1問1答 論文 エンド

次亜塩素酸ナトリウムの溶かす力は、濃度だけで決まる?——ウサギの肝臓の壊死組織を使った試験管の実験で、1.2%の液に入れた100mgの組織が30分で溶けた割合は、静置で平均34%、試験管を毎分1〜20回転させると78〜100%。超音波では平均2分で完全に溶けた(液温は約45℃に上がった)。20分の実験では、10mgの1片なら0.6%でもほぼ溶けた(pH12で100%・pH10で95%)が、100mgの1片では0.6%(pH12)で44%と濃度の差が開いた(Moorer・Wesselink 1982)

1問1答 論文 エンド

エンド|ウサギの肝臓を切り分けた壊死組織を、次亜塩素酸ナトリウム(3.0%・1.2%・0.6%)に入れ、液の動かし方(静置・試験管の回転・超音波)、組織の量と分け方、管への閉じ込め方を変えて、溶けた組織の重さと使われた有効塩素を測った実験室研究(Moorer・Wesselink 1982・International Endodontic Journal)

根管洗浄の次亜塩素酸ナトリウム、濃いほどよく溶けると考えていませんか。Moorer と Wesselink は1982年、ウサギの肝臓の壊死組織を試験管の中で溶かし、濃度以外の条件を変えて比べました。1.2%の液5mLに100mgの組織を入れると、30分で溶けたのは静置で平均34%、試験管を毎分1〜20回転させると78〜100%。超音波では平均2分(1〜4分)で完全に溶けましたが、液温も約45℃に上がっていました。20分の実験では、10mgの1片なら0.6%でもほぼ溶けた(pH12で100%、pH10で95%)一方、100mgの1片では0.6%(pH12)で44%と、濃度による差が開きました。著者らは、溶かす力を大きく左右するのは液に対する組織の量、液を動かす頻度と強さ、液に触れる面積だと結論しています。歯や歯髄ではなく、根管の中での効果や治療の成績も調べていない実験です。

論文
Factors promoting the tissue dissolving capability of sodium hypochlorite
著者
W. R. Moorer、P. R. Wesselink(アムステルダム大学 歯学部 う蝕学・歯内療法学・小児歯科学講座)
掲載
International Endodontic Journal 1982;15(4):187-196
種類
実験室研究(試験管の中の実験)。組織はウサギの肝臓を切り分け、4℃で2〜7日置いた壊死組織(100mgの1片、10mgの1片、10mgを10片)。次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素3.0%・1.2%・0.6%(pH12とpH10)、対照は生理食塩液。液は5mL(閉じ込めの実験は液量の記載なし)、約22℃(超音波をかけた液は約45℃まで上がった)。静置・試験管の回転(毎分1・6・20回転など)・超音波(25kHz)で比べ、溶けた組織の重量%、完全に溶けるまでの時間、使われた有効塩素を測った。繰り返しの数を書いていない表が多く、統計の検定は行っていない。歯・歯髄・根管は使っていない
資金・利益相反
資金と利益相反の記載は見当たらない(謝辞は技術協力と原稿の手伝いへの礼のみ)
PMID
6964523

①次亜塩素酸ナトリウムの溶かす力は、濃度で決まる?

根管洗浄の次亜塩素酸ナトリウム、何%を使っていますか。歯髄の残りをよく溶かしたいから濃いものを、と考える方は多いと思います。では、同じ濃度でも、液を動かすかどうかや、組織に対して液がどれだけあるかで、溶け方はどのくらい変わるのでしょうか。

この問いを、ウサギの肝臓の壊死組織を使った試験管の実験で調べたのが、アムステルダム大学の Moorer と Wesselink が1982年に International Endodontic Journal に出した論文です。

