)、ポストなし群は小臼歯が6本(15.8%)で、ポストなし群は大臼歯の割合が高くなっています。こうした違いを調整した解析は行われていません。
(3)比較は、割合どうしの検定(カイ二乗検定とFisherの正確検定)です。観察期間は5.1〜15.3年と幅がありますが、期間の違いを入れた生存時間の解析(カプラン・マイヤー法など)は示されていません。
(4)解析の単位は歯で、100人に144本です。同じ人の歯どうしが似ることをどう扱ったかは、書かれていません。
(5)ポストなし群は38本で、そのうち単冠は5本だけです。「単冠と直接法のレジン修復に差がない」という読みは、とくにポストなし群では小さな数にもとづいています。
(6)結果の冒頭に「144本のうち18本(12.5%)、15人が追跡できなかった」と書かれています。一方で、表はどれも144本を分母にしています。追跡できなかった歯を表の中でどう扱ったのかは、原著から読み取れませんでした。
(7)原著の中に食い違いがあります。ポストあり群の下顎大臼歯は、本文では20本、表2では22本です。表2の値のほうが合計の106本と合います。また表1では、ポストあり群の観察期間の平均が、直接法のレジン修復10.3年、単冠8.1年、群全体8.6年と書かれていて、本数で重みをつけた計算(約9.4年。筆者の計算)と合いません。どの値が正しいのか、結果にどのくらい響くのかは、このPDFだけでは確かめられません。
(8)術者は専門医1人で、患者さんは歯周治療を終えて定期管理に通う人たちです。著者らはこれを「原理の確認」として研究の強みに挙げていますが、ほかの環境に広げるときには割り引いて読む必要があります。
著者らは、この研究に関する利益相反はないと書いています。資金の提供元についての記載は、入手した原著PDFの中には見当たりません。使われたファイバーポスト(Easy Post、Easy Post Lux)はDentsply Maillefer社の製品です。
それでも、決められた手順で修復した根管治療歯のおよそ9割が平均8.8年残っていた、という記録は心強いものです。ポストのない根の破折をどう減らすか。著者らが残したこの問いに答える次の研究が楽しみです。
今日のひとこと
この研究が示したのは、専門医1人が決められた手順で治療し、定期管理に通う患者さんの根管治療歯では、ファイバーポストありの歯の生存が94.3%、ポストなしの歯が76.3%だったということです(平均8.8年、P<.001)。垂直性歯根破折は21本あり、ポストの入った根で起きたのは1本、残りの20本はポストのない根でした。著者らは「ファイバーポストは歯根を弱くしなかった」と結論しています。ただし、ポストは歯質が少ない歯にだけ使われ、無作為の割り付けではありません。歯の種類の内訳も2つの群で違い、観察期間の違いを入れた解析でもありません。歯を失った割合のリスク比は約4.2(ポストなし/ポストあり。本文の本数から筆者が計算)ですが、これをそのまま「ポストの効果」と読むことはできません。ポストのない根の破折という宿題を示した、長期の観察記録として読む1本です。


