1問1答 論文 エンド

深い窩洞、象牙質を何mm残せば歯髄は傷まない?——矯正で抜く予定のヒトの小臼歯49本・98窩洞の組織学研究で、窩洞の真下の象牙芽細胞は残存象牙質2.5〜0.5mmで約13.6%、0.5〜0.01mmで約33.7%、露髄で約99.0%少なく、炎症の程度とは有意な関連が検出されなかった(Murray 2003)

1問1答 論文 エンド

エンド|矯正で抜く予定のヒトの小臼歯49本(31人・10〜16歳)に98の窩洞をつくってアマルガムで修復し、3〜89日後に抜歯して、残存象牙質の厚さごとに象牙芽細胞の数・炎症・第三象牙質を比べた研究(Murray・Smith・Windsor・Mjör 2003・International Endodontic Journal)

窩底がどこまで歯髄に近づいたら、歯髄は傷むのか。Murray らは、矯正で抜く予定のヒトの小臼歯に98の窩洞をつくり、抜歯した歯の歯髄を顕微鏡で数えました。窩洞の真下の象牙芽細胞は、同じ歯の離れた部位と比べて、残存象牙質2.5〜0.5mmで約13.6%、0.5〜0.01mmで約33.7%、露髄で約99.0%少なく、一方で歯髄の炎症の程度と残存象牙質の厚さには有意な関連が検出されませんでした。著者らは、修復後に歯髄の傷の所見を避けるには残存象牙質0.5mm以上が必要だと結論しています。むし歯の無い若い小臼歯で、抜歯までは平均26日の研究です。

論文
Remaining dentine thickness and human pulp responses
著者
P. E. Murray、A. J. Smith、L. J. Windsor、I. A. Mjör(米国 インディアナ大学 歯学部、英国 バーミンガム大学 歯学部、ノルウェー NIOM・米国 フロリダ大学 歯学部)
掲載
International Endodontic Journal 2003; 36(1): 33–43
種類
ヒトの歯を使った生体内の組織学研究。ノルウェーのオスロで矯正のために抜く予定だった小臼歯49本(31人・10〜16歳・むし歯の無い歯・著者の1人が保管していた標本)の頬側・舌側・咬合面に98の窩洞を注水下でつくり、アマルガムで修復(原典の表1の区分は 水酸化カルシウム69・酸化亜鉛ユージノール25・アマルガム4)。3〜89日後(平均26日)に抜歯し、残存象牙質の厚さ(2.5〜0.5mm 66窩洞・0.5〜0.01mm 22窩洞・露髄10窩洞)ごとに、窩洞の真下の象牙芽細胞の数・炎症の程度・反応象牙質とデンチンブリッジを調べ、一元配置分散分析で関連を見た
資金・利益相反
Wellcome Research Trust Foundation の助成(grant no. 057820)による一部支援。利益相反の記載は無い。特定の製品名の記載は無い
PMID
12656512

①深い窩洞、象牙質を何mm残せば歯髄は傷まない?

う蝕を追いかけて削っていくと、窩底がだんだん歯髄に近づいてくる。あとどれくらい象牙質が残っていれば、歯髄は無事なのか。深い窩洞の修復で、誰もが一度は考える問いです。

この問いに、ヒトの歯の歯髄を顕微鏡で数えて答えようとしたのが、Murray らの2003年の研究です。矯正で抜く予定の小臼歯に窩洞をつくり、窩底から歯髄までの象牙質の厚さ(残存象牙質の厚さ)ごとに、歯髄の細胞の数や炎症を比べました。