結論を先に書きます。
・実験室研究。組織はウサギの肝臓を切り分けた壊死組織で、歯や歯髄、根管は使っていない
・1.2%の液5mLに100mgの組織を1片入れると、30分で溶けた重さの割合(平均)は静置で34%、試験管を毎分1回転で78%、6回転で89%、20回転で100%(原著の表VI。繰り返しの数の記載なし)
・同じ条件で完全に溶けるまでの時間は、静置(4回)で30分を超え、毎分20回転(6回)で平均10分、超音波(6回)で平均2分(原著の表VII。超音波では液温が約45℃まで上がった)
・液5mL・毎分6回転の20分の実験では、10mgの1片なら0.6%でもほぼ溶けた(pH12で100%、pH10で95%)。100mgの1片では、溶けた割合がpH12の3.0%で85%、0.6%で44%と、組織が多いほど濃度の差が開いた(原著の表V。溶けた重量%の平均。繰り返しの数の記載なし)
・著者らの結論は「組織を溶かす力は、液に対する有機物の量、液を動かす頻度と強さ、液に触れる組織の面積に強く左右される」

②なぜこの実験が必要だったか

当時も、次亜塩素酸ナトリウムが組織を溶かす力については報告がありました。著者らは序論で、5.25%を薄めると壊死組織の溶け方が大きく落ちたという研究(Hand ら 1978)や、濃度に加えて接触の時間と液の量も大事だとした研究(Thé 1979)を引いています。一方で、抜去歯の歯髄を使った研究(Senia ら 1971)は「接触する面が限られること、液の量、液の交換」が効きを左右しうると指摘したものの、どれも実験では調べられていませんでした(いずれも引用文献の内容)。

濃度、量、時間、温度、液の動き、組織の面積、組織が閉じ込められているかどうか。影響しそうな条件は多いのに、実験で確かめられていたのは濃度などごく一部だけだった、と著者らは整理しています。そこで、液の流れ・pH・組織の面積が溶け方にどう効くかを、試験管の中で調べました。

③何をどう調べたか

・組織:ウサギの肝臓を切り分け、湿らせた容器で4℃に置き、2〜7日目の壊死組織を使った(100mgの1片、10mgの1片、10mgを10片)
・液:次亜塩素酸ナトリウムを有効塩素3.0%・1.2%・0.6%に薄めた液(そのままのpHは約12。一部は塩酸でpH10に調整)。対照は生理食塩液。液量は5mL(閉じ込めの実験は、液で満たした試験管とだけ書かれ、量の記載なし)
・動かし方:試験管を机の上に置いたまま(静置)、試験管ごと上下にひっくり返すように回転(毎分1・6・10・20回転)、超音波(25kHz の研究室用の装置。先端を液に1cm入れた)
・閉じ込め:長さ40mm・直径3mmのポリエチレン管に組織を入れ、両端をふさぐ、小さな穴を開ける、片方の端だけ開ける、管を半分に切って開ける、などで、組織と液の触れ方を変えた
・測ったもの:溶けた組織の重量%、完全に溶けるまでの時間、使われた有効塩素(ヨウ素滴定)。実験は約22℃
・タンパク質の分解物(ペプトン)の溶液でも、有効塩素がどれだけ速く使われるかを測った

結果は平均と範囲で示され、統計の検定は行っていません。繰り返しの数は、表VII・表VIIIには書かれていますが、表V・表VIには書かれていません。

④結果1:液を動かすと、同じ1.2%でもよく溶けた

1.2%の液5mLに100mgの組織を1片入れ、試験管を回す速さを変えました(原著の表VI)。30分で溶けた割合は、静置で平均34%(範囲32〜39%)。毎分1回転で78%(72〜85%)、毎分6回転で89%(80〜93%)、毎分20回転で100%でした。15分の時点でも、毎分1回転で60%、6回転で73%、20回転で100%が溶けています(静置の15分は記載がありません)。生理食塩液では、組織は減りませんでした。

0 25% 50% 75% 100% 30分で溶けた組織の割合(重量%・平均) 34% 78% 89% 100% 静置 毎分1回転 毎分6回転 毎分20回転 原著の表VI。ウサギの肝臓の壊死組織100mgの1片を1.2%の液5mLへ入れ、試験管ごと回転(実験室研究)
図:試験管を回す速さと、30分で溶けた組織の割合(原著の表VI。溶けた重量%の平均。範囲は本文)。繰り返しの数の記載なし

完全に溶けるまでの時間も測っています(原著の表VII)。静置(4回)では30分を超え、毎分20回転(6回)で平均10分(7〜15分)、超音波(6回)では平均2分(1〜4分)でした。ただし、超音波をかけた液は約45℃まで温まり、液を0.5mLに減らすと数分で約70℃に達したと著者らは書いています。超音波の速さには、液を激しく動かすことに加えて、温度の上昇も重なっています。

