エンド|白色MTA(ProRoot White MTA)の硬化前の粉を電子顕微鏡で調べ、白色MTAと白色ポートランドセメントを水と粉の比0.5で練って37℃で30日硬化させ、硬化体の中身を電子顕微鏡・元素分析・Bogue計算で比べた実験室研究(Camilleri 2007・International Endodontic Journal)
MTAはポートランドセメントに造影剤の酸化ビスマスを加えた材料として知られ、硬化のしくみも同じと考えられてきました。Camilleri は、白色MTAと白色ポートランドセメントを同じ条件で硬化させ、硬化体の中身を電子顕微鏡と元素分析で比べました。MTAはアルミナが少なく(半定量分析で1.7、ポートランドセメントは4.3)、ポートランドセメントで見られたエトリンガイトとモノサルフェートがごくわずかで、大きな球形の気泡が多く見られました。造影剤のビスマスは、30日の時点で反応せずに残った粒があるだけでなく、硬化体の主成分であるC-S-Hにも取り込まれていました。材料は各1種類、強度・気孔率・封鎖性は測っていない実験室研究で、「MTAの微細構造はポートランドセメントより弱い」は著者が顕微鏡像から考えた結論です。
①MTAは、ポートランドセメントと同じように硬化する?
「MTAの中身は、ほぼポートランドセメント」。直接覆髄や穿孔の封鎖でMTAを使う人なら、一度は聞いたことがある話です。では、練って硬化させた後の中身まで同じなのでしょうか。
この問いに、セメント化学の目で答えようとしたのが、マルタ大学の Camilleri による2007年の研究です。白色MTAと白色ポートランドセメントを同じ条件で硬化させ、硬化体の中を電子顕微鏡と元素分析で比べました。
・白色MTA(ProRoot White MTA)と白色ポートランドセメント(PC)を、水と粉の比0.5で練って37℃で30日硬化させ、電子顕微鏡と元素分析で中身を比べた材料の実験室研究
・成分:MTAはアルミナ(Al2O3)が少なかった(硬化体の半定量分析でMTA 1.7、PC 4.3)。Bogue計算で推定したアルミネート相(C3A)の割合はMTA 5%、PC 11%
・硬化した後:PCは中程度に緻密で、C-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)・水酸化カルシウム・モノサルフェート・エトリンガイトができていた。MTAはエトリンガイトとモノサルフェートがごくわずかで、大きな球形の気泡が多く見られた
・ビスマス:造影剤の酸化ビスマスは、30日の時点で反応せずに残った粒もあったが、C-S-Hにも取り込まれていた(C-S-Hの中に酸化ビスマスとして重量で約5.5%。著者は過小評価の可能性があるとしている)
・著者の結論:MTAの微細構造はPCより弱いと考えられる(強度そのものは測っていない)
・注意:材料は各1種類(MTAは1ロット)。測ったのは顕微鏡像と元素の割合で、強度・封鎖性・歯や細胞への影響・臨床の結果は調べていない
②なぜこの研究が必要だったか
著者の整理では、MTAは「ASTMのタイプ1のポートランドセメントに、造影剤の酸化ビスマスを4対1で加えたもの」として特許が取られ、ProRoot MTA として作られてきました。MTAとポートランドセメントの元素の組成が似ていることは、いくつかの研究で報告されています(著者が引用した研究)。
また、MTAもポートランドセメントも、硬化の副産物として水酸化カルシウムを作ることが報告され、MTAの働きが水酸化カルシウムに似ている理由として考えられていました(著者が引用した研究)。こうして「MTAはポートランドセメントと同じように硬化する」と仮定されてきましたが、MTAの硬化(水和)のしくみを詳しく調べた知見は乏しい、というのが著者の問題意識です。この研究の目的は、MTAの水和のしくみを報告することでした。
