エンド|急性・慢性の根尖膿瘍があった感染根管の抜去歯35本と生活歯髄の抜去歯10本に、抜去後45分以内に根尖の外まで器具を通し(一部は根管充填で押し出し)、ファイルの溝と根尖の表面を走査電子顕微鏡で観察した実験室研究(Gutiérrez 1999・International Endodontic Journal)
作業長を決めたつもりでも、ファイルの先が根尖孔を越えていることがあります。Gutiérrezらは、抜いた直後の歯であえて根尖の外まで器具を通し、SEMで観察しました。感染根管の歯では、ファイルの溝や根尖の吸収窩に細菌が見えました(器具+充填の群は15本中10本で根尖の吸収窩に微生物)。生活歯髄の対照10本では、どこにも細菌は見えませんでした。押し出したガッタパーチャの表面にも細菌は見えませんでした。ただし抜去歯の観察で、痛みやフレアアップは測っていません。器具を入れる前の根尖も見ていないので、根尖の細菌が押し出されたものかは区別できません(筆者の読み)。
①根尖を突き抜けたファイルの先には、何が付いている?
作業長を決めたつもりでも、ファイルの先が根尖孔をわずかに越えていた。根管治療をしていれば、誰でも一度は覚えのある場面です。根尖孔の位置は解剖学的根尖と一致せず、0.20〜3.00mm以上離れていることがあるという報告を、この論文の序論も引いています。
チリ・コンセプシオン大学のGutiérrezらは、抜いた直後の歯で、あえて根尖の外までファイルを通し、さらに根管充填でガッタパーチャを押し出して、ファイルの溝と根尖の表面を走査電子顕微鏡(SEM)で調べました(International Endodontic Journal 1999)。
・抜去歯45本の実験室研究:急性・慢性の根尖膿瘍があった感染根管の歯35本(器具だけ20本・器具+根管充填15本)と、生活歯髄の歯10本(対照)に、抜去後45分以内に根尖の外まで器具を通し、SEMで観察した
・感染根管の歯では、ファイルの溝や根尖に細菌が見えた:器具だけの群は表1に載る19本中14本で、ファイルの溝か根尖のどちらかに細菌の記載があった(筆者が数えた)。器具+充填の群は15本中10本(66.66%)で、根尖の吸収窩に微生物が見えた
・生活歯髄の対照10本では、ファイル・根尖・押し出したガッタパーチャのどこにも細菌は見えなかった
・押し出したガッタパーチャの表面には、感染根管の群でも細菌は見えなかった
・注意:痛みやフレアアップは測っていない。著者らは術後の痛みやフレアアップの「潜在的なリスク」と考察しているが、それは仮説で、この研究が示したのは抜去歯の表面の見え方まで
②なぜ調べる必要があったのか
根管の長さは、セメント‐象牙境があると推定される位置を目安に決めます。ところが主根尖孔は解剖学的根尖と一致せず、0.20〜3.00mm以上離れているという報告もあるため、知らないうちに根尖孔の外まで器具を通してしまう根管は少なくないと、著者らは考えました。
著者らは以前の研究で、抜去歯の根管を根尖の外まで拡大すると、根尖のセメント質に穿孔や根尖孔の変形(ジップ)など、いろいろな変化が起きることをSEMで示していました。今回は、そこに感染根管の細菌が加わるとどうなるか、つまり根尖の外まで器具を通し、すぐに充填して押し出すことが、感染根管の治療で潜在的なリスクになりうるかを確かめることが目的でした。
③どんな研究か
対象は、急性または慢性の根尖膿瘍があった感染根管の歯35本と、生活歯髄の歯10本です。抜去したらすぐに処置し、すべて抜去後45分以内に終えています。
・A群(20本):感染根管の前歯・臼歯。根尖5mmを残して歯根膜線維を除き、40号までのファイルで根尖の外まで通した。ファイルの先が主根尖孔を越えたことは拡大鏡で確かめた。洗浄は次亜塩素酸ナトリウム(5.25%)と過酸化水素(10%)の交互洗浄。ファイルは根管の中で樹脂で固定し、根尖から10mmで根を切った
・B群(15本):A群と同じ形成のあと、先が根尖からわずかに出るマスターのガッタパーチャを選び、側方加圧で根管充填した(1回で治療を終える場面を模した)
・C群(10本・対照):生活歯髄の歯。5本は器具だけ、5本は器具+根管充填
・試料はグルタルアルデヒドで固定し、金を蒸着してSEMで観察(最大8000倍)。結果は270枚のSEM写真の分析にもとづく
比較の統計検定はありません。細菌は形(球菌・双球菌・桿菌・糸状の細菌など)で見分けただけで、培養や菌種の同定はしていません。論文の写真の球菌と桿菌の色は、見やすくするために後から付けたものです。
④結果:感染根管の歯ではファイルの溝や根尖に細菌、生活歯髄の対照では見えず