⑤結果2:組織が少なければ、薄い液でも溶けた

次に、組織の量と分け方を変え、3つの濃度で20分間に溶けた割合(重量%の平均)を比べました(原著の表V。試験管は毎分6回転)。

表:液の濃度と組織の量・分け方ごとの、20分で溶けた組織の割合(重量%の平均。原著の表Vの全項目) 液 10mgの1片 10mgを10片 100mgの1片 3.0%(pH12) 100 100 85 3.0%(pH10) 100 100 86 1.2%(pH12) 100 96* 81* 1.2%(pH10) 100 88* 73* 0.6%(pH12) 100 68* 44* 0.6%(pH10) 95 69* 53* 生理食塩液 0 0 0 数値は20分で溶けた組織の重量%の平均。液はどれも5mLで、試験管ごと毎分6回転(0.1Hz)で回した pH12は薄めたままの液(原液のpHは11.9〜12.2)、pH10は塩酸で調整した液 *は、20分たたないうちに有効塩素が初めの半分を下回った組み合わせ(原著の注) 10mgの1片と10mgを10片は、同じ5mLの液に入れた組織の量が10倍違う 10mgを10片と100mgの1片は、同じ重さで、液に触れる面の広さが違う 実験室研究(ウサギの肝臓の壊死組織)。繰り返しの数の記載は無く、統計の検定は行っていない
表:組織の量・分け方と液の濃度ごとの、20分で溶けた組織の割合(重量%の平均。原著の表Vの全項目)。オレンジは100mgの1片を0.6%に入れた値

10mgの1片は、0.6%でも20分でほぼ溶けました(pH12で100%、pH10で95%)。ところが同じ5mLに入れる組織を増やすと、濃度の差が開きます。10mgを10片(合計100mg)では、3.0%で100%(pH12・pH10とも)に対して、0.6%でpH12が68%、pH10が69%。100mgの1片では、3.0%でpH12が85%・pH10が86%、1.2%でpH12が81%・pH10が73%、0.6%でpH12が44%・pH10が53%でした。組織の量が同じ100mgなら、10片に分けた方が1片より溶けた割合が大きく、液に触れる面の広さも効いていることが分かります。

表の*印は、20分たたないうちに有効塩素が初めの半分を下回った組み合わせです。この組み合わせでは、液のpHも20分で1.5を超えて下がっていました。著者らはこれを、液と組織の量の釣り合いが悪く、反応の効率が悪い状態と読んでいます。pH12とpH10の違いは小さく、著者らはpHより有効塩素の量が効きを決める要因だと考察しています。

⑥結果3:閉じ込めた組織にも、液の動きが効いた

根管の中の組織に近づけるため、細いポリエチレン管に組織を閉じ込め、1.2%の液に入れました(原著の表VIII)。管の中の組織は重さを測れないので、30分後に液を調べ、使われた有効塩素の割合を、液と組織がどれだけ反応したかの目安にしています(液に対して組織が多い条件なので、使われた塩素の量が反応の量を表す、という考え方)。

静置と毎分10回転の両方を測った4つの置き方では、小さな穴1つの管(10回)で6%→13%、片方の端だけ開いた管(10回)で11%→29%、半分に切った管(4回)で13%→40%、管に入れない組織(4回)で56%→89%と、どれも回転させた方が大きくなりました。半分に切った管の液に超音波の先端(直径2.4mm)を入れると、97%でした(10回)。回数は原著の表VIIIの n で、静置と回転のどちらの列の回数かは書き分けられていません。ゆっくりした液の流れでも差がはっきり出たことを、著者らは「印象的」と書いています。

あわせて、組織の代わりにタンパク質の分解物(ペプトン)を溶かした液での別の実験では、反応は最初の数分で速く進みました(原著の表I〜III)。著者らは本文で「どの比率でも、有効塩素の消費の大半は2分以内に起きた」と書いていますが、表を見るとペプトンが少ない条件(1.2%の液に0.1%・0.2%)では、2分の値は20分の値の半分に届いておらず、本文の書き方と表が合わない所があります。はっきり言えるのは、ペプトンが多い条件ほど有効塩素が早く大きく減り、pHも下がったことです(例:1.2%の液に2.0%のペプトンで、2分のうちに1.2%のうち0.82%が使われ、pHは9.6に)。

