1問1答 論文 エンド

根管治療で治らない根尖病変、咬合が関わることはある?——2症例の報告で、咬合調整のあと1か月以内に瘻孔が消え、透過像は年単位で縮小した。ただし比べる群のない2症例で、症例1は咬合調整と同じ日に連結固定、症例2はそれ以前に歯根端切除も受けていた(Harn 2001)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管治療や歯根端切除のあとも瘻孔が出た上顎中切歯2本に咬合調整を行い、その後の経過をX線で追った症例報告(Harn 2001・International Endodontic Journal)

根管治療のあとに、瘻孔が出てくる。そんな時、咬み合わせまで見ているでしょうか。台湾の大学病院のHarnらは、根管治療(症例1)や歯根端切除(症例2)のあとも瘻孔が出た上顎中切歯2本で、前歯の開き・咬んだ時の揺れ(フレミタス)・歯ぎしりといった咬合性外傷を疑う所見に気づき、咬合調整を行いました。どちらの症例も、咬合調整から1か月以内に瘻孔が消え、根尖の透過像は年単位で小さくなりました(症例2は最後の確認でも完全には治っていません)。ただし比べる群のない2症例で、症例1は咬合調整と同じ日に前歯を連結固定し、のちに歯の修復も行い、症例2はそれ以前に歯根端切除を受けていました。咬合調整が治した、とまでは言えない報告です。

論文
Effect of occlusal trauma on healing of periapical pathoses: report of two cases(咬合性外傷が根尖病変の治癒に与える影響:2症例の報告)
著者
W-M. Harn, M-C. Chen, Y-H. M. Chen, J-W. Liu, C-H. Chung(国立成功大学医院 歯科部 歯内療法・咬合・口腔外科、奇美医院 歯科部, 台湾)
掲載
International Endodontic Journal 2001; 34(7): 554–561
種類
症例報告(2症例・各1歯)。比べる群は無い。根管治療(症例1)または歯根端切除(症例2)のあとに瘻孔が出た上顎中切歯に咬合調整を行い、瘻孔と根尖の透過像の経過をX線で追った(症例1は4年、症例2は本文で6年)
資金・利益相反
原典に記載は無い
DOI
10.1046/j.1365-2591.2001.00434.x
PMID
11601774

①根管治療をしたのに瘻孔。咬み合わせまで見ていますか?

根管治療を終えて数週間。根尖病変のあった歯の横に、瘻孔が出てきた。洗浄や貼薬、根管充填の質を振り返るのは当然として、咬み合わせまで確かめているでしょうか。

台湾・国立成功大学医院のHarnらは、根管治療や歯根端切除のあとも瘻孔が出た上顎中切歯2本で、咬合性外傷を疑う所見に気づいて咬合調整を行い、その後の経過を報告しました(International Endodontic Journal 2001)。

結論を先に書きます。
・症例1(20歳女性・上顎右側中切歯):根管治療の6週後に瘻孔。前歯4本が唇側に開き、咬んだ時の揺れ(フレミタス)があった。咬合調整(切縁の形態修正)と同じ日に前歯4本を連結固定し、1か月以内に瘻孔が消えた。透過像は咬合調整の15か月後に縮小、4年後(本文は初診から、図の説明は咬合調整から)のX線で骨の治癒
・症例2(35歳女性・上顎左側中切歯):歯根端切除の16か月後に腫れ、その2週後に瘻孔。フレミタスがあり、歯ぎしりを自覚していた。全顎の咬合調整をして、1か月以内に瘻孔が消えた。透過像は咬合調整の3年後に縮小したが、本文で6年後も完全には治っていない
・著者らは、咬合性外傷が場合によっては根尖病変の治り方に関わるかもしれないと結論している
・注意:比べる群のない2症例。症例1は咬合調整と同じ日に連結固定、その後に修復があり、症例2にはそれ以前の歯根端切除と骨補填もある。咬合調整が治したとは確かめられていない

②なぜこの報告が出されたのか

根管治療の失敗には、術前の根尖病変、根管充填の質、術後の修復、歯の種類などが関わると報告されていました。咬合性外傷を失敗の一因とみる専門書の記述もありましたが、咬合性外傷が根尖病変の治りを妨げたという報告は少なかった、と著者らは述べています。

歯周病の分野では、健康な歯周組織に過大な咬合力がかかってもポケットはできないが、プラークによる炎症と咬合性外傷が重なると組織の破壊が進む、という関係が知られていました。一方、根尖部については、ラットの実験で「咬合を高く・低くしても歯周組織の治りに影響はなかった」(ElDeeb & Andreasen 1991)という報告と、「外傷性咬合と根尖病変に関連があった」(Kumazawa ら 1995)という報告がありました。そこで著者らは、咬合調整のあとに経過が変わった2症例を報告しました。