結論を先に書きます。
・矯正で抜く予定のヒトの小臼歯49本(31人・10〜16歳)に98の窩洞をつくり、アマルガムで修復して3〜89日後(平均26日)に抜歯した組織学研究
・象牙芽細胞の数:窩洞の真下の象牙芽細胞は、同じ歯で窩洞から離れた部位と比べて、残存象牙質2.5〜0.5mmで約13.6%、0.5〜0.01mmで約33.7%、露髄で約99.0%少なかった。残存象牙質と象牙芽細胞の数の関連は分散分析で P=0.0090
・炎症:歯髄の炎症の程度と残存象牙質の厚さには、有意な関連が検出されなかった(P=0.8362)。重度の炎症は98窩洞のうち1窩洞だけ
・第三象牙質:反応象牙質は露髄していない88窩洞のうち7窩洞、デンチンブリッジは露髄10窩洞のうち3窩洞に、どれも少量見られただけ
・著者らの結論:修復後に歯髄の傷の所見を避けるには、残存象牙質0.5mm以上が必要。ただしこの研究でも、2.5〜0.5mmの区分で象牙芽細胞は約13.6%少なかった
・注意:むし歯の無い若い小臼歯に作った窩洞で、抜歯までの期間は平均26日と短い研究です。結果は細胞の数と組織の所見で、痛みなどの症状の記載はありません

②なぜこの研究が必要だったか

窩洞の下にどれだけ象牙質が残っていれば歯髄を守れるのか。著者らによると、この問いは100年以上議論されてきました。歯髄を傷めないための残存象牙質の目安は、時代とともに小さくなってきたといいます。たとえば、2mmあればたいていの材料と処置から歯髄を守れるという意見、セメント合着では1mm以上で足りるという報告、0.5mmまで慎重に削った窩洞でも象牙芽細胞の数はほとんど変わらなかったという報告がありました(いずれも著者らが引用した研究)。

一方で、深く削るほど、削る操作そのものが歯髄を傷めやすいとも考えられていました。それでも、残存象牙質の厚さごとに歯髄の反応を数で示した研究は少なかった、と著者らは書いています。そこで、ヒトの歯で、残存象牙質の厚さと、患者・窩洞・修復のさまざまな条件を並べて、歯髄の反応を数えたのがこの研究です。

③何をどう調べたか

・研究の種類:ヒトの歯を使った生体内の組織学研究(International Endodontic Journal 2003)
・対象:ノルウェーのオスロの学校歯科で、矯正のために抜く予定だった小臼歯49本(31人・10〜16歳・平均11.9歳)。むし歯の無い健康な歯で、著者の1人(Mjör 先生)が保管していた標本。一部は1967年の研究にも使われた歯です
・窩洞:頬側・舌側・咬合面の象牙質に、注水下で98の窩洞(原典は5級窩洞と記載)
・修復:アマルガムで修復し、多くの窩洞ではその下に水酸化カルシウムか酸化亜鉛ユージノールを置いた。抄録では、浅い窩洞はアマルガムだけ、深い窩洞と露髄は裏層してからアマルガム、と書かれています(原典の表1の区分は 水酸化カルシウム69窩洞・酸化亜鉛ユージノール25窩洞・アマルガム4窩洞。表1では0.5〜0.01mmの区分にもアマルガムだけの窩洞が2つあり、抄録の書き分けとは完全には合いません)
・評価:3〜89日後(平均26日)に抜歯。組織標本で、窩底の中央から歯髄までの最短距離を残存象牙質の厚さとして測り、窩洞の真下の象牙芽細胞とその下の層の細胞を1mmあたりで数えた。比べる相手は、同じ歯の窩洞の咬合側・根尖側・反対側の3か所の平均(原典の本文は「0.5mm離れた3か所」と書きますが、図1では咬合側は0.5mm以下のこともあり、反対側は距離の指定がありません)。あわせて炎症の程度(なし・軽度・中等度・重度)と、反応象牙質・デンチンブリッジの有無を記録
・区分:残存象牙質2.5〜0.5mm(66窩洞)・0.5〜0.01mm(22窩洞)・露髄(10窩洞)
・統計:一元配置分散分析(有意水準5%)

