エンド|う蝕で露髄した生活永久歯に、水酸化カルシウムかMTAで直接覆髄・部分断髄・全部断髄をした臨床研究23本(1385本)を集め、臨床とX線で判定した成功率を追跡期間ごとに統合した系統的レビュー(Aguilar・Linsuwanont 2011・Journal of Endodontics)
う蝕を除去したら露髄した。歯髄にまだ生活反応があるなら、抜髄の前に覆髄や断髄を選べるのか。Aguilar らは、う蝕で露髄した生活永久歯の歯髄保存療法の臨床研究23本(1385本)を集め、成功率を追跡期間ごとに統合しました。統合成功率は72.9〜99.4%で、部分断髄と全部断髄は3年を超えても高いまま(99.4%・99.3%)、直接覆髄は期間によって上下し、3年超では72.9%でした。ただし処置どうしを直接比べた研究は無く、集めた研究の多くは症例集積で、3年を超える断髄のデータは2〜3研究・数十本です(筆者が表3・表4から数えた)。
①う蝕で露髄した生活歯、抜髄の前に覆髄や断髄は選べる?
深いう蝕を除去していたら、露髄した。歯髄はまだ生きている。ここで覆髄するか、歯冠部の歯髄を一部か全部取る断髄にするか、それとも抜髄に進むか。「う蝕で露髄したら抜髄」と習った方も多いはずで、毎回のように迷う場面です。
この問いに、これまでの臨床研究をまとめて答えようとしたのが、Aguilar と Linsuwanont の2011年の系統的レビューです。う蝕で露髄した生活永久歯に、直接覆髄・部分断髄・全部断髄をした研究を集め、成功率を追跡期間ごとに統合しました。
・う蝕で露髄した生活永久歯の歯髄保存療法の臨床研究23本・1385本を集めた系統的レビュー(薬剤は水酸化カルシウムかMTA、成功は臨床とX線の両方で判定)
・統合成功率は72.9〜99.4%。部分断髄(97.5〜99.4%)と全部断髄(94.0〜99.3%)は3年を超えても高いままで、期間の間に有意差は検出されなかった
・直接覆髄は追跡期間によって上下し(87.5%→95.4%→87.7%→72.9%)、3年超の72.9%はほかの期間と有意差があった
・著者らは、抜髄の代わりに歯髄保存療法を考えるべきで、部分断髄と全部断髄は直接覆髄より結果が予測しやすいとまとめた。これは著者らの解釈で、処置どうしを直接比べた研究は無く、優劣を検定した結果ではない。多くは症例集積
②なぜこの研究が必要だったか
著者らの整理では、う蝕で露髄した生活永久歯をどう治療するのが最善かについて、合意はありませんでした。抜髄して根管治療をすれば、生活歯髄の歯では安定した成績が得られます。一方で、根管治療をした歯は生活歯より長く残りにくく、とくに臼歯でその差が大きいという報告があり(著者らが引用した研究)、できるなら歯髄を残したい、というのが出発点です。
歯髄保存療法は「可逆性歯髄炎で根尖部に病変の無い歯」に限るよう勧められてきました。けれども著者らは、痛みの程度や性質は歯髄の状態を正確には映さず、温度診や電気診も反応の有無しか分からないと指摘します。さらに、不可逆性歯髄炎の症状や根尖部の透過像がある歯でも、歯髄保存療法がうまくいったという報告が出てきていました(著者らが引用した研究)。そこで、処置ごとの臨床とX線での成功を、系統的レビューで示すことがこの研究の目的でした。
③何をどう集め、どう比べたか
・研究の種類:系統的レビュー(Journal of Endodontics 2011)。統合はランダム効果モデル(DerSimonian-Laird 法)
・検索:MEDLINE(Ovid)・PubMed・Cochrane(1950年1月〜2010年5月)を2人で独立に検索。エンドの教科書と専門誌5誌、見つかった論文の文献欄も手作業で調べた
・選んだ研究:う蝕で露髄したヒトの生活永久歯の臨床研究で、直接覆髄・部分断髄・全部断髄の薬剤が水酸化カルシウムかMTA、成功を臨床とX線の両方で判定し、成功率が分かり、6か月以上追跡した英語の論文
・集まったもの:電子検索の63本から14本、手作業で9本、計23本。コホート研究5・症例集積14・ランダム化比較試験4。1385本(直接覆髄996本・部分断髄199本・全部断髄190本)
・まとめ方:成功率を「6か月超〜1年」「1年超〜2年」「2年超〜3年」「3年超」の4期間ごとに統合。期間どうし、水酸化カルシウムとMTA、根尖が開いた歯と閉じた歯は、研究をまたいだ間接比較(比率のz検定、p<0.05)で比べた
・研究の質:17点満点の採点(Torabinejad らの基準)で、平均は直接覆髄8.8点・部分断髄8.16点・全部断髄9.14点。エビデンスレベルは多くが4か3b
原典には成功の細かい判定基準の記載は無く、「臨床とX線の両方で判定した」ことが選ぶ条件でした。また著者らは、処置どうしを直接比べた臨床研究は、まだ発表されていないと書いています。
④結果:断髄は3年を超えても高く、直接覆髄は上下した
処置と追跡期間ごとの統合成功率を、原典の表2〜4から全12個並べます。
・部分断髄:97.6%・97.5%・97.6%・99.4%。4つの期間の間に有意差は検出されなかった
・全部断髄:94.0%・94.9%・96.9%・99.3%。期間の間に有意差は検出されなかった