③どんな報告か

症例報告です。2人の患者の上顎中切歯それぞれ1本の経過を記述したもので、比べる群はありません。2症例とも治療中に抗菌薬は服用していない、と書かれています(症例1は処方もされていない)。

症例1は20歳の女性で、上顎右側中切歯(11)の根管治療のために紹介されました。軽度〜中等度の歯周炎の既往があり、この歯に症状や外傷の既往はありません。上顎切歯4本は打診・触診に反応せず、動揺度は1〜2度で、4本とも唇側に開き、フレミタスがありました。ポケットの深さは正常範囲です。電気歯髄診で11だけが陰性で、根尖に0.8cm×1cmの透過像があり、歯髄壊死と化膿性根尖性歯周炎(根尖膿瘍)と診断されました。

症例2は35歳の女性で、上顎左側中切歯(21)の歯根端切除のために紹介されました。21は数年前に根管治療と冠が済んでおり(原典の図の説明では根管治療は不十分)、隣の22は1か月前に根管治療を受けていました。21と22は触診・打診に反応し、21の動揺度は2度、ポケットはすべて4mm未満でした。X線で21と22に関わる根尖の透過像があり、以前の根管治療のある歯の化膿性根尖性歯周炎(根尖膿瘍)と診断されました。

④経過:2症例とも、咬合調整から1か月以内に瘻孔が消えた

2症例の経過を、原典の本文と図の説明から1つの表にまとめました。

2症例の経過(症例報告・比べる群なし) 症例1 症例2 患者・歯 20歳女性・上顎右側中切歯(11) 35歳女性・上顎左側中切歯(21) 術前の診断 歯髄壊死・根尖膿瘍。透過像0.8cm×1cm 以前の根管治療のある歯の根尖膿瘍 最初の治療 通常の根管治療 歯根端切除(逆根管充填)+骨補填材 その後 6週後に瘻孔(根尖病変に達する) 16か月後に腫れ・動揺度3、2週後に瘻孔 咬合の所見 前歯4本が唇側に開く・フレミタス フレミタス・歯ぎしりの自覚 咬合調整 11・12・41の切縁の形態修正 全顎の咬合調整・前歯の誘導を均等に ほかの処置 同じ日に前歯4本を連結固定。6か月後に修復 (歯根端切除は咬合調整の16か月以上前) 瘻孔 咬合調整から1か月以内に消えた 咬合調整から1か月以内に消えた 透過像(途中) 咬合調整の15か月後に縮小(途中) 咬合調整の3年後に縮小(途中) 透過像(最後) 4年後に骨の治癒(下の注記) 本文の6年後も完全には治らず(下の注記) 原典の本文と図1〜10の説明文から作成。治療中は2症例とも抗菌薬を服用していない。「途中」は骨の治りが途中(図4・ 図9)。症例1の「4年後」は本文では初診から、図の説明では咬合調整から。症例2の最後の確認は本文で6年後、図の説明 で初診から5年後と食い違う
図1 2症例の経過(原典の本文と図1〜10の説明文から作成)。比べる群は無い。咬合調整と同じ日・その後の処置(症例1の連結固定・修復)と、それ以前の処置(症例2の歯根端切除・骨補填)も同じ表に載せた。

症例1では、通常の根管治療の6週後に歯の近くに瘻孔が出ました。ガッタパーチャポイントを瘻孔に入れると、根尖病変に達していました。咬合の担当科に紹介され、咬頭嵌合位へ閉じる時の強い当たりによるフレミタスをなくすため、11・12の口蓋側の切縁部と、下顎の41の唇側の切縁部を形態修正しました。歯周組織の骨の支えが少ないため、同じ日に前歯4本(12・11・21・22)を連結固定しています。咬合調整から1か月以内に瘻孔は消え、6か月後に歯の修復(根の中ほどをグラスアイオノマー、髄室をコンポジットレジン)が行われました。15か月の再診(図の説明では咬合調整から15か月後)では症状が無く、透過像は縮小していましたが、骨の治りは途中でした。4年後のX線で骨の治癒が見られた、と報告されています(本文は「初診から4年後」、図の説明は「咬合調整から4年後」と書いています)。

症例2では、21に歯根端切除(掻爬と逆根管充填)を行い、骨欠損に骨補填材を入れました。しかし手術の16か月後、21と22の根尖部が腫れ、21の動揺度は3度になり、その2週後に瘻孔が出ました。21と22にはフレミタスがあり、患者さんは歯ぎしりの習慣を自覚していました。咬合の担当科で全顎の咬合調整を行い、咬頭嵌合位へ閉じる時に21と22を唇側へ押す力をなくし、前歯の誘導を上下左右の前歯に均等に分けました。咬合調整から1か月以内に瘻孔は消え、咬合調整の3年後に透過像は縮小しました。本文では「6年後も大きく縮小したが、完全には治っていない」とあります(最後の図の説明は「初診から5年後」で、年数の書き方が本文と図で食い違っています)。