④結果:残存象牙質が薄いほど、象牙芽細胞が減った

窩洞の真下の象牙芽細胞の数を、同じ歯の窩洞から離れた部位の数と比べた減少率です。

0 25% 50% 75% 100% 窩洞の真下の象牙芽細胞の減少率(%) 13.6% 33.7% 99.0% 2.5〜0.5mm(66窩洞) 0.5〜0.01mm(22窩洞) 露髄(10窩洞) 横軸は残存象牙質の厚さの区分。原典の本文と抄録の値(本文は「約」と書いている)。同じ歯で窩洞から離れた3か所の象牙芽細胞の数の平均と比べた、窩洞の真下の減少率。残存象牙質と象牙芽細胞の数の関連は一元配置分散分析で P=0.0090(原典の表2)。3つの区分どうしを比べた検定の値は示されていない。ヒトの小臼歯49本・98窩洞(矯正で抜く予定のむし歯の無い歯・10〜16歳)、抜歯は3〜89日後

残存象牙質が薄くなるほど、窩洞の真下の象牙芽細胞は少なくなりました。著者らは、減り方はまっすぐな比例ではなく、薄くなるにつれて急に大きくなる形だったと書いています。残存象牙質と象牙芽細胞の数の関連は分散分析で P=0.0090 でした。ただし、3つの区分どうしを比べた検定の値は示されていません。

象牙芽細胞のすぐ下の層の細胞は、残存象牙質の影響を受けにくく(P=0.6864)、はっきり減ったのは露髄した時だけでした(38.4%減)。

⑤炎症の程度と反応象牙質は、残存象牙質と有意な関連が検出されなかった

残存象牙質の厚さとの関連を調べた11項目の結果です(原典の表2の全行を、原典の並び順のまま写しました)。

表1 残存象牙質の厚さと関連を調べた11項目(原典の表2の全行・原典の並び順) 調べた項目 分散分析のP値 窩洞の壁の深さ 0.0001 デンチンブリッジの形成 0.0072 象牙芽細胞の数 0.0090 窩洞を作った部位の歯の象牙質の厚さ 0.0650 患者の年齢 0.3043 象牙芽細胞の下の層の細胞の数 0.6864 第一小臼歯か第二小臼歯か 0.4821 修復材料(裏層材) 0.7732 歯髄の炎症 0.8362 窩底の幅 0.9216 反応象牙質の面積 0.9901 P値は残存象牙質の厚さとの関連を一元配置分散分析で調べた値(原典の表2)。オレンジは P<0.05 の3項目 歯髄の炎症(P=0.8362)と反応象牙質の面積(P=0.9901)は、残存象牙質の厚さと有意な関連が検出されなかった デンチンブリッジは露髄した窩洞だけに見られた(露髄10窩洞のうち3窩洞・どれも少量) ヒトの小臼歯49本・98窩洞の組織学研究(矯正で抜く予定のむし歯の無い歯・10〜16歳・抜歯は3〜89日後)

・歯髄の炎症:炎症なし50窩洞・軽度36窩洞・中等度11窩洞・重度1窩洞(原典の図6)。なし・軽度・中等度の間で残存象牙質の厚さにほとんど違いは無く、残存象牙質との有意な関連は検出されませんでした(P=0.8362)。重度は1窩洞だけなので、この区分から言えることは限られると著者らは書いています
・反応象牙質:露髄していない88窩洞のうち7窩洞(8%)に少量だけ。見られた窩洞の残存象牙質は平均0.77mmで、反応象牙質の面積と残存象牙質に有意な関連は検出されませんでした(P=0.9901)。裏層材ごとに見ると、アマルガムだけの窩洞には反応象牙質が無く、酸化亜鉛ユージノールでは残存象牙質が薄いほど見られやすい傾向でした(どちらも数窩洞の所見)
・デンチンブリッジ:露髄した10窩洞のうち3窩洞だけで、どれも少量でした。露髄していない窩洞には見られませんでした。原典の表2(上の表1)でデンチンブリッジの形成が残存象牙質と有意に関連した(P=0.0072)のは、このように露髄した窩洞にだけ見られたためだと著者らは説明しています