ポートランドセメントは、焼成してできたクリンカーの主な鉱物が、ケイ酸三カルシウム(C3S)・ケイ酸二カルシウム(C2S)・アルミネート相(C3A)・フェライト相で、そこに石こうなどの硫酸カルシウムが加えられます。著者は、アルミネート相が石こうと反応してエトリンガイトができ、硫酸イオンが尽きるとモノサルフェートに変わる、という教科書的な流れを考察で説明しています。
③何をどう調べたか
・研究の種類:材料の実験室研究(International Endodontic Journal 2007・著者1名)。歯・細胞・動物・患者は使っていない
・材料:白色MTA(ProRoot White MTA、Dentsply Tulsa Dental。原典にロット番号が1つ記載)と、白色ポートランドセメント(Castle White・欧州規格のCEM I・強度クラス52.5N)
・硬化前の粉:MTAの粉を少量のエポキシ樹脂と混ぜて固め、断面を研磨して電子顕微鏡で観察
・硬化:MTAは付属の液、PCは蒸留水で、どちらも水と粉の比0.5で練り、型に詰めて37℃で30日、密閉したプラスチック容器で硬化。24時間後に水を1滴足した。その後、割った小片をアセトンに浸けて水分を除き、樹脂に埋めて研磨
・分析:①反射電子像で水和物を見分ける ②元素分析を各50点行い、原子の比(Al/CaとSi/Ca)を図にする ③面を走査した半定量分析で全体の組成を出す ④Bogue計算で主な鉱物の割合を推定する(遊離石灰の量が得られなかったため0・1・2%を仮定)
・統計:群を比べる検定は行われていない(観察と分析の値の記述)
④結果:MTAはアルミナが少なかった
まず硬化前のMTAの粉です。粒の大きさは1μm未満から約30μm(時に50μm)で、主に不純なケイ酸三カルシウム(エーライト)とケイ酸二カルシウム(ビーライト)でできていました。10〜30μmの酸化ビスマスの粒が多数あり、石灰石または消石灰・石こう・カリウムアルミニウムケイ酸塩(粘土か長石と推定)の粒が散らばっていました。白色PCにふつうあるアルミネート相は、わずかでした。
硬化体の面を走査した半定量分析の全10成分が次の表です。
MTAはPCに比べて、アルミナ(1.7 対 4.3)と三酸化硫黄(2.1 対 2.9)が少なく、PCに無い酸化ビスマスが9.6含まれていました。著者は、試料が均一でないためこの値は「半定量」として見るべきだと書いています。
この組成からBogue計算で推定した鉱物の割合が次の表です。
遊離石灰を0・1・2%のどれと仮定しても、アルミネート相(C3A)の推定割合はPC 11%、MTA 5%でした。ケイ酸三カルシウムとケイ酸二カルシウムは、両者で近い値でした。Bogue計算は「なり得る割合」の推定で、実際の組成そのものではありません。
⑤結果:硬化した後の中身
・白色PC:硬化体は中程度に緻密で、反応しきっていないセメントの粒が残り、その多くはC-S-Hの緻密な層に包まれていました。主な水和物は、C-S-H・水酸化カルシウム・モノサルフェート・エトリンガイトでした。50点の元素分析の原子比の図でも、C-S-H・水酸化カルシウム、それとモノサルフェートやエトリンガイトとの混ざり物を示す点が見られました
・白色MTA:低い倍率で、大きな球形の気泡が多数見られました(最大約300μm。多くは標本作製の樹脂で埋まり、一部は水酸化カルシウムで部分的に埋まっていた)。C-S-Hと水酸化カルシウムはどちらもありましたが、PCより細かく混ざり合っていました。原子比の図では、エトリンガイトやモノサルフェートはごくわずかでした
・中が空洞の粒:MTAには、緻密な水和物の縁だけが残り、中のセメントの粒が無い「空洞の粒」がありました。著者は、粒が反応しきって空洞が残ったか、標本作製で抜け落ちたかのどちらかで、どちらも成熟したセメントペーストには普通は見られない、と書いています