・直接覆髄:87.5%・95.4%・87.7%・72.9%と上下した。原典の表の印では、3年超の72.9%はほかの3つの期間と有意差があった(95%信頼区間 49.6〜96.3%)
数字の重みは期間で大きく違います。研究数と歯数(筆者が表2〜4の行から数えた)を添えた表です。
3年を超えるデータは、部分断髄が2研究・23本、全部断髄が3研究・37本しかありません(筆者が表3・表4から合計)。直接覆髄の3年超は4研究・231本で、研究ごとの成功率は37.6%から98%まで開いていました(原典の表2)。
⑤結果の読み方と、ほかの比較
著者らは、直接覆髄だけが期間で上下した理由として、直接覆髄は「う蝕の下の炎症のある歯髄を取らずに、露髄面へ薬剤を置く処置」である点を挙げ、炎症のある組織を取り切ることが治癒の鍵だろうと考察しています(著者らの考察で、この研究で確かめたものではありません)。
・水酸化カルシウムとMTA:両者を同じ研究の中で比べた3研究(直接覆髄・部分断髄・全部断髄で各1本)では、どれも有意差は検出されなかった。著者らは、検出力80%で差を見つけるには、直接覆髄の研究で211本、部分断髄の研究で1657本、全部断髄の研究で32本が必要だったと計算している。研究をまたいだ間接比較(原典の表6の重み付き統合成功率)では、直接覆髄でMTAが高く(MTA 90.5%対水酸化カルシウム70.6%)、部分断髄では水酸化カルシウムが高かった(水酸化カルシウム94.8%対MTA 87.5%)。全部断髄では有意差は検出されなかった(MTA 96.1%対水酸化カルシウム86.6%)。著者らは、どちらが優れるかは結論が出ないとしている
・根尖が開いた歯と閉じた歯(研究をまたいだ間接比較):原典の表7の重み付き統合成功率で、直接覆髄では根尖が開いた歯の成功率が高かった(開いた歯94.5%対閉じた歯69.2%、有意差あり)。部分断髄(開いた歯94.6%対閉じた歯90.6%)と全部断髄(開いた歯91.4%対閉じた歯85.9%)では有意差は検出されなかった
・根尖部に透過像のある歯の全部断髄:3研究の56本で統合成功率92.5%(表7とは別に、原典の考察の本文にある値)
・症状:自発痛や打診痛のある歯を含めた研究もあったが、症状と結果の関係は、データが足りず解析できなかった
著者らは、露髄があっても必ずしも不可逆性歯髄炎と診断して抜髄する必要はない、と書いています。う蝕で露髄した生活歯髄がいつも全部感染しているわけではなく、炎症がう蝕の近くにとどまることもあるという組織学の研究を引き(著者らが引用した研究)、感染した組織を取れば残りの健康な歯髄は保てるという考え方です。
⑥明日の臨床へ
この研究の範囲で言えるのは、「う蝕で露髄した生活永久歯でも、歯髄保存療法の統合成功率は72.9〜99.4%で、部分断髄と全部断髄は3年を超えても高かった。直接覆髄は期間によって上下した」ということです。露髄したから即抜髄、と決めつけず、断髄も選択肢に入れて考える根拠になります(ここは筆者の読みです)。
処置の途中の目安として、著者らは文献を引いて、露髄面を次亜塩素酸ナトリウム(1.25〜6%)で洗うことがよく勧められていること、1〜10分で出血が止まらない時は炎症が取り切れていないか根部歯髄まで及んでいる可能性があり、部分断髄から全部断髄へ、全部断髄から抜髄へと処置を変えるべきだと考察しています。どの止血の方法が良いかを示すデータは無い、とも書いています。
一方で、研究ごとに症例の選び方が違い、たとえば自発痛の既往があり根尖部に透過像のある歯は、断髄の研究には入っていても、直接覆髄の研究には入っていませんでした。どんな歯にどの処置が向くかは、この論文からは決められません。
⑦ここだけ補助線
・比べ方:処置どうしを直接比べた研究は1本も無く、3つの処置の成功率は別々の研究の数字です。症例の選び方・薬剤・手順も研究ごとに違うので、著者ら自身が「処置どうしを統計で比べるのは適切でないかもしれない」と書いています
・研究の質と量:23研究の多くは症例集積で、質の点数(17点満点)は処置ごとの平均で8〜10点前後。3年を超える断髄は2〜3研究・数十本です(筆者が表3・表4から数えた)。研究間のばらつき(異質性)の指標は示されておらず、英語の論文だけを集めています
・数字の扱い:信頼区間の上限が100%を超えるものがあり(原典の値のまま)、追跡の回収率も研究によって13〜100%と幅があります
「露髄した歯の歯髄を残す」選択肢を考えるときの、全体像をつかむ1本として読みたい論文です。
今日のひとこと
う蝕で露髄した生活永久歯の系統的レビューでは、歯髄保存療法の統合成功率は72.9〜99.4%で、部分断髄と全部断髄は3年を超えても高く、直接覆髄は追跡期間によって上下しました。著者らは、こうした歯では抜髄の代わりに歯髄保存療法を考えるべきで、部分断髄と全部断髄は直接覆髄より結果が予測しやすいとまとめています。ただしこれは著者らの解釈で、処置どうしを直接比べた研究は無く、多くは症例集積で、症例の選び方も研究ごとに違います。「露髄=抜髄と決めつけず、断髄も選択肢に入れて考える」という読み方が、この論文に合っています。