器具だけのA群では、原典の表1に、ファイルの溝と根尖のそれぞれに細菌が見えたかが1本ずつ載っています。表題は20本ですが、載っているのは19本ぶん(19行)でした。その19本を筆者が数えると、ファイルの溝に細菌の記載があったのは11本、根尖に細菌の記載があったのは8本で、どちらかに細菌があったのは14本でした(原典の本文にはこの集計はありません)。
器具+根管充填のB群では、15本中10本(66.66%)で、根尖の吸収窩(炎症でセメント質が吸収されたくぼみ)に微生物が見えました。一方、根尖から押し出したマスターのガッタパーチャの表面には、細菌は見えませんでした。生活歯髄の対照のC群10本では、ファイルの溝・ファイルの先・根尖・押し出したガッタパーチャのどこにも、細菌は見えませんでした。
見えた細菌の形は、球菌・双球菌・大小の桿菌・糸状の細菌で、酵母のような細胞もありました。細菌は根尖の吸収窩のくぼみに、しっかり付いて見えました。
根尖のセメント質の変化も、先の位置で違いました。A群20本のうち、ファイルの先が根尖を1mmを超えて突き抜けた7本(35%)では、根尖に強い損傷が見られました。0.5mm未満だけ突き抜けた5本(25%)は、ピンホール状の穿孔でした。B群15本のうち、コーンが1mmを超えて突き抜けた6本(40%)は、全例がジップでした。生活歯髄の対照でも、穿孔やジップは見られています。
⑤結果の読み方
感染根管の歯では、根尖の外まで通したファイルの溝に細菌が付いて見え、根尖の吸収窩にも細菌が見えました。生活歯髄の対照では、同じ処置をしても細菌は見えませんでした。著者らは、細菌はファイルが根尖を突き抜けるたびに押し出されたはずだと考え、細菌や削りかすが根尖周囲の組織に残れば、フレアアップや術後の痛みを招きうると考察しています。結論では、急性・慢性の根尖膿瘍がある歯を1回で治療することは、この結果からは支持できないと述べています。
ただし、これらは著者らの解釈です。この研究は抜去歯の表面を見ただけで、痛みやフレアアップは測っていません。また、器具を入れる前の同じ根尖を観察していないため、根尖の吸収窩の細菌が器具で押し出されたものか、もともと根の外側に付いていたものかは区別できません(筆者の読み)。
押し出したガッタパーチャの表面に細菌が見えなかった理由について、著者らは、充填前に根管を乾燥させたこと、あるいは細菌がシーラーの層に取り込まれたことを挙げています。これも確かめた結果ではなく、考察です。
⑥明日の臨床へ
この研究から言えるのは、感染根管では、根尖の外まで通したファイルの溝に細菌が付いて見えることがある、ということです(抜去歯での観察)。臨床では、根尖孔の位置が解剖学的根尖からずれうることを前提に、作業長の確認を丁寧にする。そのうえで、器具を根尖孔の外へ大きく出さない操作を意識する。そうした基本を見直すきっかけになる1本です(筆者の読み)。
一方で、根尖の外まで器具を通すと臨床でどのくらい痛みやフレアアップが増えるのか、1回法と複数回法のどちらがよいのかは、この研究では分かりません。それを判断するには、患者さんで痛みや治癒を測った臨床研究を合わせて読む必要があります。
⑦ここだけ補助線
・抜去歯の実験室研究:抜去後45分以内の処置で、生体の反応はない。痛みやフレアアップ、治癒は測っていない
・少数で、検定なし:器具だけ20本・器具+充填15本・生活歯髄の対照10本。細菌は形で見分けただけで、菌の種類や数は調べていない
・比べる群の限界:器具を入れる前の根尖や、根尖の外へ器具を出さなかった感染歯は見ていないので、根尖の細菌が押し出されたものかは区別できない(筆者の読み)
・記載の食い違い:A群の表1は表題が20本で、載っているのは19本ぶん。本文が示す先の位置と根尖の変化の区分(1mm超で強い損傷7本・0.5mm未満でピンホール状の穿孔5本・湾曲や薄い根尖での損傷6本)の合計も18本(筆者が合計)。B群の「15本中10本で吸収窩に微生物」は本文の値で、表2で吸収窩と細菌の両方が書かれた行を数えると9本だった(筆者が数えた)
・資金は大学の研究助成(コンセプシオン大学)。製品名は固定用の樹脂・シーラー・SEM装置だけ
器具の先が根尖の外で何に触れているのかを、目で確かめられる1本として読むと役に立ちます。
今日のひとこと
抜去歯で根尖の外まで器具を通した観察で、感染根管の歯ではファイルの溝や根尖に細菌が見え、生活歯髄の対照では見えませんでした。著者らは術後の痛みやフレアアップの潜在的なリスクと考察していますが、痛みは測っておらず、根尖の細菌が押し出されたものかも区別できません(筆者の読み)。器具の先が根尖の外で何に触れうるかを目で確かめ、作業長の基本を見直すきっかけになる1本です。