この2症例の報告から言えること・言えないこと 区分 内容 根拠 観察されたこと 瘻孔は咬合調整から1か月以内に消え、透過像は年単位で縮小 原典の本文 著者らの解釈(仮説) 感染の残る根尖病変は過大な力に弱く、治りにくくなるのかもしれない 原典の考察 言えないこと 咬合調整が治したこと(連結固定・修復・自然な経過と区別できない) 筆者の読み 言えないこと どの程度の咬合の問題で、どれだけの歯に当てはまるか 筆者の読み 比べる群は無く、細菌検査の記載も無い。著者らは「場合によっては咬合性外傷が根尖病変の治り方に関わるかもしれない」 と結論し、さらに研究が必要と述べている
図2 この報告から言えることと言えないこと。各行の右端の「根拠」に、原典の記述か筆者の読みかを示した。

⑤結果の読み方

2症例とも、咬合調整の前は根管治療や歯根端切除のあとに瘻孔が出ており、咬合調整のあとに瘻孔が消えました。著者らは、最初の治療がうまくいかなかった理由は、炎症のある根尖部の組織に咬合性外傷が加わっていたためかもしれない、と考察しています。さらに、歯周炎でプラークの感染と咬合性外傷が重なると壊れやすいのと同じように、感染の残る根尖病変は過大な力に弱いのではないか、という仮説も示しています。ただしこれは著者らの仮説です。この2症例で細菌検査をした記載は無く、感染が残っていたかは確かめられていません。

著者らは、フレミタスや前歯の開き、歯ぎしり、歯根膜腔の拡大といった咬合性外傷に関わる所見がありながら、最初はそれを考えに入れなかったと率直に書いています。結論も「場合によっては、咬合性外傷が根尖病変の治り方に役割を持つかもしれない」と控えめで、役割をはっきりさせるには研究が必要だと述べています。なお、抄録には「2症例とも合併症なく治癒した」とありますが、本文では症例2は最後の確認でも完全には治っていません。

⑥明日の臨床へ

ここから筆者の読みです。根管治療や歯根端切除のあとも瘻孔が続く歯で、フレミタス・前歯の開き・歯ぎしりの自覚・強い動揺がないかを見ておく、という視点をくれる報告です。根管内の感染への対応を見直すことが先にあって、そのうえで咬み合わせも確かめる、という順で考えるのが自然そうです。

ただし、この2症例だけでは、咬合調整をすれば治る、とは言えません。症例1では咬合調整と同じ日に前歯を連結固定し、6か月後に修復もしています。症例2は咬合調整の16か月以上前に歯根端切除と骨補填をしています。根尖の透過像の縮小は年単位の経過で、咬合調整がなくても同じように治った可能性を、この報告では区別できません。咬合調整は歯を削る処置なので、行うかどうかは咬合の所見をきちんと確かめてから判断したいところです(ここまで筆者の読み)。

⑦ここだけ補助線

咬合と根尖病変の治りという、あまり語られない組み合わせに目を向けた報告です。読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・2症例の報告:比べる群が無く、咬合調整の効果を確かめた研究ではない
・ほかの処置:症例1は咬合調整と同じ日に前歯4本を連結固定し、6か月後に修復。症例2は咬合調整の16か月以上前に歯根端切除と骨補填
・評価:瘻孔の有無と、X線の透過像の大きさの記述。透過像の大きさを測った数値の経過は無い
・感染の確認なし:感染が残っていたという考察は仮説で、細菌検査の記載は無い
・抄録と本文の差:抄録は2症例とも治癒としているが、本文では症例2は完全には治っていない。症例2の最後の確認の年数も本文(6年後)と図の説明(初診から5年後)で食い違う
・資金・利益相反:原典に記載は無い
それでも、治りの悪い根尖病変で咬み合わせも見直すという視点を、具体的な経過とともに示した1本です。

今日のひとこと

根管治療や歯根端切除のあとも瘻孔が出た上顎中切歯2本で、咬合調整から1か月以内に瘻孔が消え、根尖の透過像は年単位で小さくなりました。ただし比べる群のない2症例で、咬合調整と同じ日の連結固定、その後の修復、それ以前の歯根端切除もあり、咬合調整の効果を確かめた報告ではありません。治りの悪い根尖病変で、フレミタスや歯ぎしりにも目を向けるきっかけになる1本です。

Harn WM, Chen MC, Chen YH, Liu JW, Chung CH. Effect of occlusal trauma on healing of periapical pathoses: report of two cases. Int Endod J. 2001;34(7):554-561. doi: 10.1046/j.1365-2591.2001.00434.x. PMID: 11601774
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。