・C-S-Hの組成:Si/Ca比はPCで約0.55〜0.60、MTAで約0.60。Al/Ca比はどちらも約0.05でした
著者は考察で、MTAのアルミネート相が少ないことが、エトリンガイトとモノサルフェートが少なかった理由を説明する、と述べています。さらに、アルミネート相は焼成の際に原料を溶かす「融剤」の役目を持つため、それが乏しいMTAは回転窯ではなく実験室で作られた可能性が高い、と推測しています(製法を確かめたわけではありません)。
⑥造影剤のビスマスは、どこへ行ったか
硬化したMTA(30日)の中には、反応せずに残った酸化ビスマスの粒が多数ありました。一方で元素分析では、C-S-Hがビスマスを取り込んでいて、水酸化カルシウムには取り込まれていませんでした。C-S-Hが多い点ほどBi/Ca比が高く、C-S-Hの中には酸化ビスマスとして重量で約5.5%(ビスマスとして約5.0%)含まれていました。著者は、酸化ビスマスの平均原子番号がほかの相より高いため、この値は過小評価かもしれないと書いています。
著者は、ビスマスがMTAの硬化体の構造に影響したと考えています。PCで見られた水酸化カルシウムの広い領域はMTAには無く、水酸化カルシウムとC-S-Hがより細かく混ざっていました。どれだけのビスマスが反応するのか、30日より長く溶け続けるのかは、この研究では分からず、さらに研究が要るとしています。
こうした観察から、著者は「MTAの硬化体は、気泡が大きく数も多く、毛細管の孔の割合も高い、より多孔質なペーストで、微細構造はPCより弱いと考えられる」と結論しました。ただし、この研究は強度・気孔率を数値で測っていません。
⑦明日の臨床へ
この研究の範囲で言えるのは、「2007年当時の白色MTA(ProRoot White MTA)1ロットを、水と粉の比0.5で37℃・30日硬化させると、白色PCとは違って、エトリンガイトとモノサルフェートがごくわずかで、ビスマスがC-S-Hに入り込み、大きな気泡の多い硬化体になった」ということです。
読み方としては、MTAを「歯科用に包んだポートランドセメント」と同じものと見なさず、造影剤などの成分が硬化の中身まで変えうる材料として理解する、ということになります(ここは筆者の読みです)。一方で、この研究は強度・封鎖性・溶け出し・歯髄や歯周組織の反応・臨床の成績を調べていません。気泡が多い・微細構造が弱いという所見が、覆髄や穿孔封鎖の結果に影響するかどうかは、この論文からは分かりません。製品によって組成は違いうるので、使う製品の組成は添付文書で確かめたいところです(ここも筆者の読みです)。
⑧ここだけ補助線
・規模:材料は白色MTA(1ロット)と白色PCの各1種類で、試料の数や繰り返しの記載は無く、群を比べる検定もありません
・測ったもの:電子顕微鏡の像と元素の割合です。成分の値は著者自身が「半定量」とした値で、Bogue計算は推定です。強度・気孔率・封鎖性は測っておらず、「微細構造が弱い」は像からの著者の結論です。「回転窯で作られていない」も著者の推測です
・条件:水と粉の比0.5・37℃・30日・密閉容器で硬化させた試料で、歯の中や体液に触れる条件ではありません
「MTAはポートランドセメントと同じ」という言い方を一歩深く理解するための、材料の基礎の1本として読みたい論文です。
今日のひとこと
白色MTAと白色ポートランドセメントを同じ条件で硬化させた実験室研究で、MTAはアルミナが少なく、エトリンガイトとモノサルフェートがごくわずかで、造影剤のビスマスが硬化体のC-S-Hに入り込み、大きな気泡の多い硬化体になっていました。同じケイ酸カルシウムのセメントでも、MTAの硬化の中身はポートランドセメントと同じではありませんでした。強度は測っておらず、「微細構造が弱い」は著者が顕微鏡像から考えた結論です。2007年当時の白色MTA 1ロットの結果として、MTAという材料の中身を知る基礎の1本です。


