エンド|抜去した単根管の下顎第一小臼歯40本(各群10本)を使い、最終洗浄をシリンジ洗浄・超音波・音波(EDDY)・Er,Cr:YSGGレーザーの4通りで行って、根管壁のスミヤー層を走査電子顕微鏡で部位ごとに採点した実験室研究(Wang・Feng・Shi・Sun・Wu 2024・Frontiers in Bioengineering and Biotechnology)
最終洗浄で洗浄液を「動かす」ひと手間に意味はあるのか。Wang らは抜去した単根管の下顎第一小臼歯40本で、シリンジ洗浄・超音波・音波(EDDY)・Er,Cr:YSGGレーザーの4通りを比べ、根管壁のスミヤー層を走査電子顕微鏡(SEM)で5段階に採点しました。根尖側3分の1ではレーザー群のスコアが他の3群より有意に低く、超音波群とEDDY群もシリンジ洗浄より有意に低い結果でした(この2群の間には有意差を検出せず)。中央3分の1では活性化した3群がシリンジ洗浄より有意に低く、3群の間には有意差を検出しませんでした。歯冠側3分の1では4群の間に有意差を検出しませんでした。実験室研究で各群10本、治りや痛みなどの臨床の結果は調べていません。
①根尖部のスミヤー層、シリンジ洗浄だけで取れている?
根管形成のあと、根管壁には削りかすと有機質が混ざった薄い膜(スミヤー層)が残ります。象牙細管の入口をふさぎ、洗浄液や貼薬、充填材が細管に入るのを邪魔するとされる層です。EDTAと次亜塩素酸ナトリウムを流しても、細くて奥まった根尖側まで本当に届いているのか。超音波や音波、レーザーで洗浄液を「動かす」ひと手間に意味があるのか。迷う場面は少なくありません。
この問いを、抜去歯を使った実験室で確かめたのが、中国・青島大学附属の青島口腔医院の Wang らによる研究(2024年)です。最終洗浄のやり方を4通りに変え、根管壁を走査電子顕微鏡(SEM)で観察して、スミヤー層の残り方を部位ごとに採点しました。
・抜去した単根管の下顎第一小臼歯40本(各群10本)の実験室研究。最終洗浄を、シリンジ洗浄・超音波・音波(EDDY)・Er,Cr:YSGGレーザーの4通りで比べた
・根尖側3分の1:レーザー群は、ほかの3群すべてよりスミヤー層のスコアが有意に低かった(=きれいだった)。超音波群とEDDY群はシリンジ洗浄群より有意に良く、この2群の間には有意差を検出しなかった
・中央3分の1:超音波・EDDY・レーザーの3群は、シリンジ洗浄群より有意に良かった。3群の間には有意差を検出しなかった
・歯冠側3分の1:4群の間に有意差を検出しなかった
・注意:測ったのは抜去歯の根管壁をSEMで見たスミヤー層のスコアだけで、治りや痛みなどの臨床の結果は調べていません。各群の平均値などの数値は、本文にも表にも載っていません
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、シリンジでの洗浄だけでは根管壁のスミヤー層、特に根尖側を取りきるのは難しいとする研究を引いています。理由として挙げているのが、根尖部に空気がたまって洗浄液が届きにくい「エアロック」です。
そこで使われるようになったのが、洗浄液にエネルギーを伝えて動かす「活性化(アクティベーション)」です。超音波や音波は液の流れ(音響流)やキャビテーションで、レーザーは液の中にできる蒸気の泡がはじける動きで、洗浄液を根管の奥まで行き渡らせる、と著者らは説明しています。ただし、これらの仕組みはこの研究で測ったものではなく、序論と考察での説明です。
超音波・音波・レーザーを、同じ条件の抜去歯で一度に並べて比べること。これがこの研究のねらいです。
③何をどう比べたか
・研究の種類:抜去歯を使った実験室研究(in vitro)。Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 2024年
・対象:矯正治療のために抜いた、う蝕の無い下顎第一小臼歯40本(単根管・根尖が閉じている・歯の長さ20〜25mm・根の長さ10mm超)。根管治療歴・石灰化・吸収のある歯は除いた
・根管形成:作業長は根尖孔から1mm手前。ProTaper Universal で F3 まで形成し、形成中は17% EDTAゲルを使い、ファイルごとに2%次亜塩素酸ナトリウム2mLで洗浄
・比べたもの:40本を無作為に4群(各10本)に分け、最終洗浄のやり方だけを変えた(下の表1)。どの群も、17% EDTA液を15秒、次に2%次亜塩素酸ナトリウムを15秒。器具は根尖のストップから2mm手前に置き、根管全体を一定のゆっくりした速度で洗浄した。液と液の間は生理食塩水2mLで洗った
・評価:歯冠を落として根を15mmにそろえ、縦に割って、歯冠側・中央・根尖側の3分の1ずつをSEM(2000倍)で撮影。スミヤー層を1〜5の5段階で採点した(1=スミヤー層が無く細管が開いている、5=厚いスミヤー層が細管を全て覆っている。小さいほどきれい)。2人の評価者が、どの群か分からない状態で採点した