⑦結果の読み方:著者らは何を言っているか

著者らは、組織を溶かす力は「濃度」という1つの数字ではなく、液に対する有機物の量、液を動かす頻度と強さ、液に触れる組織の面積に強く左右されると結論しました。組織が少なく液が十分にあれば0.6%でもほぼ溶け、濃度の高さが効いてくるのは組織が多い時だ、という読み方です。

また、液の動きの効き方が予想以上に大きかったことから、「液の流れは、初めの有効塩素の濃さより大事な要因かもしれない」と考察しています。水とほとんど同じ粘り気の液で、なぜゆっくりした流れがここまで効くのかは分からず、組織にかかるずれの力や、組織のすぐ周りで薬液の行き渡りが限られることが関わっているのでは、と推測しています(検証はしていません)。過去の研究で結果がばらついた理由も、攪拌の仕方の違いで説明できるかもしれないとしています。

そのうえで著者らは、器具でしっかり清掃し、新しい液をこまめに足すやり方なら、低めの濃度でも安全に十分な清掃ができると考え、臨床では0.5〜2%を勧めました。ただしこれは考察での提案で、液の交換そのものを試した実験はこの論文にありません。超音波については、温度の上昇や、削片が根尖から押し出されるおそれなどを十分に考えずに臨床で使うべきではないとし、研究室の装置は臨床の装置より出力が強い可能性があると書いています。

⑧明日の臨床へ

ここからは筆者の読みです。この実験から言えるのは「試験管の中では、液を動かすことと、組織に対して液を十分に保つことが、濃度とは別に、溶け方を大きく左右した」ということです。

・濃度を上げることを考える前に、液が動いているか(ファイルの上下動、超音波などの補助)、新しい液が届いているか(こまめな補充)を見直す視点が持てる
・組織が多い根管(壊死歯髄が多く残る、広い根管)ほど、液の量と交換が効いてくる可能性がある(試験管の結果からの推測)。逆に少量の組織なら、薄めの液でも溶けうる
・超音波は溶かす速さを大きく上げたが、温度の上昇が重なっており、根尖から押し出すおそれもある。使う時は著者らの注意を踏まえる
・根管は細く、液の出入りも限られる。根管の中で同じ差が出るか、治療の成績が変わるかは、歯を使った研究や臨床研究で確かめる必要がある

ここだけ、冷静に補助線(1)組織はウサギの肝臓の壊死組織で、歯髄ではなく、根管の形もありません。試験管の5mLの液と、根管に入る少量の液では条件が大きく違います。
(2)表V・表VIには繰り返しの数が書かれておらず、どの結果にも統計の検定はありません。平均と範囲だけで差を読んでいます。
(3)超音波の速さには、液温の上昇(約45℃)が重なっています。研究室用の強い装置での結果でもあります。
(4)「新しい液をこまめに足す」は著者らの考察からの提案で、液の交換そのものは試していません。根管の中での効果や治療の成績も調べていません。
40年以上前の実験ですが、「濃度だけを見ない」という視点を数字で示した論文です。その後、抜去歯や根管の模型を使った研究で、攪拌や補充の効果がどう確かめられてきたかと合わせて読むと、より立体的に見えてきます。

今日のひとこと

1982年のこの実験室研究では、次亜塩素酸ナトリウムが組織を溶かす量は、濃度だけでなく、液に対する組織の量と、液の動き(回転・超音波)、液に触れる面積で大きく変わりました。組織が少なければ0.6%でもほぼ溶け、組織が多いと濃度の差が開きます。著者らは、新しい液をこまめに足し、器具で十分に清掃したうえで0.5〜2%を使うことを勧めました。ただしウサギの肝臓を使った試験管の結果で、液の交換そのものや根管の中での効果は試していません。「濃くするか」だけでなく「液を動かし、組織に対して液が足りているか」に目を向けるきっかけとして読むのが、この論文に合った使い方です。

Moorer WR, Wesselink PR. Factors promoting the tissue dissolving capability of sodium hypochlorite. Int Endod J. 1982;15(4):187-196. doi: 10.1111/j.1365-2591.1982.tb01277.x. PMID: 6964523
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。