炎症が少なかった理由について著者らは、この研究では窩洞の縁に細菌が無かったことでおそらく説明できると考察しています。そのうえで、接着材のように歯髄への刺激が強い材料や、むし歯・細菌がある場面では、残存象牙質の厚さが歯髄の反応を左右するかもしれない、と書いています(この研究では調べていません)。第三象牙質が少なかったことについては、抜歯までの期間が平均約27日と、ほかの研究(46日・64日)より短かったことを理由の候補に挙げています。

⑥明日の臨床へ

この研究の範囲で言えるのは、「むし歯の無い若い小臼歯にアマルガムで修復した窩洞では、残存象牙質が薄いほど窩洞の真下の象牙芽細胞が少なく、露髄では約99.0%少なかった。一方で、炎症の程度とは有意な関連が検出されなかった」ということです。著者らはここから、修復後に歯髄の傷の所見を避けるには残存象牙質0.5mm以上が必要だと結論しています(抄録の表現。結論の節では「0.5mmを超える」と書かれています)。

読み方としては、深い窩洞ほど、要らない象牙質を削らず、窩底の象牙質を1枚でも多く残すことを意識する、ということになります(ここは筆者の読みです)。著者らも、不要な象牙質の除去を避けることが大切で、露髄は避けたい傷だと書いています。ただし、残存象牙質の厚さは抜歯後に顕微鏡で測った値で、臨床でそのまま測れる数字ではありません。著者らは、小臼歯では窩洞の壁の深さと残存象牙質を足すとおよそ2.04mmになり、壁の深さから残存象牙質を見積もれる可能性を示していますが、これは若い小臼歯での関係で、窩洞の部位によってばらつきもありました。

⑦ここだけ補助線

ヒトの歯で、残存象牙質の厚さと歯髄の細胞を数で結びつけた研究です。読むときの注意点を3つだけ。
・対象と期間:10〜16歳の、むし歯の無い健康な小臼歯に作った窩洞です。う蝕で反応した歯髄や大人の歯とは条件が違います。抜歯までは3〜89日(平均26日)と短く、著者らも第三象牙質ができるには短い期間だったと書いています
・数え方と検定:減少率は同じ歯の離れた部位との比較で、3つの区分どうしを比べた検定の値は示されていません。2.5〜0.5mmの区分でも約13.6%少なかったので、「0.5mm以上なら影響が無い」とまでは、この研究の数字からは読めません。重度の炎症は1窩洞だけでした
・標本と材料:歯は著者の1人が保管していた標本で、一部は1967年の研究にも使われたものです。修復はアマルガムで、裏層材は水酸化カルシウムか酸化亜鉛ユージノール。コンポジットレジンや接着材は調べていません
深い窩洞で「あと少し削るか、ここで止めるか」を考えるときの、ヒトの歯髄からの1つの手がかりとして読みたい1本です。

今日のひとこと

ヒトの小臼歯98窩洞の組織学研究では、残存象牙質が薄いほど窩洞の真下の象牙芽細胞が少なく(2.5〜0.5mmで約13.6%、0.5〜0.01mmで約33.7%、露髄で約99.0%)、炎症の程度とは有意な関連が検出されませんでした。著者らは、修復後に歯髄の傷の所見を避けるには残存象牙質0.5mm以上が必要だと結論しています。むし歯の無い若い歯・アマルガム修復・抜歯まで平均26日の研究で、2.5〜0.5mmでも約13.6%少なかったので、「深い窩洞ほど、窩底の象牙質を1枚でも多く残す」という読み方が、この論文に合っています。

Murray PE, Smith AJ, Windsor LJ, Mjör IA. Remaining dentine thickness and human pulp responses. Int Endod J. 2003;36(1):33-43. doi: 10.1046/j.0143-2885.2003.00609.x. PMID: 12656512
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。