・解析:Kruskal–Wallis検定と、2群ずつの Mann–Whitney 検定(有意水準5%)
④結果:差が出たのは中央と根尖側
部位ごとの検定の結果を、原典の結果の節から全部並べます。
・歯冠側3分の1:4群の間に有意差を検出しませんでした。著者らは、太い部分ではどの方法でもよく清掃できた、と読んでいます
・中央3分の1:超音波・EDDY・レーザーの3群が、シリンジ洗浄群より有意に良い結果でした。3群の間に有意差は検出されていません
・根尖側3分の1:レーザー群が、超音波・EDDY・シリンジ洗浄の3群のどれよりも有意に良い結果でした。超音波群とEDDY群はシリンジ洗浄群より有意に良く、この2群の間には有意差を検出しませんでした
原典が報告しているのは、この検定の結果と、各群のスコアを示した棒グラフ(図2。棒に数値の記載は無し)、代表的なSEM写真(図3〜6)です。各群の平均値・中央値やp値そのものは書かれていないため、この記事でも数値は載せていません。
⑤結果の読み方
「有意差を検出しなかった」は、「同じだった」と証明されたこととは別です。各群10本と小さな研究なので、差があっても検出できていない可能性は残ります。歯冠側で有意差を検出しなかったこと、超音波とEDDYの間で有意差を検出しなかったことも、この範囲で読む必要があります。
レーザーが根尖側で良かった理由について、著者らは考察で、波長2.78μmのEr,Cr:YSGGレーザーが水によく吸収され、先端の1〜2mm先で生じる高いエネルギーの水の粒がエアロックを破って洗浄液を行き渡らせる、と説明しています。超音波とEDDYの間に有意差を検出しなかったことには、EDDYの振れ幅が根管の径より大きく、壁に当たって効率が落ちたのかもしれない、という推測を添えています。どちらも、この研究で確かめた仕組みではなく、著者らの考察です。
著者らはまた、レーザーには根管壁の象牙質表面を傷める報告(別の研究)があり、この研究では観察されなかったものの、熱の影響が局所で起きる可能性は否定できない、とも書いています。
⑥明日の臨床へ
この研究の範囲で言えるのは、「抜去した単根管の下顎第一小臼歯で、最終洗浄に超音波・音波・レーザーで活性化を加えると、シリンジで流すだけより、中央と根尖側のスミヤー層のスコアが有意に低かった。根尖側ではレーザーが他の3群より有意に低かった」ということです。
シリンジ洗浄だけで終えている場合、根尖側のスミヤー層が残りやすいかもしれない、という視点は持っておけます。超音波や音波のチップなら導入の手間は比較的小さく、この研究でも中央と根尖側でシリンジ洗浄より有意に良い結果でした。一方、レーザーは機器の費用と設定の習熟が要ります。この研究でレーザーが他の3群すべてより有意に良かったのは「抜去歯の根尖側のスコア」だけで、中央ではシリンジ洗浄より有意に良いものの、超音波・EDDYとの有意差は検出されていません。スミヤー層の除去が治りや痛みの違いにつながるかは、この研究では調べていません(ここは筆者の読みです)。
著者らも結論で、特定の方法を勧めるのではなく、歯の状態・根管の感染・湾曲・開口量などに応じて活性化の方法を選ぶべきだ、とまとめています。
⑦ここだけ補助線
・実験の範囲:抜去した下顎第一小臼歯(単根管・矯正のために抜いた若い人の歯)で、各群10本。大臼歯での結果ではなく、根管の湾曲の程度は記載がありません。う蝕の無い歯を使っています。活性化の時間は各液15秒、レーザーは1つの設定(0.75W・20Hz)だけです
・測り方:評価は代表的な部位のSEM写真の5段階スコアで、評価者2人の一致度(κ値)や、各群の数値は報告されていません。2群ずつの比較を何度も行っていますが、多重比較の補正の記載はありません
・原典の中の書き方:考察には「レーザーは根管の全域で最も良い清掃効果を示した」とありますが、他の3群すべてより有意に良かったのは根尖側だけで、中央では超音波・EDDYとの間に、歯冠側では4群の間に、有意差を検出していません。また、採点法の出典として引かれた文献の題は、採点法とは別の内容でした
根尖側の洗浄という、目で確かめにくい部分の差を写真で見せてくれた1本です。湾曲根管や臨床の結果での続報を待ちたいところです。
今日のひとこと
抜去した単根管の下顎第一小臼歯の実験室研究では、最終洗浄に超音波・音波・レーザーで活性化を加えると、シリンジで流すだけより中央と根尖側のスミヤー層のスコアが有意に低く、根尖側ではレーザーが他の3群より有意に低かった(歯冠側では4群の間に、中央では活性化した3群の間に、根尖側では超音波とEDDYの間に、有意差を検出せず)。各群10本で数値の報告は無く、治りや痛みは調べていません。「根尖側の清掃は、シリンジ洗浄だけでは足りないかもしれない」という視点を持ちつつ、臨床の結果での続報を待つ、というのがこの論文に合った読み方です。


